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気が付けば奴隷剣闘士  作者: 犬尾剣聖


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90話 星形のナイフ






 曲がりながら落ちる軌道など、バンブロックにも予想出来ない。

 外れたと思った星型ナイフが軌道を変え、バンブロック目掛けて飛んでくる。


 ここで大型のカイトシールドを選んだのが、裏目に出る。大型故に重いのである。早い動作をするには重すぎる。

 急に軌道を変える星型ナイフに、付いて行けないのであった。

 

 バンブロックの左腕に星型ナイフが命中。

 幸いにも革鎧が軽減してくれた。星型ナイフの刃は、革鎧を貫き腕まで達したが傷は浅く済んだ。


 バンブロックはそのまま突っ込んで行く。


ーーもう少しで剣が届く距離!


 そこへ追加の投げナイフが迫る。

 だが今度は距離が近く過ぎて、ナイフが軌道変化する前にバンブロックまで届く。

 そうなると、大型の盾を選んだ甲斐があったというもの。


 大型のカイトシールドに身を隠しながら、バンブロックは走り寄って行く。

 カイトシールドに、投げナイフが刺さるか弾かれていく。


 バンブロックは顔を覗かせもしない。顔を出せば狙われると、理解しているからだ。

 そしてそのまま奇妙な短剣の一人に突っ込んだ。


 投げるのに夢中だった奇妙な短剣の一人は、避けようとしたが間に合わなかった。


 バンブロックが盾ごと体当たりして、大きく弾き飛ばした。

 シールドバッシュである。


『(兄貴!)』


 そう言ったかと思ったら、もう1人の奇妙な短剣の1人が走り寄る。弾き飛ばされたのは、兄オークの方みたいだ。


 弟が走り寄るが、その向こう側ではモナが膝を突いていた。右腕に投げナイフが刺さっているのが見える。


ーーモナが負傷したか!


 しかし今のバンブロックには、助けに行く余裕もない。


 吹っ飛ばした兄オークは、大した傷は負ってない。

 直ぐに立ち上がりナイフを構える。


 バンブロックにしたらマズい状況となった。

 2人がバンブロックに向かってきたからだ。


 兄オークがしゃがみながら叫ぶ。


『(アレをやるぞ!)』


ーー何かくる!


 バンブロックが身構える。


 そこへ弟が兄の背中を足場にして、高く跳躍《ちょうやく》した。それに合わせる様に、兄オークは勢い良く立ち上がる。


 バンブロックはカイトシールドを前に出し、投げナイフに備える。


 すると弟オークの方が跳躍《ちょうやく》した高い位置から、高角度で数本の投げナイフを放った。

 ほぼ同時に兄オークも、数本の投げナイフを左右1個ずつ投げ放つ。

 

 兄オークの左右に投げたナイフは、大きく曲がりながら外側からバンブロックに襲い掛かる。

 それはカイトシールドを避けるように、大きく曲がりながら飛来した。


 厄介なのはそれだけではなく、弟オークの投げたナイフである。


 カイトシールドの上から、急激に落ちる軌道だ。

 まるで盾を避けるような動きにも見えた。

 縦に曲がる軌道である。


 こうなるとバンブロックの逃げ道はない。


 「くっそ!」


 バンブロックは、カイトシールドの後ろで絶えるしかなかった。

 ただし攻撃を受ける覚悟で前に出た。


 バンブロックの左右の二の腕に、星型のナイフが突き刺さる。

さらに縦に曲がった星型ナイフが、肩口を掠める。こちらは運よく外れたようだ。

 バンブロックは気合と共に、グラディウスを振り上げる。

 

「おりゃあぁぁ!」


 バンブロックの目の前には、着地して戦闘体勢が取れていない弟オーク。

 そこへ輝くグラディウスが振り下ろされた。

 

 鈍い金属音と火花が飛ぶ。


 兄オークがナイフで、グラディウスを弾いたのである。


 だがそのナイフはポッキリと折れた。


『(魔法剣か!)』


 兄オークはそう言って、弟オークの首根っこを掴みながら下がろうとする。

 

 そこへバンブロックの猛攻撃が襲い掛かる。

 

 すると今度は大きめのダガーを取り出し、バンブロックの猛攻を防いでいく。


ーー近接戦闘もこなすのかよ!


 しかしナイフを投げられない2人には、不利な状況に間違い無い。

 ここが決め時だと思ったバンブロックが、強引に前に出た。だが弟オークは体勢を整える。


 その時だ。


 奇妙な短剣の2人が、交差しながら下がり始めた。

 単にそれだけのはずだが、バンブロックの目には2人の姿が異常に見えた。

 最初はどちらが兄なのか弟なのか判断がつかなくなり、それが次第に残像を残して移動している様に見えるようになり、最後には距離感も判断出来なくなる。

 そしてバンブロックのグラディウスは、空を斬るばかりとなった。


ーー俺は幻を見ているのか!?


 そこで奇妙な短剣の2人が攻勢に出た。


『(よし、掛かったぞ!)』


 そう言って兄オークがバンブロックの横に回り込み、弟は正面からダガーを振りかざして肉迫する。


 その時のバンブロックは目の前のオークが対戦相手なのか、闘技場内へ飛び出して来た衛兵オークなのか迷っていた。それ程に意識が困惑しているのである。

 それが魔法のせいなのかナイフに塗られていた何かなのか、そんな事を見極める判断力も無くなっていた。


 バンブロックはカイトシールドを、正面でただ構えるだけである。

 正面の弟オークは、それでもある程度は良いかもしれない。だが横に回った兄オークに対しては、全くの無防備であった。


『(良いぞ、これでも喰らえ!)』


 そう言って兄オークが、ナイフを投げようと振り被る。

 星型ではなく普通の形状のナイフだ。当たれば深く突き刺さるくらい、刃渡りも長い。


 しかし投げる寸前で兄オークは、悲鳴を上げながら背中を仰け反らせた。


『ウギャッ』


 その背中には鎖ダガーが、突き刺さっていた。

 その向こう側では負傷した右手はダラリと下げ、苦しそうな表情を見せるモナがいる。

 そしてその左手には、鎖は握られていた。

 利き腕ではない左腕で、鎖ダガーを放ったのである。


 そしてモナが、薄っすらと笑顔を見せながら言った。


『(私を忘れんじゃないよ……知らんけど)』


 その時、弟オークが吠えた。


『ウラアァァァ!』


 そしてダガーを振りかざして走り出す。

 その方向はモナだ。


 モナは必死に左腕だけで鎖を手繰り寄せる努力をするが、どう考えても間に合わない。しかもその時モナは、盾を地面に置いていた。

 どちらも間に合わない。


 そこでバンブロックの視界には、モナがハッキリと写る。


ーーモナが危ない!


 それだけは判断出来た。


 そして気が付いたら、持っていた輝くグラディウスを投げていた。







ゆっくりとですが書き始めています。ですが不定期投稿は変わらず……




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