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いつか魔王になろう!  作者: Red/春日玲音
第一章 魔王になろう

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闇の世界

 「にぃに、あったっすよ!」

 リィズが声を上げるので、そちらへと向かう。

 ここは闇の世界へつながるダンジョンの最終階層、ボス部屋……だと思う。

 何故曖昧なのかと言うと、俺達が来た時には見ての通り、部屋中が荒らされていて他の存在の気配が一切なかったからだ。

 しかしボス部屋と言う事は、どこかに先へと続く入り口があるはず、と、みんなで警戒しつつ探していたのだが……。


 「ほら、ココっす……一応調べてみたんすが、トラップ等は仕掛けられてないっす。」

 リィズが指し示したところには、うまく偽装されているが、よくよく見れば、スライドして開く仕掛けになっているみたいだ。

 「ここを開ければ先へ進める……か。」

 「ウン、周りの感じ見るとしばらく誰も使ってなかったみたいだね……先に来た人?は気づかなかったのかな?」

 カナミの言うとおり、その付近の物の配置や埃の溜まり具合などを見ると、誰かがここを開いたという形跡は見当たらない。

 「わからないな……単に気づかなかったのか、それともワザとか……。」


 「どうするっす?」

 リィズが先へ進むかどうか聞いてくる。

 「ここまで来て、後には引けないだろう。……いくぞ!」

 慎重にその場所を開いていくと階段が現れる。

 俺は先頭に立ち、ゆっくりと階段を下りていく。

 しばらく降りると、広間に辿り着いた。

 「これ……転移陣……だよね?」

 カナミの言うとおり、広間の中心には転移陣が広がっている……が、大きい。

 大きいというか広い?

 通常の転移陣は半径1m程度あれば十分だ。

 簡易的なモノであれば直径1M程度でも大丈夫だが、ここにあるのは半径10Mぐらいだろうか?

 優に通常の10倍以上はある。


 通常、転移陣を含め魔法陣は大きさと内包する魔力量によって威力が変化する。

 大きくすればするほど、必要魔力は多くなり、また内包魔力を増やすならば魔法陣を大きくする必要がある。

 そして、大きければ大きいほど複雑な魔法を行使することが出来、内包魔力が多いほど、広範囲・長時間・高位魔術に耐えることが出来るようになる。


 「つまり、大きくする必要があったってわけだ……。」

 「何が目的なんでしょうか?」

 「さぁな……ただ、ここまで大きいと、何があっても驚かないけどな。」

 ミリィに俺は軽く応えるとみんなに声をかける。

 「準備はいいか?この先はどうなるか予想もつかないが、出来るだけ固まっていこう。」

 「ウン、大丈夫。」

 カナミが皆を代表して声をかけてくる。

 そして俺達は固まって、転移陣へ足を踏み入れる。


 ◇


 転移した先……そこは闇の中だった。

 「みんないるか?」

 俺は周りに声をかける。

 「いるよー。」

 声とともに俺に触れてくる……カナミか?

 「こっちにはねぇねと、ソラ、レイファがいるっすよ。」

 すぐそばでリィズの声が聞こえる。

 声のした方に手を伸ばす。

 「きゃっ!」

 柔らかい感触と共に、可愛らしい悲鳴が上がる。

 「誰っすか?にぃにっすか?何処触ってるっすか!もぅ……。」

 ……どこを触ったんだろう?

 あの反応からするとあまりツッコまないほうがいいっぽい。

 「あぁ、悪い……ランはいるか?」

 「いるぞよ……しかし、お主ら、そんなところにいつまで固まっているつもりなのじゃ?」

 「そうは言っても、真っ暗ですから……。」

 ランの言葉にレイファが答える。


 「うまく行くかわかりませんが……光の精霊さん、お願い!『精霊光(ライト)』」

 ミリィの力ある言葉に応えて、一瞬だけ周りが明るくなるがすぐに元に戻る。

 「やっぱり精霊さんがいないのでダメですね。」

 まぁ、分かっていたことでもあるが、この光の精霊が存在しないであろう闇の中で、一瞬でも光を呼び出したミリィのスペックが桁外れだと思う。

 「じゃぁ私がやってみるよ……万物の根源たるマナよ、光に変えて辺りを照らせ!『魔法光(ライティング)

