紋章世界の謎 その3
「お前らっ、武器を取れっ!決してここを通すんじゃねぇぞっ!!」
砦の中に怒号が飛び交う。
指揮を執っているのは、獣人族の若き代表、ミゲル・クラウス。
彼は、帝国の奇襲攻撃にも、うまく対処し、この東部獣人砦にまで、陣形を崩さず撤退戦を指揮してきた強者だ。
「ミゲル、こっちの準備は良いぜ。」
「モルテンか、助かる。だけど、しばらくはこの砦から出ないでくれ。」
「それは構わんが……いいのか?」
モルテンは、周りを見回す。
猛々しく、武器を振るう獣人の男たち。
元々獣人族の大半は戦闘意欲が高く、その為、戦闘においても、勇猛果敢に戦い続ける半面、砦に籠っての防衛戦というのは苦手にしている。
モルテンにしてみれば、戦意の高い今の内に、砦を出て一戦交え、ある程度敵の数を減らしておきたい所だった。
「分かってる。だけど、今は敵も勢いに乗っている。今出ていけば、単なる消耗戦にしかならない。そして、消耗戦になれば、数で劣る我らが不利になる。」
ミゲルは獣人族の中でも、珍しいくらいに冷静で知恵が回る男だった。
それは、モルテンも認める所であり、だからこそ、リーダーとして従っているのだ。
「分かった。ただこっちも5日ぐらいが限界だと思っておいてくれ。」
「助かる。」
ミゲルは、集まった獣人のファイター達の元に向かう親友の背中を頼もしげに見つめる。
モルテンに言われるまでもなく、ミゲルは現状についてよく把握している。獣人たちの戦意についてもよく分かっている。それでもなお5日という時間を作ってくれる親友には、頭をいくら下げても足りないくらいだ、と思う。ミゲルでは、彼らを抑えるのはよくて三日、と言ったところだったからだ。
「いいか、お前らっ!俺の指示に従って動けば負けることは無いっ!まずは三日間、敵を近づけるなっ!」
ミゲルは親友の創ってくれた時間を無駄にしないよう、頭をフル回転させ、この戦況を覆すことに使うのだった。
◇
「さて、セレス、聞いての通りだ。戦端は開かれた。ここからは止まることは無い。お前が決断するまでに使える時間はあと三日だ。」
「三日……ですか?」
「あぁ。三日後、帝国兵は砦に対し総攻撃をかける事になるだろう。しかし、砦に籠る獣人族はそれを押し返し、逆に追撃をかけ、帝国東部地区奥深く迄攻め上がることになる。セレスに出来ることは、それに呼応して、東部の……この辺りを切り取るか、逆に、俺達の保護地区である、ここに攻め入り、獣人の東部進行にストップをかけるか、のどちらかしかない。」
「しかし三日では……。」
マリアがそう口にする。
「大掛かりな戦争は出来ないってか?だから今言った2パターンしかないんだよ。それならぎりぎり体裁を整えれるだろ?」
「確かにそうですね。」
俺の言葉に、セレスが頷く。彼女としても、介入するのであればそれしかないと考えていた。
「でも、ここは様子を見て、戦力を集めるというのも……。」
マリアが、消極的な案を出す。
「止めといたほうがいいっすよ。それは愚策っていうっす。」
「あなたに何が分かるっていうのよ。」
リィズに否定されてマリアの口調が少し荒くなる。
「むしろ、王女の側近アナタが何で分からないか疑問っす。私達が味方にならない者をそのまま放置しておくと本気で思ってるっすか?」
「ど、どういう事……。」
「にぃにはあなた達に道を示したっす。それに従わないって事は、協力する気がないって事っすよね?だったら、帝国西部はにぃにの敵に回るっす。」
「そうね、さしあたっては、西部の主要都市を落とし、人質になった姫様のあられもない姿を見せて降伏勧告。同時に東部侵攻はそのままで、中央に対して、姫様を人質に講和を求める、ってところかしらね。……って言うか、その方が手っ取り早いし、この娘達好きに出来るよね?。センパイ、それで行こ?」
