第12話 爆裂! 下心の一閃と獄炎の調教
「ふふ……。まずはその減らず口、二度と開けないように縫い合わせてあげるわ!」
イザベラの宣告と共に、紅蓮の炎を纏った棘付きの鞭が、生き物のような軌道を描いてイチカラへ襲いかかった。
「ひギゃあああああああ!」
イチカラは情けない悲鳴を上げながら床を転がった。直後、彼がいた石畳が爆撃を受けたかのように粉砕され、赤い火花が散る。
「イチカラ、ぼさっとするな! 下がってろ!」
先陣を切ったのはレオとルナだった。二人は左右から同時に踏み込み、音速を超える踏み込みでイザベラの首元を狙う。だが、イザベラは嘲笑を浮かべ、手首を僅かに返した。
「遅いわよ、小蠅たちが」
シュパパパパァン!!
一撃に見えた鞭の音は、実際には重なり合った数千の打撃音だった。音速を超えた鞭が、レオの二本の剣を叩き折り、ルナの鋭い一突きを真正面から粉砕する。
「なっ……!?」
「ぐあぁぁぁッ!!」
防ぐ間もなかった。レオとルナは、その速度の暴力によって同時に壁まで吹き飛ばされ、血を吐いて崩れ落ちた。二人の勇者候補が、一瞬で戦闘不能に追い込まれたのだ。
「ルナ! レオ!」
スターが拘束の重力魔法を力ずくで引き剥がし、大剣を構えて跳躍しようとしたその時。
シュルリ。
冷たい蛇のような鞭の先端が、吊るされたエリザの白い頬を薄く切り裂いた。
「……動かないで、スター。次はこの女の喉を貫くわよ?」
「くっ……卑怯な真似を……!」
最強の勇者も、教官の命を盾に取られては動けない。スターの足が止まった。
「さて……これで邪魔者は消えたわ。そこの弱そうな坊や、あなたと私、一対一ね」
イザベラが再びイチカラへ歩み寄る。しかし、彼女はただ攻撃するだけでは満足しなかった。イチカラの心を折るため、さらなる残酷な「教育」を始める。
「あなたの教官、本当に綺麗な体をしているわ。この服……邪魔だと思わない?」
パキィィィィン!!
イザベラの鞭が、エリザを包んでいた丈夫な教官服を正確に捉え、引き裂いた。
「……っ! やめなさい……っ!」
エリザの悲鳴が響く。破れた布の隙間から、拘束の鎖に食い込むほどの豊満なボディが、イチカラの瞳に焼き付くように露わになった。
鍛え上げられたしなやかな肢体、そして鎖によって強調される暴力的なまでの曲線。
「…………え、ええええええっ!?」
イチカラの思考が、真っ白に染まった。
恐怖で止まっていた心臓が、今度は別の意味で爆発しそうになる。
「あら、見惚れているわね。いいわよ、死ぬ前にたっぷりと拝ませてあげる。その代わり……対価を払いなさい!」
シュパァァァン!!
イザベラの鞭が、無防備になったイチカラの肩を打った。
「あだぁぁぁっ! 痛い! でも、でも目が、目が離せないぃぃぃ!」
「ふふ、いい啼き声! 次はどこを打ってほしいかしら?」
鞭の打撃を受けるたびに、イチカラの体は裂け、血が飛ぶ。激痛が全身を駆け巡っているはずだった。だが、イチカラの瞳は、まるで何かに取り憑かれたように、吊るされたエリザの姿に釘付けになっていた。
(……すごい。教官……あんなに、あんなに凄かったのか……! これを助け出せたら……僕、僕……!)
「イチカラ、何をボケっとしてるのよ! 避けなさい!!」
壁際で動けないルナが絶叫するが、イチカラの耳には届かない。
鞭がイチカラの腹を、脚を、腕を、無慈悲に打ちのめす。
だが、一発受けるごとに、イチカラの背中のアザは輝きを増していった。
それは勇気でも正義でもない。
「教官を守り、その放漫なボディを独占したい」という、極限まで濃縮された、あまりにも不純で純粋な「欲望」の輝き。
「……あ、あはは……。イザベラさん、アンタ……やりすぎだ」
不意に、イチカラの口から震えではない、低い笑い声が漏れた。
彼は鞭の直撃を受けながらも、一歩も引かずに立ち上がった。全身血まみれ、しかしその手にある白銀の剣は、エリザの肌の輝きを反射し、太陽のような神々しさを放ち始めている。
「教官に……なんてこと……しやがるんだぁぁぁ!!」
イチカラの咆哮と共に、床が陥没した。
恐怖を凌駕した下心が、アザの力を暴走させる。イチカラは迫り来る音速の鞭を、なんと素手で掴み取った。
「なっ……焼けるわよ!? その手は炎で――」
「熱いとか痛いとか、そんなの関係ねぇんだよぉぉ!!」
ジュウウウ、と肉の焼ける音がするが、イチカラは構わず鞭を引き寄せた。その怪力に、イザベラがたじろぐ。
「引き寄せられたのは……私の方!? なんてデタラメな魔力なの……!」
「サリナさんに貰った剣……教官の無念……そして僕の煩悩! 全部乗せて、喰らえぇぇ!」
イチカラが白銀の剣を振り下ろす。それは剣技ですらなかった。ただの、巨大な光の塊を叩きつけるような一撃。
「そんな……アスタロト様ぁぁ!」
ドォォォォォォォォォン!!
玉座の間を揺るがす大爆発が起きた。光が収まった時、そこには鞭を粉々に砕かれ、壁に深くめり込んだイザベラの姿があった。獄炎の女王と呼ばれた幹部は、白目を剥いて完全に沈黙している。
イチカラは、そのままの勢いでエリザを縛る魔法の鎖を一刀両断した。
「教官! 今助けます!」
ガサリ、とエリザがイチカラの腕の中に落ちてくる。
教官服はボロボロで、その豊満な肌がイチカラの腕に直接触れる。イチカラは、鼻の下を地面につくほど長く伸ばし、ニチャァ……と下卑た笑みを浮かべた。
「いやぁ、教官……。助けられて良かった。それにしても、近くで見るとさらに――」
ドカッ!!!
「……どこ見てんのよ、このバカ弟子ッ!!」
助け出された瞬間、エリザの怒りの鉄拳がイチカラの顔面にめり込んだ。
ボロボロの状態でも、その拳の威力は健在だった。イチカラは錐揉み回転をしながら吹き飛び、スターとルナの足元に転がった。
「……結局これか」
スターが呆れたように溜息をつく。
「でも……まあ、助かったわね」
ルナが苦笑し、一行は満身創痍ながらも、旧魔王城に一つの勝利を刻んだのだった。




