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いつか魔王になろう!  作者: Red/春日玲音
第一章 魔王になろう

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闇の世界へ向けて

 「魔王の娘はどこにいる?」

 俺がアドラーに投げかけた言葉……しかし、アドラーは答えない。

 しばらくの間、その場に静寂が訪れる。

 「……。」

 無言が続くが、俺はあえて口を出さない。

 ただ、アドラーを見ているだけだ。

 やがて、アドラーが口を開く。

 「どうして……それを。なぜ……。」

 動揺を隠しきれず、うまく言葉にならないようだ。

 「うーん……アドラー、魔王から何も聞いてないか?」

 「いや、とくには……ただ、お前の事をやたらと気にかけていただけで……。」

 まぁ、誰が敵か分からない状態で、そう滅多なことは話さないか。

 

 「カナ。」

 「ウン、わかったよ……『防音結界(サイレスフィールド)』」

 俺はカナを見る……それだけで理解してくれたようで、俺達の周りに結界を張ってくれる。

 「念のため、結界を2重にした。……魔王の娘に関しては魔王から託されている……今となっては遺言だな。」

 「な、なんと……誠か?」

 「今更嘘を言ってどうする。……処分したので証拠はないが、会見した時に書面で預かってな。」

 俺がそう言うと、アドラーは驚いたように目を見開く。

 「な、内容は?魔王様はなんと?」

 「落ち着けよ。大したことじゃないさ……『俺に資格があるのなら、魔王の娘から力を奪え』……と。」

 「な、なんと言う事を……。」

 アドラーはがっくりと項垂れる。


 しばらく沈黙が続き、やがて、意を決したようにアドラーが口を開く。

 「それで、レイフォードは魔王様の娘……エルネミア様を害するつもりか?そしてそのために俺を助けたというのか?」

 アドラーの拳が固く握られている。

 「魔王の娘を害するつもりはないさ……素直に力を渡してくれるならな。」

 「力を奪うとはすなわち相手を殺すことではないか!」

 アドラーが激高する。

 「それは、魔王の娘のキー次第だろ。それ次第では穏便に移譲が済む事もある。」

 まぁ「死」がキーになっていたらしょうがないけどな。。

 「『キー』だと?何の事だ?」

 「ん?アドラーでも知らない事なのか?」

 アドラークラスにさえ秘匿にしておく秘密か……ま、いっか。

 「魔王の力は任意に移譲できる……設定したキー……条件をクリアすることが必須だがな。」

 「な、なんと……。」

 やはり、知らなかったのだろう。

 初めて聞くことに驚き、反応が遅れるアドラー。

 その間に、リィズがアドラーの背後を取り首に双剣を突き付ける。

 

 「その様子だと、初めて知ったという感じだが……どうする?魔王クラスの秘匿中の秘匿を知ったアドラー君?」

 まぁ、世の中知らない方が幸せな事ってたくさんあるよね?

 「お、俺にどうしろと……俺に何が出来るのだ。」

 俺はリィズに合図して、アドラーから離れさせる。

 「別に、ただ、俺に力を貸し続けてくれればいいよ。……今の事も話さずにおければよかったんだけど……納得しないだろ?」

 「ウ……ム……確かに……知らなければエルネミア様のお命を守る為、たとえ殺されたとしても何も話す気はなかった……が……。」

 でも、この内容はあんまりだろ?と情けない顔で訴えかけてくるアドラー……知らんがな。

 

 「魔王の力を得るものは魔王を倒すべし」……今まで信じられていた事以外にも道があると知ったら?

