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いつか魔王になろう!  作者: Red/春日玲音
第一章 魔王になろう
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闇の世界の入り口

 「という事で、ここをベースに攻略をしたいと思う。」

 俺は集まった皆を見て、そう告げるが、なぜかみんなの顔が浮かない。

 「ん?どうした?そんな顔して……疲れてるなら、ここで1日ぐらいならゆっくりしてもいいが?」

 皆には、色々仕事を振っていて、そのまま合流って言う強行軍だからな。

 この先の事を考えると、1日ぐらいの休息は無駄ではないだろう。


 「別に疲れている訳じゃないっすよ……。」 

 リィズが言う。

 「まぁ、ある意味疲れたかもね。」 

 はぁ……、ため息をつきながらカナミが言う。

 「えっと、なんといいますか……。」

 困惑気味のレイファ。

 「まぁ、主殿がやる事だからのぅ。」

 今更、と言う感じに言うラン。

 「おにぃちゃんはぁ、凄いんだじょぉ……。」

 「そうね、レイさんですものね。」

 眠そうに言うソラと、それをあやしているミリィ。


 「えっと、あれ?」

 なんかみんなの反応がおかしい、疲れてる……わけでも無いのか?

 「はぁ……、にぃには私達より、どれくらい先についてたんっすか?」

 ため息をつきながらリィズが聞いてくる。

 「えっ?いや、昨日着いたばかりだけど?」

 そう、早く着いた俺は、せっかくだからと下見がてらにこのダンジョンまでの道を確認し、道中の障害は取り除いて辿り着いたけど、まだ少し時間があったので、中の安全確保をしてベースキャンプを作っておいたのだ。

 おかげで、ミリィ達を迎えに戻ってから、ここに来るまではスムーズに来ることが出来たし、安全なベースキャンプのお陰で、カナミ達を迎えに行くのも安心だったはずだが?

 「まぁ、時間がなかったから、こんなログハウスになっちゃったけど、あんまり贅沢を言われても困るぞ?」

 

 「違うっす……そうじゃないっすよ……。」

 カナミ、タッチっす……等と呟いてカナミと交代する。

 「ねぇセンパイ。時間もないからハッキリ言うけどね。普通は1日足らずの時間しかないのに、片道で半日かかるここまで来る人はいないの。しかも道中の魔物全て借り尽くすとかありえないし。更にダンジョンのこのフロア一帯のモンスターを全滅させたうえ、完全防護結界付きの、転移陣・リビング・ダイニング・寝室にシャワールーム迄完備したログハウスを建てる人もいないです!いーい?もう一度言うよ。こんな非常識な事は、一般の人はしないんですよ!」

 一気に捲し立てるカナミ。

 それを聞いて、うんうんと頷く一同。


 「まったく、少しは自重してよね。転移陣でこっちに来た時、あまりにも予想外の風景だったので、間違えたのか?と、本気で心配したんだから。」

 えーと、……何が問題だ?

 (やりすぎって事よ。だから、あれほど言ったのにね)

 やれやれという感じでファーが言うが……。

 「いや、ファーもここの掃除するとき「汚物は消毒よ!」とか言ってノリノリだったじゃねぇか。」

 一人だけ難を逃れるなんてこと、させないよ。

 

 「にぃにとファーだけで行動させることは危険って事がわかったっすよ……。」

 「我が来る必要はあったのかぇ?主殿一人で魔族領を制圧できるのではないか?」

 「まぁ、出来なくはないと思うけど……それこそ手段を選ばなくなっちゃうからねぇ。」

 抑止力ってやつよ、とカナミがランに言っている。

 その抑止力って、もちろん相手に対して、のだよね?


 「よし、分かった!休憩は必要ないってことで、先に進むぞ!」

 俺は強引にそう言って歩き出す。

 決して逃げたわけじゃないよ?

