89話 投げナイフの使い手
剣闘士名“奇妙な短剣”の2人が刺客であると、フリーダムから伝えられたバンブロック。
だが、この情報は微妙だ。
刺客でもそうでなくても、結局は試合に勝たなくてはいけないのは、変わりないからである。
違いがあるとすれば刺客だった場合は「負け=死」であり、そうでない場合は「負け=死ぬかも」くらいの差である。
「どの道、勝てば良い話だな」
バンブロックはそうつぶやいて、割り切ることにした。
ただし今回は、バンブロック一人だけではない。モナとのタッグを組んでの試合である。
下手するとモナに危険が及ぶ可能性もある。それは何としても防ぎたいと思うバンブロックだった。
広場でバンブロックが鍛錬に入ると、モナがやって来た。ランクCの獣人剣闘士仲間も一緒だ。
「ロック、奇妙な短剣の試合を見たことがるって奴を連れて来たぞ」
そう言ってモナが獣人男を前に出す。
『(ど、どうもバンブロックさん。俺はここに来る前に奴らの試合を一度だけ見たんだ。2対2の試合だよ。あいつらはナイフ投げが得意なんだが、投げたナイフを自在に操れるって噂だよ)』
「それは魔術なのか?」
『(その辺は見た人によって意見が分かれるんだ。一応、本人達は魔術が使えるって触れ込みだけど、剣闘士の中には箔を付けるために、嘘を言う奴もいるんで、本当のところは関係者しか知らないだろうね)』
――ナイフを自在に操れるとなると、ちと厄介な相手になるな
「まさかそいつら、投げナイフに毒とか塗ったりしないよな?」
「それはないって話かな。あくまでも投げナイフの威力だけで戦うって、俺は聞いたんで。でも色んな形のナイフを投げるらしいから、惑わされないようにな」
「そうか、情報助かったよ」
「いやあ、バンブロックさんの勝利のためだからこれくらい、ははははは。じゃ俺はこの辺で!」
獣人は自分の鍛錬に戻って行った。
残ったモナとバンブロックは、顔を見合わせる。そしてバンブロックが口を開く。
「俺達も鍛錬するか」
「知らんけど、そうしよっか」
特に対策を考え付く訳でもなく、2人は木剣を打ち合うのだった。
□ □ □
そして試合当日。
バンブロックとモナはコロシアムへと到着し、獣車の檻から出されると、早速バンブロックに近付いて来る怪しい獣人子供集団が現れた。
5人程のガキンチョらで、わざとらしくふざけ合う仕草を見せている。
護衛オークが近付かせないように追い払おうとすると、ガキンチョらは鬼ごっこでもするかの様に逃げ回る。
すると他の護衛オークも近付いて来て、追い払いに加わろうとする。
そこでガキンチョらが本格的に動き出す。
年長者らしいガキンチョが走り寄る。ただ走り寄ったのはモナの所だ。
そして手を伸ばし、モナの胸をまさぐったのだ。
「おいっ、このエロガキンチョがっ。今、私の胸を揉んだだろっ、知らんけど!」
モナは枷が付いたままとはいえ、ガキンチョを捕まえようと暴れまくり大混乱となる。
それで護衛オークは全員で対処する事になった。
その混乱に紛れて小柄なガキンチョが、何食わぬ顔でバンブロックに近寄ると、腰布に何かを差し込んだ。
――何だ、こいつら。良く訓練されてやがるな
バンブロックの腰布に差し込んだものとは、手紙である。
ガキンチョ共がいなくなり、バンブロックらはやっとコロシアムの中へと入って行く。そこでバンブロックはこっそりと手紙を読んだ。
そこには人間語で「衛兵オークの中に敵対者が紛れている」とだけ書いてあった。
これが本当ならば、かなり重要な情報である。
誰もいない所に連れて行かされ、殺されるかもしれない。
――フリーダムが敵か味方かは置いといても、これは計画を早めないといけないかもしれないか
バンブロックが控え室で考え事をしている内に、試合の時間が近付いてきたようだ。衛兵オークがバンブロックを迎えに来た。
いつもの様に、入場扉の前で装備を整える。
ただ盾だけは、いつもより大きめのラウンド・シールドを持つ。飛び道具対策である。
他はいつもと変わりない。
モナも同様に大きめのラウンドシールドに、鎖ダガーを持つ。片手が盾で塞がれ、両手の時の鎖ダガーの様な扱いは出来なくなるが、今回は防御重視にしていた。
万が一でも痺れ薬などを使ってこられたら、全ておしまいだからである。
そして入場扉が開かれた。
日差しが徐々に、バンブロック達を照らしていく。
「行くぞ、モナ。覚悟はよいな」
「ロック、当たり前だ。知らんけどな!」
2人は闘技場の中央へと歩みを進めた。
反対側の扉から緑色の肌の剣闘士が2人、闘技場中央へと歩いて来る。
それを見たモナがつぶやく。
「何だ、片方だけがやけにデカいな」
モナがデカいと言ったのは、身体の大きさではない。右腕である。2人ともに右腕だけが、異様に発達している。つまり右腕がデカいという事である。
バンブロックもそれに気が付いていた。
投げナイフに特化した鍛錬を、長い間やった結果なのであろう。
それだけを見ても、たかが投げナイフと侮ってはいけないと分かる。
そして闘技場中央でお互いに対峙する。
バンブロックは2人の装備を観察した。
身体中に短剣を装備している。見える所だけでも数十本はある。しかも情報通りに、それぞれ形が違うナイフを装備している。もはやナイフの形をしていない物まである。三角形や星形の刃物だ。スローイング・スターと呼ばれたりもする。所謂“手裏剣”である。
そして衛兵オークが去って行き、いよいよ試合開始である。
バンブロックとモナは既に盾をかざし、投げナイフに備えている。
案の定、試合開始のドラムが鳴ったと同時に、奇妙な短剣の2人は左右に走り出しながら、最初の攻撃を仕掛けてきた。
星形の投げナイフである。
クルクルと回転しながら、バンブロックに迫る。
バンブロックはカイトシールドでそれを防ごうとするのだが、星形のナイフは真っ直ぐに飛んでこない。
急に曲線を描いて、盾の後ろのバンブロックへと迫った。
そこでバンブロックは思い出す。
以前に戦った相手がこれと似たような軌道を飛ぶ、大型の投げナイフを使っていた。ブーメランと言う武器である。
ただしブーメランとは軌道が違う。ブーメランは一定の曲線軌道だが、今回の星形のナイフはある所で急に曲がるのである。
バンブロックは何とかカイトシールドを移動させて、星形ナイフを防いだ。
いくつかの星型ナイフは、盾に突き刺さるか弾かれる。
――ナイフを操るって情報だったが、これがそうか!
バンブロックは間合いを詰めようと、相手に走り寄る。
すると再び飛んでくる星型ナイフ。
しかし今度の軌道は先程とは違った。
急角度で曲がりながら下降する。
野球で言う変化球であった。
少しだけ書けましたので投稿します。
すみませんが、まだ不定期投稿は続きます。




