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いつか魔王になろう!  作者: Red/春日玲音
第一章 魔王になろう

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魔王の娘

 「姫様、お客様みたいです。」

 側使えの侍女が告げる。

 「ウム、謁見の間まで、そのまま通すがよい。」

 私はそう告げると、術の行使に入る。

 ここに人が訊ねてくるのは何日……いや、何百年?振りだろうか……時間というものが分からない。

 とにかく久しぶり……今度こそ、あの方達でありますように……

 「見える、見えるぞ……全てを見通すエルネミアが、場内を見通す!」

 やがて、脳裏に城の中全体がボーっと浮かび上がる……。

 「さて、来訪者は……と。」

 城の入り口辺りに意識を集中する……見えた。

 「男の人1人に女の人が……6人か……この前より減ってる……でも最初と同じ構成ね。」

 私は、ようやくこの時が来たかと、安堵する。

 でも、まだ「そうなる」と決まったわけじゃないから、気を引き締めないとね。

 まずは着替えかな?出迎えるに相応しい格好をしないとね。

 私は心が弾むのを抑えきれなかった……何と言っても、長く待った「解放の時」なのだから。


 数日前……あるいは数年前に、私の中に力が宿った。

 そして理解した……お父様が亡くなったのだと。

 私の中の「力」はお父様の力……真なる魔王の力だ。

 お父様は常々言っていた。

 「私が死ぬとき、お前に真なる魔王の力が宿るだろう。その先は……好きに生きなさい。願わくば幸せを感じることが出来るように……。」

 

 魔王の力は得る時に移譲条件を設定できる。

 条件を設定できるのはこの時だけ。

 条件を設定しない場合、他者に殺されると力が無条件に移ることになるので、必ず設定しなさいとお父様は言っていた。

 設定しておいて、移譲する前に他者に殺された場合、魔王の力は散り散りになって世界へ飛び散ることになるから、下手な相手に渡る可能性は少なくなるんだって。

 よくわからないけど、私は力を受け継いだ時、お父様の勧めに従って移譲条件を設定することにした。

 でも、条件ってどうしよう?

 ……どうせ渡すなら、私を守ってくれる人、私を愛してくれる人がいいな。

 だから私が設定した条件は……。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 俺達は城の扉を開いて中へと入る。

 眼前には大広間……そして奥へと続く通路がある。

 「はぁ……凄いねぇ。」

 「あぁ、ただ誰も居ないってのがな……。」

 カナミがあまりにもの広さに、感嘆の声を上げるが、俺は別の事が気にかかっていた。

 「闇の世界っすから、見えないだけじゃないっすか?」

 リィズはそう言うが、この扉をくぐってから何とも言えない感じが纏わりついて離れない。

 さっきとか、気配とも違う、なんとも言えないモノ……正体が分からないだけに気持ち悪い。


 「とりあえず先へ進みましょうか。」

 「そうだな。」

 ミリィの言葉に頷き、俺達は先へ進む。

 「この通路長いっすね、しかも、グネグネ曲がってるし。」

 「あぁ、もうすぐ広いところに出るよ……ほら。」

 角を曲がってすぐに広間がある。


 「ホントっす、にぃに知ってたんすか?」

 リィズが驚くが、知ってたわけではない。

 「いや、普通に構造を考えたらこうなるってだけで……。」

 俺はリィズに入口からここまでの構造について説明をする。

 「入ってすぐ大広間だっただろ?」

 「そうっすね、広くてびっくりしたっす。」

 「この城に入るには、あの入り口を使うしかない。しかし、入り口は狭くできている。これがどういうことかというと……。」

 

 狭い入り口からはどうしても少人数で順番に入らなければならない。

 逆に広い広間には大勢の人を詰め込むことが出来る。

 つまり、敵が攻めてきた場合、どれだけの大群でも、入り口付近は少人数になるため、大勢で待ち構えて順番に倒すことが出来る。

 同じ理由で、広間の後の通路が狭いのも大人数を一度に通らせないようにするため、曲がりくねっているのは機動力を殺すため、装飾が多いのは奇襲をする為、そして通路の最後が広間なのは多勢で迎え撃つため。