 時間を惜しんだだけだからね……本当だよ。

 皆は呆れ顔ながらも付いてくる。

 

 「とりあえず、次のフロアへの入り口は確保してあるから、サクサク行こうぜ!」

 このダンジョンの果てに、闇の世界への入り口がある、と言うのだ。

 どれくらいの深さかは分からないが、まだ、先は長いんだから元気なうちに進めるだけ進むべきだろう。

 そう考えながら、俺達は次の階層への階段を降りていくのだった。


 次のフロアに降り立った俺達の目の前には、ちょっとした広場と奥へ続く道があった。

 この先どう枝分かれしているか分からないけど、とりあえずは目の前の道を進んでいくしかないのだが……。

 「コレって、アレよね?」

 目の前の光景を見ながらカナミがつぶやく。

 「まぁ、そうだろうなぁ……あからさま過ぎるし。」

 俺はカナミに応える。

 「まぁ……定番かぁ……仕方ないよね。レイファ、浄化魔法の準備しておいてね。」

 「えっツ、あ、ハイ。」

 いきなり話を振られ、何のことかわからずとも、とりあえず返事をするレイファ。

 「カナ、リィズに聖属性のエンチャントを。」

 「ウン、分かった……リィズ、剣を出してくれる?」

 「っと、こうっすか?」

 やはり、今一つよくわかっていないリィズだが、カナミの求めに応じて双剣を出す。

 

 「聖なる力を、彼の者に与えん……『聖属性付与ホーリー・エンチャント』」

 カナミから聖なる光があふれ、リィズの双剣に向かって迸ると、リィズの持つ双剣は淡い水色の輝きを纏った。

 「えっと、どういうことですか?」

 ミリィが聞いてくる。

 「あぁ、目の前に何が見える?」

 俺は視線を眼前に広場に向ける。

 「何と言われても……何もない広場があるだけのようですが?」

 「何もなくはないだろう?、地面に転がっているじゃないか?」

 そう言って俺は、地面に転がっている白骨を指さす。

 その広場も、さらに奥の通路にも至る所に骨が転がっている。

 この世界で……と言うより、こういうダンジョン内では探索に失敗した冒険者たちの骨が転がっていることは珍しくない。

 誰も片付けないんだから当たり前であるが、放置された死体は魔物達によって食い荒らされ、腐敗し、骨だけが後に残る。

 よくある風景と言ってしまえばそれまでだが、これはあることを意味することでもある。すなわち……。

 

 俺は、広場に向かって二歩、三歩と足をすすめると異変が起きる。

 「まぁ、こう言う事だ。」

 俺は振り返ってミリィ達に言う。

 視線を広場に戻すと、打ち捨てられていたはずの骨が、カタカタと動き出し形を作っていく。

 胴体部分に足が、手が付き動き始める。

 最後に、首なしの骨は、きょろきょろと辺りを見回し、落ちていた頭蓋骨を見つけると、それをつかみ取り、被るようにして自分の首の上にのせる……スケルトンウォーリアの出来上がりだ。

