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いつか魔王になろう!  作者: Red/春日玲音
紋章王国

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紋章と聖痕

「で、俺の嫁に手を出したのはこいつ等でいいのか?」

「ちょ、ちょっとセンパイ!……そんな大きな声で『俺の嫁』なんて……キャッ、恥ずかしぃ。」

「そこっすか……。」

 リィズが諦めの混じった声で呟く。

 

「お前達は一体……。」

「な、何なんだ、お前等はっ!この僕にこんな事して許されると思っているのかっ!」

 あくまで冷静に事態を把握しようとする王と、怒りのあまり真っ赤になって喚く王子。

 

「こいつうるさいぞ?」

 俺は王子を足蹴にする。

「センパイ……ソレ一応王子サマらしいので、手加減して上げて。」

「はっ?この口も態度もついでに頭も悪そうなヤツが王子?……あんたも苦労するなぁ。」

 俺は横に転がっている王に同情の目を向ける。

「……カインはまだ若いのだ。若さ故に何も知らぬ。」

 王が苦しげに、そう答える。

「ふーん、若ければ許されるって立場じゃ無いと思うけどな。まぁ、よその国の事情なんか知った事じゃないけどな、他に子供がいるなら、そっちに継がせることをすすめるぜ。」

 俺は王にそう助言をしてからカナミの方へ向き直る。


「ところで、こいつ等に変なことされてないか?状況が分からないから半壊に留めておいたけど、なんだったらこの街毎消すことも出来るぞ?」

「ウン、大丈夫。何もされてないよ。」

「それならいいけど……ギアスで制限されてたりしないか?」

 俺がそう言うと、王と魔術師の顔色が見て分かるぐらいに青ざめる。

 召喚した相手に制限をかけるのは基本だ。

 俺も以前召喚されたときに、制限を受けたこともある。

 だからと言って、ソレを許容するかどうかは別の問題だ。

 ましてや、カナミを自由にしよう等と考えるのは、女神が許しても俺が許さない!


「あ、それは大丈夫だよ。なんか勝手に弾いたみたいだから。」

 カナミが何事もなかったかのように告げてくるが、それがとんでもない事だと言うことは理解してないみたいだった。

「はぁ……相変わらずカナミはムチャクチャっす。」

 リィズが頭を抱えているが、それには俺も同意する。


 先程も触れたが、召喚した相手を意のままに操るというのは、召喚術の基本だ。

 召喚しても言うことを聞いてくれないのであれば、何のために召喚したか分からないからな。

 だから、召喚術の術式には、召喚主の言うことを聞く、もしくはそれに類する条件が組み込まれている。


 そこまで複雑じゃ無い場合でも、弱体化の効果は掛けてあり、魔法に掛かりやすい状態にしてあるのが普通だけど、カナミの場合、それらの仕様になっているにも関わらず、何でもないかのように抵抗し……と言うか本人は抵抗している気もなく効果を打ち消す。

 カナミを呼んだ術者が、どれほどの力を持っているか分からないが、さぞかし自信を喪失したことだろう。

 と言うか、その術者に同情するよ。


「えっと、じゃぁ、この国潰さなくていいのか?」

「可哀想だからやめてあげて。」

 カナミがそう答えると、リィズも隣で頷く。

「助けを求めて召喚したはずが、それが原因で国が潰れたって言うのは悲惨すぎるっす。」

「だけど、それは自業自得と言うもんだろ?」

「それはそうっす。……けど、希望の代わりに災厄を呼んだこの国に同情するっす。」

 リィズの言葉に、カナミのこめかみがピクリと動く。


「リィズちゃん、災厄ってどう言うことかなぁ?」

「……自覚がないと言うのは困りものっす。」

 カナミとリィズが睨み合う。

 こういう時、ヘタに間に割って入ると、俺の方にとばっちりが来るのは経験済みなので、俺は気づかない振りをして話題を変える。


「じゃぁ、問題ないって事で帰るか。」

 俺はリィズとカナミを促して外へ行こうとするが、そこに王からの制止の声がかかる。

「待ってくだされ。」

「ん?」

 俺が顔を向けると、王は動かない身体を必死になって動かし、地面に頭をこすりつける様に下げる。

「どうか、どうか話だけでも聞いてくだされ。このまま去られては、ワシは王として国民に顔向けが出来ぬ。」

「と言われてもなぁ……。」

 どうする?と二人に顔を向ける。


「いいっすよ。話を聞くだけなら。」

 リィズがあっさりと答える。

「おいっ、リィズ。」

「仕方がないじゃないっすか。にぃにがここまで王宮を破壊しておいて、このまま、ハイ、サヨウナラじゃ、絶対逆恨みされますよ。だから、話を聞くだけ聞いてからサヨウナラしたほうがいいっすよ。」

