※SS 魔王城のお正月
「もーいくつねーるーとぉ……。」
「カナミ、なんですか、その呪文は?」
私が魔王城の庭を通りがかると、妙な節のついた呪文を唱えているカナミに出くわした。
何か見慣れない植物を手にしているので、生育促進の呪文か何かなのかな?
「あ、ミリィ。呪文じゃないよ。お正月を待ちわびる歌だよ。」
「おしょうがつ?」
『オショウガツ』とは何でしょう?
また、私の知らないレイさんやカナミの世界の何かでしょうか?
「あ、そっか、こっちにはそう言う概念ないんだっけ。」
カナミが『オショウガツ』について説明してくれます。
なんでも1年の始まりを祝うものだそうだけど、よくわかりません。
私達のこの世界では、暖かくて草木が芽吹く『萌の節』、雨季と乾季が交互に起きる『耐忍の節』、実がなり動植物が肥える『恵みの節』、そして寒気がやってくる『籠りの節』が順番に巡ってくるのですが、カナミ達の世界では、その節が1巡することを『1年』と言うのだそうです。
そして『オショウガツ』と言うのはその『1年』を祝うお祭りとのことでした。
私達も萌の節と恵みの節には女神様に感謝を捧げるお祭りがあるので、それと似たようなものと、私は納得します。
ただ、その『オショウガツ』というのは、私達の世界で言う『籠りの節』の途中にあるらしく、なぜその中途半端なところが始まりになるのか、よくわからないですね。
……普通なら、節目を始まりとするんじゃないのですか?と聞いてみたら、「タイインレキ」がどうとか「タイヨウレキ」がこうとか、「ニジュウシセッキ」が……とか言い出して余計混乱してしまいました。
……まぁ、あの様子では、カナミ自身も分かってないんだと思うのです。
「それで、その『オショウガツ』がどうしたんすか?またパーティでもやるんすか?」
つい先日「くりすます」とかいうパーティをやったばかりなので、しばらくは勘弁してほしいというのが私の本音なのですが。
ただ、カナミがこれだけ浮かれているって事は、レイさんも楽しみにしているのかもしれないですね。
レイさんの望みなら全力で叶えるべく動く覚悟があります。
「あー、うん、パーティはやらないよ……先日やったばっかりだしね。」
カナミのトーンが少し落ちる。
本当はパーティをやりたかったのでしょうか?
「何か希望があるなら手伝いますよ。」
落ち込んでいるカナミの姿を見るのは、なんとなく嫌です……結局、私はカナミの笑顔が好きなんですね。
だから、ついそう声をかけてしまいました。
「ホント?じゃぁねぇ、お料理手伝ってくれるかな?」
カナミが言うには『オショウガツ』と言うのは、その時しか食べない特別な料理を用意しておいて、家族でのんびりと過ごすのだそうです。
のんびりできるのはいいですね……最近レイさんも忙しそうであまり構ってもらってないから思いっきり甘えられそうです。
「特別な料理」と言うのも興味があります。
私はカナミに協力を約束しました。
◇
ドォーン!
私が手にした得物を振り下ろすと、目の前の石器が砕け散る。
「あーもう!力入れ過ぎだって言ってるじゃない!。」
今日何度目かのカナミの怒声が響く。
そんなこと言われても、この手にした木の棒で石の中の麦を潰せばいいんですよね?
石器は壊れたけど、麦はしっかり潰れている。
何が問題なのでしょうか?
