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いつか魔王になろう!  作者: Red/春日玲音
紋章王国

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アイドル騒動

「なぁ?」


喧騒に包まれている中で、俺は隣でパフェを食べているカナミに声をかける。


「ん~、なぁに?」


「俺達って、何しに来たんだっけ?」


「……さぁ?」


少し考えていたようだが、すぐに思考を放り出して、パフェを片づけにかかるカナミ。


俺は諦めて、騒動の中心となっている中央へ視線を向ける。


ここはセレスの街の中央にある、行政区広報機関はが有する多目的ホールだ。


中央にステージがあり、そこをぐるっと囲むように階段状の座席が設けられている。


普段は、その中央に、行政区のお偉い様が経ち、演説をしたりする場なのだそうだが、今、中央には二人の少女が、きらびやかな衣装を着て、歌い踊っている。


その二人の少女は、言うまでもなく、リノアとリィズだ。


周りの座席に座っているものは誰も居なく、みんな、立ち上がって、色とりどりのサイリウムを手に、大きく振って歓声をあげている。


ステージすぐそばでは、何処かで見たことのある筋肉質の男たちが、リノアたちの歌に合わせて、オタ芸を披露していた。


……ほんと、俺達って何しに来たんだっけ?


「ん~、難しい事は放っておいて、もう、ここでしばらく暮らすのもいいんじゃない?」


カナミがそんな事を言ってくるが……。


「いや、それは不味いだろう?」


「何がマズいの?」


「何がって、そりゃぁ、アイガス王国の事とか、ここに俺達を飛ばした女神の事とか……。」


「それって、センパイがやらなきゃいけない事?」


「……。」


よく考えれば、現在アイガス王国に関しては、微妙ながらも絶妙なバランスで平和が保たれている。


お互いに決め手に欠けるため、今は力をつけることに奔走しているらしいので、下手に突っつかなければ10年は現状が維持できるだろう。


サリアたちに関しては、ここまでお膳立てを揃えてやっただけでも十分だろう。これ以上関わる義理はないので、ここで手を引いたからと言って責められる筋合いはない。


そもそも、無理やり召喚しておいて、一方的に手を貸せというのは虫が良すぎるってもんだ。


リノアに関しても、ここまで知名度が上がったのだから、このままアガルタに返したとしても、その気になれば、トリニティ帝国と平和的な国交を結ぶための一手段として役に立てるはずだ。

まぁ、どう生きていくかは彼女次第だけどな。


そして、女神の思惑だ。


それこそ、俺が如何こうする謂れもないし、そもそも、その意向に沿って行動してやる義理もない。


何かしてほしいなら、最低限姿を現して事情を説明しろってんだ。


そう考えたら……。


「ないな。」


「でしょ?」


「あぁ、このままリノアとリィズに稼がせて、遊んで暮らすのもいいかもな。」


「そうね~。リノアちゃんなら、愛人にしてもいいよ。」


「そうだな、これ終わったら一緒に暮らす家でも探すか。」


「いいね~。広いお庭があるといいなぁ。」


俺とカナミは、これからの事を楽しく語り合う。


かくして、俺の冒険は終わりをつげ、このトリニティ帝国の片隅で、楽しく余生を過ごすのだった……。


……完。



「……完。じゃないっすよっ!」


パシーン!パシーンっと、小気味いい音が辺りに響き渡る。


「あいたたた……。」


「リィズちゃん、いたぃ……。」


にぃにとカナミがくだらないこと言ってるからっすよ。いい加減戻ってくるっす。」


リィズがハリセンを片手に、「おこだよ」という表情を隠さずに立っていた。


「くだらなくはないと思うが……。」


「くだらないっす。私達がここに永住したら、ねぇねは、ソラはどうなるっすか?後一応エルも。」


「あー、なんか、その辺りはどうとでもなりそうな気はするんだが……って待った。分かった、わかった、もう言わないから、それ仕舞って。」


リィズが瞳に剣呑な光を浮かべ、奥たえっじを構えたところで、俺は降参する。


あの剣で斬りつけられたら、死ぬことはないけど、かなり痛い。そして、死ぬことがないというのはリィズも分かっているからこそ、本気で斬りかかってくるから余計質が悪いのだ。


「そ、それより、ステージはいいのか?」


俺は誤魔化すために咄嗟に話題を変える。


「そんなのとっくに終わってるっす。」


リィズの言葉に、周りを見てみると、あれだけいた観客が、いつの間にか姿を消しており、この場には俺たち以外誰も居なかった。


「いつの間に……って、ちょっと待て。」


誰も居ないのだ、()()()()()()


