87話 脱走奴隷
『〈おまえ、もしかして脱走奴隷か?〉』
バンブロックの言葉に我に返ったのか、慌てて槍を向ける少女。
バンブロックは手で制止しながらも、必死に説得する。
『〈待て待て、俺も奴隷だよ。グリーンスキン達は谷の上にいる。まだ君のことはバレてないから安心しろ〉』
バンブロックの北方語も大分まともになってきたようだが、この少女に通じているのか少し心配でもあった。
そこで少女がやっと言葉を返す。
「あなた、人間でしょ。人族語話せないの」
彼女が口にしたのは人族語、つまり人間語であった。
人間語を話す半獣人は、必然と人間領内で暮らした事のある人達となる。
バンブロックは直ぐに、人間語での対話を試みる。
「人間の言葉を話せるのか……って事は人間領内から連れてか来られたのか?」
人間の言葉にやっと警戒心を解いて、槍を下げて話し出す少女。
「そう、人間領内に住んでいたの。でも脱走して今は皆とここに住んでる」
「皆とだって?」
「そう、一緒に逃げた人達。あなたも逃げて来た人なの?」
ーー何人もいるのか……よく追跡をまぬがれているな
「いや、俺は違う。この腰のロープが、上にいるオーク兵に繋がっているんだよ。つまりまだ奴隷の身分ってことだ」
「私達の所へ来れば安全だよ」
「安全ねえ……それで君達は何人いるんだ? この近くなのか?」
そこまで話したところで、バンブロックの腰のロープがグイグイ引っ張られる。
「すまん、上のオーク兵が呼んでいるみたいだ。俺はバドの街のバンブロック、君は?」
「私はスー。この川の上流で、逃げて来た人達10人で住んでるの」
ーー凄い人数だな。脱走した奴隷同士が集まった感じか
最後にバンブロックは、谷の岩に手を掛けながら言った。
「そうか、生き延びろよ」
そう言って谷の上へと登り始めた。
上まで登った所で、バンブロックは皆に言った。
『〈俺の見間違いだった。何もいなかったよ〉』
オークは舌打ちをするや、先に進み始めた。
バンブロックも、何事もなかったかのように歩き始めた。そして心の中で思う。
ーー無事に生き残れよ
少し行くと獣の足跡を発見。
狩り番奴隷がつぶやく。
『〈猪豚の足跡だ〉』
ウマッハの要望の肉も猪豚である。
さっさと終わらして帰りたいバンブロックだが、猪豚と言えども魔物化していたらそう簡単にはいかない。
狩り番奴隷が言うには足跡から推測すると、1メートルちょっとほどの大きさだろうと言う。
そのくらいなら追い詰めさえすれば、難しくないとバンブロックは考えていた。
そして追跡する事1時間。
突然、前方の草むらが揺れた。
獣の匂い。
何かの気配。
バンブロックは槍を構え、狩り番2人は短弓を構える。そして少し後ろからポポが、巨大なスプーンをいつでも振り下ろせる体勢で構えた。
オーク兵3人は最後尾で、剣を抜いている。
狩り番奴隷の2人が、短弓をギリギリと絞り上げる。
今にも矢を放ちそうだ。
7人全員が、数メートル先の草むらを凝視していた。
しかしそこで、予想外の事が起こった。
前方の草むらからではなく、真横の草むらから猪豚が躍り出たのだ。
前方ばかりに気を取られていて、横から接近して来る獣に気が付かなかったのだ。
そしてほぼ同時に前方の草むらからも、猪豚が飛び出して来た。猪豚は1頭ではなかったのだ。
初めに襲われたのは、最後尾にいたオーク兵だ。
猪豚の牙により、すくい上げる様に放り投げられた。
慌てる残る2人のオーク兵が、通り過ぎて行った猪豚に対して丸盾と剣を構える。
前方では狩り番奴隷2人の矢が、正面から突進して来た猪豚に突き刺さる。だがその程度で突進は止まらない。
しかしここには、首輪を外されたポポがいる。
ポポが振り被った巨大スプーンを振り下ろす。
スプーンから放たれる石弾。
石弾は突進して来る猪豚の眉間を直撃。
猪豚はその一撃で、白目を剥いて地面に転がった。
残るは後方の1頭。
オーク兵2人と睨み合っているその猪豚は、鼻息荒く攻撃する気満々の様子。
そこでバンブロックが気が付いた。草むらの奥にいる猪豚の子供だ。
『〈そいつは子供を守ってる親だ。気を付けろよ!〉』
その言葉に皆が納得する。魔物化していない獣が人間に攻撃して来る事は、あまり無いからである。
とは言っても彼らにしたら、狩る対象なのは変わりないが。
狩り番奴隷2人が短弓の矢を放つ。
1本が肩を掠め、もう一本は肩口に刺さるも直ぐに抜け落ちる。
そこで走り出す猪豚。
すかさずポポがスプーンを振り被るが、オーク兵2人が邪魔で石弾を放てない。
そこへ猪豚が突っ込んで来た。
オーク兵2人が全面に立ち、丸盾で猪豚の突進を受け止める。
少しバランスを崩したが、何とか2人で受け止めるオーク兵。
バンブロックは感心しながら、猪豚へ攻撃しようと前に出た。
その時だった。
石の礫が複数、オーク兵2人を襲った。
その石の礫のひとつが、オーク兵の頭をかち割る。
人形の様に崩れ落ちるオーク兵。
もう1人のオーク兵も何発か胴体や足に受け、ガクンと膝をつく。
猪豚にも何発か当たり、「ブギー」と鳴き声を上げた。
バンブロックが直ぐに反応。身を低くして叫ぶ。
「襲撃!」
咄嗟に出る言葉は人間の言葉だ。
人間の言葉が通じるポポが反応して、身を屈める。
バンブロックが石の礫が飛んで来た方向を見ると、木の陰や岩の陰に半獣人達の姿が見える。
スリングを手にしていた。革ひもを使った投石だった様だ。
その中の1人に、先程合った“スー”と名乗った女の子が見えた。
そしてその半獣人達は、さらに石の礫を
猪豚へと放つ。
何発も当てられ、猪豚はその場に縮こまる。もう動くことさえ出来ない状態だった。
そこでバンブロックは味方に半獣人を攻撃しないようにと、人間の言葉と北方語とで声を掛ける。
「ポポ、あれは味方だ!」『〈狩り番の2人、あれは味方だ。攻撃するな!〉』
ポポと狩り番奴隷の2人は武器を下ろすが、姿勢は低くしたまま警戒は解かない。
味方が武器を降ろしたのを確認したバンブロックは、オーク兵3人の様子を見る。
なんせ半獣人達は、オーク兵にも攻撃を仕掛けたのである。ただでは済まされるはずが無い。
そのオーク兵達のうち1人は放り投げられて、気を失っている。もう1人は頭に石の礫が命中して即死。3人目は身体中に石の礫を食らって重傷だった。
それを確認した上でバンブロックは、武器である槍を頭上に掲げながら立ち上がる。
「残っているのは奴隷だけだ。攻撃はしないでくれ」
すると半獣人達が物陰から出て来た。半獣人ばかりで8人いる。
手には自作したスリングや、奪ったであろう剣や槍も持っている。中にはスーの様な、石器製の槍も見受けられた。
そして半獣人達の代表らしき人物が、前に出て来て言った。
「無事で良かった、我が同胞よ!」
やっとエアコンが直りました。
ですが執筆など不可能だったので、ストックがなくなりました。
書き溜めしますので、しばらくお待ちください。