リィズの言葉を受けてカナミが補足説明をする……が、カナミの中では西部侵攻プランがほぼ確定になってしまったようで、セレスたちはいつの間にか、カナミのバインドに捕まっている。
「落ち着け。とりあえず離しなさい。」
「えぇ~。」
「捕まえるのは三日後に動かなかった時でも十分間に合うだろ?」
「ちぇぇ~」
カナミは面白くなさそうに、二人の拘束を解く。
「助かりました、レイフォード様。」
「いや、気にするな。というか、真面目な話、二人の言葉は嘘じゃないぞ。三日後のお前の決断次第では、もっと酷い未来もあり得るんだ。よく考えて行動しろよ。
俺はそう言って、東部砦に向かう準備をしようと、部屋を出て行こうとした。
「待ってください。」
しかしそれをセレスが呼び止める。
「わ、わたしは……私はどうすればいいのでしょう?」
「……言っただろ?魔王軍に協力し、帝国を乗っ取るか、魔王軍を撃退し、勇者として人族を導くか。好きな方を選べ。」
「帝国を乗っ取った後、手のひらを返して勇者として立ち向かうっていうのも、熱い展開っすよ。」
リィズが茶化すように言うが、それも選択肢としてはアリだろう。
「……レイフォード様は意地悪ですのね。」
「甘えるなよ、それが「王女」の義務だろ?」
俺の言葉に、セレスティア王女が息をのみ、そして、唇をかみしめる。
「どうしても甘えたいのであれば、俺の奴隷となって西部を明け渡すことだな。そうすれば後は俺が勝手にやる。お前は一生俺の奴隷として甘えて尽くす事だけを考えていればいい。」
「それいいねぇ、どうセレスちゃん?可愛がってあげるよ?」
カナミがニコニコしながらセレスの頭を撫でる。
暫く、カナミのされるがままになっていたセレスだが、ふいに、カナミの手を払いのけ、マリアと共に転移していった。……「三日後に」という言葉を残して。
「いっちゃった。……あれでよかったの?あの子怒ってたわよ?」
「……怒らせたのはカナミの所為だと思うっす。」
「何でよぉ。」
「まぁいいさ。彼女は三日後って言ったんだ。俺達は彼女の選択を受け止めるだけさ。」
「そうっすね。あれだけ言えば、バカな選択はしないと思うっす。」
「えぇ~、私としてはセレスちゃんマリアちゃん、奴隷化計画を推進したぁい。」
「バカ言ってないで、獣人砦に行く用意をするっす。」
リィズがカナミを引っ張っていく。
俺はそれを見送ってから自分の準備を進める。
魔力に不安が残る今、魔道具の準備が明暗を分けることになるかもしれない。
手持ちの魔道具を確認し、必要なものをリストアップしながらそう考えるのだった。
◇
「準備は良いか?」
「あぁ、いつでも大丈夫だ。」
「じゃぁ、最終確認だ。モルテンは第一中隊を率いて、西門から大きく迂回してαポイントで待機。マックスは第二中隊と共に東門から、βポイントまで移動。ゼスタの小隊はγポイントで、息をひそめる。明け方、陽が昇るのを合図に、本体は開門し、敵本体の中央突破を図る。モルテン、マックスの部隊は後方より陽動を。場の混乱に応じて、ゼスタ隊は移動、敵本陣へ。各隊、無理は禁物だ。無理だと思ったら、そのまま散会して砦へ帰還せよ。」
ミゲルの言葉に、一同は大きく頷く。
ここは決戦の場ではない。無理する必要はないのだ。魔王様からも無理は止められている。
「では、各自準備を怠らないように……。」
解散、と言いかけたミゲルが固まる。
「中々いい作戦だが、少しだけ、変更を加えてもいいか?」
その場にいた獣人族の隊長たちは揃って後ずさり、その場に平伏する。
「「「「魔王様っ!」」」」
「あ、そう言うのいいから。そんなんじゃ話し合いが出来ないだろ。ほら、戻って戻って。」
俺は、獣人達を起こして席へと座らせる。
そして、翌朝の先頭に、俺達が介入することを告げ、それによる作戦の修正をしていくのだった。
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