 カナミがルーン魔法のライティングを唱えると、辺りが少し明るくなる。

 「うぅ……これ、凄く魔力持ってかれるよ。維持するの厳しぃ……。」

 俺ほどじゃないが、カナミの内包魔力は相当のものだ。

 そのカナミがライティング一つ維持するのが厳しいって……。


 「俺が代ろう。」

 カナミに代わってライティングを唱える……ぐっ、なんだ、コレ……魔力がどんどん吸い上げられていく……。 

 耐えられなくはないが、それ程長持ちしそうにない。

 「ぐっ、ま、周りを確認して……。」

 この状況じゃ、ライティング維持したまま、戦闘は厳しいな。

 とりあえず移動だ。

 周りが少し見えるようになってわかった事だが、俺達は断崖絶壁の端の方に立っていた。

 知らずに歩き回っていたら、真っ逆さまに落ちていくところだった。

 落ちた先は……考えたくもないな。

 「とりあえず、向こうの方の広場まで移動しよう。」

 俺は、前方の少し広がっている所を指し、そこへ向かって歩き出す。

 

 ◇


 「ふぅ……いったん解除するぞ。」

 落ち着いて休めるところまで移動し腰を下ろしたところで、俺はライティングを解除する。

 途端に視界が闇で覆われ何も見えなくなる。

 「真っ暗だねぇ。」

 そう言いながら俺にしがみついてくるカナミ。

 「そうだな。」

 逆側からはミリィとリィズが寄り添ってきた。

 さっきまでささやかとは言え足元ぐらいは見えるぐらいの明かりがあったのに、それがなくなった途端、隣の顔すらも見えない漆黒の闇……不安になるのも仕方がないだろう。


 「にぃに、昨日のどこでもトビラ?って出せないんっすか?」

 リィズの提案に、それがあったかと、ポンと手を打つ。

 「そうだな、あれなら空間の位相が……って、あれ?」

 共有バックから取り出そうとするが、何かが引っかかる感じがして取り出せない。

 「どうしたの?」

 心配そうにカナミが聞いてくる。

 「いや、こういう表現が正しいかどうかわからないが、引っかかって取り出せない。」

 「引っかかるって何に?」

 「だから、そう言うイメージってだけで……。」

 そう言いながらも、何とか引き出そうとするが……結局徒労に終わった。


 「どうやら、この空間そのものが、隔絶されているみたいだな。」

 「どういうことですか?」

 ミリィが聞いてくる。

 「簡単に言えば、異空間の中に一つの世界を閉じ込めた……って感じかな?」

 そう考えれば、あの転移陣がバカでかかったのも納得できる。

 閉ざされた異空間に陣を繋ぐとするならば、あれぐらいの大きさは必要だろう。

 「外の世界と切り離されているために、繋ぐのに膨大な魔力が必要になる。この共有バックだと、ポーションぐらいの大きさのものを取り出す程度しか開けないってわけだ。」

 「そうっすか、困ったっすね。」

 「そうだな……。」

 とにかく、前後も分らない暗闇の中では下手に動けない。

 何とか対策を取ろうにも、何も見えない状態じゃ出来る事は限られてくる。


 「皆、何を困っておるのじゃ?」

 訳が分からん、と言う感じでランが聞いてくる。

 「周りが真っ暗闇で見えないからどうしようって言ってるんすよ。」

 リィズが律儀に説明する。

 「何じゃ、見えぬのか?……あ、あぁ、そうか、そう言えばそうじゃった。」

 不思議そうな声を出した後、何やら納得したような様子のラン。

 「ランさんは、周りが見えるんですか?」

 「う、うむ、まぁ、その……なんじゃ、ドラゴンじゃからな。」

 レイファが訊ねると、急にあたふたとし始め、口籠る様に答えるラン。

 あからさまに怪しい。

 「何かいい方法を知っているのか?」

 「し、しらにゅ、妾はにゃにもしらにゅ……。」

 噛みまくりだ……。

 「ランとは友達だと思ってたっす……。」

 悲しそうに言うリィズ。

 「そ、それは……い、言えんのじゃ……。」

 同じく悲しそうな声のラン……まぁ、ドラゴン族の掟か何かに引っかかるのだろう。

 

 しばらく沈黙と言う名の静寂が辺りを包み込む。

 「お、おぉ、そうじゃ。我は急に眠くなったので、カナミ膝枕するがよい。」

 いきなり、何を言い出すんだ?

