紋章世界の謎 その1
かつて、偉大なる魔王は言った。
「勇者よ、仲間になるならば、世界の半分をお前にやろう」と。
それに対し、勇者は反発する!
「ふざけるなっ!なんでお前と世界を分け合わなければならん?世界の全部俺のもんだぁ!」
こうして、世界をかけた戦いは1年に渡って続く。
魔王を退けた勇者は「これで、世界は俺のモノだ」という言葉を最後に、その姿を消したのだった……。
◇
「えっと、センパイ?」
「その勇者、クズっすね。」
「そんなはずありません!勇者様は、勇者様は……。」
「まぁ、細かい事は置いといて、これが今の世界の始まりなんだよ。」
俺は、三人の少女の顔を見ながら話を続ける。
「かつて、この世界は、芳醇なマナが溢れる、実り豊かな世界だった。そこに、種族間の差別はなく、お互いの得手不得手を認め合い、助け合って生きてきた、理想の世界。だけど、どの世界にも自分勝手で我儘な奴っていうのは存在するわけで、人族の中に現れたそいつは、世界の恵みを独り占めしようとしたんだ。」
その存在にとって、今の世界の在り方……仲良しこよしの状況は非常に困まるものだった。というのも、何をしようとしても、周りが仲良しなら、団結して排除されるのは目に見えているからだ。
だからその存在は、互いの仲を裂き、疑心暗鬼に陥るよう一計を案じた。
世界の種族は、その素朴で、他人の事を信じる優しい心根故に、悪しき存在の計略にあっさりと引っかかる。
一度疑う事を知れば、すべてが信じられなくなり、共存共栄の素朴な世界は一気に崩壊した。
悪しき存在は、世界を手中に収めるべく、次の手を打つ。……マナの掌握だ。
世界に溢れしマナは、万物の根源である。このマナの全てを手にすること、それは世界を統べる事と同義だと、その存在は考えた。
力では獣人族に劣り、魔力では魔族に劣る。自然と調和し、その力と共にある亜人族のような特殊な力もなく、繁殖力において、低級の魔物に劣る人族。そんな人族に与えられている能力はバランスと創造。様々なものを生み出し、とびぬけた能力を持つがゆえに、不安定な多種族を助けバランスを保つのが人族の役割だった。
そんな人族の力に目を付けた悪しき存在は、人族のコンプレックス……他種族に劣っている、というマイナスの心を煽り、他の種族を支配する力を秘めた道具を作り出させ、た種族を蹂躙するように誘導していく。
このままでは世界が崩壊する、と見て取った神々は、世界を分け、各種族を引き離したうえで、あるシステムをこの世界に導入する。
「それが魔王システムだ。」
「魔王システム?なんですの、それ?」
「簡単に言えば、マナを正常に循環させるシステムだな。共存共栄が上手くいかなくなったことを知った神々は、次善の策として、種族を分けてそれぞれの文明単位で発展を促したんだろう。これならば、一つや二つの種族が滅びても、調整しやすいからな。ただ、種族を分けるという事は、それぞれ勝手に発展していくという事で、そのまま放置すると、マナに偏りが出てしまうんだろうな。だから全体を調整する役割を持つ「魔王」を導入したという訳だ。……あとの流れは、わかるだろ?」
俺はカナミとリィズに視線を向けると彼女らはコクンと頷く。
この辺りは俺達の世界と同様のシステムみたいだから、カナミやリィズにとっては説明するまでもない事だ。
セレスは今一つ理解できてない様なので、改めて、俺達が召喚されたことなどを含め、丁寧に説明してやる。
「……そう言う事ですか。よくわかりましたが、それと今回の事がどう結びつきますの?」
一応世界の理を理解したセレスティアだったが、今回のレイフォードの行動の意図までは理解できないようだった。
「ここで、さっき言った勇者と魔王の1年戦争につながるのさ。」
俺はそう言って、紋章の謎の核心へと触れていく。
「勇者の言う「世界を自分のモノにする」っていうのはどういうことだと思う?」