「リィズ、リノアはどうした?」


「なにいってるっすか。リノアならステージに……って、えぇっ!」


ステージを見て、リィズが即座に駆け下りていく。


そして、袖や裏に回ってリノアを呼ぶが答えが返ってこない。


話が逸れたのはいいが、これは想定外すぎる。


俺とカナミは、中をリィズに任せて、建物の外を探すことにする。


道行く人にリノアの事を聞いて回るが、殆どの者達は看ていないという。


それでも根気よく聞き込みを続けて一時間余り、「知らない」といいながら視線を逸らす者達を数人捕まえることが出来た。



「えっとね、君たち。死にたくなかったら正直に話したほうがいいよ。あそこまで怒ってるセンパイは、私でも止められないからね。」


カナミの言葉に、捕らえられた男たちが震えあがる。


「いやだな、カナミ。人を殺人鬼みたいに言わないでくれよ。殺すなんてことするわけがないじゃないか。」


俺の言葉に、男たちの緊張がフッと抜けるのが分かる。


「死ぬ一歩手前で、ちゃんと治療してやるよ。知ってるか?人間って、首を跳ねない限り、結構長く生きていられるんだぜ?」


「『地獄の水先案内人』の復活っす。」


リィズが、少しだけ嬉しそうに言う。


男たちの顔色は青白いを通り越して真っ白になっていた。


「なぁ、面白いもん見せてやろうか?このナイフなぁ、『聖なるナイフ』って言って目がヒールをエンチャントしてあるんだ。」


俺は男の一人の前に座り込み、蒼い刀身のナイフを見せつける。


「それでな、こうやって、こうすると……。」


俺は別のナイフを取り出して、その男の腕を斬りつける。


男は「ひぃ」っと、短い悲鳴を上げるが、俺は構わず、血が噴き出ている男の腕を取り、聖なるナイフの刀身を押し付けた。


すると、男の血はすぐに止まり、見る見るうちに傷口が塞がって、元通りになる。


「な?便利だろ?」


男はショックのあまり口が利けなくなっているが、コクコクと何度も何度も大きく首を縦に振る。


「だけどな、これを単体で使うと……。」


俺は別の男の手を取り、聖なるナイフを突き立てようとする。


「ぎゃぁぁー。」


「うるさいよっ!まだ、これからだろうが。」


何もしていないのに泣き叫ぶ男。


「や、やめてくれ。本当に何も知らないんだ。ただ、ガストン様のご子息が嫌がる女の子を無理やり……。」


見かねた別の男がようやく口を開く。


……さっさと話せばいいんだよ。


男たちの話によれば、ガストン・フォン・ゴールバッハという、この街の有力貴族の嫡男が、馬車に無理やりリノアを押し込んで、連れ去ったというのだ。


この男たちはリノアの事を知らなかったが、ガストンの息子……ズクミが、街の女の子を攫うのは今に始まった事ではなく、また、その事を公に話すと、家族が不幸な事故に遭うので、街の人々は見て見ぬふりをしているのだという。


「サイテーね。」


カナミが、軽蔑しきった目で、男たちを見下ろす。


「なんとでも言ってくれ。俺達が家族を守るために出来るのは。それくらいしかないんだよ。」


「それで、自分の娘が攫われても、周りは見て見ぬふりってわけっすね。」


リィズの言葉に男たちは黙り込んでしまう。


「カナ、リィズ、それくらいにしておけ。悪いのはこの人たちじゃないんだからな。」


俺はそう言って、金貨の入った袋を男たちの前に放り投げる。


「情報料だ。」


俺はそのまま男たちに背を向け、カナミとリィズを連れて、その場を後にした。



「……良かったんすか?」


リィズがちらりと後ろを見て言う。


「クスクス、センパイの顔、自己嫌悪って書いてあるよぉ。」


カナミがニヤニヤしながら俺の顔をのぞき込む。


「言うな。分かってるんだよ。」


リノアの事で頭に血がのぼってたとはいえ、彼らがリノアを攫ったわけじゃない。なのにやり過ぎた。

あの金貨は、その侘び料も含んでいるのだが……。


「でも、あれって全財産っすよね?」


「いいんだよ。リノアを攫った貴族から分捕るからな。」


「……その貴族に同情するっすよ。」


リィズのため息交じりの呟きに応えるものは誰も居なかった。



「ぐふふ……、リノアちゃんは、ボクのものなんだなぁ。」


「いやです、帰してください!」


「ぐふ、ぐふっ、無駄だよぉ。リノアちゃんは、もう僕のペットなんだよぉ。」


ヒキガエルのような顔をした男が、リノアの衣装を引きはがそうと手を伸ばす。


バシッ!


その瞬間、スパークが弾け、男はその衝撃で吹き飛ばされる。


「あ、お守り……。」


リノアが呟く。


リノアが首から掛けているネックレスは、旅に出る時にレイフォードから、お守りだ、と言ってもらったものだ。


リノアに害意を持って触れようとするものをはじく魔法が付与されているのは聞いていたが、まさかこれほどとは……迫ってくる過激なファンから身を護る程度のものだと思っていたが、意外と強力なことにびっくりする。


というのも、このお守りが機能したのは今回が初めてだったからだ。


と同時に、自分の周りにいたファンは紳士的だったことを知り、に改めて感謝するのだった。


「クッソぉ、なんなんだそれはっ!」


「お守りだよ。おにぃちゃんがくれたの。これがある限り、リノアには指一本触れられないよ。わかったら、この戒めを解いて帰してよ!」


「……ふん!触れられないだぁ?だったら自分からそれを外すのを待つさ。時間はいくらでもあるんだからな。」


男はバタンとドアを閉めて出ていく。


その姿が見えなくなり、少ししてから、リノアはほぅと大きく息を吐く。


男の前では気丈に振舞っていたが、心細くて淋しく、怖いのだ。


「おにぃちゃん……助けに来てくれるよね?」


リノアの小さな声が、誰も居ない暗い部屋の中で響く……。








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