誰がために…… -前編ー
「ドラゴンとな?」
侍女の言葉にランが反応する。
「フム……成程のぅ……ココは我が出る所じゃな。」
そう言ってランは高く飛び上がり、一瞬で姿を消す……って、ここ室内だぞ?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
我が、城の上空にてドラゴンの姿に戻ると、ほどなくして奴が現れた。
全身漆黒に覆われた闇の古龍。
「ヘイローか?何故お主がここに居る。」
「おいおい、それはこっちのセリフだぜ。なぜランがここに居るんだ?ここで起きるのは魔族同士の小競り合いじゃないのか?」
「我は、お主のような者が下手な手を出さぬよう牽制する為にここに来たのじゃが……。」
「ハン、考えることは一緒ってか。俺も同じ様なモンだ。エドの奴から、相手側に龍族がいるって聞いてよぉ、掟を知らぬハグレなら責任もって処分しないといけないからな。それが、ランだったとは……これはエドの奴に一杯食わされたか。」
困ったもんだぜ、とブツブツ言っているヘイロー。
相変わらずじゃ。
「お主、そのエドとやらにかなり入れ込んでいるようじゃが……わかっておろうな?」
「ハン、それこそこっちのセリフだぜ。あのガキにずいぶんご執心と聞いてるぜ。」
ヘイローが切り返してくるが問題ない。
「我は規約の範囲内でしか手は出しておらぬからな……まぁ、人族の一生分の時間ぐらい付き合うのも座興じゃと思うておったのじゃが……。」
「予定が狂ったってか?あのガキ、俺達の予想外の事を色々やってくれるからなぁ。」
「まぁ、それでも多少伸びたぐらいで、誤差の範囲じゃがの。」
「そうだな、俺もエドの一生ぐらいは付き合ってやるつもりだしな。」
そう言って遠くを見るヘイロー。
我ら龍族にとって、魔族や魔王程度の一生の時間など、ささやかな時間でしかない。
ならば、暇つぶしに付き合ってやるのもやぶさかではない。
「まぁ、人間や魔族たちは面白れぇからな。」
「そうじゃな、此度の奴らは、何を見せてくれるかのぅ。」
我はヘイローと共に城の中を眺める。
城の中ではすでに戦闘が始まっているらしい。
「まぁ、俺達は見守るだけさ……『プロジェクト』に支障が出ないようにな。」
「そうじゃのう。」
我はヘイローの言葉に頷く。
我らは監視者……人族や魔族に必要以上の干渉はしない。
「それでも、何とか切り抜けて欲しいと思うのじゃよ。」
我は、ヘイローに聞こえないように小さくつぶやく。
自分で思っている以上にレイフォード達との暮らしが気に入っていたようだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺は、ランが消えた上空を見上げていた。
突然の事で呆気にとられていたのだが、これがいけなかった。
「来ます!」
侍女の声が響く。
俺は思わずエルネミアから離れ、そっちの方へ意識を向ける。
その隙をついて虚空から闇の手が出現し、エルネミアを捕まえる。
「フハハハ、よく結界を解いてくれた、礼を言うぞ!」
「いやっ、放して!」
エルネミアは必死にもがくが逃れることが出来ないようだ。
「エルを放せ!」
俺は闇の手に斬りかかるが、いつの間にか入ってきた魔物達に邪魔される。
「クッ、邪魔するな!」
俺は魔物達を斬り裂くが、後から後から壁になるように、俺とエルネミアの間に立ち塞がる。
「ふっ、そ奴らと遊んでいるがよい。」
そう言い捨てて、闇の手はエルネミアを抱えて奥の間へと移動していく。
「姫様!」
それを見た侍女が後を追っていく……一人じゃ危ない。
俺も追いかけたいが、この目の前の奴らが邪魔だ。
バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!