 「そうそう、我は最近寝言が多いらしくてのう。何を聞いても、寝言なので聞き流してくれると助かるのぅ。」

 成程ね、そう言う事か。

 「ランちゃん、どうぞ私のお膝へいらっしゃーい。」

 カナミもランの言いたいことが分かったのか、そんな事を言う。

 「フム、膝枕と言うのはいいものじゃのう……耳かきとやらも所望するぞぇ……そんなに離れていては見えぬじゃろう。」

 ……いや、今真っ暗ですから。

 それでもカナミが、律義に顔を近づける気配がする。

 「……竜魔……特性……付……ドラ……ファー……。」

 何やら呟く声がするが、よく聞き取れない。

 「ぐぅ……今のは全て寝言じゃ……ぐぅ……。」

 「そうね、寝言ね。ゆっくり寝ててね。……ありがと。」

 その後、カナミはなにやら呟いている……ランは本当に寝入っているようだ。

 

 「お前らも、今のうちの少し休んでおけよ。」

 俺は右隣で体重を預けてきているミリィ達に小声で言う。

 「はい、そうさせてもらいますね。」

 解決の糸口はつかめたようだが、カナミの様子を見ると少し時間がかかりそうだ。

 だとしたら、下手に動けないこの状況で出来る事は休んで体調を整える事だけ。

 「カナミ、俺も少し休むから何かあれば声かけてくれ。」

 カナミにそう告げる。

 返事はないが、頷くのは気配でわかったので、俺はそのまま少し休むことにした。


 「……パイ……ンパイ……センパイってばっ!」

 遠くでカナミの声がする……。

 ……って、そうか。

 「あ、あぁ、悪い寝てたみたいだ。」

 「ったく、何が「何かあったら声かけてくれ!」よ。何度も声かけても起きないんだから。」

 ぷんぷんと口で言っている辺り、それ程怒ってはいないのだろう。

 「悪かった。それで……どうだ?」

 「ウン、大丈夫……みんなセンパイの周りに集まって……出来ればセンパイに引っ付いていてね。」

 「よいしょっと。」

 皆に集まるように指示したカナミは俺の膝の上に乗ってくる。

 「出来れば、落ちない様に、ギュってしててほしいかな?」

 そんな事を言ってくるカナミ。

 暗くて表情は見えないが、きっとたまに見せる、あの小悪魔的な笑顔に違いない。

 「はいはい……ぎゅ……これでいいか?」

 「ウン、大丈夫……そのままゆっくりと私に魔力を流してね。」

 そう言って、俺の手に自分の手を添えるカナミ。


 「じゃぁ、行くね……。ヴィノゥ!……ᛊᛉᚻᚫᚫᛊ……。」

 カナミがタクトを取り出し、力ある言葉を唱えつつ、空に魔法陣を描いていく。

 「ᚷᛉᚢᚢᚩᛊ……」

 魔法陣が浮かび上がり、俺達の真上から光で包み込んでいく。

 『龍族特性付与ドラゴニック・トランスファー!』

 カナミが力ある言葉を解き放つ……龍魔法か。

 俺達を光が包み込み……弾ける。


 俺の腕の中のカナミが、クタッと力なく倒れ込んでくる。

 「おい、大丈夫か?」

 「エヘッ、そんな顔しなくても大丈夫だよ。ちょっと魔力使い過ぎただけ、寝てれば治るから。」

 そう言って笑うカナミ。

 この様子なら大丈夫か……って?