 魔王を倒す力のないものは、魔王に従うしかない。嫌なら、魔王を倒すだけの力をつければよい。……それが弱肉強食の魔族領での絶対的なルール。

 しかし、その絶対的な魔王の力を、単純な暴力以外でも得ることが出来るとしたなら……野心を持つ者達が、それこそなりふり構わずに動くことになるだろう。

 例えば、魔王が自分より大切にするもの……愛人とか子供とか……を盾に取り、力を貰い受ける事も可能だと考えるだろう。

 「混乱が……戦国時代が……訪れる。」

 「だから秘匿されてたんだろ?まぁ、それでも今回の件でどこまで隠し通せるか……。」

 呟くアドラーに答えておく。 

 「どういうことだ?」

 「今回、魔王が倒れた……その力はどこへ行った?倒した者か?」

 「いや、だからエルネミア様に……ってそうか、そう言う事か。」

  事に気付き、頭を抱えるアドラー。


 「にぃに、どういう事っすか?」

 それまで黙って会話を見守っていたリィズが聞いてくる。

 よっぽど気になったのだろう。

 「つまりな、今まで、魔王の力を得るためには魔王を倒すしかないと信じられてきた……ここまでは分かるか?」

 「ウン分かるっすよ。」

 「しかし、今回魔王が倒れたのに、その力を得た者はいない……罠にかけたわけだから、直接倒した者の所に行かなかったとも解釈できるが……その力はどこに行ったのだろう?」

 「だから、娘の所に……って、あ、そうか。」

 「そう、俺達は魔王に娘がいる事を知っている。そして、魔王が力を渡すことにしていることも知っている。しかし、それを知らない奴らから見たら?」

 「誰かが力を得て隠している?」

 「そう思うはずだ。罠にかけた奴は力が自分陣営にない事は知っている。ならば他陣営はどうやって力を得た?そう思うだろう。

 そして、もう一方の陣営は、魔王を倒したはずなのにその力を得た様子はない……力があるなら、自分たちの反抗を許すわけないからな……倒すだけで力を得ることは出来ないのか?ならばその力はどこへ?どうすれば力を得ることが出来る?

 と、まぁ、そう考えるだろうな。」


 「よくわかったっす。……だからアドラーさん何っすね。」

 「その通りだよ。リィズは賢いなぁ。」

 俺はそう言ってリィズの頭を撫でてやる。

 「わ、私もそれくらいわかってたもんね!」

 リィズとの間にカナミが割り込んでくる。

 まぁ、焼きもちを焼くカナミもかわいい……かな?

 俺はカナミの頭も同じ様に撫でると、ふにゃぁーと崩れ落ちる。


 「……どういう事なんだ?俺がどうかしたのか?」

 今回の件で色々バレることが分かっても、それが自分にどうかかわってくるか、までは思い至らなかったらしいアドラー。

 「魔王について分からない事は、知っている奴に聞けばいい……魔王の傍に控えていた側近なら詳しい……だろ?」

 「そう言う事か……。」

 「そう言う事だ……アドラーは人間界に逃げ込んだという工作はしたが、ここに居ることがバレれば、一気に襲ってくるだろうな。」

 「……俺はどうしたらいいんだ。」

 

 「はぁ、だから最初に言っただろ?魔王の娘の場所を教えろって。」

 「エルネミア様と呼べ!……そうだな、事、ここに至ってはレイフォード様に保護してもらうのが一番か。」 

 スパーン!

