第11話「パーティーを組まされた」
お読みいただきありがとうございます。レスに「パーティーを組め」と言われて三人が集められました——カイン、エラ、クルト。それぞれが自分のやり方を持つ四人の、最初の話です。
レスが村に来たのは、討伐の三日後だった。
「お前、冒険者として登録しろ」
いきなりだった。ナオは畑の作業の手を止めた。
「農民なんですが」
「知ってる」とレスは言った。「農民のままでいたいなら農地に帰って土を耕せ。俺の下で働くなら冒険者として登録する。どちらかを選べ」
ナオは少し考えた。
冒険者、という言葉の意味はこの世界では知っていた。ギルドに登録して、依頼を受けて魔物を討伐したり、荷物を護衛したりする仕事だ。魔力持ちが多い職業で、魔力ゼロが登録するのは前例がほとんどない。この世界では目立つ選択になる。
ただ、農民のまま畑を耕し続けることに、ナオは特にこだわっていなかった。前の世界で「コンサルタントとしてのキャリアを守りたい」という感情を持てなかったのと似た理由だ。肩書きより、今何ができるかの方が大事だった。それはこの世界でも変わらない。
「わかりました。登録します」
レスが軽く頷いた。表情は変わらないが、何かを予想通りに確認した、という顔だった。
「パーティーを組む。三人、紹介する。明日、村の広場に来い」
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翌日、広場に行くと三人が待っていた。
ナオより年下が揃っているのか、とまず思った。自分は今十六歳で、この三人を見ると全員似たような年齢に見える。前の世界では三十五歳だった。その感覚と、今の体の年齢が、まだ時々ずれる。
一人目は、カインという名の十八歳の男だった。背が高く、体格がいい。村の鍛冶屋の息子だと後で聞いた。腕や肩の筋肉のつき方が農民とは違う。最初に口を開いた。
「よろしくな、ナオ! 俺、カイン。魔物討伐やりたくてずっと機会待ってたんだ。ゴブリン倒したって聞いて、うちの親父に頼み込んでここに来た。よろしく、本当によろしく!」
一息だった。
ナオは一拍置いてから「よろしく」と答えた。元気があるのは良いことだ、とは思った。ただ、元気と判断力は別の話で、戦いの場でその違いがどう出るかはまだわからない。体格は悪くない。前に出る気があるのも伝わった。まずは動きを見てから判断する。
二人目は、エラという名の十六歳の少女だった。背が小さく、腰に弓を携帯していた。ナオを見る目が警戒している。品定めされているような視線だった。
「エラです。よろしくお願いします」
短かった。それ以上は何も言わなかった。
「よろしく」とナオは言った。弓が得意と聞いていた。目の鋭さから見て、実力はある、と判断した。ただ、こちらをまだ信用していないのは伝わった。急ぐ必要はない。信用は積み重ねで作るものだ。
三人目が来たのは、少し遅れてだった。
「来ましたよ、一応」
クルトだった。
「お前も来るのか」とナオは言った。
「俺も来るのか、じゃないよ。レス様に声をかけられたんだ。俺は渋々だからな。勘違いするなよ」
「わかった」
「なんかお前、嬉しそうだな」
「そうか」
「嬉しくないのか?」
「クルトが来るなら動きやすい」とナオは言った。「お前の判断は信用してるから」
クルトが少し黙った。そわそわした顔になった。
「……そういうこと、急に言うなよ」
カインが「知り合いなのか?」と聞いてきた。「幼馴染です」とナオが答えると、カインが「いいじゃないか、信頼できる仲間がいるのは最強だな!」と言った。クルトが「最強とかじゃないから」と返した。エラが遠くを見ていた。
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メンバーが揃ったところで、レスから最初の依頼が言い渡された。
「近くの廃坑に魔物が巣食っている。討伐してこい」
「廃坑の規模は」とナオは聞いた。
「三層構造。今は使われていない採掘跡だ。情報では中型の魔物が数体いる。難易度は高くない」
「魔物の種類は」
「不明。ただし上位体ではないと思われる」