 広場の至る所で、スケルトンウォーリアが出没し始める。


 「理解したなら、行くぞ。……来い!ケイオス!」

 俺はケイオスを呼び出し、右手で握りしめる。

 俺の力がケイオスに流れ込み、ケイオスから戻って来る……ウン、いい感じだ。

 「先に行くからな、遅れるなよ!」

 俺は先陣を切ってスケルトンウォーリアの群れに飛び込んでいく。

 周りの敵を叩き切るだけの簡単なお仕事……そう、俺はここ最近、頭を使う仕事が多くてストレスが溜まっているのだよ。

 俺はストレスを発散するべく、周りのスケルトンウォーリアを斬り伏せていく。


 「あーあ、いきなり真ん中に行かれたら大技が使えないじゃないのよ。……レイファ、『聖なる火炎玉セイクリッド・ファイアーボール』に切り替えるわよ。」

 「はい、ナミ様……穢れしものを焼き尽くさん!『聖なる火炎玉セイクリッド・ファイアーボール!』」

 『聖なる火炎セイクリッド・フレイム!』

 レイファの放つ火炎玉が、スケルトンウォーリアに放たれる。

 カナミの放つ精魔法が、複数のスケルトンウォーリアを炎で包み込む。


 「負けていられないっす!」

 リィズがスケルトンウォーリアの群れに飛び込む。

 淡く光る刃は、魔力で強化されているはずの骨のボディを、易々と斬り裂いていく。

 後ろに回った1体のスケルトンウォーリアが、リィズにその刀を振り下ろす。

 しかし、その時すでにリィズの姿が消えている。

 目標を見失い、キョロキョロとしているスケルトンウォーリアを下から斬り上げる。

 返す刀で上から斬りおろすと、スケルトンウォーリアを形作っていた骨は、ガラガラと崩れ落ち、動かなくなる。

 「まだまだ行くっす!」

 リィズはそのまま次の群れに向かって走り出していく。


 「火の精霊さん、お願い!『炎の鳥(ファイアー・バード)』」

 ミリィが、火の精霊に願うとその力は鳥の形を模り、スケルトンウォーリアたちに向かって飛んでいく。

 その燃え盛る翼で次々と焼き尽くしていくファイアーバード。

 戦場を飛び交う火の鳥……圧巻である。


 「大地の精霊さん『落とし穴(ピットフォール)』!」

 ミリィが、ソラを狙っていた1体のスケルトンウォーリアの足元に穴をあけて落とす。

 ソラが振り返りざま、ワルサーに込められた弾丸を打ち込む。

 弾丸が当たったスケルトンウォーリアは形を崩し、そのまま穴の中に埋まっていく。

 「お姉ちゃん、ありがとう。助かったよ。」

 ソラがミリィにお礼を言いながら、次の目標に向けてワルサーを撃つ。

 ワルサーに仕込まれた弾丸は銀製で、しかも聖印を刻印してある。

 つまり対アンデット用の弾丸だ。

 リッチなど、高位のアンデットには効き目が薄いが、スケルトンウォーリア程度なら一撃で倒せるだろう。


 俺達は、ある程度駆逐したところで先へと進む。

 あいつらは時間が経つと、砕けた骨などから再生するのでキリがないのだ。

 根絶やしにするにはすべての骨を浄化の炎で焼き尽くしたうえ、その場を浄化しないといけない。

 正直、いつまでも相手にしていられないのだ。

 俺達が進む通路にもスケルトンウォーリアが発生している。

 中にはスペクターなど実体のない物まで出てくるのを斬り伏せながら、先へと進む。


 「ここだな。」

 前方からのアンデット達を斬り伏せて、道を作りながら進んできた先には扉があった。

 「ちょっと調べるっすよ。」

 リィズが罠の確認をする。

 後ろから迫ってくるアンデットをカナミとレイファが、魔法で退ける。

 「OKっす、大丈夫っすよ。」

 リィズが扉を開けると、下へと続く階段が見えた。


 『聖なる火炎セイクリッド・フレイム!』

 俺は最後方で、迫りくるアンデット達に特大の火炎をお見舞いする。

 炎に焼かれ蠢くアンデット達。

 「今のうちに行くぞ!」

 俺達は次の階層への階段を下りて行った。


 ◇


 「今日はこれくらいにしておこうか?」

 このフロアの敵を一掃したところで、俺は皆の声をかける。

 あれから十数階層……途中で数えるのをやめた……降りてきて、皆の顔からも疲労の色が伺える。

 元気なのはランだけだ。

 彼女は戦闘に参加していない……そう言う約束でついて来てもらっているのだから仕方がない。


 基本ドラゴン族は俺達の争いには介入しない……と言うかできない。

 ドラゴンが本気で戦闘を行えば、場合によってはこの地上の半分が生き物が住めなくなるからだ。

 なので、ドラゴン族にはドラゴン族なりの戦闘に介入する基準と言うのがあるのだが、それがどういうものかは知らない。

 ただ「魔王」と言う世界のシステムに関わる事だけに、もしかしたらドラゴンがいることで何かが変わるかも?と言うわずかな期待だけでついて来てもらっている……まぁ、保険みたいなものか。