 俺はアドラーの頭をハリセンで叩く。

 「様付け禁止!」

 頭を抱えてうずくまるアドラーに告げておく。


 ◇


 「じゃぁ、その『闇の世界』に魔王のむす……エルネミアは捕われているって事か?」

 「単純に捕われている、という訳ではないな。その世界の中では自由だからな……こちらの世界に出てこれないだけで……。」

 「それを捕われていると言うと思うんだが……ま、いいか。それで、その『闇の世界』にはどうやって行けばいいんだ?」

 「俺が管理していた領地の奥深くの山の頂に、そこへ至る為のダンジョンを抜けると辿り着ける……と言われておる。」

 「はっきりしないんだな。」

 「ウム……俺も伝聞だけでこの目で見たわけではないからな。」

 アドラーの一族は、代々その場を守る守護職だったという。

 伝聞だけで、その場を守り抜く実直な者達。

 公爵位まで上り詰めたのは、その場所がいかに重要であり、それを守り抜くだけの実力を備えているという事の表れでもある。


 「ま、いっか……じゃぁ、俺達はそこを目指す。アドラーは出来る限り姿を隠して……バレたら、お前が陣頭指揮を執って、ここを死守してくれ。」

 「あぁ、わかった。」

 これで、この後の方針は決まったな。

 とりあえずは、皆に状況説明をして、これからの事を指示しつつ情報を集め……準備が出来たら闇の世界へ……か。やること一杯だな。


 「やること一杯ね。」

 同じことを考えていたのか、カナミがそう言ってくる。

 「まぁ、手分けしてやるしかないよな。」

 「そうっすね……手伝うっすよ。」

 「あぁ、期待してる。」

 俺達は、その後の細々した事を決めて、アドラーとの会見を終えたのだった。


 ◇


 「じゃぁ、ミリィはアルラウネたちと西の方へ……何かわかったらすぐ連絡を……期限は4日しかない……4日経ったら、結果はどうあれ、後はルナ達に任せてY-7ポイントへ向かってくれ。」

 「分かりました。大丈夫ですから、安心して朗報をお待ちくださいね。」

 ミリィには仲間となる種族たちを探すことをお願いした。

 一応、西にあるリザード族の集落を目指すが、その途中にも、有力な種族がいれば勧誘してくるように伝えてある。

 親和性の高いアルラウネ、リリム達が一緒に行動するので、それほど苦労はないだろう。


 「リィズは、ハクレイ達とアドラーの間に立って、軍備の調整を頼む。その後はミリィを頼む。」

 「了解っす。」

 実際に指揮を執るのはアドラーになるので、出来るだけ息を合わせて動けるようにしたい。

 とはいうものの、俺が指揮を執るよりアドラーの方が経験も豊富だし、最初の顔合わせ以降は何も心配する事はないだろう。

 手が空いたら、リィズにはミリィを追いかけてもらう。

 闇の世界の入り口、アドラー領の山まで、ミリィ一人で行かせるのは危険だからな。

 とはいっても、道中は森が多いので、ミリィだけでも問題ないともいえるが……まぁ、リィズに任せる。


 「カナ、前に頼んだ件どうなってる?」

 「ウン、治水事業が少し遅れてるかな?」

 「んー、農作業部の人員を少し回して予定を早めてくれ。後城壁は20%増しで頼む。」

 「了解だよ。」

 カナミには、内政に関して纏めてもらっている。

 今は、全体をセイラと廻ってもらい、カナミがいない時はセイラの指示の下、遅れの無い様に作業が進むのが理想だ。

 その内に内政に特化した人材を育てる必要もあるが、とりあえず今はいる人材を回していくしかない。

 そして、カナミにはミンディアに向かってもらう予定だ。

 レイファが心配しているだろうから、ソラも連れて行ってもらう。

 そして、レイファとランかフレイを連れてきてもらう予定になっている。

 まぁ、龍達が力を貸してくれるかどうかは分からないが、勝率は少しでも上げておきたいからな。


 「三日後だ、三日後にアドラー領に向かう。1週間後にY-7ポイントでミリィ達と合流。転移陣を設置して迎えに行くから、それまでに頼むぞ。」

 「ウン、それだけあれば大丈夫だよ。」

 俺はカナミとセイラと今後の予定について詰めていく。

 魔王の娘と会うのが第一優先とはいえ、そのあと戻ってきたらここが壊滅していました、では意味がないからな。

 

 アドラーとハクレイとも軍事について詰めていく。

 あくまでも防衛戦主体だが、最後の砦を守るためには、防衛線を広げておくのも有効だ。

 ただ、広げすぎると手薄になり本末転倒になる。

 どこまで広げて、どこを重点に守るかなど、細かく詰めていく。

 そう言う意味では、アドラーがいてくれて助かった。

 安心して後を任せれるというのは、精神的に楽なものだ。


 それから三日間、俺は拠点を充実させるために奔走した。

 南側は海に面している為、魚鱗族たちの力を借りたいと考えていた所に、先方から会いたいとの連絡があった。

 何でも、スイちゃんの件が竜人達から魔族領に伝わり、魚鱗族たちの耳に入ったらしい。

 竜人達にも見せたスイちゃんのグラビアショーを見せてやると、翌日には一族総出で集まってくるという反応の良さ。 

 グラビアショーを納めた魔結晶を譲る代わりに、この海域一帯を防護してくれるという。

 うーん、安上がり……なんだろうか?