 「成程っす、守備を考えて作られているんすね。」

 「でも、魔王城の作りは違いますよね?」

 疑問に思ったのか、ミリィが聞いてくる。

 「魔王城は、俺がネタを仕込んでいるから、そのネタを最大限に生かす作りになってるんだよ。」

 紐を引っ張ると落ちてくる金盥とか……。

 実際の所、魔王城の場合は攻め込まれることを想定してないので、作りとしては独特になっているのは確かだ。


 「じゃぁ、この先が謁見の間って事ですね。」

 「あぁ、そうだな。さっきまで感じなかった気配が、大きく感じるようになった。たぶん、向こうにいるのが魔王の娘だろう。」

 俺達は互いに顔を見合わせ、頷きあう。

 「じゃぁ、開けるぞ。」

 俺はゆっくりと扉を開き、中へと入る。

 「ウハハハ……よくぞ参られた客人たちよ。近くまで来て顔を見せるがよいぞ。」

 謁見の間の最奥の玉座に座っていた人物から声がかかった。

 


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 そわそわ……そわそわ……そわそわ……。

 「姫様、落ち着かれたらいかがですか?」

 傍付きの侍女……名前が思い出せない……こんな娘いたかな?……が声をかけてくる。

 「うむ、しかしのぅ……。」

 わかってはいるの。

 威厳たっぷりに出迎えないといけないのも分かる。

 でも、でも、待ちに待った「解放者」なのよ。

 あー早く来てよー!

 「客人はどのあたりまで来ておるのじゃ?」

 「そうですね、そろそろ扉の前の広間に辿り着く頃ですわ。」

 「であるか。」

 私は侍女の言葉を聞いて、大きく息を吸い込み、心を落ち着かせる。

 ウン、大丈夫、夢の内容も反芻した。

 敵対せず、友好的に……対応は間違えない。

 

 ギィーッと、扉が開く音がする。

 来たわね。

 人が中に入ってくる……遠くてよく見えないけど、確かにあの人達だ。

 やっと、やっと来てくれた。

 だから私は声をかける……積年の想いを込めて……。


 「よくぞ参られた客人たちよ!……。」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 …………。

 …………。

 …………。

 「なんでこうなったのかなぁ?」

 私は今、人には言えないような恥ずかしい格好で、あの方の取り巻きの女性たちに囲まれている。

 「自分の胸に聞きなさいよ。」

 巫女装束の女が言ってくる。

 「妾は、今回は残念女とも、ちっぱいとも、ヘタレ女とも、淋しがり屋のチビとも言って……ひゃんっ!」

 私の言葉が終わらないうちに、女達からの圧力が増す。

 「今、なんて言ったのかなぁ?」

 「自分の立場がまだわかってない様っすね?」

 あれ?やっちゃった?

 女達は笑ってるんだけど……怖いよぉ。


 「い、いや、もう許して……あんっ、ダメぇ……もう嫌なのぉ……。」

 再び始まる女達からの責めに、私はあえなく白旗を上げる……が、女達からの責めが緩むことがなかった。


 「もぅ、いやぁ……許して……。」

 もう、何度目になるか分からない、私の懇願。

 「自分の立場分かったっすか?」

 「はい、わかりましたぁ……ぐすん。」

 もう、私の心は折れ尽くしたわ……。

 「分かればいいの。ゴメンね、怖かった?」

 私の身体を優しく包み込む。

 あぁ、安らぐ……。

 「うん……怖いのいやぁ……。」

 私は彼女の胸に顔を埋めながら呟く。

 「うんうん、大丈夫よ。あなたが自分の立場をわきまえていれば、私達がついているからね。」

 よしよし、と頭を撫でてくれる……ウン、もうどうでもいいや……。


 「はぁ、ミリィの手管……怖いわー。」

 「完全に堕ちたっすね。」

 「成程、ああすればいいのですね。」


 他の人たちが何か言ってるけど、何でもいいや。今はこの柔らかさに包まれて……。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 「お、やっと戻ってきたか。」

