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第31話

「行くぞ〜」


 経理課の面々が鞄を持って部屋を出ていく。無論俺も追随する。

 時刻は18時、今日は前期決算お疲れ様会だ。


 広い居酒屋をワンフロア貸し切って、会社持ちで飲めや騒げやの宴会が開催される。

 ……飲んで騒ぐ人間はうちの会社にはいないが。さすがに会社の名前で飲むわけだし。


 そこで酔った上司からありがたい話を聞くもよし、普段は話さない他部署の人に絡みに行くのもよし、久々に会う同期で噂話をするのもよし。

 節度を守った無礼講ほど楽しい場はないのだ。


 前期が終わればすぐに年末が見えてきて、決算期、そして監査対応と、言わばこれは終わりの始まりだ。

 人事課ならば年末調整に次年度の異動、企画課や広報課は来年の契約準備、営業課は言わずもがな期末追い込みと、冬にしてはホットな仕事が待っている。


 そんなことをぼんやりと考えていたら、目の前に見知った姿が。


「よう、花巻。人事課も今からか?」


 くるりと振り向くと、彼女はいつものように悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 綺麗系おとなしめの女性かと思いきや、悪ガキのような表情。ギャップで風邪をひきそうだ。


 永遠に彼氏ができないと宣っているが、狙ってる男性社員は多いはずなのに。

 理想が高いんだろうか。


「お、藍野じゃ〜ん!そうそう、なんとか仕事切り上げてみんなで……って経理課もかな?」


 二つの人だかりが、次第に融合して綺麗な二列になる。

 統率のとれた動きもなんのその、うちの社畜たちは訓練されているのだ。


 人事課と経理課の仲はどちらも事務系だからか概ね良好だ。

 双方での人事異動も多いから、元同僚だという人同士も珍しくない。


 いや、そもそも事業系の企画課から事務系の経理に流された俺が外れ値なだけだが。


「この飲み会やると、夏が終わったって感じするよね」


 晩夏の風物詩になってしまった飲み会。

 ここからはまた新しいスタート、新しい風が吹くのだ。

 ……新しいとは言っても、残業中にそよぐ暖房の生ぬるい風だが。


「わかる、ここから地獄だぞ」


「やだ、やめてよ……今日は馬鹿みたいに飲んで楽しい気持ちのまま土曜日に雪崩込むんだから」


 あー、こいつ何次会かわからないが最後までいるつもりだな。

 今の40代50代って平気で朝まで飲んだりする……特にうちの管理職は。

 一体どんな肝臓してるんだか。


 最近揚げ物が辛くなってきた俺は、遅くとも終電では帰ろう。


「そういえば今回の前期お疲れ様会の幹事は企画課らしいよ」


「……ということは」


 おかしいと思ったんだ。

 自惚れではないが、こういう時いつも鳴宮が隣にいるのだ、「行くわよ!藍野くん、お偉いさんの隣から逃げるためになるべく下座を狙うわよ!」とか何とか言いながら。


「まぁ、やってるでしょうね」


 気を引き締めていかねばならない。

 これが総務だったら何事もなく飲み会は始まるのだが、企画課が幹事となると話は変わってくる。


 くじ引きで席を決めるのは当たり前、突然ビンゴやカラオケ、大食い大会が始まったり、来るはずのない社長を呼んだりと「おもしろそう」の欠片が少しでもあれば実行してしまうのが彼らなのだ。


「まぁ羽目は外さないから大丈夫でしょ」


「俺は大食い大会とかに巻き込まれたくないから、なるべく端に座ろうかな」


「お、じゃあひなちゃんも最初の方はどうせ幹事の仕事やらお偉いさんに挨拶でいないだろうし、こっちはしっぽり飲んじゃう?」


 確かに。あいつがお酒を飲むのは飲み会の中盤以降だろう。

 いやいや待て、どうして俺と鳴宮が一緒に飲むのは既定路線みたいになってるんだ。


「どうして俺と鳴宮が……みたいた顔してるけど、今までのあんたたちを思い出してみなさいよ。今まで一度だって大きな飲み会で別の席だったことある?」


 思い返せば、一回もないな。あれ、なんでないんだ。

 そりゃ俺も会社の中で顔が広い方だとは口が裂けても言えないが、それにしても鳴宮との遭遇率が高い。


「はぁ……気がついたようね。というか、そりゃひなちゃんも苦労するわけだ」


「謂れのない悪口だ!」


「謂れしかないわ。自分の胸に手を当てて……いや、ひなちゃんの胸に手を当てて考えて、そのままいい雰囲気になっちゃえばいいのに」


「こんな道のど真ん中で何言ってんだお前は、あと周りに聞こえるから、な?」


 やがて目的の店が見えてくる、

 先に着いていた集団も、ものの数秒で扉の奥へと吸い込まれていった。


 さすが企画課、手際が半端ない。


「あ、そうだ藍野〜」


 花巻はこちらを見ずに口を開く。

 なんだ、いつもはいたずらでもしてやろうと舌なめずりしているやつが。


「うちの後輩に藍野と話してみたいって子がいるから、連れてっていい?」


「そんなことわざわざ許可とらなくてもいいぞ」


 こうやって飲み会の時に人脈を広げるのも大切だからな。


「ん〜〜〜、まぁいっか!ひなちゃんには後で怒られようね!」


「どうして俺も怒られる前提なんだよ」


「しーらない!んじゃまた後で〜!」


 そう言って花巻は手を振りながら先頭へと歩いていく。

 ほんと、嵐みたいなやつだ……。


 俺はこれから出てくる料理に思いを馳せながら、経理課の輪へと足を進めた。

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