※SS プロローグの為の閑話
カチャカチャカチャ……真っ白な部屋の中、キーボードを叩く音だけが聞こえる。
「あー、もう、やだっ!」
一人の女性が、今まで触っていたキーボードを思いっきりたたきつけて叫ぶ。
「何なのよっ、こいつらは全くっ!」
「ミルファ、備品は大事に扱ってね。」
「ハイハイ、一度休憩しましょ。」
「ネルフィー、ラン……そうだね、お茶にしようか。」
「それでどんな感じなの?」
ネルフィーと呼ばれた女性が、ミルファに訊ねる。
「どうもこうも……一言でいえば失敗ね。やっぱり、どの世界でも日本からの転移が一番影響力が高いみたい。」
「そうなんだぁ、でも失敗ってどんな風に?」
「ウン、まずアメリカから数人送り込んでみたんだけど、皆王家に反逆してね、殆どが処刑されて終わり。一人だけ共和国を立ち上げたのもいたけど、そこは目下、全世界を敵に回して戦争中。」
「あぁー、それはダメですね。他には?」
「ヨーロッパ各地から送ったのは、定着率は高いというか高すぎて……。」
「どういう事?」
ランと呼ばれた女性が興味津々と言う感じで聞いてくる。
「埋もれちゃうのよ。ほとんどの者は、その国の貴族として他の者と変わらない暮らしをしているだけで……変わり種と言えば、次々と女の子を毒牙にかけて奴隷ハーレムを作っていたり、王女と恋仲になって次期王配を狙っていたりする者もいるけど、影響力と言う点で見れば全く関係なし。」
「あちゃぁ……。」
ランが頭を抱える。
「アジア圏はどうなの?日本の成功率が高いのなら、それなりの成果はあるんじゃなくて?」
「全くダメ……日本も含めて自由気ままに動き過ぎて埋もれているよ。ただ、なぜか日本からの転移者は埋もれきれずに、色々影響を与えているのが不思議なのよ。」
「じゃぁ、もう日本だけに絞ればいいんじゃないの?」
ランがそういうが、ミルファは浮かない顔をしている。
「私もそう思って、先日から絞ってみたんだけどね、今度は影響力が強すぎてコントロール不能になっちゃって。」
これを見て、とミルファはネルフィーとランに先程打ち出したデータを見せる。
「えっと、サンプルA……ケモミミ王国を設立後、亜人戦争に巻き込まれ死亡。現在、亜人と人間の継続中。予測結末は人間種減少による文明退化。」
「それはまだマシな方、一応存続の可能性があるからね。次のはもっと酷いよ。」
「うーん、サンプルB……人類メイド化計画なるものを発動と同時にイケメン粛清運動が起きる。予測結末は種の保存が維持できなくなり人類滅亡……何、コレ?バッカじゃないの?」
ネルフィーとランは次々と資料に目を通していく……世界征服計画中、魔族との全面対決により泥沼化した戦争、ハーレム王国を建国し、様々な伝説を残す、ネコミミ愛護団体を設立した結果、ネコミミを持つ亜人による支配体制の確立等々……。
「これは何と言いますか……。」
「どれだけケモミミ好きなの?日本人ってのは……。」
ネルフィーもランも資料を見て頭を抱えている。
「それでね、何とかできないかと試行錯誤した結果、がこっちなんだけど……。」
ミルファが別の資料を渡す。
「成程ね、複数の転移者をニアミスさせるのね。確かに互いに影響し合っていい結果を出しているわね。」
「ウン、でもこっちの資料は却って悪くなってるよ。ネコミミVSイヌミミ戦争で人類滅びかけてるよ?」
ネルフィーの言葉に対抗するようにランが別の資料の事を報告する。
「あー、その資料ちょっと古いわ。世界は更にウサミミ派とキツネミミ派、タヌキミミ派が出てきて収集つかなくなってるから……まぁ、でもそのおかげで滅びの道は回避できそうなんだけど。」
「……頭痛いわ。」
「複数のニアミスは影響力が大きい分コントロールが難しいって事ね。」
「そうなの。で、これが一番新しいデータ。」
ネルフィーはミルファの差し出すデータに目を通す。
ランはもういいというように頭を振っている。
「これは?なかなかいいデータが出てるわね、……成程、アドバイザーね。」
「うん、今の所それが上手くいく感じがしてる……ただアドバイザーの設定を間違えると、特記にある様に自滅しちゃうけど。」
ミルファが疲れたように言う。
「そうね……ちょっと試してみる価値はあるわね。……ラン、確かあなたの所にエルフィーから引き継いだサンプルがあったわよね?」
「あ、うん、とりあえず大きな変化はないから放置してあるけど。」
「それこっちで預かるわ。」
「ネルフィー、何か思いついたの?」
ミルファが聞いてくる。
「ウン、うまくいくかどうかわからないけどね、こっちの成功例を一時的に移動してかき混ぜるのも面白いんじゃないかと思って……。」
「でも、下手したらその世界が滅ぶよ?」
ネルフィーの言葉にミルファが否定的な意見を出す。
「そうかもしれないけどね、どちらにしても停滞してしまった世界は、ゆっくりと滅びを迎えるだけだから、それが早まるだけでしょ?」
「それはそうなんだけど……。」
ネルフィーが言ってることは正しいとわかっていながらも、素直に頷けないミルファ。
「ミルファ、あなたの気持ちも分からないでもないけど、私達の役目は一つでも多くの世界を救う事よ。どうせ滅びゆく世界なら、せめて他の世界の為に役立ってもらわないと。」
「ウン、分かってるけど……。」
納得できないという顔をしているミルファを見てネルフィーが告げる。
「はぁ、あなたは感情移入し過ぎよ。それでは女神は務まらないわよ……これはこっちで引き継ぐから、少し休みなさいな。」
「……うん、そうする。」
(あの子は感受性が豊か過ぎるのよね。どこかで割り切るのもこの仕事を続けていくコツよ。)
ティーカップを片付けて部屋から出ていくミルファを見ながらネルフィーは心の中でそう呟く。
「さて、ミルファの分も頑張らないとね……ラン、後片付けおい願いね。」
ネルフィーは、まだテーブルに突っ伏しているランに声をかけると自分の席に戻っていく。
席に着くと、目的のデータを呼び出し、様々なデータを書き加えていく。
「文句言われそうだけどね、……もっと、働いてもらうわよ、レイフォードさん。」
ネルフィーはHMDを装着しながらそう呟いた……。