 先ほど、カナミたちが「ちょっとお話してくる」と魔王の娘を連れて行ってから大分経つ。

 その間、俺はここで侍女さんの入れてくれたお茶を飲みながら待ってたんだが……。

 「おい、大丈夫か?」

 妙にしおらしくなった魔王の娘が、ミリィに抱きかかえられてやってくる。

 「あはは……ちょっとやり過ぎちゃったみたいな?」

 カナミが言うけど……。

 魔王の娘はミリィべったりで離れようとしない。

 「えっと、話を聞かせてもらえるかな?」

 俺が言うと魔王の娘はミリィ達の顔を見る。

 かなり怯えているようだが……本当に、何したんだよ。

 「いいですよ、本当の事を全部話してね。」

 ミリィに言われ、ようやく俺の方を向いて話しだす魔王の娘。


 「わ、私は……妾はエルネミアと申す。先日、我が父より、力を継承した新しい「真の魔王」じゃ。」

 魔王の娘……エルネミアの話をまとめると、彼女には元々「見通す力」が備わっており、場所や、人の表層意識、それらを巡る環境など、あらゆるものを見通すことが出来るらしい。

 そして、ある日、魔王の力を継承することによって、その能力もパワーアップし、未来の出来事を夢として捉えることが出来るようになったとか。

 ただ、未来は確定していないため、必ずしもその夢の通りになるわけではないのだが、それでも凄い能力だと思う。

 

 俺達が来ることも夢で何度か見たらしいが、最初の夢の時にかなり怖い目にあったらしく、その後何度か見た夢の中では対応を変えて、今回に臨んだらしい。

 結局怖い目にあった、とカナミたちにちらっと視線を向けて言っているが……何があったかは聞かないでいたほうがよさそうだ。


 他にも、この世界の成り立ちや、あり方、魔法を使うにはマナではなく瘴気を利用したほうが効率が良いなどの注意点を教えてくれた。


 「それで、肝心の魔王の力の移譲についてなんだが?」

 「ウム、妾をこの世界より連れ出してくれるのならば力を渡そう。」

 彼女は古の魔王との契約……勇者が魔王と取引した「世界の半分」を得る……によりこの世界に縛り付けられている。

 先代の魔王は、娘であるエルネミアに魔王の力を譲ることを条件に契約ごと移譲することによって、外の世界に出ることが可能になった。

 一見自分の娘を生贄にしてと思うが……俺も最初そう思った……実は、この闇の世界は一種の結界であり、この世界に縛られている限り、何者もエルネミアを気付つけることも害することも出来ない。


 ……まぁ、あの子たちは傷つけも、害することもせずに心を折っちゃったみたいだけど。


 とにかく、娘を守りたいという親心故の手段だったと、魔王は言っていた。

 まぁ、俺に任せた、というのは、今後エルネミアを守ることも含めてって事なんだろうな。

 

 「それで、移譲の方法というのが……。」

 「ウム、先程も申した通り妾と……。」

 ……やっぱり、聞き間違いじゃなかったんだな。

 「ねぇ、エルちゃん。今更なんだけど、なんでそんな条件にしたのよ?」

 カナミがエルネミアに聞く。

 「だって……どうせなら、私を愛してくれる人にあげたいモン……。」

 真っ赤になって答えるエルネミア。

 カナミたちは、それを聞いて複雑な表情になる。

 「まぁ……。」

 「仕方ない……。」

 「……っすね。」

 「あらあら。」

 「ぶぅー……。」

 

