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いつか魔王になろう!  作者: Red/春日玲音
紋章王国

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紋章世界の謎 その4

キィンっ! ガンガンっ! ズシャァっ!

……

……

……


金属同士がぶつかる音、何かが押しつぶされる音、斬り裂き、貫かれる音などなど、戦場では、悲鳴と怒号、そして様々な音が交錯する


帝国東部、獣人達が占拠している一部の地域を取り戻すために、東部辺境軍が重い腰を上げた……ことになっている。


しかしその実態は、帝国内における御家騒動が起因していた。


中央区の第一王子、東部の第三王子、西部の第三王女、それぞれの統治能力は甲乙つけがたく、また、それぞれに王位を継ぐに懸念される弱点を抱えている。


条件としては同じ、という事であれば、後は相手のミスを煽って、そこに付け入るしかない。


そんな折に、第三王女の統治する西部にて事件が起こる。……魔王による、帝国の切り崩しだ。


魔王は現れると瞬く間に西部国境付近の街や村を併合。第三王女は即座に行動を起こし、どう話をつけたのか、現在は現状維持が続いている。


反面、東部で起こった亜人の反乱による、地域の独立。


一つ一つの規模は小さく、無視できるほどではあるが、ソレに魔王が関わっているとなれば、放置はできない。


そして第三王子は「第三王女が手をこまねいている今、魔王軍を蹴散らせば、優位に立てる」と考え、て、各地の鎮圧のために兵を出した。


その中で、一番規模が大きいのが、今、この砦を巡る戦場という事だった。


第三王子にしてみれは、獣人が多く住まうといっても、大した土地でもなく、気にするほどのものではなかった。しかし、防護策として獣人達が建てた砦、これが良くなかった。


砦のある場所は、東部と西部、そして南部を結ぶ主要な街道を横切っていたからだ。ここを閉鎖されてしまっては、東部の流通が激しく滞り、経済に多大なる悪影響を与えてしまう。


特に、国外との貿易が多い南部からの流通においては、街道が使えないとなると、西部のみとの取引となってしまい、それは、結果として第三王女の陣営を富ませるだけになってしまう。それは非常によろしくない。


よって、第三王子派は、望む、望まないにかかわらず、挙兵をせざるを得ない状況に追い込まれるのだった。


これら、帝国内で起きている騒動に対し、中央の第一王子の陣営は、当初3つの選択肢があった。


中央とは遠く離れた場所での出来事の為、経済的にも心理的にも余裕があり、そのまま何もせず様子を見るというのが選択肢の一つ。

利益はないが大きな損失もない現状維持策。堅実ではあるが、王位継承争い中という事を考えると、気に対して決断が出来ない愚鈍な者という印象を受けかねない。


だから第一王子派の陣営は、他の二つの選択肢を積極的に選びたかった。


一つは、魔王軍に襲われたという西部の支援。


魔王軍の本拠になっているというセレスの街は、流通の要。ここを抑えられては、西武のみならず帝国経済にも多大な影響を与えるため、介入する理由としても十分なものがある。


ここを取り返すのに尽力を尽くせば、セレスティア第三王女としては、第一王子に大きな借りを作ることになり、今後の活動が非常にやりやすくなるというもの。


しかし、その思惑を知ってか知らずが、第三王女は、側近たちに何も相談もせず単身魔王との会談に臨む。


その会談がどのように進んだのかまでは分からないが、魔王軍はセレスの街を引き払い、近隣に魔王城を建立しそこに籠っているという。


アイガス王国側の街は未だ、魔王軍に従っているという話だが、帝国側の領地に関しては、以前と変わらないという報告があり、第一王子の陣営が介入する隙間は無くなってしまった。


もう一つの選択肢は、現在紛争中の東部辺境の支援。


亜人たちとの争いに支援を出す用意は整っているのだが、問題は、その支援するタイミングだった。


東部が有利に事を進めている間は、なにをしようが、「余計なこと」と、相手の心に響くことは無い。それゆえに、支援をするのであれば、相手が一番苦しい時でなければならない。


