14 正直でいることの大切さ
悲しいニュースが多すぎるので、せめてこの小説の中だけでも!
と思ったのですけど……ですけど……ですけど……。最後の最後にいいい!
それでも読んでいただけたら嬉しいです。
では、どうぞ。
ぱちんと焚き木が爆ぜた。
それで、この周囲の何もかもが無音だったと気付いた。
怖い。
魔女狩りがじゃない。
いや、魔女狩りも怖いけど、頑丈おじさんは魔女狩りなんてしない。
賭けたっていい。
私が怖いのは、私が怖いのは……、何だろう?
そう、私は、自分でも何だか分からないものを、怖がっているのだ。
滑稽だ。
何だか可笑しくなった。
誰が言ったか『案ずるより産むが易し』。
『大山鳴動して鼠一匹』とも言ったな。
そんなもんさ、やるだけやってみな。
これも誰が言ったのだろうか。
でもしっかりとした声になって、私の頭蓋骨で木霊した。
頑丈おじさんは、きっと拒まない。
短い付き合いだけど、断言できる。
死線を潜り抜けた仲だ。
今なら絆を感じられる。私の勘違いかもしれないけどね。
(言おう。正直に)
もしかしたら、いろいろありすぎて頭のリミッターみたいなものが外れてしまっていたのかもしれない。
でも、私は、嘘は、つかない道を、選んだ。
「私ね、大陸から来たんじゃないの。それ以前に、この世界の人間じゃないの」
どんな反応が返ってくるのか、やっぱり怖かった。
私が日本にいて、例えばクラスメートかだれかに『俺、異世界人なんだ』なんて言われたら、という心境に、今、頑丈おじさんはなっているはずだから。
ゆっくり目線を上げた(つまり私は告白する時に、耐えきれずに俯いたのだ)。
焚火越しの頑丈おじさんがどんな顔をしているのかが、徐々に見えてくる。
そして、バチっと目が合った。
恐れているとか、憎んでいるとか、そんな表情ではない。でも、呼吸が止まっている。
見ていると、頑丈おじさんだけ時間が停止しているかのようでもあった。
そののち、はあああああっと肺の中の空気を全部はき出してから、頑丈おじさんは言った。
「こりゃたまげた」
そして
「わっはっはっはっは」
と笑ったのだ。
私も笑った。
頑丈おじさんがどう受け止めて、何を思って、どういう意味で笑ったのかは、分からない。
でも、言葉じゃないんだ、こういうことは。
あまりのボリュームに、運転おじさんが目を覚まし、川に棲むモンスターが水面から顔を出したくらいだ。
夜中の異世界で、私は可笑しくて涙が出た。
翌朝。
生まれて初めて美味しそうな匂いで目を覚ました。
目を擦ると、頑丈おじさんと運転おじさんの朝ご飯の支度が整ったところだった。
「嬢ちゃんが起きなかったら、俺が嬢ちゃんの分まで食っちまうとこだったぜ」
頑丈おじさんが笑った。
「さあ、ミ・ユ・キさん、起きてください。朝食ですよ」
「はあい」
あくびをして伸びをして、私は毛布から出た。
手下Aにもちゃんとご飯を用意するところからも、二人の優しさが窺える。
十三の死体を乗せるわけだから、その分重くなり、当然、馬車を引く馬の負担も増えてしまう。
でもそこは、昨日星になった殺し屋さんが置き去りにしたお馬さん八頭で補って余りあるらしい。
馬は王都で売れることも、朝ご飯を食べながら聞いた。
手下Aはとても大人しかった。
仲間の死を目の当たりにして、毒気が抜けたのだろう、きっと。
朝ご飯の後で、頑丈おじさんは川の水でうがいをして、指をブラシの代わりにして歯磨きをした。
これがこの世界での一般的なやり方らしかった。
『郷に入っては郷に従え』だ。
私もそうした。
キャンプみたいで楽しいと、そう思った。
十数分後、運転おじさんが御者席で鞭を入れて、私たちは王都に向けて出発した。
昨日とは違って、頑丈おじさんは起きていた。
大人しくなった手下Aではあるけど、寝ている隙に私を襲って人質にして、逃げる可能性が大いにあるからだ。
その手下Aはというと、これから王都で行われるであろう尋問という名目の拷問、そして死刑に走る馬車の速度を苦々しく思い、また始まっている命のカウント・ダウンに、お手上といった心境なのだろう、手下なのに。
二日目は、殺し屋も山賊もモンスターも、襲ってはこなかった。
平和な旅だ。
ところどころでお尻が痛くなったけど。
森を抜けて視界が開けると、王都の城壁が広がった。
「うわあ」
私は御者席に乗り出した。
この距離であれだけの幅なら、相当な大きさだ。
私の想像をはるかに超えていた。
「大きいでしょう」
「はい」
「初めて王都を見る人は、まずその外観に驚き、見入るんです。そしてみんな、笑ってしまうのです」
私もその一人だ。
王都には三つの城壁がある。
それは身分によって分けられているのではなく、魔王が倒されて国同士の侵略戦争もなくなったために人が栄え、人が住む家、営む店の増加に対応するために、二度、拡張工事が行われたためだと、運転おじさんが説明してくれた。
「大陸にも、あるのでしょう?」
「はい。でも私は超田舎者で、大陸出身って名乗るのが恥ずかしいくらいなんです。だからそれは内緒にしてもらえますか?」
これは昨日の夜に頑丈おじさんと決めた『ついてもいい嘘』だ。
「そう。言っちゃあ悪いが、嬢ちゃんは世間知らずってやつなんだ。だから大陸出身と知られたら、いろいろと面倒だろ? そういうこった」
「なるほど」
馬車は私たち三人と、手下Aと、十三体の死体を乗せて、ぐんぐんと王都に近づいていった。
八頭の馬を引き連れて。
門兵も王国騎士団員なのだろう。一昨日の失礼な人たちと同じ紋章の入った鎧を着ていて、何だかいい感じはしなかった。
それが第一印象。
でも、とても礼儀正しく接してくれた。
ちゃんとした騎士もいるんだ、というのが第二印象。
「一番の目的は、鍛冶師大会への参加です。でも、昨日の夜に襲ってきた殺し屋たち十三名の遺体と生け捕りにした殺し屋一名をギルドに引き渡すのと、殺し屋が乗ってきた馬八頭、それに武器なんかを換金したいという目的もできたので、王都を観光がてら、それをしようと思っています」
運転おじさんがにこやかに話した。
一時間後、私たちは牢屋にいた。
事実、その昔、今の日本で言う裁判官には、屁理屈こね男の揚げ足取り男の
権力を笠に着て威張り散らす最低の輩がたくさんいたのでした(事実なんだから怒らないでね)。
昔? じゃあ、今は? どうなんでしょうね? 常識で考えれば分かります。
では、また。




