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いつか魔王になろう!  作者: Red/春日玲音
紋章王国

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勇者召喚の儀

カナミの視点からです。



 ……えっと、これはどう言うことなのかな?

 周りを取り囲む兵士達。

 私のいる場所を中心に描かれた魔法陣。

 正面の少し高いところに立ち、私を見下ろしている、偉そうな人と、その横にいるいかにも魔術師といった風貌の男。


 そもそも、私は魔王城でセンパイの寝室に忍び込もうとしていたところだった筈。

 最近忙しくて留守がちなセンパイが、今日は1日部屋でゆっくりとするって言ってたから、久し振りに二人っきりになりたいと思ってたんだぞ。

 最近ご無沙汰だったから、思いっきり甘えて、イチャイチャするはずだったのにぃ……。


 あ、思い出したら段々腹が立ってきたよ。

 私とセンパイの甘い時間を、ここにいる人たちが邪魔したって事で間違いないよね?


「えっと、ここはどこ?あなた達は何?私をどうする気?」

 邪魔した犯人に間違いは無いと思うけど、念の為に確認をする。

 私が問いかけると、途端に周りがざわめき出す。


「静まれっ!王の御前であるぞ!」

 魔術師のが一喝すると、どよめいていた兵士達が落ち着きを取り戻す。

「陛下、召喚の儀は成功したようです。」

「フム、その様だな。」


 話の流れからして、あの中央の偉そうな人が王様で、その横にいるのは宮廷魔術師って所かな?

 私が観察していると、王様が口を開く。

「突然の事で混乱していると思うが、先ずは名前を聞かせてもらえぬか?」

「…………、ナミよ。」

 私は長らく使ってなかった、名前を告げる。

 センパイと再会してから、そう呼ばれることが極端に減ったため、違和感がすごい。


「ナミか。…………………………、ナミ!」

 王様の横で魔術師が何やら呪文を唱える。

 最後に名前を呼ばれた時、身体中に衝撃が走った……気がした。

 どうやら、私の名前を媒介にした、何かの魔法を掛けたんだろうけど失敗したみたいね。

 状況からして、何らかの契約系の魔法……多分逆らえないようにするとか、そう言う類のモノだろうけど、堕ちているとは言っても、一応女神の私を従わせるなんて事、出来るわけ無いでしょ?


 私に魔法が利かなかった事で、明らかに動揺している魔術師の姿がある。

 王様の顔も青ざめているけど、魔術師と違って、平然を装っているあたり、なかなかのモノだと思う。


「色々訪ねたいこともあるだろうが、そなたも疲れているであろう?後程時間を作る故、今はゆっくりと休まれるのが良かろう。」

 王様は、一方的にそう告げると立ち去ってしまった。

 そして、私は残された兵士達に連行される様な感じで客間へと案内された。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ーーーーーー某所にてーーーーーー


「アレが勇者で間違いないのか?」

「間違い無いでしょう。少なくとも伝えられている歴代の勇者達より強い魔力を持っているのは事実です。」

「しかし、湯浴みの際、侍女に確認させたが、身体中のどこにも聖痕(スティグマ)どころか紋章(エンブレム)すらなかったと言うぞ?」

「その辺りについては分かりかねますが、私の強制契約(ギアス)を弾いたのは事実です。」


「うむ………。」

 王が顔をしかめる。

 相対していた魔術師は、可能性として考えていたことを伝える。

「まだ()()()()()()()のかも知れません。また、異界の勇者については分からないことも多く有りますので、紋章なしでも力を使えるのかも知れません。」

「バカなっ……。」

 王が驚愕の声を上げる。

「紋章なしで力が使えるなど、伝承にある『悪魔』そのものではないか!」


 この世界では、力ある者は必ず、身体のどこかに紋章がある。

 紋章は神から力を与えられた証であり、紋章を通じて神の力を行使する事が出来る。

 それは召喚された者達も例外はなく、今までの勇者達も、額であったり拳であったり、瞳であったりと、部位は違うものの聖痕(スティグマ)と呼ばれる特別な紋章が浮かんでいた。

 しかし、今回の召喚者は紋章が見当たらないにもかかわらず、歴代の宮廷魔術師に比べても最高位を誇る、ガリアの強制契約(ギアス)をいとも容易く弾いて見せた。

 しかも、レジストする素振りすら見せなかったのだ。


「王よ、今回はしばらくは様子を見つつ、時間をかけて協力を願うべきです。決して焦ってはなりませぬぞ。また他の者がヘタな手を出さぬように、よく申し伝えておくべきです。」

 魔術師が今後のことについて意見を述べる。

「……そうだな、お主の魔術を弾くほどの逸材だ。きっとこの国を救ってくれると信じよう。」

 王は魔術師に頷くと、召喚された勇者……ナミを手厚く遇するようにと、配下の者に指示を出す。


「では、謁見の準備を頼む。」

「はっ!」

 王は部屋を出ていく魔術師の背中を、静かに見送った。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「はぁ……疲れたぁ……。あんなにゴシゴシしなくたって……そんなに汚れてたのかなぁ。」