かといって、手をこまねいていては、介入するタイミングを失ってしまう。


加えて、最近は、中央区でも不穏な噂が流れている為、下手に大規模に兵を動かせなくなっている。


結果として、中央の第一王子の陣営は、何もせずに様子見をしている。


そして、その様な状況に追い込まれているという事に、誰一人として気付いていないという事が、ゆくゆくは帝国の敗北に繋がる事になる。


かくして、帝国崩壊へ向けての序章としての争いが、獣人砦付近で行われるのだった。




「膠着状態か……そろそろだな。」


ミゲルは自分の出番が近づいてきたことを感じ取り、大きく深呼吸をして、来るべき時に備える。


『汝等に問う。何故争うのか?』


始まった、とミゲルは思い、空を見上げる。


そこには神々しい衣装に身を包んだカナミの姿が大きく映し出されている。


『獣人を始め、亜人たちは、その身に紋章を宿していないから虐げられていると聞く。ならば紋章を宿した者に問おう。紋章があるからなんだというのだ?』


「も、紋章は、栄光の証っ!遥か昔に勇者様が選ばれしものの為に下さったお力だっ!紋章を持つ者は選ばれし者。選ばれし者には、民を導く義務が有るのだっ!」


カナミの声が響くのと同じように、そう答えた帝国将兵の声も各地へと伝わる。


その言葉に押されるように、「そうだ、そうだ!」と同町の声が各地で上がる。


『愚かな。その様な些細な力が何だというのだ?』


カナミの声と共に、辺り一面に光が広がる。


……出番だ。


ミゲルは、砦御一番高いところに立ち、戦場の皆からよく見える場所に立つと、腰の剣を抜いて天空に掲げ、叫ぶ。


「皆の者、聞けっ!今、女神様が我らにお力を貸してくださった。この場において紋章の力は発揮できぬ。女神様が、傲慢な紋章を持つ者からその力を奪い去ったのだ。今が機であるっ!攻めたてよっ!」


うぉぉぉぉぉ!と獣人達の間に歓声が上がる。


「そして帝国兵たちよっ!我は知っておる。大半の兵士たちは、紋章を持つ者達に虐げられ、逆らえないのをいいことに無理やり戦わされていることを!。我は知っている。汝らにも、帰りを待つ者がいるという事をっ!心あるものよっ!今が反旗を翻すときである。虐げられる生活をよしとせぬものは、皆我らの仲間であるっ!心あるものよっ!今こそ、紋章を持つというだけで、上に立つものだと勘違いしている奴らを打ち倒すのだッ!自由と平等を求める者よ、我と志を共にするものよっ!我らには女神様の加護があるっ!今が好機!我に続けっ!」


最後に一際高く吠えるとミゲルは、そのまま砦から飛び降り、敵の本陣へ向けて駆けだしていく。



「はぁ、あの高さから飛び降りるって、さすが獣人だよなぁ。」


「……たぶん自分に寄っていて、高さなんか考えてなかっただけだと思うっす。」


リィズが辛口コメントを言うが、それでも気が一つしていないのは、獣人の身体能力の高さゆえだろう。


「まぁ、演説はうまくいった様っす。」


リィズの指し示す方へ視線を向けると、獣人達に交じって、元帝国兵たちも、敵本陣に向けて駆けだしている。


今回攻め込んできた帝国兵は約3万。その内の2万は、先頭に立たされている歩兵で、そのほとんどは、各地で徴兵された農民兵と、奴隷兵だ。


彼らの殆どは紋章を持っていないか、持っていても、農作業などには役に立つものの、戦いには向かない能力ばかり、強兵を目指している帝国内においては、紋章を持たぬものと同列に扱われているものばかりだ。


彼らの中には、獣人に恨みを持つ者、亜人排斥者も少なからずいるのだが、大半は帝国帰属に無理やり従わされているだけだ。


そんな連中が、従わなくてもいいと言ったら?反旗を翻しても構わないと言ったら?そして何より、その行動が女神のお墨付きだったら?


その状況で、それでも帝国に殉じるというものは、ほぼ皆無と言ってよかった。


結果として、今まで威張っていた一部の将兵は、命からがら逃げだすことになる。


「追えっ!追撃だっ!一人も逃すなっ!途中の街や村は接収するが、略奪は禁じる!皆、女神様の兵として恥じない行為を!」


ミゲルが追撃しながら叫ぶ。


その様子を見てたリィズが立ち上がる。


「さてそろそろ行くっす。あぁ言っても、護る気のないクズな輩がいるっすからね。女神の天罰を降して来るっすよ。」


「あぁ、行ってらっしゃい。」


俺がそう言うと、リィズは微笑みだけを残してその場から消える。


「転移かぁ、まったく、無茶苦茶チートな能力(ちから)だな。」


セレスと早い時期に知り合えたのは、そして、こちらに取り込むことが出来たのは僥倖だと思う。


ハッキリ言って、彼女が敵に回ると、かなり厄介なことになっていたはずだ。


もっとも、彼女自身の立場もあってか、彼女は転移を使いこなしているとは言えず、本人が言うには、カナミやリィズほど使える能力でもないという事なので、勝者の資質による処も大きいのかもしれない。


そう考えると、この紋章や聖痕について、もう少し研究を重ねたい気もするが、早いところこのシステムを壊してしまわないと、自分の魔力が枯渇してしまう。


そうなってしまっては、研究どころではなくなてしまうから、これでいいのだ、と半ば無理やり納得させる。


「さて、セレスティア王女。お前のターンだ。どの選択肢を選んだんだ?」


俺はここに居ない王女に向けて呟く。


聞こえてはいなくても、きっと彼女の心に響いていると、確信しながら……。





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