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12  そんな人間になりたい

不定期掲載みたいなことを言っておいて、

月・水・金になってしまっていますね。いいことか、悪いことか。

大目に見ていただけたらうれしいのですけど……。


では、どうぞ。

 でも、困った。

 手が震えすぎてて、指を思うように動かせない。

 ……なら、と私は手拍子で歌った。

 安らかに眠れ的なスローな曲は縁起でもないので、明るい曲を。


 三分三十秒。


 頑丈おじさんに変化はないので、続けて。


 四分五十一秒。


 それでも駄目で、それじゃあと『まっさらな夢』を、アカペラ・ヴァージョンで。

 極限状態の私の声は恐怖と緊張とでそりゃあもう汚くて、これで歌手になろうだなんて身の程知らずだと嗤われても仕方のない歌声だった。


(恥ずかしい。こんなだみ声私の歌じゃない)


 歌いながらそう思い、横たわる頑丈おじさんに何の変化も見られないことに、不安はブクブクと膨らんだ。


 四分六秒。


 歌い終わって、もう一曲行こうかと身構えた矢先、頑丈おじさんはむくりと上体を起こした。


「グマ爺さん!」

「マグマさん!」

「今から剣を抜く。抜いたらポーションをぶっかけてくれ」


 前からの二本を、ふんっという気合いとともに引っこ抜く頑丈おじさん。

 私と運転おじさんはすぐさまポーションをかける。

 すると、何ということか、ばんざい、ファンタジー世界!

 傷口はみるみるうちに塞がっていき、傷のない綺麗な肌になった。

 背中からの一本は頑丈おじさんが手を回しても届かったので、運転おじさんが引き抜き、餅つきのつく人とこねる人の要領で私はポーションをばしゃりとかけた。

 腹側の傷にもきちんと忘れずにかけた。

 この傷もきちんと綺麗に消えてなくなった。


 私は笑いがこみあげてきて、堪えもせずに笑った。

 笑いながら泣くのは、たぶん生まれて初めてだ。

 十三体の死体に囲まれて、血の悪臭が濃い中で、私が笑うと、頑丈おじさんも、運転おじさんも笑った。


 すると、頑丈おじさんは、よっこいせっと立ち上がり、最初に吹っ飛ばした手下Aの生死をたしかめ、大丈夫だったぞと担いで運んできた。

 縄で縛って、後で洗いざらい吐かせるのだそうだ。

 今は気絶している手下A。

 目を覚まさないほうが幸せかもね。

 まあ、自業自得というやつだ。

 同情は少しはするけど、さっきまで私たちを殺すつもりだった手下Aがかなりの痛い目に遭ったって、それを憐れむような聖女では、私はない。

 私より聖女様のほうが人として立派なのだろう。

 でも、私はたとえ聖女にはなれなくても、自分の大切な人や物を守るためだったら、人と戦える、そんな人間になりたい。


 最悪は、殺すことだって、あるのかもしれない。


 人が人を殺す。

 もちろん、この上ない残酷な行為の一つだ。

 でも、ここは異世界だ。

 私が、平和な地球のその中で最もと言っていいくらい平和な日本で培った常識は通用しないし、捨てたほうがいい。

 でなければ、次に死体になるのは、私だ。


 私は、ここに来てから起こった出来事を経験して、何だか少し、鍛えられたようだ。

 そんな私を試すためか、どうしても頑丈おじさんを殺したいのか、意地の悪い神様の遊びなのか、もう一難、やってきた。


 血の匂いに釣られたモンスターが夜の闇に紛れて、やってきたのだ。


「できれば殺したくはねえが、あっちがその気なら、こっちもその気にならんとな」


 頑丈おじさんは独り言のように言ったのだけど、私は私に向かって言ったのだと、そう思った。

 頑丈おじさんは、殺し屋たちと戦いながら、きっと見ていたのだ、私がへたり込んでいるところを。

 それを見て、心を痛めたのだ、きっと。

 それは申し訳のないことだった。

 何とか挽回しようと考えを巡らせた私は、ある答えに辿り着いた。


「グマ爺さん、私は戦えないけど、なんか役に立ちたい。ただ守られるだけは、嫌だ」

「そうかい。じゃあ、嬢ちゃん、俺があいつらを懲らしめている間、歌を歌ってくれ」

「分かった」


 力強く肯いて、私はギター・ストラップを肩にかけた。

 今はまだ殺せない。

 戦うことすら、できない。

 でも、歌うことなら、それで役に立てるなら、きっと。


「嬢ちゃん、出逢ったときのあの曲、何てったけなあ?」

「『まっさらな夢』」

「そう、それを頼む。ジッポー、嬢ちゃんを守ってやってくれ」

「了解しました」

「それじゃあ、行くぜ」


 運転おじさんの名前をジッポーだと思い出して(朝に自己紹介された時のを忘れたのはご愛嬌にしてほしい)、手を見た。

 見て、閉じたり開いたりした。


 大丈夫、震えてなんか、ない。


 私はモンスターに立ち向かっていく頑丈おじさんの勇ましい背中に、精一杯の声で歌った。

 ギターをかき鳴らした。


 モンスターも徒党を組んでいるだけあって、連携して攻撃をしてきた。

 イビル・ハイイーナというモンスターだと、昼間に運転おじさんから教わったのを覚えていた(だから名前を忘れたのはご愛嬌にしてほしい)。


 右から攻めて注意を右に向けたところで左から襲いかかる。

 左に注意を向けたところで大きく飛びかかり、頭を狙うのかと思わせて頭上を通過して、正面から本命の一体が攻撃する。

 そして頭上を通過した一体が着地の後素早く背後から襲いかかる。

 それに対応している時に、両手、両足をめがけて四体同時攻撃だ。

 

 モンスターだと、侮るなかれ。

 頑丈おじさんは、というと。

 先ほどのハンマーを軽々と操り、八体のイビル・ハイイーナに対していた。


 ハンマーの左右の突き出た部分で叩くのではなく、上部というのか正面といったらいいのか、小さなとんがりのついた部分で顎や喉や腹を突くようにして戦っていた。

 飛びかかってくるイビル・ハイイーナを突いて払い、右から左の連係プレーにまるで予見していたかのように対応し、頭上を飛び越えるフェイントにも引っかからず、四体同時攻撃には、ひらりと跳んでかわしたのだ。

 そりゃあ、さっきの十五対一よりは楽だろうけど、なんか、余裕過ぎない?


「分かったろう。お前らじゃ、勝てはせん。それでも俺に向かってくるというなら、手加減はせんぞ」


 頑丈おじさんの気迫に、イビル・ハイイーナは怯んだ。

 人語を解するモンスターではないのだろうけど、だからこそ、野性でわかるのだろう。

 頑丈おじさんが自分たちより、強いと。

 

 イビル・ハイイーナたちは一歩、一歩と後ずさりをしたのちに、走り去った。

 私たちの勝利だ。

 そして、一体もの死者も、出してはいない。

 私は高らかにギターをかき鳴らしてシャウトをし、そして『ジャカジャン』で演奏を終わらせた。


水不足でダムに水が少ししかないというニュースを

こないだ見たばっかりなので、昨日今日と続いた雨が

何とかなって解消してほしいですね。


では、また。

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