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第13話「魔力ゼロの冒険者、という評判」

お読みいただきありがとうございます。廃坑の一件でナオの評判が広まり始めます。ただし、良い評判だけではないようです。

廃坑討伐の話は、広がるのが早かった。


 オーガ種の亜種を含む廃坑を、新人パーティーが全員生還で制圧した。しかも前衛は魔力ゼロの農民上がり。そういう話が冒険者ギルドに届くまで、三日もかからなかった。


 最初に変わったのは依頼の数だった。


 以前は村周辺の魔物除けの仕事しか来なかったが、廃坑の話が広まってから、中型の魔物討伐依頼が来るようになった。報酬も上がった。カインは「有名になってきたな!」と言って喜んだ。エラは「依頼の難易度を見て選びましょう」と言った。クルトは「なんで俺はこんなところにいるんだろう」と言った。ナオは依頼書を読んでいた。


 レスが「うまくやっているな」と言ってきたのは、廃坑から一週間後だった。


「予想より早い。お前の立ち上がりは」


「カインとエラが動ける。クルトは状況判断が的確です」


「お前の話をしているんだが」


「パーティーの話です」


 レスが少し間を置いた。


「そういうところが面白いんだよ、お前は」とレスは言った。呆れているのか感心しているのか、判断がつかない口調だった。


 ナオはその言葉を聞いて、少し考えた。面白い、とレスは何度か言う。ナオ自身はそれほど意識していないことを、外から見ると「面白い」と見えるらしかった。前の世界でも、自分の言動が周囲の予測と外れていると気づくことが時々あった。自分の基準が他人と違う、ということだろうか。その感覚はこの世界でも変わっていなかった。


---


 問題が出てきたのは、二週間後だった。


 冒険者ギルドから依頼が増えた一方、ギルド内の一部から「格下のくせに目立つな」という空気が出始めた。


 最初は軽い嫌がらせだった。


 依頼の受付でわざと後回しにされた。ギルドの建物に入ると、上位冒険者たちの視線がある。通りかかるたびに、わざと肩をぶつけてくる者もいた。ギルドで食事を取っていると、隣のテーブルから聞こえよがしに「魔力ゼロが冒険者とか、ギルドの品格が下がる」という声がした。


 カインが「なんか感じ悪くないか」と言った。エラが「魔力ゼロが冒険者登録しているのが気に食わないんでしょう」と落ち着いた声で言った。クルトが「お前の話じゃないのか」とナオに言った。


「俺の話だな」とナオは答えた。


「怒らないのか」


「怒っても評判は変わらない。結果で変えていくしかない」


 クルトが「……まあ、そうだな」と言った。


 前の世界でも似た経験はあった。組織の中で、肩書きや出自で判断してくる人間は必ずいた。そういう人間に言葉で説得しようとしても変わらない。結果を積み重ねるか、立場を変えるか、どちらかしかない。この世界も同じ構造だった。


