魔王国拡大中 その2
「なるほど、『転移』の聖痕と『借用』の紋章か。」
俺の言葉に、セレスとマリアが困ったように頷く。
その周りを、カナミとリィズが消えたり現れたりしているので、仕方が無いのかもしれない。
何といっても、カナミが今使っているのが転移の魔法。しかも、自分だけじゃなく、リィズにもかけてショート転移を繰り返しているのだ。
セレスの転移は、基本的に自分一人だけのもの。それも、1回跳ぶのにかなりの魔力を消費する。
そして、接触していれば、一人か二人ぐらいまでであれば一緒に転移することも可能だが、その場合、自分一人で跳ぶより、魔力の消費量が大きく、距離も回数も激減してしまう。
それなのに、カナミは1回見ただけで、その転移の魔法をモノにしただけでなく、いとも簡単に繰り返し転移を繰り返すだけでなく、他人を単体で跳ばしたりもしている。
転移の聖痕を持つセレスでさえできないことを、いとも簡単にやってのけられては、立つ瀬がないというものだ。
それから、マリアの「借用」の能力。これは紋章レベルの割には、かなり有力な力である。
何といっても、他人の能力をそのまま借りて、自分の能力として使えるのだから。
とはいっても、そこはやはり、紋章レベルであるが故に制限もある。
まず、借りた能力は、オリジナルの80%程度の力しかない事。さらに言えば、借りた相手の能力が聖痕レベルであった場合、その力は50%程度しか発揮できない。
傍使えのメイドであると同時に、セレスの情報源として活躍するマリアは、常時、セレスから転移の力を借用しているのだが、基本的には、距離も位置も設定できないランダム転移。方向固定の魔道具と併用することで、一応の使えるレベルになるというものの、オリジナル程使い勝手がいいわけではない。それでも、万が一の避難手段として非常に役立つ能力であることは間違いない。
その他、マリアは任務に応じて、その都度、有用そうな能力を借り受けているが、その総数は最大3つ。
現在は、護衛も兼ねているため、転移以外に身体強化と感覚拡張の能力を借りている。
この組み合わせは、大抵の事に対応できる汎用タイプであり、例え80%までしか発揮できないとはいえ、多種多様の能力が使えるマリアならではの鉄板である。
そのマリアだからこそ、カナミの能力も似たようなものだと推測出来た。そして、自分より遥かに有能な上位互換だろうであることを理解して落ちこむのだった。
「まぁ、そんなに落ち込むなよ。カナは別格なんだから比べるほうがおかしいんだって。……っとこれでいいか。」
俺はカナミと戯れていたリィズを呼ぶ。
「にぃに、なんすか?」
「あぁ、これを……。」
「にぃに、指輪はもう貰ってるっす。」
リィズはそう言いながら左手の薬指に嵌めた指輪を見せてくる。
以前みんなに送ったものと同じものだ。その指輪には簡易結界と魔力タンク、そしてストレージ機能がエンチャントしてあるやつなのだが……。
「そうか、二つは邪魔だな……。」
俺は少し考えてから、リィズの指輪を借り、リング部分に小さな石を埋め込む。
……小さくなった分、効果が落ちるけど、まぁ、大丈夫だろ。
「にぃに、これは?」
「あぁ、セレスの転移が便利そうなので、少し作ってみた。」
指輪を戻しながら、問いかけてくるリィズに、転移の機能をエンチャントしたと告げる。
それを聞いたセレスティアとマリアが、その場にガックリと項垂れてしまう。
「……そんなぁ……聖痕の力なんですよ?何でエンチャントできるんですかぁ?」
「って言われてもなぁ、出来たんだからしょうがないだろ?……あ、これマリアにやるよ。」
泣きながら迫ってくるセレスにそう答え、ついでに余ってしまった指輪をマリアに放り投げる。
「わわっと……。これは、まさか、転移の……?」
「何でですかぁっ!なんでマリアにあげちゃうんですかぁ!!」
「何でって、転移が魔道具で使えれば、借用するスロットが一つ空くだろ?その方が今後都合いいじゃないか?」
更に詰め寄ってくるセレスティア……ちょっと、そんなに首を絞められたら苦しいです。
「っそんなことされたら、マリアはもう私から転移の力を借りなくてもいいってことになるじゃないですかっ!」
「まぁ、その為に作ったようなもんだし?」
「そんなことされたら、マリアが転移の力を借りに来る際『貸してほしかったら、もっと可愛らしくおねだりしてみなさい』って言えなくなるじゃないですかっ!どうしてくれるんですかっ!」
……そんなことしてたんかい。
見ると、マリアは気まずそうに視線を逸らしているが、指輪はしっかりと握り込んで離そうとしない。
「賠償です!賠償を要求しますっ!私にも、キュンとなるようなもの送ってくださいっ!」