「内部の地図はありますか」
レスが少し間を置いた。ナオを見た。
「……ないが、用意させる。明後日、地図を届けさせる」
「ありがとうございます」
「ただし」とレスが続けた。「全員が帰ってくること。一人でも欠けたら失敗と見なす」
カインが「任せてください!」と言った。クルトが「そんな無茶な」と言った。エラは黙っていた。
ナオはその条件を聞いて、少し考えた。魔物討伐において、全員生還を条件にするのは厳しい設定だ。ただ、それはつまり「死んでいい奴はいない」という前提でパーティーを組め、ということでもある。合理的な制約だと思った。誰かが死んで良い前提の作戦は、最初から歪む。全員帰る、という前提を守る方が、かえって動きやすくなる場面が多い。
「わかりました」とナオは答えた。「一人も欠けません」
レスがナオを見た。何か確認したような顔だった。
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廃坑に向かう道中、カインがずっとしゃべっていた。
魔物の弱点を聞いてきた。得意な武器を聞いてきた。どこで戦い方を覚えたかを聞いてきた。どこの生まれかを聞いてきた。好きな食べ物を聞いてきた。
ナオは質問のたびに短く答えた。カインは返事のたびに「そっか!」「なるほど!」「すごいな!」で返してきた。会話の密度がものすごく高かった。前の世界で飲み会が苦手だった理由の一つに、こういうテンポの人間と話すのが難しかったこともある、とナオはぼんやり思った。目的のない会話が苦手だった。何のために話しているのかわからないと、答えを返すコストが大きく感じられた。
ただ今は、苦手、という感覚がそれほど強くなかった。カインの質問には、純粋な興味がある。計算がない。それが伝わると、答えを返すのが苦ではなかった。なぜかはわからないが、前の世界と何かが違った。
エラはナオの斜め後ろを歩いていた。何も言わなかったが、ときどきナオの方を見ているのが気配でわかった。クルトが「エラは口数が少ないんだ」とこっそり教えてくれた。「初対面の人間を観察するタイプだ」とも言った。
「それは俺も同じだな」とナオが答えたら、クルトが「お前は観察してるのがバレないだけだろ」と言った。
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廃坑の入口は、朽ちた木材で補強されていた。昔の採掘道具が散乱している。坑道の奥から、臭いと気配がしていた。
ナオは入口の前で止まって、四人の顔を見渡した。
カインは前のめりになっている。目が輝いている。まったく恐れていない顔だ——というより、恐れる前に興奮が先に来ているタイプだ。エラが弓に手をかけている。目が落ち着いている。前に出る気はないが、後ろから援護する準備はできている、という立ち位置がわかった。クルトが腕を組んで、少し顔が引きつっている。不安なのは顔に出ているが、逃げる気がないのも顔に出ている。三者三様だった。
なんで俺がこんな、という考えが頭をよぎった。
ただ次の瞬間、その考えは消えた。後ろに三人いる。入口はこの先にある。どう動けばいいかは、今の自分が一番わかっている。「なんで俺が」という問いの答えは、「他に動ける人間がいないから」だ。それで十分だった。
「……まあ、やるか」
ナオは声に出して言った。
「何かひとりごと言ったか?」とクルトが聞いた。
「何でもない。入るぞ。カインは俺の後ろ。エラは一番後ろ。クルトは中間で周囲を見ていてくれ」
「了解!」とカインが言った。「わかった」とクルトが言った。エラが短く頷いた。
四人で廃坑の中に足を踏み入れた。
足音が変わった。土の感触から、石の感触に。外の光が遠くなる。内部の空気が、冷たく澱んでいた。前の世界にいたとき、こういう場所に来ることは一度もなかった。今は、誰かの前を歩いている。後ろに三人の足音がある。それが当たり前になっていた。
次話:第12話「ゲージが初めて動いた」
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