新たなる旅立ち
第二部をスタートしました。
一応第一部を読んでいなくても、楽しめるように考慮しています。
不定期更新になりますので、気長にお付き合い願えると幸いです。
「フム……これは……。」
レイフォードは周りを見回す。
気付いたらオーガの群れに取り囲まれていた。
「話は……通じないか。」
迫るオーガの一撃を、難なく躱すレイフォード。
「取りあえず、現状の確認が必要だとは思うが……ファー、いるか?」
(いるわよ……ってここどこよ?)
俺が呼びかけると小さな妖精が姿を現す。
寝ていたのか、小さな欠伸をもらしている。
「さぁな、俺にも分からん。」
(わからんって、大丈夫?)
「ファーがいるなら、問題はないだろ。」
(えっ、それって……。)
なぜかファーが顔を赤らめる。
「ケイオス!」
俺が呼びかけると、右手に禍々しい形状の漆黒の刃を持つ剣が顕れる。
その剣を横薙ぎに一振りすると、近くにいたオーガ達数体が、その場に崩れ落ちる。
「ファーがいるなら、問題無くケイオスも使えるからな。」
(ぶぅー、ソレって私が都合のいいオンナって事?)
「大事なパートナーって事だよ。」
膨れっ面の妖精を宥めながら、周囲を確認する。
先ほどの一撃で、殆どのオーガ達を倒したが、まだ数体残っている。
「剣に問題がなければ、次は魔法だよな……万物の根源たるマナよ……」
確認を含めて、普段は使わない詠唱をする。
「冷たく閉ざされし無数の刃となりて彼の者達を貫け……『凍り付く槍』」
力ある言葉により、事象が改編される。
何もなかった空間から無数の氷の槍が顕現し、オーガ達を貫く。
「さて、最後に大物が残った訳だが……。」
オーガ達に隠れて見えなかったソレと目が合う。
「ドラゴンゾンビか……面倒だな。」
ドラゴンゾンビは、亜竜や龍種の下位的存在である竜がアンデット化したもので、元がドラゴンなだけに、ブレスを始めとしたその戦闘力はずば抜けて高い。
弱点があるとすれば、竜の最大の特徴である『竜鱗』つまり鱗が、腐り落ちていて意味を成していないので、防御力が落ちている事位だ。
ただ、それも、驚異の再生能力のおかげで、弱点らしい弱点とは言えない。
「でもまぁ、再生される前に息の根を止めれば済む話なんだけどな。」
俺は迫り来るブレスをケイオスで薙ぎ払い、ドラゴンゾンビとの間合いを詰める。
ドラゴンゾンビがその巨体を振り、尻尾が俺に襲いかかってくる。
ジャンプしてソレをかわしながら、その背中にケイオスを突き立てる。
「万物の根元たるマナよ……浄化の炎となりて全ての汚れを燃やし尽くせ……『聖なる浄化の炎』!」
剣の柄を握りしめ、剣を媒介にして内部に魔法を叩き込む。
ドラゴンゾンビの内部から光と炎が溢れ出し、周囲一帯を巻き込んで燃え上がる。
魔法の影響か、遠くの方で何かが崩れ落ちる音も聞こえる。
聖なる炎がドラゴンゾンビの肉体を焼く……、ドラゴンゾンビの肉体は再生するが、その都度新しい組織を焼いていく。
その内、再生より炎が肉体を焼く方が早くなり、ドラゴンゾンビの身体は炎に包まれて崩れ落ちていく。
炎はしばらくの間燃え続け、周囲に転がっていたオーガ達諸共、全てを焼き尽くすと唐突に消える。
以前に戦ったドラゴンゾンビより弱くて助かった。
あの時は持っている魔力の殆どを費やしたからなぁ、と独りごちる。
あのころより俺自身も成長しているが、元の竜が弱かったのだとおもう。
(終わった?)
ドラゴンゾンビの身体が焼き尽くされたのを確認すると、俺はケイオスを虚空に還す。
それと同時に小妖精が姿を現し聞いてくる。
「取り敢えずはな。」
俺は肩の上にちょこんと座るファーに、そう答えると、改めて周囲を見回した。
洞窟っぽい雰囲気ではあるが周囲はかなり広く、また、天井も高い。
ここが洞窟内だと言うのなら、かなり広大な洞窟に違いない。
……が、そんな洞窟の存在は聞いたことがない。
少なくとも領内には存在していない。
「また飛ばされたか?」
『英知の書』
「…………反応なしか。」
場所ぐらいは分かるだろうと、知識の書に助けを求めて見るが反応しなかった。
多分封印されたのだろう。
まぁ、あまり多用していなかったから、使えなくても大した問題ではない。
「ファーがいて、ケイオスも使える。魔法も魔力も問題無い。英知の書は封印状態。……後……何かあったっけ?」
(道具は?)
