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第16話「一回戦、魔力Bランク騎士を三秒で倒した」

お読みいただきありがとうございます。王都に到着し、大会が始まりました。一回戦の話です。

王都に着いたのは、出発から三日目の朝だった。


 初めて見る王都は、ナオが想定していたより大きかった。城壁の高さが村のそれとは比べものにならない。城門の前には人が列をなしている。道の幅が、村の街道の倍以上ある。レンガ造りの建物が連なり、人の声と馬の蹄の音と物売りの声が重なって、空気全体がうるさかった。


「王都だ!」とカインが言った。目が輝いている。「でかいな!」


「最初の王都は誰でもそうなる」とクルトが言った。クルト自身も、しきりに周囲を見回していた。


 エラは黙って周囲を観察していた。目が細い。人ごみの中の動きを確認しているような視線だった。「スリに気をつけた方がいい」とエラが言った。「荷物は体の前で持った方がいい。あと、視線が不自然な人間が三人いる」。ナオは「どこだ」と聞いた。エラが目で示した。なるほど、確かに怪しかった。


 大会会場は城の近くにあった。広大な石造りの闘技場だった。観客席が何段にも重なっており、まだ大会前日だというのに、周囲には屋台が出て人が集まっていた。


---


 参加者の受付は会場内の控室で行われた。


 三十二名が集まっていた。全員が武装しており、魔力を帯びた空気をそれぞれが纏っている。ナオが入室したとき、視線が集まった。リストが出回っているらしく、「あれが魔力ゼロか」という声が聞こえた。複数の方向から、品定めするような目線がきた。


 ナオは気にせず、組み合わせ表を受け取って確認した。


 一回戦の相手は「ヴェルト・グレーン、二十一歳、騎士団所属、魔力ランクB」とあった。使用魔力は強化系。近接戦が主体とある。二回戦以降の相手は組み合わせ次第だが、トーナメント表を見ると、決勝まで進んだ場合の相手はガルデン・ウィラードかセリア・ナルブのどちらかになる可能性が高かった。


 クルトが後ろから覗き込んだ。


「一回戦の相手、魔力Bだ。お前が普段戦ってる冒険者連中より上だぞ」


「そうだな」


「不安じゃないのか」


「動き方は見てからだ」


 クルトが溜め息をついた。カインが「俺も出たかったな!」と言った。エラが「あなたは審判に止められる前に暴走する」と言った。カインが「そんなことないぞ!」と言った。二人のやり取りを聞きながら、ナオは明日の試合の順番を確認した。


---


 翌朝、大会が始まった。


 会場は満席だった。観客の多さに改めて驚いた。前の世界でも、スポーツ観戦には縁がなかった。こういう場に立つのは初めてだった。


 ナオの試合は四番目だった。最初の三試合を控室から聞いていた。魔法の炸裂音と観客の歓声が壁越しに伝わってくる。魔力を持つ者同士の戦いは、音が違う。


 自分の番が来た。


 通路を進むと、前の試合の熱気がまだ残っていた。石の床に焦げ跡がある。魔法の直撃で焦げたらしかった。魔力を持つ者同士の戦いは、こういう痕跡を残す。ナオにはそれがない。痕跡が残らない戦い方、と言われれば、ある意味その通りだった。


 通路から闘技場に出ると、日光が目に入った。観客席が視界に広がる。アナウンスの声が響いた。


「次の試合。青コーナー、王国騎士団所属、ヴェルト・グレーン選手! 赤コーナー、カセン村出身、冒険者、ナオ・カセン選手——特例推薦枠、魔力ランクなし!」


 一瞬、観客席がざわついた。それから笑いが起きた。


「魔力ゼロか」


「可哀想に、誰が特例で入れたんだ」


「農民が来たぞ」


 声は聞こえていた。うるさい、と思ったが、その声に答える気にはなれなかった。答えを返す必要がある相手ではない。前の世界で、何か言われるたびに頭の中でいちいち反論していたことがあった。今はしない。それより目の前の人間を見た方がいい。


 相手のヴェルト・グレーンが対面に立った。体格がいい。構えが安定している。目が落ち着いている。実力はある、とナオは判断した。魔力Bランクというのは、ギルドで絡んできた三人よりも明らかに上だ。なめてかかる相手ではない。


