魔王国拡大中 その3
俺の名は、チューケン=モルテン。気安くモルテン、とかモルちゃんとか呼んでくれていいぜ。
これでも、そこそこ腕の立つ冒険者をやっている。
あ?腕がたつのに、こんなところで何をしてるかだって?
……仕方がねぇだろ?いくら俺の腕が立つって言っても、世の中「獣人」というだけで忌避する奴らが多いんだからよ。
確かに、俺たち獣人には「紋章」の恩恵を与ることは出来ねぇけどよ、そこらの紋章持ちには負けないくらいの能力持ちが多いんだぜ?
実力がモノを言う冒険者なら、それで十分だろ?
かくいう俺も、俊敏と剛力っていう能力を持っているのさ。
……とはいっても、そう簡単に割り切れねぇのが、世の中ってもんよ。
護衛依頼の殆どは、俺様より力が劣っても、人族の紋章持ちが持っていく。俺様に回ってくるのは、人がいなく、緊急の案件だけだ。
そう言うのに限って、きな臭いうえにリスクが高いと来てる。正直、他の仕事があるなら、こんな割に合わない事言辞めちまいたいって思ってるぜ。
ただなぁ、お前さんだってわかるだろ?俺たち獣人は、紋章がない、ただそれだけで、奴隷より酷い扱いを受けるんだ。冒険者をやっている俺は、それだけでまだマシってもんだ。
あん?仕事だぁ?
オイオイ、ちゃんと聞いてたのかよ?俺達みたいな最下層の獣人に……イテッ!なにしやがるっ!
……あ、あぁ、俺が悪かったぜ。
嬢ちゃんの言うとおり、獣人族の誇りを捨てちゃぁいけねぇな。
よし、その仕事を受けてやろう!
ただし、報酬はきっちりと頂くぜ。
…………ってマジ?
……マジなのか。この仕事で、この報酬って……怪しくないだろうな?ってか、十分怪しいんだが?
……わかったよ。嬢ちゃんを信じよう。
ってもう行くのか?
……そうか、じゃぁ、ミゲルってやつを訪ねてみな。厳つい奴だが、俺の名前を出せば話ぐらいは聞いてくれるぜ?
……あぁ、じゃぁな。
……ところで、この依頼、マジで大丈夫なんだよな?
…………。
俺の名は、チューケン=モルテン。少し前まで、しがない冒険者をやっていた。
それが今は、東方面駐留軍、第三大隊の隊長なんてもんをしている。
以前は俺の事を気安く「モルちゃん」などと呼んでいた奴もいたが、今は「隊長」としか呼ばれねぇ。
……いや、一人だけいたな。
昔と変わらず、俺の事を「モルちゃん」と呼んでくれる、かけがえのない奴が……。
「モルちゃん、どうしたの?」
「あ、いや、思えば遠くに来たもんだなって。」
「そうね、去年の今頃は、こうしてモルちゃんと一緒にいられるなんて思ってもみなかったしね。」
「あぁ、これもすべては「魔王様」のお陰さ。だから俺は魔王様の為なら命を懸けてみせる。」
「うん、気持ちはわかるけど……。これ。」
マルゥが1通の書状を渡してくる。
「なんだ、これ?」
「うん、この間様子を見に来られたリィズ様が、さっきモルちゃんが言ったようなことを口にしたら渡してくれって頼まれてたの。……魔王様直々のお手紙だって。」
「それを早くいえっ!」
俺はマルゥから書状を奪い取り慌てて中を確認する。魔王様直々という事は余程重要な事が掛かれているに違いない。
「………。」
しかし、俺はその中身を見て絶句する。……どういう事なんだ?