 「見えてる?」

 「ウン、私の力じゃ昼間の様にとまではいかないけど、行動に差し支えはないぐらいは見えてるはずだよ。」

 俺はミリィ達の方を見る。

 「えぇ、ちゃんと見えますわ。」

 「びっくりっす。」

 「んー、もう朝なのぉ?」

 「びっくりしました。ちゃんと見えますよ。」

 口々に言ってくる……どうやら問題ないらしい。


 「ってことで、センパイは私をおんぶしていってね。」

 にっこりと笑うカナミ。

 「なんでそうなる?」

 「だって、私魔力使い果たしちゃったし、かといって、回復するまでここに居るのは時間がもったいないでしょ?」

 「カナミだけ置いていくって手もあるっすよ?」

 リィズがからかう様に言ってくる。

 「そんなことしたら、リィズだけ感覚なくすよ?」

 「調子に乗ったっす!スミマセン!」

 即座に謝るリィズ。 

 まぁ、本気じゃないのはお互い分かってるんだろうけどな。


 周りが見えるようになった俺達は、ランが遠くに何か見えるというので、そちらに向かってとりあえず歩き出すことにした。

 しばらく歩くと、俺達にもその「何か」が見えてくる。

 「始まりの闇の村」

 立てかけられた看板にはそう書いてあった。


 ◇


 矢印に従って歩いていくと、村らしきものが見えた。

 しかし、村に入っても誰もいない。

 「何か、気配はするんですけどねぇ?」

 ミリィが言う。

 確かに、何かが動く気配はするのだが、それが何なのか、俺達の目で捉えることはできなかった。

 「何か、蠢いてる感じで気持ち悪いっす。……ラン、何とかならないっすか?」

 「無茶を言うでない。元々この世界はお主らの世界とは別物じゃ。概念からして違うのじゃから認識とか言う以前の問題じゃ。お主らが、この世界を見て、感じることが出来るのは、稚拙ながらも龍族の属性を纏ったからであって、本来であれば何も見えず、聞こえず、感じることもない。」

 「ち、稚拙……。」

 カナミががっくりと項垂れている。


 「ま、そう言う事なら仕方がない……しかしどこに向かえばいいんだ?」

 話も出来ないのであれば情報も得られないという事になる。

 「ねぇ、おにぃちゃん、アレなぁに?」

 その時ソラが遠くの方に見える何かを指さす。

 「ん?何だろうな?」

 遠くてよく見えないが何かの建物らしい……、淡くぼーっと光っている。

 「よく分からないなら近くまで行ってみるっす。」

 リィズが言う。

 見えないから見えるところまで行く……まぁ、真理だな。

 単純かもしれないが、何の情報もない所で難しく考えても仕方がないしな。

 「よし、行ってみるか。」


 そして、その建物に向かって歩く俺達。

 その建物の方向へは、不思議と道が整備されていて、この世界の生物?の行き来があるみたいだ。

 途中襲われる気配もなく……と言うより気配を感じる事の方が少なかった。

 「こうも静かだと、返って気持ち悪いね。」

 「まぁ、な。でも、俺達はこの世界の異物だから仕方がないんじゃないかな?排除されないだけましだと思うか。」 

 「異物は消毒?」

 クスッと笑いながらカナミが言う。

 つられて俺も笑う。

 「わからないネタ禁止っす!」

 焼きもちを焼いたのか、リィズが割り込んでくる。

 まぁ、こんなのんびりとした旅は久しぶりだしな。

 俺達はその建物がはっきり見えるところまでの短い道程を笑いながら進んでいった。


 「お城?」

 「城っすね。」

 俺達の目の前にそびえたつのは、大きな城だった。

 「誰が住んでるのでしょうか?」 

 「それは……ねぇ?」

 ミリィが疑問を口にし、それを受けたカナミが俺に視線を向けてくる。

 まぁ、こんなところで城に住む奴と言えば決まってるだろう。

 「だな、ココが目的地だ。」


 俺は皆を一瞥し告げる。

 「行くぞ、ココが魔王の娘が住む城だ!」


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