 しかし、南側をまったく気にしなくてもよくなったのは大きい。

 お礼と言っては何だが、色々片が付いたら、スイちゃんの分体が来てくれるように頼んでみようか。

 

 東の方はミラの砦があり、北にはアルンの砦がある。

 ミラの砦の向こうは森が広がっていて、その向こうは人族との国境。

 アルンの砦の向こう側にはアルバの街……人手がもう少しあり、アルバの街の代表との話により条件が合えば、アルバの街の向こう側にも砦を設置するところなんだが……今はそこまでの時間も人も金もない。

 最悪、アルバの街を盾にしてアルンの砦で食い止める、という手段を取る必要もあるかもしれない。


 「出来れば、そう言う状況に持っていきたくないですな。」

 俺の言葉に対し、ハクレイがそう答える。

 「その為にも、アルバの街との交渉を早めにまとめるべきだ。」 

 アドラーもそう言う。

 「まぁ、とりあえずは俺達が戻るまで何とか持たせてくれればいいさ。交渉とかは後からでもなんとかなるだろう。」

 「そうですね……ここは抜かれないようにします。」

 「あぁ頼む。」


 そして西側は樹海が広がっている。

 そのため、大軍を持って攻めてくるということは出来ない。

 その代わり、小部隊が紛れ込んで、とか、伏兵を忍ばせてなど、搦手のポイントになるだろう。

 出発前にミリィが結界を張ってくれたこと、そしてアルラウネたちが味方になってくれたことにより、この樹海を抜けてくることはほぼ不可能となった。

 たぶん俺でも、案内なしでこの樹海を抜けようと思ったら、かなり苦労することになるだろう。

 

 こうしてみると、ミランの街の守りはかなり強固になったと言える。

 ただ人手不足もあり、これ以上広げると途端に脆くなる……今後の課題だな。

 「後、俺がいない間に配下に入りたいという種族が来た場合だが……この北西のマラバの街で止めておいてくれ。……それが顔見知りであったとしても、だ。」

 マラバの街は、中立ではあるが、各方面から進行するのに中心となる場所に位置する。

 ゆくゆくは押さえておきたいポイントではあるが、今はスルーするしかない。

 信用できない相手はここまでしか通さない……というか通せない。

 本当に味方になりたいと思っているなら、何かあった場合、ここで食い止めてくれるだろう。


 ◇


 こうして三日間はあっという間に過ぎ、ミランの街を後にする。

 「はぁ……やっぱり、個人で動くのが気楽でいい……ゲームならともかく、リアルでのSLGは神経使うよ。」

 (レイ、ずーっと真面目な顔してたからね。ここにシワ寄ってるよ。)

 ファーが出てきて眉間を指さす。

 「ファーも退屈だっただろ?」

 (まぁねー)

 「アドラー領に入るまでは、敵もいないだろうし、しばらくはゆっくりと旅を楽しむか?」

 (そうね、嫁~ずもいないしね。)

 笑いながら周りを飛び回るファー。

 なんだよ『嫁~ず』って。


 俺達は久しぶりの旅を楽しみながら目的地に向かう。

 連れがいない気軽さのせいか3日予定していた道程を2日で踏破した。

 「というか、早く着いてもここで待ってなきゃいけないんだよなぁ。」

 (先に山の麓まで行っておく?)

 「それもいいかもな。どうせ1日以上時間があるんだし、下見に行ってみようか?」 

 俺はファーとそう話し、一人で先に進むことにする。


 時間は有限だからな、有効に使おう。

 この先の山、闇の世界につながっているというダンジョン……どんなところだろうな。

 周りの状況も忘れ、まだ見ぬダンジョンにワクワクしている俺がいた。

 

 

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