「だからぁ、「餅つき」と言うのはこう、順番について行って……はぁ……もういいよぉ。」
カナミががっくりと項垂れてしまいました。
うーん、カナミの説明も悪いと思うんですけどねぇ。
「おねぇちゃん、何やってるの?」
「ミリィ、カナミ様はどうなされたんですか?」
項垂れるカナミをどう宥めようかと考えていると、背後から声がかけられます。
「あ、ソラちゃんにセイラちゃん。実はね……。」
私は二人にカナミから聞いた『オショウガツ』の準備について話します。
「あぁ、お餅ですか。じゃぁ私に任せてください、カナミ様。」
セイラちゃんがカナミに優しく声をかけています。
セイラちゃんはオーガ族を束ねる鬼人の「姫巫女」です。
なんでもオーガ族には、カナミの言う『オショウガツ』に近い風習が残っているらしく、恵みの節の終わりにお餅を準備するのだそうです。
「だったら、「餅つき」も出来る?」
カナミがセイラちゃんに聞いている目が期待に輝いています。
よっぽど「餅つき」がしたかったのですね、役に立てなくてごめんなさいね。
「任せておいてください。折角だからこの庭園で大々的にやりましょうか?」
「ホント!?」
セイラちゃんの言葉に「やったー!」と喜ぶカナミの姿があまりにも可愛らしくて、つい笑ってしまいます。
「じゃぁ「餅つき」はセイラちゃんに任せて、私は森の恵みを集めてきますね。」
私はそう言って、その場から離れます。
カナミの言う「特別な料理」に使う材料は、この時期では手に入らないものもありましたが、私が精霊達にお願いすれば、少しなら何とかなるでしょう。
本当なら、こんな私的な事に精霊達を使役するのは良くないのかもしれませんが、リィズについているエアリーゼが張り切っていたから、いいとしましょう。
◇
「せいっ!」
「はっ!」
「よっとっ!」
「ほいさっ!」
私がお城に戻って来ると、庭園では何やらリズミカルな掛け声が溢れていました。
「これは……?」
「あ、ミリィ戻ったの。……これが餅つきだよ。」
楽しそうなカナミの声につられて、私が庭園を見回すと、オーガ達が私が持っていた木の棒と同じようなもので石器を叩いています。
正確には石器の中の白いモノを、でしょうか?
一人のオーガが掛け声とともに木の棒を振り下ろします。
もう一人のオーガが、木の棒が離れた瞬間に掛け声を上げて白いモノをひっくり返しています。
ひっくり返した後、木の棒が振り下ろされ、ひっくり返して……の繰り返しが掛け声とともにリズミカルに続いていきます。
それが庭園一杯を使って沢山のオーガ達が繰り広げている様は、とても楽しそうなモノでした。
「こうするものだったのですね。」
「ウン、オーガ達の間で『餅つき』の風習が残っていてよかったよ。あとね『おせち料理』もオーガ達の風習にあるんだって。」
嬉しそうに話すカナミを見ていると、私まで嬉しくなります。
やっぱりカナミには笑顔が似合いますね。
「あ、ミリィ、カナミ様から聞きましたわ。節句料理を作るのですって?」
セイラちゃんが声をかけてきました。
「カナミは『オセチリョウリ』って言ってましたが……、これが材料ですよ。」
「へぇー……ちょっと知らない物も混じってるけど、何とかなりそうですね。じゃぁ、向こうで作りましょうか。」
カナミは餅つきが気に入っているらしく、その場から動かなかったので、私とセイラちゃんで城の厨房に移動して『オセチリョウリ』に挑戦することになりました。
◇
「出来たー!これでお正月が迎えられるよ。」
カナミは目の前の『お餅』と『オセチリョウリ』を見てご満悦です。
「センパイも明日帰ってくるって言ってたから、間に合ってよかったぁ!」
「それは良かったですね……で、これは何ですか?」
私はずっと気になっていたことをカナミに聞いてみます。
カナミは四角いテーブルに布をかけた物の中に足を入れて床に直接座っています。
「これは『コタツ』だよ。急いで作ってもらったんだぁ。えへへ……。」
この部屋は入った事がありませんでしたが、変わった作りになっています。
なんでも『ワシツ』とかいう作りだそうで、裸足で入らなければいけないそうです。
セイラちゃんの話では、鬼人の村の作りに近いそうですが、それでも違いはあるそうで興味深げに眺めています。
「そんなところに立ってないで入ったら?暖かいよ。」
カナミはそう言って『コタツ』に入るように勧めますが……。
「どう?暖かいよね?」
コタツに入った私に感想を聞いてきますが、どう答えたらいいんでしょうか。
「カナミ、確かに暖かいのです……が、そもそも魔王城は空調・温度調節は完全コントロールされているはずなのです。それなのに、なぜ部屋を寒くして、このようなテーブルで暖まっているのでしょうか?」
「それは……『お約束』?」
何なんでしょうね?
カナミの行動は時々不可解です。
でも、カナミの幸せそうな顔を見ていると「ま、いっか」という気分になってきます。
レイさんの口癖はきっとこのカナミに起因しているに違いありませんね。
「センパイ早く帰ってこないかなぁ。」
「そうですね。」
カナミのつぶやきに私も同意します。
レイさんが帰って来たらみんなで『オショウガツ』をしましょう。
私も今から楽しみです。
あけましておめでとうございます。
クリスマスに続いてお正月のSSです。
楽しんでいただけたら幸いです。




