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第4話「ゲージってどういう仕組みなんだ」

お読みいただきありがとうございます。ルキアがゲージの仕組みを説明します。直人が「なんで自分だけこんな目に」と聞いてもはぐらかす。転生先は中世ファンタジー世界。魔力が社会階層を決める世界に、魔力ゼロで産まれます。

「なぜ俺が選ばれたんだ」


 直人は聞いた。ルキアはすでに椅子に戻っていて、手元の板を操作しながら答えた。


「特別な理由はないわよ」


「じゃあなんで」


「あなたが条件に当てはまったから」


「条件」


「そう」とルキアは言った。板から目を上げずに続けた。「ゲージが機能する魂というのは、一定数いる。その中でも、今回のような——自分で選んで詰んだタイプは、処理の難易度が高い。担当を決める必要があって、私が引き受けた。以上」


「引き受けた理由は」


 ルキアが少し間を置いた。一拍にしては少し長かった。


「あなたには関係ない」


「ルキアにとっては関係あるんだな」


「……続けるわよ」


 直人は追わなかった。今は情報を集める段階だと判断した。押せる場面かどうかの見極めは、もう少し後でいい。何かある、と思ったが、確かめる方法が今はなかった。


「一つ確認したい。転生先が毎回違うと言ったが、俺には選べないのか」


「選べない。こちらで決める」


「基準は」


「あなたの魂に適した環境。それだけよ」


「具体的には」


「直近の転生先は中世ファンタジー世界。魔力という概念がある世界で、社会階層が魔力の有無で決まる。あなたは農民の三男として生まれる。名前はナオ。魔力はゼロ」


 直人は少し考えた。


「魔力ゼロの農民」


「そう」


「俺にどういう意味があるんだ」


「あなたがどう受け取るかはあなたの問題。私は転生先を決めるだけ」


 それ以上でも以下でもない、という口ぶりだった。反論する余地があるような言い方でもなかった。直人はひとまず飲み込んだ。どんな環境でも、考えることが止まるわけではない。まずは動いてから判断する、というのが直人の基本的なやり方だった——と言いたいところだが、最近はそれすら怪しかった。


「中世ファンタジーで農民として生まれて、ゲージが上がる場面というのはどういう状況を想定している」


「想定はしていない。どうなるかはあなた次第よ。環境はこちらが設定するが、何をするかはあなたが決める。それがゲージに影響する」


「では、農民として普通に生きても上がらないということか」


「可能性はある。『これは俺にしかできない』と深く実感できる場面があれば上がる。農民でも、何でも。問題はあなたにその感覚があるかどうか」


 直人はそれを聞いて少し考えた。農民の三男として生まれた場合、どんな選択肢があるかはわからない。ただ、「俺にしかできない」という感覚は、今の自分には縁遠い話だった。それが問題の根だと、ルキアは言っていた。


---


「ゲージについて、もう一つ聞いていいか」


「どうぞ」


「転生するたびにゲージはリセットされるのか」


「されない。累計よ。今の0.00%のまま次の人生が始まる。次の人生で積み上げた分は、そのまま引き継がれる」


「死に方は関係あるか」


「ある。死ぬ瞬間の状態がゲージに影響する。満足した状態で死ぬのと、諦めた状態で死ぬのでは、最終評価が変わる」


「最後の瞬間に100%になっていればいいということか」


「正確に言うと、死ぬ瞬間に100.00%であること。死の直前に99%でも、死んだ瞬間に100%なら達成。逆に、直前まで100%でも、最後の瞬間に諦めたら達成されない」


 直人は黙って聞いていた。要件定義として整理すると、シンプルではある。ただ「死ぬ瞬間」という条件が曖昧だ、と思った。死に気づかず死ぬ場合もある。その場合、最後の意識がどこにあるのかは本人にも判断できない。


