80話 尋問
バンブロックは手当たり次第に、近くの敵に斬り掛かっていく。
バンブロックの足には枷と鎖が付けられ、その先には錘が繋げられている。つまり動きに制限があり、闘技場での様な戦いは不可能であった。
もちろんオルゴ達にも、同様の枷が取り付けられている。
戦いながらバンブロックが獣車から離れても、何故か盗賊達は付いて来る。金になる積み荷には、目もくれていないように見える。
ーーやはり狙いは俺で確定か。しかし何でだ?
バンブロックの頭に思い浮かぶ原因は、闇の組織フリーダムくらいしかない。詳しい事までは分からないが、フリーダム関係の揉め事に巻き込まれた可能性が高いと考えた。
だからと言って、バンブロックが個人で対処出来るものでは無い。
やれる事は、自分に降りかかる火の粉を払うだけだ。
バンブロックは、ひたすら盗賊らを斬り捨てて行く。オルゴ達も段々と、バンブロックの動きに合わせられるようになってきた。
そこからは徐々に押し返し、結局盗賊共は死傷者多数を出して退却する。
そこでバンブロックは、まだ生きている盗賊負傷者を見つけ、拙い北方語で勝手に尋問を始めた。
『〈質問、答えろ〉』
バンブロックは近くに落ちていたショートソードを拾い上げ、盗賊オークの首にあてた。
オルゴ2人が盗賊オークを、両脇から押さえつける。
盗賊オークは負傷した肩から血をダラダラと流しながら、弱々しい表情でバンブロックを見上げる。
『〈雇い主、誰だ〉』
『……』
バンブロックはショートソードを、盗賊オークの足に突き刺した。
『グアァッ』
さらに剣を刺したまま捻る。
『グアァァァッ』
そこで獣車から声が掛かる。
「バンブロックさん、何をしてるんですか!!」
ププである。
獣車の窓から顔を出している。
その表情は青ざめていた。
バンブロックはその言葉を無視しつつ、尋問を続ける。
『〈もう一度、聞く。雇い主、誰だ。次は、無いぞ〉』
『〈分かった……言う〉』
『〈誰だ〉』
『〈ブリノフ――〉』
そこまで言ったところで、話を遮られた。
『〈なに勝手な事をやってる!〉』
言葉の方を見ると、そこにはウマッハが立っていた。ウマッハの方の戦闘も、終わったらしい。
そこで直ぐに護衛オークが入って来て、盗賊オークはウマッハの手に渡ってしまう。
ーーもう少しで背後関係を知れたのにな
しかし相手がウマッハでは手が出ない。
今はまだ、敵対するタイミングではない。
取り敢えず、この場から移動することになった。
盗賊達の遺留品を戦利品として集め、獣車に積み込むと、遺体はそのままにして走り出した。
襲撃地点から大分離れた場所で、休憩の為に隊列は止まる。
奴隷達も休憩が許可され、それぞれがその辺の地面に座り込んでいた。ププは何気なく、バンブロックの横にチョコンと座った。
そしてウマッハは先程の盗賊オークを連れ出し、護衛オークと共に隊列から遠く離れて行くのが見える。
最終的には、森の中へと消えて行った。
しばらくすると、森の中から悲鳴や叫び声が聞こえ始める。
話し声までは聞こえないが、その悲鳴から何が行われているかは、誰もが想像に難しくはない。
恐らく治癒ポーションを使って繰り返し拷問し、情報を吐かせているのだろう。
しばらくすると、返り血で赤く染まったウマッハ達が戻って来た。
しかし拷問された盗賊オークは、一緒に居ない。
ウマッハが、どういった情報を得たのかは分からない。
バンブロックが知るのは、ブリノフと言う言葉だけだ。それが人の名前なのか地名なのか組織の名前なのか、バンブロックには分からない。
そこでバンブロックは考える。この“ブリノフ”と言う言葉に付いて、もっと調べるべきかどうかである。
ただし奴隷の身で何かを調べる行為は、命の危険さえある。
ウマッハもきっと聞き出している言葉だろうから、バンブロックが手を出すこともないとは思う。ウマッハがきっと襲撃犯を見つけ出し、報復するだろう。
しかし闇の組織が関係していたら、バンブロックにも危害が振りかける恐れがある。何よりも、バンブロック自身が気になって仕方無いのだ。
そんな事を悩みながらも、ウマッハ商隊はバドの街へと到着した。
久しぶりのウマッハ養成所である。
バンブロックが鍛錬場に入ると、視線が集まる。勝手な会話は出来ないが、目で「お疲れ様」と言ってるのが分かる。
それとメンツが少し変わっているのに、バンブロックは気が付いた。初めて見る顔が何人もいる上に、種族も様々である。
その反面、ランクBだった剣闘士が見当たらない。
ーーまさか、死んだのか?
こっそり他の剣闘士に聞いてみたところ、試合中の負傷が元で死んでしまったり、試合中に死んでしまったりで、今はランクB以上は1人もいないらしい。
ランクAは大分前から居ないので、この養成所にはランク上位陣がバンブロック1人となる。
ーーなんだよ、ランクB以上は俺だけかよ
幸いなことに、バンブロックと仲の良い剣闘士達は無事だった。
半獣人のモナ、ハーフリングのポポ、元部下のデン副長、半獣人のフンドル、豹系獣人のガンプ、そしてハイエルフのアルティアは、怪我ひとつなく過ごしていた。
食事時には多少なりとも会話ができ、何があったか掻い摘んで皆に話すバンブロックだった。
特に剣聖ハルトマンの死は、誰もが驚く出来事であった。
そんな暗い話で盛り下がる中、突然ウマッハが現れた。何かと思えば、バンブロックがランクBに昇格した事を発表しに来たのである。
そのウマッハの横でププが、人間語と南方語で訳している。かなり大変そうである。
ウマッハ養成所では過去に、ランク外からランクBまで昇格した剣闘士は初めてらしく、ウマッハとしてはかなり嬉しいのだろう。暴走した剣聖ハルトマンを倒したこと、ランクB剣闘士との戦いのこと、シュミレーションバトルで圧勝してこと等を、興奮した様子で話している。
そうは言っても、ここにいる殆んどの剣闘士達にしたらどうでも良い話だ。奴隷剣闘士ならば大抵、チャンピオンになって栄光を掴むよりも、如何に逃げ出して自分の国に帰るかの方が重要である。
そんな奴隷剣闘士達は、他人の手柄よりも明日をどう生き残るかの方が大事だ。それは特にランクの低い奴隷剣闘士には、ポーションを使ってもらえない場合が多く、軽傷でも合併症を起こして死ぬ事もあり、明日を生き残るので必死だった。
午後の鍛錬が始まり、バンブロックもそれに参加した。新参者のオルゴ達も加わっている。
しかしハイエルフのアルティアだけは、鍛錬に参加しなかった。魔術を使った畑仕事がメインになったらしい。少なくとも剣闘士よりは危険が少ないから、ラッキーと言えるだろう。
それに加えて、ポーションの作成も出来るので、かなり重宝がられている。
バンブロックが鍛錬に励んでいると、木剣を振りながらモナが近付いて来た。
「おっとっと」
わざとらしくバンブロックにぶつかって来たかと思えば、そっと小声で言った。
「なあ、知らんけど、お土産はいつ貰えるんだ?」
それだけ言うと、また木剣を振りながら離れて行く。いつものじゃれ合いである。
ーーったく、奴隷の身分でお土産とか、ある訳ないだろうが……
バンブロックはそう思いながらも、顔はほころんでいた。
次回投稿は火曜日の予定です。
ストックを、ちょっとだけ確保しました。