「リィズ、聞こえてるよ?」

 カナミが呆れたように言ってくるが、聞こえようが聞こえまいがやる事は変わらないので問題は無い。

「まぁ、この世界の事も知りたいし、情報料代わりという事なら話を聞いてやらんこともないが……。」

 俺は王たちを見下ろす。

 芋虫みたいに転がっていて、とてもじゃないが話をできる状態ではない。


「はぁ……カナミ、悪いけど頼む。」

「はいはーい。……エリアヒール!」

 カナミが杖を一振りするだけで、その場にいた全員の傷が治り、疲労も抜け、体力も全快している。


「すごい……。」

「これが勇者様のお力……。」

「勇者様!なにとぞお助けを!」

 周りにいた騎士達が、部屋の外で蹲っていた兵士達が、城壁周りにいた衛兵までもが騒ぎ出す。


「静まれっ!静まれぃっ!」

 王が辺り一帯に響くように一喝する。

 外壁が崩れている為、国王の姿は外からでも見える。

 いつしか集まっていた兵士達だったが、国王の姿を見て静まり返る。

 国王は静かになった周りを見回した後、続ける。


「皆の気持ちはよく分かる。儂も動けないほどの怪我が一瞬で癒された事に驚愕に耐えない。この御業はもはや勇者殿というより聖女様と申し上げた方が良かろう。」


「そうだ!そうだ!!」

「聖女様……お助けください。」

「聖女様、聖女様!聖女様の為にっ!!」

 一旦静まった熱狂に再び火がつく。

 それに対し、王が片手をあげて答え、そのまま場を鎮める。

「儂はこれから我が国を救っていただけるように聖女様に誠心誠意を籠めてお願いを奉る。皆も聖女様が安心して事が望める様、任務に励んでほしい。……すべては我らが希望、聖女様の為にっ!」


 うぉぉぉぉぉ……。

 城内外の騎士が兵士が役人たちが叫ぶ。

 聖女と国王を称えるコールが響き渡る。

 長にあたる者達は、自らの部下を宥めつつ、普段の仕事へ戻るように促していく。


「大したもんだな。流石は国王と言ったところか。」

「一国を預かるものとしては、これくらいはやって見せませんと、聖女様のお力を借りる事も出来ますまい。」

 俺は、国王のカリスマの高さに舌を巻く思いがした。

 正直、俺には口先一つで、あそこまで乗せる事は出来ないと思っている。

「にぃにも似たようなもんすよ。」

 俺の考えを読んだのか、リィズが慰める様に言ってくる。

「そうそう、センパイの良さは口先じゃ伝わらないのよ。」

 カナミもそう言うが、それって……俺の言葉では人が動かないって言ってるよね?

「………。」

 俺は何も答えずに、国王の後へついていく事にした。


 ◇


「改めて挨拶をさせて頂く。儂はこのアイガス王国、十二代目国王アルベルト=アイガス四世だ。この度は聖女様及びそのお連れの方々に多大なる迷惑をおかけしたことを改めて謝罪させていただきたい。」

 国王は、そう言って頭を下げた後、この国が置かれている状況、それによる困窮の果てに勇者召喚の儀を行った事などを話す。

 カナミは一度聞いている為か、興味なさそうにしていて、リィズはそんなカナミを呆れた目で見ながらも、周りへの警戒を怠っていなかった。


「成程な。……で、カナミはなんて答えたんだ?」

 俺は王様の話を聞き終えた後カナミに目を向ける。

「って言われてもねぇ、ぶっちゃけ、私に関係ないでしょ?」

「ま、そりゃそうだ。」

「だから、正直にそう言ったら、あの王子にキレられたの。」

「なんだ、もう断った後なのか。じゃぁもう話は終わりだな。」

 俺がそう言って席を立ちあがると、国王とその側近たちが慌てて止めに入る。

「お待ちくだされ、何卒、何卒御一考をお願いしまする。」

 家臣一同、土下座をする勢いで頭を下げてくる。


「そうは言われてもなぁ、もう答えは出てるんだし。」

「そこを何とか……もし国を救っていただければ、娘を、姫を差し上げ……。」


 ピシッ!

 国王がとんでもない事を口にしかけた時、真空の刃が国王の頬をかすめる。

「今、何って言ったすか?」

「いえ、何も……。」

 笑顔で問いかけるリィズに対し、国王は頬を引きつらせながら答えるが、リィズは追及をやめない。

「私の目の前で、にぃににオンナをあてがおうなんていい度胸してるっす。」

「いえ、決してそう言うわけでは……。」

「じゃぁ、どう言うつもりなんすか?」

「リィズちゃん、ちょっと待って。」

 さらに追及しようとするリィズをカナミが止める。


「カナミ、何で止めるっすか?」

「いいから、ここは私に任せて、ネッ。」

 カナミはリィズにそう言った後、国王に向かってとんでもない事を言い出す。

「王女様?何人いるの?今すぐここへ連れてきてちょうだい。」


「「はぁ??」」

 俺とリィズの声がハモる。

「何考えてるんすかっ!」

「いいじゃない、王女様見てみたいし。最近ソラちゃんも大きくなって少し生意気になってきたから、幼女成分が不足してるのよ。」

「幼女成分なら、エルで我慢するっすよ。」

「んー、でも、あの子ミリィのお気に入りだから。」

 そんなくだらない会話を、カナミとリィズがしているうちに、王女が連れてこられる。

 

