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13  心から拒んで

一命をとりとめた頑丈おじさん。

ひととき、三人で笑いあいます。


では、どうぞ。

 焚火を囲む私たちは、誰もが笑顔だった。


 頑丈おじさんはお昼を食べなかった分も取り返すかのように、よく食べた。

 でもそれは私の思い違いで、出ていった血を補うために、たくさんの栄養を取らなくてはいけないからだったのだ。

 食いしん坊キャラにしてごめんね、頑丈おじさん。


 殺し屋たちの死体は転がったままだったのだけど、なんかいろいろありすぎて、もうあんまり気にならなくなっていた。


 晩ご飯を食べ終えて(こんな時でもお腹は空くのだ)、私は横になって休んだ。

 空は満天の星空だった。

 こんな時でも、綺麗なものは綺麗だった。


 運転おじさんが馬車から毛布を持ってきてくれた。

 その後で二人は、よく聞き取れはしなかったけど、殺し屋をギルドに運ぶとかどうとかと話しあっていた。

 殺し屋は往々にして賞金首になり、奴らも例外じゃないだろうということは、察しがつく。

 西部劇でもそうだしね。

 十三人なら、きっと儲かるのだろう。

 私がどう思うかが焦点らしかった。


「嬢ちゃん、起きてるか?」

 と頑丈おじさんが言った。

「うん。起きてるよ」

 と私は答えた。

「その……、何だ……、そこに転がってる死体なんだがな……」

「いいよ。私は平気」

「……そうか、……そうか。ならいいんだ」


 頑丈おじさんは運転おじさんと一瞬だけ目をあわせて、一安心といった顔をした。

 だけど、頑丈おじさんにはまだやることがあった。

 尋問だ。

 いや、拷問、か?


 まだ気絶したままの手下Aの腹をどかりと蹴り飛ばすという方法で、起こした。

 咳き込む手下A。


「おらあ今気が立ってるんだ。答えろ、誰の差し金だ?」


 無言を貫く手下A。頑丈おじさんは続けた。


「おらあ今気が立ってるって言ったろう? あそこに転がってる仲間と同じ地獄に行きてえのか? それとも素直に吐くか? 命は一つだ。大事にしねえとな」


 仲間たちの成れの果てを見て手下Aの顔に怯えの色が広がった。


「まだ言わねえか? じゃあ、このハンマーでお前の右足をぶっ潰すか」

「ひいい、止めてくれ。止めてください。話しますから」

「そう、素直なのが一番だぜ。いったいだれの差し金だ?」

「……クリミネンの……領主様だ……領主様です」

「やっぱりか」


 頑丈おじさんのつぶやきは、そっくりそのまま私たちの心の中でもつぶやかれていた。

 罪のないモンスターを虐待して、町を、大切な家や建物を破壊させて、罪のない町人を殺して、その罪を無実の元領主に被せて、二年間、悪政で罪のないクリミネンの人たちを苦しめて、気に入らないからと、罪のない三十おじさんのお店を破壊して、そして、私たちが鍛冶師大会に出るのを邪魔した。

 殺し屋を使って、私たちを殺そうとした。


 頑丈おじさんは町のためを思っているんだ。

 何にも悪いことじゃない。

 悪いのは領主だ。

 罰を受けるべきは、領主だ。

 もう弁解の余地はない。

 頭にきた。


 でも、疑問も持ちあがった。

 王都にいるはずの王様は、何でこの悪徳領主を、罰しないんだろう?


「話したんだ、危害は加えないでくれるんだろう?」

「この期に及んでも自分の心配か。まあ、気持ちは分かるがな。明日、お前の仲間を持って王都に行く。お前はそこで沙汰を受けろ」

「待ってくれ。俺は何も好き好んでやったわけじゃねえ。クリミネンの領主様に弱みを握られているんだ。家族を人質にとられてるんだ。だから断れなかったんだ。だから断れなかったんです。どうか、見逃してください」

「ふん、それが本当なら、王都の騎士団に言うんだな。正直に。今までの悪行すべてが、領主に脅されてやったわけじゃ、ねえんだろうが」


 考えてみた。

 そして答えが出た。

 殺し屋は捕まれば、有無を言わさず死刑になるはずだ。

 だからこの手下Aは、青ざめているんだ。

 げに恐ろしきは、異世界なり。

 いや、現代の日本でも死刑か。


 であっても、こんなにリアルに感じたのはもちろん初めてだ。

 何をか?