銃声が鳴り響き、俺の前にいた魔物達が燃え上がる。
「おにぃちゃん、今のうちに行って。ここはボクが抑えるからっ!」
「ソラっ!しかし……。」
エルネミアも大事だが、かといって……。
ソラはナパーム弾から精霊銃に切り替えたようで、精霊光が周りの魔物達を薙ぎ払っていく。
「ボクは大丈夫!これでもおにぃちゃんのお嫁さんだよ。それより、必ずエルを助けてね。」
「ソラ……。」
「レイさん、行ってください。ソラは私が守りますから。」
それでも踏ん切りがつかない俺の背中をミリィがやさしく押し出す。
「そうですわ。ソラは私の妹ですから、姉の私が何があっても守り抜きますわ。」
「ミリィ……レイファ……ありがとう。」
俺はここをを三人に任せることにする。
「カナ、リィズ、エルを助けるぞ!」
俺は二人に声をかけ、闇の手が消えた奥の間に向かって駆けだす。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「カナ、リィズ、エルを助けるぞ!」
お兄ちゃんたちが奥の通路へ消える。
全く、世話が焼けるよね。
「アッ……。」
一瞬クタッと力が抜ける……けどっ。
ボクは力を込めて、おにぃちゃんからもらったワルサーを握りしめて、魔物達を迎え撃つ。
「ここから先は通さないよ!」
ボクはワルサーにエネルギーを込めて放ったまま、射線をずらしていく。
射線上の魔物達が斬り裂かれていく。
一掃するにはいいけど、多くの魔力を持ってかれちゃうのが難点だよね。
ワルサーから精霊光が放たれるたびに、ボクの体の中から力が抜けて行くのがわかる。
でも、まだ、まだだよ。
「ウッ!」
モンスターの攻撃がボクをかすめる。
けどっ!そのモンスターをワルサーで迎え撃つ。
次の魔物に狙いをつける。
でも、ボクが撃つ前に、その魔物が消滅する。
「えっ?」
「一人だけで頑張らないのよ。」
ボクを後ろから支えてくれる人が言う。
「おねぇちゃん。」
「私が支えている間に、レイファに治してもらいなさい。」
見ると、ボクの脇から血が流れていた。
「こんなの、かすり傷だよ。」
「ダメよ!」
「レイファお姉ちゃん……。」
「ここを守り抜くんでしょ?だったら少しでも万全で望まないと……ね。」
そう言いながらボクの傷を治してくれる、レイファお姉ちゃん。
「最後まで……一緒に居るから。」
ボクの傷を治しながら、レイファお姉ちゃんが囁く。
「っ!知ってた……の?」
「短い期間かもしれないけど、お姉ちゃんなんだぞ。妹の事ぐらいわかります。」
「レイファお姉ちゃん……。」
ボクは言葉に詰まる……こういう時、何て言えばいいんだろう。
「ファルスからも聞いたわ。最近は寝てる時間の方が多いんでしょ?でもね、私は諦めないからね。」
「ウン……でも、ボクはおにぃちゃん達の為に力を得たんだよ。だから、今その力を使わないといけないんだよ。」
よく分からないけど、ボクの魂に対して肉体が脆弱なんだって、ファルスが言ってた。
今までは、ファルスと一体化することで調整してくれてたらしいんだけど、世界の改変?とかの影響で、ボクの魂の圧が膨れあがって、調整しきれなくなったんだって。
ボクが最近やたらと眠いのは、肉体が少しでも魂と馴染むように頑張ってるせいだってファルスが言ってた。
でも、ボクにはわかるんだ。
起きているとき、少しづつ何かがこぼれていく感じがするんだよ。
今は、その零れるのがもったいないからワルサーに詰め込んで撃ち出しているけど……コレって、生命力ってやつだよね?
このまま零れ落ちていくだけより、せめておにぃちゃんやおねぇちゃんの為に使った方がいいよね?
あの時おにぃちゃんに会わなければ、ボクは村の片隅か鉱山の中で死んでいたんだよ。
おにぃちゃん達はボクに力を、命を、家族をくれた。
だから今度はボクの番。
ボクが皆を助けるんだ!
おねぇちゃんが精霊魔法で、次々と魔物を消し飛ばしていくけど……数が多すぎる。
待ってて、今ボクも行くから。
おねぇちゃんに向かおうとしたボクの目の前で、おねぇちゃんの身体が光り輝く。
綺麗……そんな場合じゃないのは分かってるけど……おねぇちゃんがとても綺麗だよ。
おねぇちゃんを中心に光が弾け、周りのモンスターを一掃する。
だけど、まだモンスター達は湧いて出てきている。
そのうちの一体がおねぇちゃんを襲う……危ない!
おねぇちゃんを襲う魔物をワルサーで吹き飛ばす。
「ファルス、お願い!ボクの力を全部使っていいから!」
ボクの中にファルスの力が満ちていくのがわかる。
でも、まだだ……これじゃぁ、足りない。あの魔物達全部を一掃する力が欲しい。
「~~~~♪」
ボクの口から自然と歌が出てくる。
おにぃちゃんが好きと言っていたなじみ深い、あのフレーズ……ボクの想い、おにぃちゃんに届くかな?