 連れてこられたのは二人。

 「初めましてサリアと申します。」

 姉と思われる背の高い方が、見事なカーテシーを披露してくれる。

 頭を上げた時に、赤味がかった金髪がふわりと揺れ、それをそっと抑える仕草にも品の良さが伺える。

 国王と同じ碧い瞳が不安の色を湛え、こちらを見つめている。


 姉のその様子を真似するように、もう一人の王女も挨拶をする。

「は、初めましゅて、ね、ネムと申しましゅ。」

 慣れていないのか、緊張しているのか、動作はたどたどしく、口調は噛み噛みだった。

 アタフタとする度に、その長いフワフワの金髪が揺れる。

 姉と同じように出来ずに、不興を買ってしまったのではないかと、そのアンバーの瞳に涙を溜めていた。


「うー、可愛ぃ。」

 その仕草がカナミのツボにハマったらしく、止める間もなくカナミは飛び出していき、ネムと名乗った王女を抱きかかえて戻ってくる。

「ねぇセンパイ、この子連れ帰っていい?」

「返してきなさい。」

 これ以上、女の子増やしてどうする気なんだよ。

「ね、ねっ、センパイ、お菓子だして。この子にあげる甘いやつ。」

「残念だが、こちらに飛ばされた時点で、アイテム類は一切無い。」

「えぇー、センパイ使えねぇー。」

「悪かったな、文句ならあそこで小さくなっている奴らに言えよ。」

 俺は向うで状況を見守っている国王たちを指さす。

「分かった。言ってくる。」

 カナミはそう言うと、ネムを抱えたまま王たちの方へと駆けていく。


「あの……勇者様?」

 サリアが、おずおずと声をかけてくる。

「あぁ、ごめん、放置して悪かった。」

「いえ、それはよろしいのですが……私は何をすればよろしいでしょうか?」

 サリアが不安が混じった声で聴いてくる。

 まぁ、いきなり呼び出されて来てみれば、知らない人に頭を下げている国王の姿がある……普通、何事かと思うよな。

「あぁ、うん、もう戻ってもいいよ。カナミがあんなんだから、落ち着くまではあっちの子はあのままだけどね。」

 俺は困った表情を見せながらカナミの方へ視線を向ける。

 カナミは何やら国王たちと交渉しているみたいだ。


「いえっ、あの……私にも何かさせてくださいっ。何でもしますからっ。お望みであれば……その……初めてなので拙いかも知れませんが、精一杯ご奉仕させていただきますので。」

 必死になってそんな事を言ってくるサリア。

「そうは言ってもなぁ。」

「お願いです。何でもします。私は勇者様方のお役に立ちたいのです。」

「……ちょっと落ち着くっす。ゆっくり話を聞かせるっすよ。」

 異常なまでに必死な様子のサリアを見かねたリィズが、サリアの手を取り、俺の横へ座らせる。

「これ、まだ口付けてないから。」

 リィズが、自分の前に置かれたお茶をサリアに差し出す。

「そんな、滅相もない。」

「いいから飲むっすよ。そして落ち着いてから話を聞くっす。」

 リィズの勢いに押され、お茶に口をつけるサリア。


「美味しぃです。」

「まぁ、ここでマズいお茶でも出そうもんなら、この国終わるからな。」

 俺の言葉にサリアの身体が硬直する。

「にぃにはすぐそういう事を言うっすね。……気にしなくていいっすよ。にぃには口と態度と、ついでに性格も悪いっすが、優しい人っすから。」

「リィズ、それ褒めてないよな?」

「褒めてるっすよ……にぃに、後任せるっす。」

 リィズは、急に真面目な表情になると席を立つ。

 見ると、カナミがどこかに移動する様だ。


「あ、あのっ……。」

 リィズの様子を見て、慌てて席を立とうとするサリアを、俺は押しとどめる。

「あっちは任せていいから、それより話してくれないかな?なんであんなに必死だったのかを。」

 サリアはキョロキョロと辺りを見回し、俯いて大きなため息を吐き、何かを話そうと、決意した表情で口を開こうとして、そしてまた落ち着きがなくなる。

 そんな事を二度三度繰り返したところで、ようやく決心がついたのか、サリアの口が開く。


「勇者様にお話しするには、とても恥ずかしい事ではあるのですが……。」

 サリアの口調から、聞かない方がいいのでは?という微かな不安が頭の中をよぎるのだった。



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