「あ、そっか。」
ファーの言葉に、オレは無限収納を開いてみる。
「空っぽ……か。」
お金や食料、その他色々詰め込んでいたガラクタなど、一切が無かった。
「こんな事なら、あんな魔法使うんじゃなかったな。」
俺は改めて周りを見回す。
そこは綺麗に浄化されていて魔種の一つすら残っていなかった。
「身に着けている装備がそのままなのは助かったが……っと、そうだ。」
ピアス型の通信の魔術具の存在を思い出し、魔力を注いでみる。
…………。
……。
……。
反応は無い。
(ダメ?)
「あぁ、リィズとカナミにつないだときだけ、ちょっとおかしかったけど、後は全く一切の反応が無いよ。」
少し心配そうな声音のファーに、努めて明るく応えてみせる。
(リィズへの反応はあったのね?)
「いや、あったというか、何か魔力が阻害される感じがしただけで、反応そのものがあったわけじゃない。」
(それでも他の人とは違ったんでしょ?)
「あぁ。」
(じゃぁ、ちょっとやってみる。)
そう言って、ファーは微かな光を残してその場から消える。
「おい、ちょっと……って、行ったか。」
独り残された俺は、その場に座り込み、魔力の回復につとめる。
先程の戦闘でそれほど魔力を使用した感じはなかったが、現在なにが起きているかわからないこの状況下においては、出来る限り万全な状態にしておきたい。
(レイ、お待たせ。アリゼ姉様とコンタクト出来たわ。リィズは近くにいるわよ。)
「そうか、じゃぁすぐに合流しよう。道案内を頼む。」
(コッチよ。ついてきて。)
俺は、先をいくファーの後を追いかける。
ファーと一緒に、薄暗い洞窟を歩いていると、ふと出会った頃のことを思い出す。
(どうしたの?ニタニタしてキモイ。)
「キモい言うな。ミネラルドの事思い出していたんだよ。」
あの時も、今みたいに金も道具も何もなく、安っぽい、すぐ壊れそうな剣だけを持って洞窟内を歩いていた。
「まぁ、あの時と比べれば、装備が一級品なだけ遙かにマシだけどな。」
(そうなの?)
「あぁ、あの時持っていた剣は、5~6回戦えば壊れそうなぐらいの安物だったからな。」
(ふーん………あ、そこ曲がった先の広間よ。瓦礫に埋もれた所にリィズがいるわよ。)
ファーの言うとおり、曲がった先の広間は、地崩れが起きたのか、瓦礫の山になっている。
この中のどこかにリィズがいると言うことだが……。
「リィズは瓦礫の下に埋もれているんだな?」
(その通りだけど……何か?)
「いや、それならいい。」
俺は眼前の瓦礫に向かって右腕を突き出す。
「万物の根源たるマナよ、猛き風となりて吹き荒れよ……『真空烈波!』」
激しい風が瓦礫を巻き上げ、粉々に潰して吹き飛ばす。
風が通りすぎた後には、小さな瓦礫と、身を小さくして震えている少女の姿があった。
周りに静寂が戻ると、少女は顔を上げ、俺と目が合う。
「にぃにっ!」
少女……リィズは俺の存在を認めると抱きついてくる。
「怖かったっす。いきなり壁が崩れ落ちてきて、何とか隙間に身を潜めたのは良かったけど、身動きがな取れなくなって……。」
突然の事で心細かったのだろう、普段を勝ち気な性格が成りを潜め、俺と二人っきりの時にしか見せない、甘えたの性格が前面に出てきている。
「そうしたら、今度はいきなりブワーッと……って、にぃにどうしたっすか?」
……言えない、リィズが怖い目にあった原因の大半が俺のせいだって事は。
「んー、にぃに?」
探るような目つきで俺を見てくるリィズ。
思わず視線を外して横を向いてしまう。
「まさかと思うけど、にぃに、瓦礫を退けるのに『灼熱の大爆発』使った?」
リィズの冷たい声が響く。
「いや、『灼熱の大爆発』は被害が大きすぎるから、『真空烈波』を……。」
一応考えているんだよ、と言う意味合いを込めて伝えてみたけど………。
「同じだよっ!にぃにのバカッ!」
リィズの怒鳴り声が周りの空気を震わす。
「何考えてるのよっ!本当に怖かったんだからねっ!私がいること分かってるんだったらもう少し考えてよねっ!」
口調が素になっているあたり、本気で怒ってるっぽい。
「あー、その、何だ……悪かった。」
「にぃにのばかぁ……。」
リィズの腕に力が籠もる。
俺はそんなリィズを優しく抱き留めながら、その頭を優しく撫でる。