 私は腕の臭いをクンクンと嗅いでみる……フローラルな香りしかしない。

 当たり前だ、あんなに入念に磨き上げられたのだから……これで変な臭いがする方がおかしい。


 召喚の間(と思われる)を出た私は、まずこの客間に通され、控えていた侍女達に寄ってたかって服を剥ぎ取られ、強制的に湯浴みをさせられた。

 召喚の間は何となく埃っぽい感じがしたので、湯浴みそのものは良かったんだけど、あそこまで徹底的に磨かれるとは思っても見なかった。

 お陰で、今は何もする気が起きなくてグッタリとしてる訳なんだけど……。


「っと、あんまりノンビリもしてられないか。」

 少ししたら、王様との謁見があるそうで、それに合わせてお着替えをする予定になっている。

 流石に疲れているので、少しだけでもいいから独りにして欲しいと言って作った時間だから無駄には出来ない。


『ブック!』

 私はベッドに腰掛けて、本を取り出す。

 これは、私が異世界に転生した時に得た固有能力。

 元々は他人の力を借りるための能力だったんだけど、世界の改変とか、女神化したせいでかなり様変わりしてしまった。


「えーっと………なる程、ヤッパリあの魔法陣は召喚陣なんだね。」

 このブックには、私が受けた魔法やスキル特殊能力などが自動的に記載される。

 そして、一度記載されれば、その力を私は使えるようになると言う、これ以上ないくらいの反則(チート)能力だったりするのよ。

 勿論、特殊な条件が必要なものまでは使えないけどね……例えばドラゴンのブレスとか。


 そして、今このブックに新たに記載された内容は……『召喚術』『弱体化:範囲』『封魔:限定』、そして………『強制契約(ギアス)』……となっていた。

「成る程、あの魔術師が使ったのは『強制契約(ギアス)』だったのね。」

 知らずにレジストしていたみたいだけど、流石に『強制契約(ギアス)』は洒落にならない。

「私を自由にしていいのはセンパイだけなんだからね。」

 私の中で、この国に対する評価が、ぐんっと下がる。

 問答無用で『強制契約(ギアス)』を使ってくる相手に好意を抱けるはずがない。


「どうしようかなぁ……。」

 今までいた世界からこの世界に召喚されたのは間違いないとして、問題は「帰れるかどうか?」なんだよね。

 最悪はエルフィーネあたりを呼びつけて、相談すればなんとかなりそうだけど、何か条件が付けられてたりすると厄介なんだよね。

 取り合えずば、現状を確認する意味でも、王様から話を聞いた方がいいかな?

 ……っと、そう言えばさっき……。


「ナミ様、お召し替えさせていただきます。」

 ドアがノックされ、侍女達が入室してきたことで、私の思考は中断される。


 リィズが接触してきた感じがしたけど……ま、いっか……。

 リィズの気配を感じたのは、召喚の間に居たとき……あれからかなり時間がたっていたので忘れていた。

 ま、リィズなら大丈夫でしょ、と思考を打ち切り、されるがままにドレスを着付けられていく。



「ほう、見違えたな。」

 私の姿を見た王様が、開口一番そう言った。

「お招きに預かり光栄ですわ。」

 一応の礼儀として挨拶をしておくが、先程の『強制契約(ギアス)』の件があるため、どうしても口調が冷たくなる。


 謁見の間ではなく、王家のプライベートサロンでのお茶会に招かれている所からして、相当気を使っているというのは分かるけど、だからと言ってすぐに印象が変わるわけでもない。


 私は指定された場所に座ると周りを見回す。

 目の前には王様が、その横に座っているのは王子様かな?

 王様に似て中々のイケメンだけど、苦労を知らない坊ちゃんって感じがするわ。


 王様の後ろには、さっきの魔術師と、剣を携えた騎士が立っている……たぶん護衛なんだろうけどあんまり強そうには見えないね。

 一通り見回して、何かあっても私だけで切り抜けられそうだという事がわかり安心する。


「……なのだが、どうだろうか?」

 おっと、色々考えていたら王様の話聞き逃しちゃったよ。

「えっと、ゴメンナサイ。聞いてなかったのでもう一回いいですか?」

 私がそう言うと、王子がむっとした表情をあらわにする。

「そ、そうか、ではもう一度説明しよう。」

 王様は少し顔を引きつらせていたが、何もなかったかのように同じ説明をしてくれる。


 この国はアイガス王国と言って、建国300年以上を誇る歴史ある由緒正しい国なんだって。

 で、最近、隣国のリズノワ王国と戦争状態に入ったらしいの。

 戦争の原因は些細な事みたいだけどね、要はアイガス王国にしてみれば、建国50年前後の新興国が急激に力をつけてきたのが気に食わないらしいのね。

 最初は新興国など相手にもならん、等と粋がっていたんだけど、実際に戦端を開いてみれば、相手が想定以上に強くて、これはマズい、という事で勇者の力を借りようと召喚の儀を行ったら、呼ばれたのが私なんだって。

 王様の話を簡単にまとめると、そんな感じなんだけど、負けそうだから助けて~って、なんか情けないものがあるよね?