ボクの身体に力が湧いてきてどんどん溢れてくる。
ボクはいつの間にか宙に浮いていて、眼下には魔物達の群れが見える。
「~~~~~~♪」
溢れ出す想いを歌にのせて……力を一つに集束して……。
今にも爆発しそうなぐらいのパワーをワルサーに込めて、眼下へ向ける。
この力が、今のボクの全部の力……これだけあれば、ここの魔物達を一掃できる。
ボクを見上げるレイファお姉ちゃんと目が合う。
レイファお姉ちゃんと過ごした記憶も、ボクの中にしっかり残ってるよ。
また、レイファお姉ちゃんのアップルパイ食べたいな。
ミリィおねぇちゃんもボクを心配そうに見ている。
危ないから少し離れてくれると嬉しいな。
おねぇちゃんは、おねぇちゃんでママだった。
おねぇちゃんにギュってしてもらうのが大好きだったよ。
この場にはいないけど、リィズお姉ちゃん……リズ姉。
色んなこと教えてくれた、いっぱい遊んでもらった。
一緒に歌った事、忘れないよ。
おにぃちゃん……ボクの大好きなおにぃちゃん。
いつもボクの事子供扱いしていたけど、いつまでも子供じゃないんだよ。
あの時の事を思い出して、ボクはクスッと笑う。
初めて大人のキスをした、あの時……。
おにぃちゃんの照れたような、困ったような顔。
可愛いって思ったことはナイショにしてあげるね。
ホントは、おにぃちゃんに大人にしてもらいたかったけど……時間切れだよ。
でもね……大好きだったよ。
ボクの大好きなおにいちゃん……愛してます。
ボクは手の中のパワーを思いっきり眼下へ向けて撃ち出す。
ボクの体の中からどんどん力が抜けていくけど……いいよ、全部持って行っても。
その代わり、この想い……届けて!
光が辺り一面を包み込む。
この闇の世界では、まずありえない光の量だ。
すべての悪しきものは、この光に飲み込まれ、浄化されていく……。
(~~~~♪)
やった……のかな?体に力が入らないよ……ボクの歌……聞こえてるかな……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
危ない!
私はソラを狙っていた魔物に精霊光をぶつける。
ここでは精霊さんに声が届かない。
精霊さんを感じることはできるから、直接エネルギーをぶつけることはできるけど。
「ソラ、下がって!」
ソラがけがをしている。
「レイファ、お願い。」
ソラが何か言ってたけど、無理やり下がらせる。
私はソラのお姉ちゃんだから、ソラに無理をさせるわけにはいかないの。
最近、ソラはずっと眠りっぱなしだった。
心配だったから、ソラの体内の精霊力を確認したけど……それでわかってしまった。
ソラがもう長くないことを……。
ソラの中の精霊のバランスは滅茶苦茶だった。ファルスが辛うじてバランスをとっている状態だったけど、それも時間の問題で、やがて破綻するのは目に見えていた。
ファルスにも話を聞いてみた。
ソラの魂を肉体が受け止め切れていないと言う。
受け損ねた生命エネルギーはそのまま零れ落ちていくだけ……。
生命エネルギーが器に納まるぐらいまで減れば止まるのかと言うと、すでに器自体がボロボロになっているから、生命活動を維持を出来るほどのエネルギーが残るかどうかさえ不明だという。
そして、ソラもその事は知っていた……。
私に出来る事は、ソラが寝ている間にファルスと一緒に生命エネルギーと精霊力のバランスを調整することだけ。
キュン!キュン!
迫りくるモンスターに精霊光を放つ。
精霊光が当たったモンスターは周りを巻き込んで爆発する。
それでも一向に数が減らない。
私が精霊女王として覚醒すれば何とか出来るか?とファルスに相談したことがある。
精霊女王の扱う精霊力は女神に匹敵する……その代償として肉体を失うことになるが。
ただ、そこまでしてもソラを少し延命させるぐらいの効果しかないそうで、リスクの方が大きすぎる。
そして、その事を知ったソラからも止められた。
ちょっと延命して、ギュってしてもらえないなら、最後までギュっとしていてもらいたいって……。
キュィン!キュィン!