 彼女たちの表情を見て、これは後で機嫌を取るのが大変だなぁと、まるで他人事のように思うのだった。


 「とりあえずはここから出て、魔王城に帰ってからな。」

 俺は問題を後回しにすることにして、まずは彼女を縛る古の契約の解除をすることにした。


 エルネミアを立たせ、彼女を中心に魔法陣を描いていく。

 基本は破邪の六芒星ヘキサグラム

 ここではマナの絶対量が少ない為、ありったけの魔晶石を核に使用する。

 魔法陣を描き終わると、みんなには下がってもらい、俺はエルネミアの傍へ行く。

 彼女を後ろから包み込むように抱きしめる。

 腕の中で、ビクッと震えるエルネミア。

 「いいから、力を抜いて、……そう、俺の腕を取って、そこから魔力を流してみて……。」

 俺はエルネミアに指示をする。


 古の契約を解呪するには、契約内容を詳細に知る必要があり、彼女の魔力からそれを読み取るために、こうして密着している……だから決して、やましい気持ちとかではないよ。

 俺は周りから注がれる彼女たちの視線に対して、そんな言い訳を込めた視線で訴えてみる……が、伝わってないみたいだ。

 それどころか、抱きしめられて上気した顔をしているエルネミアの様子を見て、余計に誤解をしている気もする。

 何故か、周りの温度が下がっていくような気がする。

 

 「今から、魔力流すから。」

 俺はそう伝えると、ゆっくりと、彼女の中を循環するように魔力を流していく。

 「あふぅ……。」

 エルネミアの口から吐息が漏れる。

 俺の腕の中にすっぽりと納まって身を預けてくる彼女……そんな様子が、ちょっと可愛いかも?と思った瞬間、ゾッとさらに気温が下がる感覚がした。

 ……ウン、今は解呪に集中しよう。


 俺の魔力がエルネミアの体内を巡る……その途中引っ掛かりのようなものを感じた。

 「見つけた。」

 ……しかし、かなり強力っぽいな。

 「ファー、頼む。」

 (りょーかい。)

 ファーが俺の中に入ってくる感じがして、身体の奥底から力が湧いてくる。

 「来い!ケイオス!」 

 エルネミアを離して少し距離を取り、ケイオスを呼び出す。

 

 「ハァッ!……封印破邪!!」

 

 俺はエルネミアに向かってケイオスを振り下ろす。

 キィーンッ!

 遠くで何かがはじかれる音が聞こえたような気がした。

 エルネミアは、何が起きたか分からない、という表情のまま固まっている。

 もちろんその体には傷一つついていない。

 エルネミアの中で彼女を縛っている契約という鎖をケイオスで断ち切っただけなのだから、当たり前だ。

 

 「もう、大丈夫だ。」

 俺はケイオスを納めると彼女に声をかける。

 「あ、えっ、あれ?……。」

 エルネミアは、まだ混乱しているようだ。

 

 魔法陣の光が失せる頃には、エルネミアも落ち着きを取り戻す。

 「これで、私を……妾を縛る結界は解けたのじゃな。」

 「ぷっ。」

 「な、何がおかしいのじゃ!」

 顔を真っ赤にして怒るエルネミア。

 「いや、ムリして威厳を取り繕うとしなくても……。」

 「ムキィーッ!妾は偉いのじゃ!」

 「ハイハイ。」

 一生懸命なところが可愛いと思える。

 こんな子がずっと闇に捕われていたなんて……解放してあげたいという、魔王の気持が少しわかる気がした。

 解呪に魔力の大半を持ってかれたこともあり、また、エルネミアとのほのぼのとした空気にあてられてたこともあり……そう、俺はこの時油断していたのだ。

 ここには敵意が存在しないと……何故かそう思っていた。


 「侵入者です!……数が多いです!!」

 突然、侍女が叫ぶ。

 俺達は、揃って入り口を見るがそこにはもちろん誰も居ない。


 「お城の外です、ここの入り口を目指してきます。」

 俺達にはわからない何かで、城の状況をモニターしているみたいだ。

 「えっ!なんで……あれは……ドラゴン!?」

 

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