 それは『人が殺される』ということを、だ。

 弱冠十五歳の私は、十三体の死体を見て、もうすぐ命の灯が消える咎人の、死が目前に迫った時の顔を見た。

 見なきゃよかった。


 たとえ自分を殺そうとした人でも、これまで様々な罪を犯してきた人でなしでも、明日死ぬのか殺されるのかと思うと、心臓が強く脈打った。


「もうそろそろ寝たほうがいい。見張りは俺とジッポーでやるからよ、嬢ちゃんは眠りなよ。朝はまた早いぜ」


 と言われて頭から毛布をかぶっても、軽く一時間、眠れなかった。


「起きてるんだろ、嬢ちゃん」

「うん。眠れない」

「無理もねえや。殺し屋にモンスター。死体に血の匂い。あいつだって、明日命が消えるかもしれないと思ったら、心の底じゃ、やっぱり怖いってそう思っちまうだろ?」

「うん」

「俺が、怖いか?」

「ううん、そんなことないよ。私たちを守ってくれた、ヒーローだよ」

「……そうか」

 鼻の頭をぽりぽりと掻く頑丈おじさんは、可愛かった。

「ねえ、グマ爺さん」

「ん? 何だ?」

「私ね、吟遊詩人として、ギルドに登録しようかどうか、迷ってるの」

「そうか」

「ジッポーさんとね、昼間、グマ爺さんが眠ってる時に、話をしたんだけどね、私みたいな歌うたいは、吟遊詩人として生計を立てるのがいいみたいなの。私は、きっと人もモンスターも殺せないけど、歌なら歌える。そう思うの。私の歌がなんぼのもんかはわからない。けれど、私の歌が、この世界で不思議なことを起こしたのは、五回も、あるでしょ? 私、吟遊詩人に向いてるのかもって、思ったの。よくは分からないんだけどね」

「いいや、嬢ちゃんは向いてるぜ。ていうか、今、吟遊詩人として冒険者になっていないのが、不思議なくらいだ。例えばさっき、イビル・ハイイーナと戦った時だってよう、ようく思い返してみな。三本の剣を突き刺された俺が、いくらポーションぶっかけたからって、あんなに戦えるのって、おかしいと思わないかい?」

「……言われてみれば、たしかに」

「だろ? その前に、三途の川を渡りかけた俺が、むっくり起き上がれたのだって、どう思う? 普通あんな目に遭ったら、人は死ぬもんだ。だろ? 七日七晩ぶっ通しでハンマーを振るって最高のバトルアックスを造れたのだって、嬢ちゃんの歌が後から後から湧き上がってくる力をくれたからだ。嬢ちゃんの歌の力だ」

「そうかな?」

「ああ。そうさ。おらあてっきり嬢ちゃんに自覚があるもんだとばっかり思ってたんだけどな。……なあ、嬢ちゃん、嫌なら答えなくてもいいぜ。大陸では、歌っても何にも起きなかったのかい?」


 答えに困った。

 嘘をつき通すか?

 つくならどんな嘘か?

 答えなくてもいいというグマ爺さんの優しさに乗って、だんまりを決め込むか?

 これまでは、嘘でぼやかして誤魔化してきた。

 だって、そうしないで魔女狩りなんてことになったら、それは一番に避けなきゃいけないから。

 また、当たり障りのない嘘で、煙に巻こうかな……。


 そんなの、嫌だ!


マグマの優しさが、逆に美優姫を苦しめる結果になりました。

美優姫はどんな選択をするのか……。


では、また。

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