「えっと、お話は分かりましたが、それと私とどういう関係が?ぶっちゃけ、私が力貸す理由が無いですよね?」

「黙っていれば好き勝手に言いおって……不敬が過ぎるだろう!」

 私の言葉に、なぜか王子がキレた。

「不敬とおっしゃいますが、私はこれでも王妃の立場にありますのよ?それを黙ってこんなところまで連れてきて、どっちが不敬なんだか……。」

 私はそこまで言って、ふと気づく。

 つい「王妃」って名乗っちゃったけど……よく考えたら、私まだ先輩と結婚してない。

 向こうでは、皆私達の事を『魔王様の嫁』と認識していたし、そのように振舞っていてくれたから、つい忘れがちだったけど……。

 これは帰ったら、ちょっとお話し合いをしなきゃいけないよね。


 そんな事を考えていたので、王子が掴みかかってくるのに気づかず反応が遅れる。


「マズっ!」

「アリオス、よせっ!」

「殿下っ!」

「ぐわっ!」

 王子を避けようとする私、王子を制止する声を上げる王様と護衛の騎士。

 だけど、その声は王子に届かずに、王子の手が私の腕を掴もうと伸びてきて……見えない障壁に弾かれる。

 障壁の反射はかなりの威力があり、王子は壁際まで吹き飛ばされる。

「あらら……よりによって、この御守りが反応しちゃったかぁ。」

 私は光り輝くブレスレットの魔石を見て溜息を吐く。

 これはセンパイが『虫よけ』と言って冗談で作ってくれたモノだ。

 効果はその名の通り、私に()()()が寄ってきた場合に、それを排除するというもの……あの王子サマは悪い虫認定されちゃったみたい。

 そして、もう一つの機能があって……。


『カナミ、大丈夫っすかっ!』

 頭の中にリィズの声が響く。

『にぃにがブチ切れそうになってるっす。』

 ……って、センパイも来てるの!?

 これはマズい事になったよ。


「あ、あのっ!取りあえず謝罪してもらえませんか?」

「何をっ!」

 王子が怒りの形相で起き上がり、こちらを睨んでくる。

「えっと、詳しく説明している暇はないんですっ!早く謝ってくださいっ!」

「なんだとっ!」

 しかし、私の言葉に王様までもが不快感を表す。

「今日でこの国の歴史に終止符を打ちたくなければ、早く謝ってっ!そうすれば後は私が……って、も遅いかぁ……。」

 

 ドッゴーンっと近くで大きな音が鳴り響き、部屋全体が揺れる。

「大変ですっ!何者かの攻撃により王宮が……ぐわっ!」

 兵士が伝令に来たが、言い終わらない内に爆風によって吹き飛ばされる。

「一体何事だっ!」

 兵士達が右往左往する中、扉の方から声が聞こえる。


「ちょっと遅れたが、迎えに来たぜ。」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「カナミはあの中で間違いないんだな?」

 俺は眼前の城を見上げながらリィズに訊ねる。

「相変わらず反応は薄いっすが、城の中にいる事は間違いないっす。」

「反応が薄いのは、この結界の所為か?」

 城の周りの魔力の流れを調べると、入念な結界が張ってあることが分かる。

「たぶん、そうっすね……どうやって中に入るっす?」

「そうだなぁ……正面から「入れてくれ」って言ってみるか?」

「そんなあからさまに怪しい人、入れてくれる訳ないっす。」

 リィズが呆れたように言う。

「だよなぁ……。いっその事、魔法でこの城吹き飛ばすか?」

「にぃにが言うと、冗談に聞こえないっすよ。」

 リィズが苦笑しながらそう言った時、ブレスレットの魔石が警告の光を放つ。


「チッ!」

「にぃに、どうしたっすか?」

「カナミの『虫よけ』が発動した。悠長な事をしている暇はない。」

 俺は白銀の剣ファリスを抜いて魔力を集める。

「ちょ、ちょっと待つっす……『カナミ、カナミ!大丈夫っすか?大変っす!』……ってカナミのばかぁ!」

 リィズがカナミと交神している間に、必要な魔力が充填される。

「いっけぇっ!『隕石群衝突(メテオ・ストライク)!』」

 空から巨大な隕石が降り注ぎ、王宮の入口を結界ごと押し潰す。

「リィズ、行くぞ!」

 すでに瓦礫の山と化した城壁を乗り越え、王宮の奥へ向かって駆けていく。

 ここまでくれば、俺にもカナミの気配が分かる。

 俺はカナミの下への最短距離で向かうべく、邪魔になる壁を吹き飛ばしていく。


「この先にカナミがいるな……。『炎の爆風(ブラストファイア)!』」

 最後の壁を吹き飛ばす。

 煙が晴れてくると、目前には見慣れないドレスを着たカナミの姿があった。

「お待たせ、カナミ。ちょっと遅れたが、迎えに来たぜ。」


 俺がそう言うと、カナミは嬉しそうな困ったような複雑な顔で、俺を出迎えてくれた。


レイフォードとの合流はすぐでした(^^

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