紋章世界の終焉と再建 中編
「エルフィーネ。久しぶりね。」
突然現れた女神に、カナミは懐かしい友達に会ったかのように挨拶をする。
『カナミも久しぶりですね。元気でしたか?』
「センパイがいれば、私はいつも元気だよ。」
『そうでしたね。』
女神は苦笑した後、俺に向かって真面目な口調で話しだす。
『レイフォードさん、この度の事、お怒りでしょうが、このままお力を貸していただきたいのです。』
「……説明ぐらいはしてくれるんだろうな。」
いいたいことも色々あったが、それらの事を押し殺してそれだけを言う。
エルフィーネの顔が今にも泣き出しそうだったからだ。
元々泣いている女の子には弱いというのがレイフォードだ。しかも、相手は、カナミが大変な時に色々力を貸してくれた女神だ。
カナミを助けてくれたって事は、レイフォードにとって、借りがあるのと同義である。だからできる限り力に成り立ちと常々考えていた。
レイフォードが女神たちに振り回され、様々な目に遭ったとしても、本気で怒らないのは、根底にそれがあるからである。
『もちろん。一から説明しましょう。』
エルフィーネは、そう告げると、今回の事について話し始めた。
エルフィーネの話によれば、この世界の成り立ちについて、特に紋章関連については、レイフォードが調べた通りで間違いはなかった。
それだけであれば、これも一つの文明の成り立ち、という事で女神たちも干渉することは無かった。例え、それがもとでその文明が滅びようとも、だ。
しかし、何の因果か、紋章システムの影響が他の世界にまで及びだしたらしく、そのまま放っておけば、他の世界を侵食する恐れがあることが判明した。
とは言っても、基本女神は世界に不干渉。出来ることは限られている。
その限られた中で最大の駒……つまり俺を動かすことに決めたのは、エルフィーネ自身だった。
俺とカナミ、そして暴走を抑えるための、お目付け役としてのリィズをこの世界に送り込む。
後は放っておけば、俺が何とかするだろうとの丸投げ。
女神としては、俺が暴れて、この世界の文明を崩壊させても問題はなかったらしい。むしろ、最初の段階で、何故そうしなかったのだ?と無言で責められた。
それでも、俺は女神の思惑通りに、この世界の異様さに気付き、紋章システム破壊に向けて動き出した。
そのまま計画が遂行されれば、そこでお役目はお終い、俺達はエルフィーネから褒美を受け取って元の世界に戻れる予定だった。
しかし、この事を予見していたかどうかは分からないが、紋章システムを作り出した元勇者は、セーフティをかけていたらしい。
紋章システム破壊の予兆があれば、血脈に働きかけ、人の身にそのシステムを移すというもの。
何がトリガーになったか分からないが、そのシステムが動き出し、セレスは導かれるかのように行動を起こし、その身にシステムを宿すことに成功した。
それ程の時を置かずに、他の2か所もシステムが移行している所を見ると、セレスにシステムが働きかけた、と言うより、セレスを含めて、かなり大規模に働きかけていたことが予想される。
「おそらく、ですが、リズノア聖王国が最初にシステムに接触したのでしょう。それで破壊される予兆を感じたのかもしれません。」
「それでもセレスが裏切ったという事実に変わりはないっす。」
『彼女自身には裏切ったという自覚はないですからね。許してあげてください。』
エルフィーネの言葉に、リィズは渋々と頷く。
「それはいいのだが、人の身に移ったシステムを破壊するにはどうすればいいんだ?」
『本来であれば、複雑かつ面倒な儀式を七番にかけて執り行う必要があるのですが、幸いにも、いいものをレイフォードさんはお持ちですね。』
エルフィーネはそう言うと、俺のポケットに入っていた試作品を取り出し、握りしめる。そして光の粉になったソレを俺に振りかける。
光の粉は俺の身体を覆い、そのままスゥっと体内へと取り込まれる。