 ただ、ナオが観察したいのは一点だけだった。試合開始の合図の直前に、相手がどちらの足に重心を乗せるか。そこだけ見れば、最初の動きが読める。魔力強化があっても、体の使い方には必ずクセがある。強化される前に体が傾く。その一瞬が入口になる。


 レオンとの稽古で、それを何十回も繰り返した。


 審判が手を上げた。


 ヴェルトの重心が右に乗った。


 合図と同時に、ナオは動いた。


---


 三秒後、ヴェルトが地面に転がっていた。


 観客席が静まり返った。


 ナオは立ったまま、呼吸を整えた。息が乱れていない。転倒させるまでに受けた接触はゼロだった。相手の踏み込みを半歩でかわし、重心が戻る前に体に入り、脚を払った。倒れる方向を制御して、地面に落ちたところで押さえた。相手が降参のサインを出した。それが三秒だった。


 審判が数秒、動かなかった。


 それから我に返ったように声を上げた。


「え……えー……赤コーナー、ナオ・カセン選手、勝利!」


 観客席がまだ静かだった。次に、誰かが「何が起きた」と言った。それから少し遅れて、まばらな拍手が来た。


 ナオは審判の方を向いた。


「次の試合は何時ですか」


 審判が止まった。


「……一時間後です」


「わかりました」とナオは言った。控室に戻った。


---


 控室で待っていた三人の反応は三者三様だった。


 カインが「すげえ!!」と言いながら飛びついてきた。肩を強く叩かれた。「三秒だぞ!! 何あれ! 相手何も見えてなかったんじゃないか!?」


「見えてたと思うが、動きが速すぎたんだろう」


「お前が速いんだよ!」


 クルトが腕を組んで立っていた。


「……お前、魔力強化なしで、あの動きか」


「強化がないから動き方を変えてる。違う種類の速さだ」


「それが問題なんだよ。あの客、何が起きたか理解できてないぞ。俺もわかった振りしてるが、実は何をしたのかよく見えなかった」


「重心の話をすれば一言で説明できるが」


「いや、いい」


 エラが「二回戦以降の相手は変わってくる」と言った。声が平静だった。「情報が回る。一回戦の映像を他の参加者も見ている。対策を立ててくる相手も出てくる」


「そうだな」


「大丈夫?」


 エラが「大丈夫?」と聞いてきたのは、珍しかった。ナオは少し考えた。


「確かめたいことがまだある。大丈夫だ」


 エラが小さく頷いた。


---


 二回戦と三回戦は、一回戦より時間がかかった。


 二回戦の相手は魔力C上位で、防御魔力で壁を作る型だった。物理で打ち破ることはできない。壁の持続時間を確認した。二十秒ほどで魔力が切れる。その瞬間を狙った。三十五秒かかった。


 三回戦は魔力Bの攻撃型だった。魔法の射程と照準のクセを読んだ。射程外から詰めて、接近してしまえば魔法は使いにくい。一分かかった。


 準決勝が終わったとき、観客席の空気が変わっていた。笑いは消えていた。「農民」と呼ぶ声も聞こえなくなっていた。かわりに、ナオが動くたびに息をのむような静けさが来るようになっていた。試合後の拍手の大きさも、一回戦から明らかに変わっていた。


 観客席の一角に、カインたちがいるはずだった。確認しなかった。見てしまうと集中が崩れる気がした。ただ、そこにいる、という感覚は常にあった。


 視界の右上を確認した。15.00%。変わっていない。試合で勝つことそのものは、ゲージには関係しない。ルキアの言ったことが、改めて実感できた。勝敗よりも、自分が何を感じたかだ。今日の自分は、「動かなければならない」から動いていた。まだ何かが足りない気がした。


 宿に戻ると、カインが今日の試合について一時間以上しゃべり続けた。クルトが途中から「うるさい」と言いながらも、自分も三回戦の分析を始めた。エラが「明日の相手のことを考えましょう」と言った。四人でトーナメント表を広げて、残った参加者を確認した。決勝の相手は、ガルデン・ウィラードに決まった。


 明日、決勝がある。

次話:第17話「決勝、魔力Aランクを倒した瞬間」

いよいよ決勝。相手は魔力Aランク——大会最強の男です。続きが気になった方は、ぜひブックマークや【☆☆☆☆☆】評価で応援いただけると嬉しいです!

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