「……うぜぇ。……指輪でいいか?」
「えっ、あっ、……いいんですの?」
「ん?いらんのか?」
「いえ、欲しいですっ。滅茶欲しいですっ。ただ、くれるとは思わなかったもので……。不覚にも、それだけでキュンと来ちゃいました。」
「訳わからんこと言ってないで、欲しい機能があったら言えよ。とりあえず防護結界と魔力タンク、そして隠蔽でいいか?」
「えっと、あの、その……、……どんな能力でもいいんですか?」
「内容次第だな。」
「えーと、じゃぁ……遠くを見たり、小さな物音を聞いたりとか……。」
「感覚拡張か……。指輪につける機能じゃないな。」
「ダメですかぁ……。」
「ダメとは言ってないさ。……ほら。」
俺は落ち込むせレレスに近寄り、指輪とイヤリングを付けてやる。
「えっと、これは……。」
セレスはイヤリングに手をやる。
「そのイヤリングに感覚拡張のエンチャントがしてある。意識集中してみ?」
セレスは、イヤリングを弄りながら言われたとおりに、意識を集中する……。
「あっ、凄いですぅ。あんな遠くに離れているメイドさんたちの会話が聞こえましたぁっ!」
「そうか、成功だな。……ちなみに何の話をしていたか聞いてもいいか?」
特に深い意味があったわけではない。しいて言うなら、話の流れというものだろう。
「えっとですね……。『ほら、アレが噂のタラシ魔王の手管よ?』『成程ぉ。ああやって、ナチュラルに指輪を送るんですねぇ。』「そうそう、擦れてない娘がアレやられたら、コロリと落ちるわね。ほら、あの王女様の魔王様を見る目が変わってるでしょ?』『たったあれだけのことで?王女様ってチョロイン?』……って感じです。……私チョロインだったんですね……。」
そう言いながらその場に泣き崩れるセレス……まぁ、世の中知らない方が幸せな事っていっぱいあるからなぁ。
俺は、背後に迫る殺気を受けながら、そんな事を考え現実逃避をするのだった。
◇
「さて、改めてセレスティア王女との会合を開きたいと思う。」
俺はその場に座る面々を眺めながらそう告げる。
と言っても、俺の右にはカナミが、左にはリィズが座り、その横にリノアが座っている。正面にはセレスティア王女が、その右隣にマリアさんが腰かけている……この場にいるのはこの6人だけだ。
「では、まず、セレスティア王女の話を聞こうか?何しにここへ来た、とかな。」
「私がここに来た理由は三つあります。まず一つ目は、セレスの街が占拠されたことに対しての事実確認。荒唐無稽な噂ばかり流れてくるので、自分の目でしっかりと確認したかったというのもあります。」
セレスは指を1本立てながらそう言った後、続いてもう一本指を立て、口を開く。
「二つ目は、一つ目と少し被りますが、魔王様をこの目で確認する事。噂では、伝説で語られるような横暴な者ではなく、理知的で、話が通じる相手、とお聞きしましたので。」
俺から視線を外さずにそう言うが、心なしか、顔が上気しているように見える。
「そして三つめは、二つ目の結果次第ではありましたが、魔王様と交渉するためです。」
「交渉?」
「えぇ交渉です。魔王様は、現在、わが帝国の一部を無断で占拠している状態です。なぜそのような暴挙に出たのか?理由をお伺いしたうえで、占拠された土地の返却及び賠償をしていただけないかと…………ひぃっ……。」
セレスがガクブルと震えだす。……隣にいるリィズが殺気を放っているからだ。
「まぁまぁまぁ、抑えて、抑えて。」
俺はそんなリィズを抱き寄せ、その頭を撫でる。
「いいなぁ……私もやろっ……って痛ぁい。何すんのよ!」
羨ましそうに、見ていたカナミが、自分も、と、神気を放ちそうになったので、慌ててハリセンで叩いて止める。
ここでそんなことされたら、後々の説明が面倒だ。
取りあえずカナミを宥めるために、空いている腕で、肩を抱き寄せ、その耳に、カナミは可愛いよ、と繰り返し囁く。
昔はこんな恥ずかしいこと、ようしなかったものなのだが……慣れって怖いよなぁ。
「あー、なんだ。別に占拠したくて占拠したわけじゃないんだよなぁ。それにガス……なんたらと言ったっけ?そいつが先に喧嘩売ってきたんだからな?」
「でもそれは……。」
「そんな事より、もっと言いたいことがあるんじゃないのか?」
俺は、セレスティア王女に向けて、ニヤリと笑ってみせる。
集めた情報が確かならば、この王女は利用できる。……相手も俺を利用したいと思っている筈だから、話はスムーズに進むだろう。
俺はこの後の事をそう確信しながら、「話し合い」を進めていくのだった。
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