「今のは?」
『あなたの創っていた「転移の魔道具」を、あなた自身に同化させたのです。通常の転移はもちろんのこと、特殊な使い方も出来ます。例えば、人の身に宿された異物を転移させる……とか。』
茶目っ気たっぷりにそういう女神エルフィーネ。
思わず、可愛いと思った途端、カナミに抓られた。
『クスっ。カナミがヤキモチをこじらせる前に、話を終わらせてしまいましょう。システムを身に宿した相手は都合よく女性ばかり。レイフォードさんは彼女らと契りを結ぶのです。彼女たちの精神が達した時、システムに歪みが生じますので、そのタイミングで、システムを転移……自身に宿してください。』
エルフィーネがそう言うと、リィズとカナミから、鋭い視線が降ってくる。
『二人とも、ヤキモチを焼いてはいけませんよ。このお詫びは後程させていただきますので、今は収めてください。』
エルフィーネの言葉に、リィズとカナミの怒気は一応引っ込む。
『ただ、一つだけ。アイガスの封印だけは要注意です。』
アイガス王国に残されていたセーフティシステムは、勇者の御膝元であったことから、少し厄介なのだそうだ。
簡単に言えば、下手に解除しようとすると暴走し、世界を巻き込むらしい。
つまり「思うようにいかない世界なんか壊れてしまえ」と言うはた迷惑な思考の勇者そのものシステムなんだそうだ。
「えっと、じゃぁどうすればいいの?」
『アイガスの刻印を持つ者の攻略は最後にして、そのほかの4つの刻印をレイフォードさんの体内に宿します。そして、最後に、アイガスの刻印を持つ者に、このナイフで心臓を刺し貫いていただくのです。』
エルフィーネは、手元に一振りのナイフを作り出し、レイフォードに渡す。
「そんなことしたらにぃにが死んじゃう!」
リィズがエルフィーネに飛び掛かろうとするが、エルフィーネはやんわりと受け止める。
『偉大な魔王様がそんな事くらいで死ぬわけないでしょう?このナイフが、レイフォードさんの肌を貫くと、レイフォードさんが集めた刻印が一時的にナイフへと移ります。同時にアイガスの刻印も、他の刻印に惹かれナイフの中へと移動することになります。システムはナイフの中に全ての刻印が揃っていることで、このナイフを次の宿木として認識するという訳です。ただ、システムを騙さないといけないので、レイフォードさんは死んだように見せかけて、元の世界に戻ることになります。そうしないと、システムは危険信号を受信したまま他の宿木になるモノを血脈に働きかけ呼び寄せるでしょう。』
つまり、聖女とセレスと契りを躱した後に、リノアにこのナイフを持たせて、刺してもらえばいい、という事だな。
「もし、リノアが俺を刺さなかった場合はどうなるんだ?」
万が一のことを考慮してそう聞いてみる。
『その場合は少し厄介ですね。アイガスの刻印を持つモノとも契りを交わし、24時間以内にそのナイフを勇者の血脈のものに持たせてレイフォードさんを刺してもらう事が必要になります。』
「血脈のものじゃないといけないのか?」
『そうですね。そのシステムは長い年月の間に意思のようなものを持つにいたりました。そのシステムを騙すわけですから、ただの血脈ではなく、勇者の刻印に近しモノ……出来れば、契りを交わした二人のうちのどちらかに刺してもらう方が確実でしょう。そして、その事を知られるわけにはいかないので、相手に事情を話すのはNGです。』
「うーん、聖女様は遠いから、その場合はセレス一択だけど……。」
相手に事情がバレてはいけないとなると、万が一の事も考えて、契りを交わす段階から内緒にしておかなければいけないのか……。
急にハードルが上がったような気がする、レイフォードだった。
前後編の予定でしたが、思ったより長くなりそうなので前、中、後篇に分けます。
最終回まであと少し。最後まで応援よろしくお願いします。