「突然死の場合は」


「その直前の意識で判定される。準備する時間がなかった場合でも、それまでの積み上げが評価に影響する。だからこそ日常の積み重ねが重要よ」


「死ぬ瞬間、というのはいつを指すんだ。心肺が停止した時点か、脳が止まった時点か」


「魂が体から離れた瞬間よ。秒単位の話じゃない」


「では諦めた状態で死ぬ、というのは」


「最後の意識が諦めで終わった場合よ。あなたが倒れながら『まあこんなものか』と思えば、それが評価される」


「それは俺次第だな」


「そう。私が操作できる部分ではない」


 それなら、少なくともその部分は自分でコントロールできる。直人はそう理解した。


「ゲージは急上昇するか」


「する場合もある。ただし例外的よ。基本的には少しずつ動く。一気に30%が上がるような場面もあるが、それが起きる状況は相当な何かが必要」


「ロックというのは」


「私が固定すること。あなたが慢心して楽をしようとしたとき、ゲージを上がらなくする。慢心が解消されるまでロックは解けない」


「それを判断するのはあなたか」


「そう」


「やはり恣意的だな」


「私はそういう権限を持っている。気に入らなければそう言えばいい」


「言ってなんになるんだ」


「スッキリするでしょう」


 直人は返事をしなかった。スッキリするかどうかよりも、ロックを喰らわないための判断基準を明確にしたかった。ただ、その基準自体が「ルキアの主観」であるなら、明確にしようがない。


---


「転生したら、記憶はそのまま持っていけるか」


「持っていける。ただし、体はゼロからリセット。赤ちゃんから始まる」


「赤ちゃんから」


「そう。記憶はある。でも体がついてこない。歩くことも、しゃべることも、また覚え直す。前の人生で培ったものは感覚として残る。体が慣れるまでに時間がかかる」


 直人はそれを聞いて少し考えた。記憶がある状態で赤ん坊に戻るのは、想像するとなかなかきつい。ただ、仕様がそうなら変えようがない。文句を言う立場でもなかった。


「前の人生での経験は、次の人生に使えるか」


「使える。知識も、感覚も、引き継がれる。ただし体への定着に時差がある。転生直後は体が記憶を持っていない。動かそうとしても動かない。徐々に馴染んでいく」


「わかった」


「質問は終わり?」


「もう一つ」と直人は言った。「あなたは俺の転生先に同行するのか」


 ルキアが少し間を置いた。


「しない。ここで待っている」


「転生と転生の間は、また会えるのか」


「あなたが死んだら、また呼ぶ。反省会をする」


「反省会」


「前の人生を振り返る時間よ。義務ではないけど、やっておいた方があなたにとっても有益」


 直人はそれを聞いて少しだけ意外に思った。ルキアの口調は常にそっけなかったが、反省会という提案には妙にある種の誠実さを感じた。世話を焼く気があるのかどうか、判断がつかなかった。


「反省会では何をするんだ」


「前の人生のダイジェストを見ながら話す。私があなたの行動を指摘して、あなたが反論するか受け入れるか、それだけよ」


「酒でも飲みながらか」


「飲みたいなら飲んでいい」とルキアは言った。「ここには時間制限はないから」


 直人は視界の右上を見た。0.00%。変わっていない。今まで何十年生きてきたかを数えた。三十五年。そのすべての実感がゼロだと言われているのと、大差ない話だった。


---


「じゃあ、始めましょうか」とルキアが言った。


「今すぐか」


「嫌?」


 直人は少し考えた。嫌かどうかで言えば、特に嫌ではなかった。急いでもいないが、待つ理由もない。魔力ゼロの農民として生まれる、という情報だけで始まるのは心細いように思えたが、詳細な情報を事前に与えても意味がない仕組みなのだとも理解できた。現地で判断するしかない。それだけのことだった。


「いや、いい」


「では目を閉じて」


「閉じたら転生するのか」


「説明している間に転生させる。目を閉じていた方があなたが楽よ」


 直人は少し間を置いてから、目を閉じた。白い空間がまぶたの裏に透けているような気がした。今まで見えていたものが、少しずつ薄くなる感じがした。


 重力が変わる感じがした。足の裏の感触がなくなり、何かが遠くなって、何かが近づいてくる。身体の輪郭が曖昧になっていく。思考だけが最後まで残って、それもやがて薄れた。


 最後にルキアの声がした。


「ちゃんとやりなさい。減らす気は十分にあるから」


 直人は答えなかった。言葉を返したかったが、口が動かなかった。答えるより先に、意識が遠くなった。最後の感覚は、白さだった。


次話:第5話「俺、魔力ゼロらしい」

転生した世界での最初の試練は、六歳の魔力検査からです。


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