84話 旋風との対決
衛兵オークに挟まれて、バンブロックは闘技場中央へと進んで行く。
反対側の入場扉から、対戦相手の旋風が見えて来た。
頭は金属製のハーフヘルム。顔が見えるヘルムである。顔が見える分、下顎から突き出た牙が良く目立っている。
それに身体の部分部分は鎧で守られている。だが革製ではなく金属鎧である。ウロコ状の金属片を使った鎧で、スケイルメイルアーマーと呼ばれる鎧であった。
金属を使っているので、革鎧よりも防御力は高いが少し重い。その重い分は動作に影響するのだが、旋風は防御力を優先したのだろう。
武器を持つ右腕と両足、そして胴体部分はスケールメイルアーマーで固めている。
そして前情報通りに、右手は剣付きの義手であった。そして左手には、大きめの丸盾が握られている。
これを見るに、防御重視の戦い方をすると思われた。
両者が闘技場中央で、距離を空けて対峙する。
バンブロックは衛兵オークらが退場するまでの間、旋風をじっくりと観察する。
少し離れてはいるが、義手に取り付けた剣に何かが塗ってある様には見えない。
それに詠唱もしそうにない。
つまりそれは試合開始早々に、固有魔術である剣飛ばしをしてこないという事になる。
ーー何を企んでいやがるんだ
バンブロックは油断はせず、戦闘態勢をとる。
そして試合開始のドラムが鳴った。
その次の瞬間である。
旋風が義手を持ち上げた。
突然飛んでくるブレード。
義手剣のブレードが、バンブロック目掛けて飛んで来たのである。それも詠唱なしでだった。
ーーまさか詠唱破棄が出来るのか!
最初から構えていたからカイトシールドで躱せたものの、油断していたらやられていたかもしれない。
しかし義手から剣が無くなれば、反撃のチャンスである。バンブロック前に出る。
だがその時に旋風の右手の義手に目が留まる。
無くなったはずのブレードが、せり上がってきたのである。それはまるで、ブレードが生えたように見えた。
ただそれだけではない。そのブレードに薄っすら色味が見えた。
ーー麻痺毒の剣か!
旋風が再び、義手をバンブロックに向ける。
バンブロックは、横に回り込むように移動する。
旋風の義手がそれを追う。
そしてブレードを発射。
足元近くの地面に刺さる。
それを飛び越えるバンブロック。
ーー次のブレード装填までに近付いてやる!
一気に距離を狭める。
旋風は丸盾で防御しながら、狙いを定める。
そして発射。
ブレードがバンブロックのドクロヘルムを掠めた。
生身だったら、麻痺毒の餌食だったであろう。
その隙に、更に距離を縮めるバンブロック。
すると旋風の義手のブレードが、また新しく生えてきたのだが、今度のは少し長いブレードだ。
それはまるで、接近戦用の長い剣のようである。
ーーいくら固有魔術だからって、毒付きにしたり長さを変えられたりと、そう都合よく魔術で操作出来るものなのか?
バンブロックは不思議に思うが、今は何も対処出来ないのが現状である。ただ、接近戦には持ち込めた。
しかし持ち込んだのは良いが、剣術も中々の腕前であった。さすが元ランクAである。
大きめの丸盾を上手く使い、防御しながら長いブレードで攻撃してくる。それも無理は決してしない。あくまでも自分の許容範囲での行動であった。
ーーこいつ、戦い慣れしてやがる
恐らくこういった戦い方が、この過酷な剣闘士生活を長く生きられる方法なのであろう。バンブロックも少し感心する。
バンブロックも自然と、防御重視の戦い方となっていった。
相手が斬り込んでくれば、盾で防いで直ぐに反撃。その反撃も盾で防がれ、今度は反撃を受ける。そんな繰り返しとなった。
そこで決着がつかないと考えたバンブロックは、いつもの汚い手に出た。
剣の先で地面の砂を巻き上げる、目潰しである。
しかし旋風は分かっていたかの様に、それを丸盾で防ぐや剣で反撃してきた。しかも激しい連続攻撃だ。
『ウラアアアアッ』
バンブロックはカイトシールドで防ぎながらも、その圧倒的な気迫に後退りする。
それも束の間。
旋風が突然、下半身へと攻撃方向を変えた。今までずっと上半身ばかり狙ってきていたのだが、突然足元を狙われて動揺するバンブロック。
ブレードが発射されたのである。
ずっと上半身を攻撃して意識を上へ向けさせ、突然下方を攻撃するあたり、旋風も中々の知略の剣闘士である。
そのブレードがバンブロックの脛をとらえた。
だが脛には革鎧がある。
その魔物の革製の脛当てが吹っ飛ぶ。
慌てて後ろへ大きく下がるバンブロック。
下がりながら脚を確認する。
ーー脛当てに救われた!