 「じゃぁ、野営の準備しましょうか?」

 そう言ってミリィが動き出すが、俺はそれを押しとどめる。

 「あぁ、ちょっと待ってね。」

 そう言って、俺は共有バックからあるモノを取り出してその場に設置する。

 「どこでもトビラ……。」

 カナミがびっくりしたようにつぶやく。

 そう、俺が取り出したのは、青い狸型ロボットが主人公の国民的アニメに出てくる秘密兵器「どこでもトビラ」をオマージュした扉だった。

 ちなみに、そのアニメは世界征服を企む未来人が、過去の人類を支配するために送り込まれたロボットが、未来の秘密兵器を使って人類を洗脳しようとするが、いつもグダグダになり、居候先の相方がどんどんダメ人間になっていくという、子供たちに大人気である。

 「どこでもトビラ」は、どこでも任意の場所につなぎ、扉を開けると同時にマシンガンを撃ち放し、最後には手榴弾を投げ込んで扉を閉めれば、当方に被害なく制圧できるという凶悪な兵器なのだが、作中では同居先の相方が覗きをするためだけに使われるという平和的な……まぁ、そんな事はどうでもいいか。


 「どこでも……じゃないけどね。さぁ、みんな入って。」

 そう言って扉を開くと、その先には入り口に設置したログハウスの中だった。

 入ってって言っているのに、なぜかみんな呆然としている。

 「ま、まぁにぃにのやる事ですからね……今更っす。」

 リィズが絞り出すように言う。

 「そ、そうね、センパイだもんね。」

 カナミも、顔をひくつかせながら、リィズに同意する。


 「ふぅ……落ち着いたかも。……で、センパイ、これどうなってるの?」

 ログハウス内のリビングで、ミリィの入れてくれたお茶を飲んで一息つく。

 皆がそれぞれ落ち着いた辺りで、カナミが説明を求めてくる。

 「どう、と言われてもな、ココは亜空間だよ。通常空間と位相を少しずらして……まぁ、あの馬車と同じと思ってもらえば早いかな?で、元空間と繋ぐキーアイテムがあの扉。」

 そう言って俺は入り口を指さす。


 以前から、旅先で野営の度にベースを作るのは面倒だと思っていた。

 特にうちのパーティは殆どが女の子だから、シャワーとか寝室には気を使わないといけないので……。

 で、それが使い捨てるのが凄くもったいないと思っていた時に空間魔法の新しい使い方を覚え、それで思いついたのがこれだった。

 あらかじめベースを作って置き、亜空間に設置する。

 入り口だけ持ち運び、その都度リンクさせれば、いつでもどこでも快適な野営が出来るというスグレモノ。

 まぁ、扉は外から出ないと外せないとか、扉を物理的に壊されたら出れなくなる……まぁ、俺達だけなら奥に設置した転移陣が使えるけど……などの欠点はいくつかあるが、旅に出た時に野営用と言う用途であれば問題ないはず。


 「まぁ、細かい事は気にせず、ゆっくりと休もうぜ!」

 俺は爽やかに言ったつもりなのだが、返ってきたのは皆の冷たい視線だった……なぜ?


 ◇


 快適なベースで一晩休み、すっかりと回復した俺達は、さらに深い階層へと潜っていく。

 途中の罠やモンスターを排除しつつどんどん進んでいき……、更にいくつかの階層を降りた後、入り口の扉の豪華な作りから、この中がボス部屋だと思われる所に辿り着いた。

 「罠は無い様っす。」

 「じゃぁ、開けるか。」

 俺はゆっくりと扉を開き、眼前に広がる光景を見て……立ち尽くすことになった。


 「ここ……だよね?」

 「たぶん……そうじゃないかと思いますわ。」

 ……。

 眼前に広がる広間、その奥にある玉座。

 周りの装飾品などから確実にボス部屋だろうと思われる。


 ……しかし、そこは無残にも荒らされていて、何者も存在しなかった。


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