◇
「落ち着いたか?」
「ウン、もう大丈夫っすよ。」
リィズが笑顔でそう答える。
「じゃぁこの先の事考えないとな。」
「それなんっすけど、ここはどこで、何がどうなってっるっすか?」
「わからん……リィズはどこまで覚えてる?」
リィズの問いかけへの答えは持っていない。だから代わりに聞いてみる。
「私はランの所にいく途中だったっす。いきなり目眩がして気付いたらここにいて崩落に巻き込まれたっす。」
だから最初は転移の罠に引っかかったのだと思ったそうだ。
「危険なトラップはやめてって、言うつもりだったんすけどね。」
「その意見には俺も同意だな。」
「コレって、ヤッパリアレっすか?」
「確証はないが、多分そうだろうな。」
「はぁ、そうっすか……。」
俺達の間に沈黙が降りる。
「ところでで、にぃには何で私の居場所が分かったっすか?」
暫くして、リィズが口を開く。
「あぁ、それはファーが……。」
俺はリィズに、これまでのことを話す。
「成る程っす。つまりカナミも近くにいる可能性があるって事っすね。」
「あくまでも可能性だけどな。」
結論を急ぐリィズに、別の可能性もあることを示唆しておく。
「それは調べればわかることっすよ……少し待つっす。」
リィズはその場で瞑目する。
俺は邪魔しないように、また邪魔が入らない様にするため、あたりの気配を探る。
取り敢えず近くに敵意を持った気配は存在しない。
となると、次はこの洞窟を抜ける事を考えないとな。
「にぃに、わかったっす。」
取り留めのないことを考えていると、リィズが目を開けて口を開く。
「カナミはヤッパリ近くにいるっす。とは言っても、すぐ側って訳じゃないですが。」
それから……と、リィズは続ける。
「カナミは感じるっすけどソラの存在が気薄っす……。」
「同じ眷属のソラの存在が薄いとなると、ここはヤッパリ別世界か?」
「たぶんそうっす。この間の時と同じ感覚っすから。」
カナミに聞けばはっきりするとリィズは言う。
リィズとソラの主神にあたるカナミなら、もっと繋がりがハッキリとわかるらしい。
「そうなると、今回は俺とリィズ、カナミの3人が飛ばされたって事か。」
「そう言う事っぽいっす……。コレは帰ったらソラが拗ねるっす……にぃにも宥めるの手伝って欲しいっす。」
リィズは既に戻った後のことを心配している。
戻れなくなる、という心配は全くしていないようだった。
「そう言う事はカナミに任せるよ。……ところで、カナミの居場所や状況は分かるか?」
「お城みたいな場所と、大勢の兵士に取り囲まれているイメージ……それ以上のことは伝わってこないっす。」
カナミとリィズは主神と眷属の関係にあるため、魂の深いところで繋がっており、お互いの存在を感じることが出来る。
そして主神であるカナミは、眷属であるリィズに対して、一方的にイメージを送り意志を伝えることも可能ではあるが、リィズから意志を伝えることは出来ない。
眷属であるリィズに出来るのは、カナミからのイメージを受け取って、そこに込められた意志を読み解く事だけだった。
「ま、とりあえずそれだけわかればいいさ。」
俺達の当面の目標は、ここをでてカナミと合流する事でいいだろう。
それ以外のことは合流してから考えればいい。
「ファー、エアリーゼ、おまえ等はこの洞窟を抜けたら、出来るだけ姿を現さないようにな?。」
俺は頭上でイチャついている、精霊姉妹に声をかける。
(なんでさ?)
エアリーゼが聞いてくる。
「どうやら俺達は別世界に飛ばされたらしいからな。この世界に精霊や妖精が存在するかどうかも分からないし、もし存在していたとしても、どういう扱いを受けているか分からないからな。そのあたりがハッキリするまでは、無用なトラブルは起こしたくない。」
(私達がいなくても無用なトラブルを起こすくせに)
ファーが呆れた声を上げるが、それはそれ、だ。
「じゃぁ、ドラゴンも倒したことだし、囚われのお姫様を救いに行きますか。」
(ゾンビだったけどね)
「カナミがお姫様?プークスっすよ。」
(お姫様はリィズちゃん一択よねぇ)
……世界が違っても、俺の周りは騒がしい。
その事に安堵を覚えながら、洞窟脱出のために歩き出すのだった。