「……世界征服をして統一国家の王になる……とか?」
「まぁ、普通はそう考えるよな。」
俺はカナミの言葉に頷いて見せてから話を続ける。
「しかし、人族以外の、それも人族を遥かに凌駕する能力を持つ種族が多数存在するこの世界において、「世界征服」するのは、一筋縄じゃ行かない。」
「うん、そうだね。」
「だったらどうすればいいか?そう考えた勇者は、倒した魔王を利用することを思いついたんだ。」
「魔王を利用っすか?」
「あぁ、正確に言えば、マナを制御する魔王システムだな。この勇者は、確かに優秀だった。その優秀な能力を使って、魔王の身体を5つに分けて封印、その封印を利用して作り上げたのがマナ制御システム……すなわち紋章システムなんだ。」
「えっと、えっと、どういう事なんでしょう。」
セレスティアがオロオロしている。突然に、重大なことを知らされて処理能力が追い付かない、そんな様相を現していた。
「細かい説明は省くが、魔王の持つマナを制御する力を、利用して、自分だけがマナを使えるようにしたんだ。万物の根源たるマナの制御を抑えてしまえば、この世界の生きとし生けるものすべてのライフラインを握ったも同じ、すべては自分に従うしかないと考えたのさ。」
「まさか、そんな大それたことを……。」
「勿論、そんなことが出来る筈はない。だけど、その勇者は優秀過ぎた。マナの全てを制御することは無理だったが、その一部を制御することには成功したんだ。それによって、魔法を始めとした、スキルというものが、勇者の思うがままにされるようになった。勇者はその力を「紋章」に紐づけ、「紋章」を通じて力を引き出せるようにしたんだ。それが今に残る紋章システムなんだ。」
その後、勇者は自分に心酔するものを集め、自分に忠誠を誓うものに紋章を与えた。しかし、勇者もまた、疑心暗鬼というものから逃れることは出来ず、自分の紋章と違って、与えた紋章には、大きな力が出せないように制限をかけていた。
勇者の元に力が集中したとなれば、力を持たないものが勇者に抗える筈もなく、勇者が人族を統一、多種族を排斥するのに1年もかからなかった。
やがて、勇者及び、その側近が持つ紋章は「聖痕」と呼ばれ、通常の紋章との差別化が図られる。
勇者の死後は、その血脈に聖痕が受け継がれていくが、代を重ねるうちにその力は徐々に薄まっていく。
また、年代を重ねていくうちに、、施された封印も緩み、その上に成り立つ紋章システムの礎にも影響を及ぼし、力が不安定になっていく。
それらを解決するために編み出されたのが、勇者召喚システムであり、それに今回引っかかったのがレイフォード達、という事だ。
「魔王という存在が復活したんだ。だったら勇者のシステムを壊すために動くのは当然だろ?」
俺はセレスに向けて、ニヤリと笑ってみせる。
これらの事を調べ上げるために、エアリーゼとファーには無理をさせた。彼女たちの出番はもうないだろう……ない事を祈りたい
この事を知った時、俺には女神たちの思惑を理解した。
このような偏ったマナの在り方は、女神たちの意に反することであり、出来れば壊してしまいたいと思っているはずだ。
しかし、女神たちはこの世界に干渉できない。
だから、勇者召喚の儀に合わせて、俺達が召喚されるように小細工をした。
俺達だったら、この世界の謎を解き、真実を知れば破壊してくれると思っての事だろう。
そして、今の所、俺達はその思惑に見事にハマっている。
「だからな、俺達はこの世界に掛けられた封印を壊すんだが、セレスはどうする?」
俺達と一緒になって現在の制度を壊し、新たなる世界を迎えるか、それとも現在の秩序を守るために、俺達の敵となって、立ちはだかるか?
俺の問いかけはそう言う事だった。
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