モンスターは後から後から湧いてきてキリがない。
私は無力だ。
次代の精霊女王と言われててもソラを助けるどころか、このモンスターでさえ倒せないでいる。
……そうね、でも覚醒すれば大きな精霊力が使えるわね。
ゴメンね、ソラ……。
私はやっぱり、あなたには少しでも長く生きていて欲しいの。
たとえそこに私がいないとしても……。
覚悟は決まった……後は実行するだけ……
「……数多の精霊に告げる。精霊女王の御名に於いてミリィが命ずる。我に集いその在り方を示せ。我名はミリィ、精霊女王を継ぐ者なり!」
以前女王に教えられた聖句を唱える。
精霊力の少ないここでうまく行くかどうかは賭けだったけど……勝ったみたいね。
私の身体の奥底から力が溢れてくるのがわかる。
体内に納まりきらない精霊力が溢れ出てる……この力をすべてぶつける。
『精霊光全開放』
私は溢れ出す力を開放する。
周りが光であふれ、光に包まれたモンスターは消滅していく。
かなり削ったみたいだけど……それでもまだ残っているの?
大量の精霊力を行使したせいで体に力が入らない。
マズい、一体がこちらを狙っている。
その魔物に精霊光を放とうとするが、その前に後ろから来たエネルギーが、魔物を貫き消滅させる。
「ソラ?」
私は振り返ってソラを見る……いえ、見上げる。
ソラの背中から羽が広がり、宙に浮いている。
手にしたワルサーにエネルギーが集まっているのがわかる。
「ソラっ!ダメェー!」
アレは……アレは命の輝きだ。
ソラは今、全生命力を燃やそうとしている。
(~~~~♪)
歌が聞こえる……ソラの歌だ。
今まで聞いたどんな歌より胸の奥へとしみ込んでくる。
「ダメェ、ソラ、やめて!」
私の声は、もうソラには届かない……ソラから眩い光が放たれ、辺りを包み込んでいった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私の手から癒しの光が消えると同時に、ソラちゃんはミリィの元へと駆け出す。
それが少し寂しい。
レイさん達から世界の変革という事の説明を受けた。
言われてみれば思い当たる節はある。
だけどね、そんな事は関係ないの。
たとえ血がつながっていなくても、あの子は……ソラちゃんは私の妹。それは間違いないのよ。
ソラちゃんの中には、私と暮らした記憶も、レイさん達と一緒にいた記憶もあるという……そして、それがソラちゃんの体を蝕んでいるって事……。
ソラちゃんは一生懸命隠していたようだけどね、分かっちゃうのよ。
あの子はいつも隠し事をするとき、右手でほっぺたを掻くからね。
再会した時から、ソラちゃんの体内のマナの流れがおかしいのにはすぐに気づいた。
ファルスに確認した時は誤魔化そうとしていたけど、ミルファース様を持ち出したら、すぐに教えてくれた。
ミリィも気付いているようで、ソラちゃんが寝ているときはずっとそばについていてくれた。
それが嬉しくもあり、羨ましくもあった。
(~~~~♪)
私の目の前で命のすべてを燃やすソラちゃんがいる。
私には止めることが出来ない。
でもね、私もお姉ちゃんだから、絶対に助けるんだから!
力を使い果たして落ちてくるソラちゃんを受け止める。
「ソラちゃん!ソラちゃん、しっかりして!」
ぐったりとして、意識がないソラちゃん……脈拍も呼吸も弱弱しい。
「巫女レイファの名に於いて、豊穣の女神ミルファースに祈りを捧げます。彼の者の命を繋ぎ止め給え!」
『回復の光』
ダメ、生命力の流出が止まらない。
でも、諦めるもんか!
『回復の光』
『回復の光』
『回復の光』
『回復の光』
『回復の光』
・
・
・
・
「くっ……魔力が……。」
私の魔力では全然足りない……でも、諦めないよ……。
『魔力譲渡』
私の魔力が見る見るうちに回復する。
「えっ?」
振り返るとミリィがいた……自分もボロボロなのに……私の魔力を……
「ぼさっとしてないで!はやく!」
そうだ、考えるのは後。
『回復の光』
『回復の光』
『回復の光』
「ミルファース様!お願いです!」
『回復の光』
『回復の光』
『回復の光』
「力を貸してください!ソラちゃんを連れて行かないで!」
もう、何度目になるか分からない回復魔法を唱えていると、周りの雰囲気が変わる。
そして、今まで沈黙していたファルスから声がかかる。
(もう、これ以上は無駄です……あなた方はよく頑張りましたよ……)
無駄って何?
私はお姉ちゃんなんだから諦めるわけにはいかないのよ!
『回復の光』
しかし、ソラちゃんから流れ出す生命エネルギーを止めることは出来なくて……。
「ソラちゃーん!逝かないで!」
私は呪文を唱える事と叫ぶことしかできなかった。