 カインが「ナオ、本当に気にしてないのか? 俺だったら腹立てるけど」と言ってきた。


「腹が立たないわけではない」とナオは言った。「ただ、腹を立てている時間が惜しい」


「そういう考え方、俺にはできないな」とカインが言った。感心したような顔だった。


「お前の方が健全だと思う」とナオは答えた。「感情に素直な方が、長期的には動きやすい」


 カインが「どういう意味だ?」と聞いてきた。ナオは「説明が難しい」と言った。本当に難しかった。


---


 レスに話したら「無視しろ」と言われた。


「ギルドの序列はあてにならない。お前の実績は俺が把握している。ギルドに認めてもらう必要はない」


「ただ、実際に絡んでくる者が出た場合は」


「その場で対処しろ」


 端的だった。ナオは「わかりました」と答えた。レスは「壊すな」と付け加えた。「なるべく」とナオは返した。レスが少し眉を上げた。


---


 その機会が来たのは、翌週の夜だった。


 ギルドの近くの通りを一人で歩いていたとき、角から三人が出てきた。ランク持ちの冒険者だった。全員二十代の男で、武装している。下見をしていたような出方だった。


 リーダー格らしい男が前に出てきた。


「お前が魔力ゼロの新人か。最近調子に乗ってるって聞いたぞ」


「調子に乗った覚えはありませんが」とナオは答えた。


「依頼を取りすぎだ。うちらの仕事を奪ってる」


「同じ依頼を先に取ったなら申し訳ありませんが、どの依頼が重複しているか教えてもらえますか。確認します」


 男が少し詰まった。理屈で返してくると思っていなかったらしい。


「……俺たちを舐めてんのか、お前」


「舐めていません。話し合いで解決できるなら、そちらが早いと思っています。どの依頼について問題があるのか、具体的に——」


「うるさい。魔力ゼロのくせに」


「はい」


「何がはいだ」


 三人が動きに入った。


 ナオは短く溜め息をついた。


 面倒だな、と思った。話し合いで解決できない相手はいる。前の世界でもいた。そういう場合、最短で終わらせることが双方にとって最善だ。


---


 最初の一人が腕を伸ばしてきた。ナオは半歩引いてその腕をかわし、重心が前に出たところを横から押した。一人目が崩れた。膝から落ちた。


 二人目が脇から来た。足元を見た。踏み込みの軸が右にある。一歩だけ動いて体を入れ替えた。二人目の肘を取って、そのまま地面に落とした。腕を過度には締めなかった。折れると面倒が増える。


 三人目——リーダー格の男が止まった。


 二人が二秒かからずに倒れた。それを見て、男は動かなくなった。


「まだやりますか」とナオは言った。


 男が何も言わなかった。顔が赤い。怒っているのか恥ずかしいのか、どちらもあるのだろう。


「やめとけ」という声がした。ナオではない。通りの後ろだった。


 振り向くと、レオンが立っていた。訓練場で戦った、レスの兵士だった。夜の通りに、腕を組んで立っていた。


「その魔力ゼロは、俺から一本取った男だ。お前ら三人がかりでもまず無理だ。帰れ」


 リーダー格の男が舌打ちをした。倒れた二人を引き起こして、三人で立ち去った。立ち去り際に「覚えてろ」という声が聞こえた。ナオは「覚えていますと言いたいところですが、忘れます」と心の中で返した。覚えていると余分な警戒が増えて、動きが鈍くなる。関係のない情報は処分した方がいい。


---


「なんで俺ってこう、揉め事に巻き込まれるんだ」


 ナオは独り言を言った。


「自分で動くからだろう」とレオンが言った。聞こえていた。


「……それはそうですね」


「嫌か」


 ナオは少し考えた。


「嫌じゃないですが、面倒です」


「同じことだ」とレオンは言った。口の端が少し上がった。「強くなれば減る。続けろ」


 それだけ言って、レオンは歩いて行った。礼を言う間もなかった。


 ナオは視界の右上を確認した。15.00%。変わっていない。今日の動きは、実感ではなかったのだろう。対処しなければならない状況で動いた。それは「俺が選んだ」とは少し違う。義務に近い。


 ただ、レオンが来なくても同じように対処していたと思う。それが「選んだ」と言えるかどうかは、まだわからなかった。


 ギルドに戻ると、カインたちが待っていた。


「遅かったじゃないか。何かあったか?」とカインが聞いてきた。


「少しあったが、解決した」とナオは答えた。


「また絡まれたんじゃないか?」とクルトが言った。なんとなく察しているらしかった。


「まあ」


「怪我は」


「ない」


 クルトが「そうか」と言って、それ以上は聞かなかった。四人で夕食を取った。カインがよく喋り、エラが時々口を挟み、クルトが突っ込んだ。ナオは聞いていた。


 目的のない会話だった。前の世界なら、意味がわからなかったかもしれない。今はそうでもなかった。


次話:第14話「クルトが本音を言った」

珍しく、クルトが自分のことを話します。


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