革製の脛当てが吹っ飛んだだけで、バンブロックには殆んど怪我は無かった。
旋風が舌打ちし、剣の無くなった義手を下方に構える。
するとまたもブレードが生えてきた。
それを見たバンブロックは、少し変に思う。
義手が僅かに白く輝いていたからだ。それも表面ではなく、義手の中の方が輝いているように見えたのである。
ーー魔道具なのか?
ブレードが生えるや、またもブレードを発射。
そこでバンブロックは、旋風との距離が開いている事に気が付き、慌てて距離を縮める。
「ウオォォ!」
雄叫びを上げながら接近するバンブロック。
そこへ更にブレードが飛ぶ、
ブレードがカイトシールドに突き刺さる。
怯まず前に出て、グラディウスを振り下ろす。
旋風が丸盾で防御。
そこへ輝くグラディウスが激突。
その時、ほんの一瞬だけ眩いほどの輝きを放つ。
しかしそれが見えるのは、バンブロックただ一人。
そして旋風の丸盾に亀裂が入った。
一撃で亀裂を入れられた事に驚く旋風。
今度は逆に旋風が、バンブロックとの距離を取ろうと後ろへ下がる。
それをさせまいと、距離を詰めるバンブロック。
すると旋風が、バンブロックの脚に義手を向ける。
ーー麻痺魔術
そこへ狙いすました様に、輝くグラディウスを振り下ろす。
射出寸前の義手を捉えた。
ちょうどブレードの根元辺りに、輝くグラディウスがヒット。
バチッと言う音と共に、義手に紫電が走る
『グアァッ』
旋風の短い悲鳴。
そしてブレードは折れて、真下の地面に刺さる。
さらに義手は、変形した上に亀裂が発生。
亀裂の奥から、白い輝きが見えた。
バンブロックが吠える。
「そう言う仕掛けかっ!」
旋風が義手を、バンブロックの顔に向ける。
ーーまだ戦えるのかよ!
だがブレードがせり上がってこない。
「ギミックが壊れたみたいだな!」
バンブロックは、それをカイトシールドで払う。
すると丸盾で殴りかかってきた。
バンブロックはそれを蹴りで押し退け、旋風がふらついた所へ斬り付ける。
旋風の左腕から、鮮血が噴き出る。
『グ……』
悲鳴を押し殺し、ダラリと下がった左腕を庇う様に下がって行く。
そしてバンブロックに義手を向ける。
だがブレードは射出しない。
そこでバンブロックが声を掛けた。
『〈“仕掛け”が壊れたか?〉』
バンブロックは仕掛けと言った。魔術では無く仕掛けである。
しかも壊れたと言った。魔術が壊れるとは言わない。
旋風が義手を確認するや、再度バンブロックに狙いを付ける。
だがそれでもブレードは射出されない。
義手の変形が、射出を妨げているのである。
それを見たバンブロックが、笑いを堪えながら言った。
『〈フフ……お前の玩具はもう使えないぜ、どうするよ?〉』
それを聞いた旋風は怒りが込み上げ、顔が次第に赤くなっていった。
次回投稿は水曜日の予定です。