「モルちゃん、何が書いてあったの?」
マルゥが、俺の手の中の書状を覗き込む。
『お前らの命なんかいらん。お前らの命は、自らが護ると決めたモノの為に使え。下らんことを言ってる暇があるなら身近な者達を幸せにする努力をしろ!』
魔王様直々に書かれたその言葉を目にしたマルゥは、そっと寄り添って呟く。
「アハッ、魔王様直々の御命令だよ。幸せにしてね。」
「あ、あぁ。任せておけ。」
……俺の名は、チューケン=モルテン。
魔王様の為、そして愛する者のために命をかける、獣人の戦士だ。
◇ ◇ ◇
「……という感じで、東方は足場固めが着々と進んでるっす。」
「獣人達の村落が固まっていたのはラッキーだったよなぁ。」
「そうっすね。これで、帝国東部への防衛拠点は確保できたことになるっすよ。」
「山脈方面はどうだ?」
「そっちも問題ないっす。盗賊集団を中心とした義勇遊撃隊の練度はかなり高くなってるっす。」
リィズはそう報告する。
「でも本当にいいんすか?盗賊団を配下にして。」
山脈街道を根城にしていた大規模な盗賊団。
帝国の兵士ですら難儀していたその集団を、レイフォードはあっさりと潰した。
同行していたリィズは、流石は盗賊の天敵だと密に感心していたのだが、レイフォードは、なぜか、その盗賊団をひとまとめにして配下にしてしまった。
レイフォードの、盗賊に対する異常なまでの怒りを知っているリィズにとっては、これは異常事態ともいえる出来事であり、レイフォードがおかしくなったのでは?とカナミに治癒魔法を頼むぐらい動転していた。
それゆえの疑問だったのだが……。
「……まぁ、あいつらは元々傭兵団崩れだしな。盗賊団になった理由もわからないでもないし、まだ、兵士以外を襲ってもいなかったからな。」
つまり、彼らは盗賊団と言われていても、まだ盗賊ではなかったという事だ。
だからこそ、レイフォードも彼らを起用することにしたのだという。
「そういう事ならいいっすよ。で、彼らには、定期的に近くの砦に嫌がらせを仕掛けるように伝えてあります。」
「了解。くれぐれも本格的な戦闘にならないようにと念押ししておいてくれ。」
「わかったっすよ。最後に、ハーピー隊、グリフォンライダー、ペガサスナイトたちなど、リノアを中心とした空挺部隊も順調に進んでるっす。」
一通りの報告を終えた後、リィズは傍にいるカナミに場所を譲る。
リィズの話が終わったことを確認したカナミが、レイフォードに対しての疑問を口にする。
「ねぇ、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないの?」
「ん?なんのことだ?」
「惚けないでよ。まさか本気で世界征服するわけじゃないんでしょ?」
「……。」
「えっ、ちょっと、マジなのっ!?」
視線を逸らすレイフォードに慌てて掴みよるカナミ。
「い、いやぁ、とりあえず、ノリと勢いで始めたんだけどなぁ……。」
「センパイっ!……って、まぁいいか。センパイだもんね。」
このままでは世界征服になっちゃうかも?と笑ってごまかそうとするレイフォードを見て、あっさりと許すカナミ。
「いいんすか?」
「いいのよ。」
まぁ、にぃにだからしょうがないっす、と納得するリィズ。
「いいわけないでしょっ!」
突然の叫び声が、部屋中に響き渡る。
「遅いぞ。」
「来たわね、現地妻。」
「入ってくるときはノックぐらいするっす。」
突然現れた少女の姿に驚きもせず、リィズはそんな事を言う。
「これでも急いできたんですっ!……誰が現地妻ですかっ!……あ、ごめんなさい……って、転移するのにどうやってノックするんですかっ!」
「「「気合で」」」
律儀にそれぞれに応える少女……セレスティアだったが、3人の無茶振りに、文句を言う気が削がれてしまう。
「……はぁ、もういいです。それより、どうなってるんですかっ!なんで帝国に戦争を吹っ掛けるんですかっ!」
「セレス、落ち着けよ。ブブ漬けでもどうだ?」
「何、遠回しに追い返そうとしてるんですかっ!そんな事より、説明してくださいっ!友好条約はどうなったんですかっ!」
「その為にやっているんだよ。」
「……どういうことですか?」
セレスティア王女は、入ってきたときの勢いを収めて、レイフォードの話を聞くために用意された席に座る。
そこに間を置かずにお茶が差し出されるあたり、メイドたちの練度も上がっているといえよう。
「さて、どこから説明しようか……。」
「出来れば最初から噛み砕いて話して頂けますか?」
「そうだな、じゃぁ……。」
俺は、席を立つと、セレスの前まで移動し手を差し伸べて告げる。
「勇者よ、我の仲間になれば世界の半分をお前にやろう。」
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