77話 討伐隊と蛮族の戦い
半獣人が10人とオルゴが6人の合計16人を引き連れて、バンブロックはコロシアムの鍛錬場に来ていた。
剣闘士経験もないこの16人に、稽古をつけるためである。会話は全て北方語なので、バンブロックは拙い北方語を駆使する事になる。
その鍛錬中にバンブロックは、オルゴ6人がスリングでの投石が得意であると知る。
対戦相手のゴブリン22人がショートボウを使ってくるので、これで少しは対抗出来るとバンブロックは少しだけホッとした。
オルゴ6人は同じ部族にいたそうで、連携もしっかり取れている。
スリング以外には、主にスピアや剣も使っていたという。その為、武器の扱いは概ね問題なかった。
彼らは住む村を襲われて、奴隷になったそうだ。
そして半獣人10人の方は、盗賊崩れらしい。つまり犯罪奴隷である。
とは言っても、盗賊の奴隷だったのを捕まり、今度は奴隷剣闘士だ。主人が変わったというだけである。
なので戦闘経験はあるし、もちろん武器も扱える。ただ、飛び道具の扱いは経験がない。
それでバンブロックがしたことは、とにかく集団戦戦闘のやり方だ。
隊形や隊列を組んで戦うやり方は、人間独特の戦法であり、他の種族はまずやらない。
その隊形を合図で組めるように、何度も練習した。
簡単なようだが、これが意外と手こずっていた。やったことがないのだから仕方無いのだが、バンブロックの予想を遥かに下回っていた。
それと鎧の類はルール上、頭以外は認められなかった。なので革製ヘルムを全員に被らせ、剣と大きめのラウンドシールドという形となった。武器は剣と決められていて、槍の選択肢はなかった。
少ない日数で出来るだけの事はやったと、バンブロックは考えていた。
そして試合当日になってコロシアムへと行くと、第2闘技場の造りがバンブロックの想像と違っていた。
闘技場中央には遮蔽物となる大きな樽や木箱、そして丸太などが多数積まれていて、まるでそこに隠れて下さいとでも言っている様だった。
そう、この試合は単なる集団戦では無く、シュミレーションバトルと言う、過去にあった戦いを再現する試合だったのである。
それは蛮族が隠れる本拠地を、グリーンスキン部隊が強襲するというシュチエーションだ。
その蛮族がバンブロック達である。
つまり中央に立て籠もって、強襲される側だった。
それをバンブロックは、試合ギリギリの入場扉前で聞いた。その時のバンブロックは、怒りが込み上げてきたが、奴隷身分のバンブロックには、何も抗うことなど出来ない。
つまりこの試合は、初めから蛮族側が負ける戦いだったのである。
バンブロックは皆に、励ましの言葉を投げかける。
『〈最後まで、諦めない、俺達は強い!〉』
オルゴ達は肝が座った感じだったが、半獣人達は少し怯えた感じだ。
さらにバンブロックはププにやられたように、言葉の反復をさせる。
『〈俺の言葉、繰り返せ、良いか?〉』
誰もが頷く。
『〈俺たちは強い。さん、はいっ〉』
『〈〈俺たちは強い……〉〉』
声に力が無いし、声が揃っていない。
するとバンブロック。
『〈声が小さ〜い。もう一度っ。さん、はいっ〉』
『〈〈俺たちは強い〉〉』
『〈もう一度、俺たちは強いっ、俺たちは最強っ。さん、はいっ〉』
これを何度か繰り返したところで、入場扉が開き出した。
衛兵オークの冷たい視線は、開く扉へと移る。
オルゴ達と半獣人達は、そこでホッとしたような表情を見せた。
いよいよシュミレーションバトルの試合開始である。
衛兵オーク数人に連れられて、第2闘技場の中央の拠点に誘導されるバンブロック達。
第1闘技場よりも、かなり観客席が高い造りとなっている。それは飛び道具の射線に、出来るだけ入らないように造られているからであった。
それに伴い、闘技場の壁も高い。
そこで不思議なのは、反対側の入場扉が閉まったままなのである。対戦相手であるグリーンスキンが出て来ない。
それでも衛兵オークは何事も無く、バンブロック達を誘導して行く。
バンブロック達が闘技場の拠点に着くと、衛兵オークは何の説明も無く立ち去って行く。
良く見るとこの闘技場には、入場扉が4箇所あった。その内のひとつから、バンブロック達は入場して来た。そうなると残る3つの入場扉から、対戦相手が出て来るのだろう。
取り敢えずバンブロックは、拠点となる遮蔽物に身を隠す様に指示を出す。
相手は短弓を使うからである。
ここで進行役らしいオークが、観客席に向かって北方語で状況を説明をし始める。
簡単に言えばグリーンスキンの討伐隊が、蛮族の拠点を強襲しに出動したというもの。
そして説明が終わると、突然一箇所の入場扉が開いた。
そこから隊列を組んで入場して来る、24人のグリーンスキン討伐部隊。
その隊列は元兵士とは思えない、精悍な行進であった。
ーー元兵士だと。現役部隊の間違いだろ
グリーンスキン部隊の全員が、軍用鎧を着用していた。装備だけでなく、短弓や剣も軍仕様の頑丈なものだと見て分かる。
元兵士のバンブロックは、それを一目で分かった。
そこで突然バンブロックは声を上げる
『〈集合、密集陣形!〉』
遮蔽物に隠れていたオルゴ達と半獣人達は、慌ててバンブロックの周囲に集まり、不慣れながらも防御陣形の隊形を組んだ。
その頃にはグリーンスキン部隊も入場を終えて、2列横隊でバンブロック達に対峙していた。
ゴブリン兵が22人とホブゴブリンの指揮官と副官の合計24人である。
ホブゴブリンは2人共に、体重が250キロ軽々と越える巨漢だ。そして武装は丸盾と戦斧である。
ホブゴブリン指揮官からの指示が飛ぶ。
ゴブリン兵22人による2列横隊が、ショートボウを構える。
バンブロックが叫ぶ。
『〈防御陣形!〉』
慌てた様子でオルゴと半獣人の16人が、ラウンドシールドで防御体勢を取る。お互いの盾を寄せて、壁を作るのである。
そしてホブゴブリンが叫んだ。
『〈射て!〉』
バンブロックがほぼ同時に叫ぶ。
『〈来るぞっ〉』
ゴブリン兵22人から一斉に矢が放たれた。
22本の矢の殆んどが、ラウンドシールドに突き刺さるか弾かれる。
弾かれた矢の1本が、観客席に飛び込んだ。
その矢は運悪く観客の1人に突き刺さる。
『〈あわぁっっ〉』
観客席から悲鳴が上がる。
普通だったらパニックになってもおかしくない状況だが、どういう理由か観客席は大盛り上がりだった。
そしてショートボウの連射速度は早い。
早くも2射目が放たれた。
その中の1本の矢が、半獣人の足に突き刺さる。
『〈うあっ、や、やられた!〉』
すかさずバンブロックの怒号が飛ぶ。
『〈陣形、崩すなっ〉』
一人でも陣形が崩れると、そこを突け狙われるからだ。
足に矢が刺さった半獣人は、歯を食いしばってラウンドシールドをかざし続ける。
そして3射目の矢が放たれた。
矢の殆んどを防げたが、今回もまたその内の1本が同じ半獣人に矢が刺ささる。刺さったのは肩だ。
『〈うわああっ〉』
今度ばかりは耐えられなかった。
その半獣人は地面に倒れて、苦しみ始めた。
しかし誰も助けない。
ここは戦場ではなく闘技場。逃げる場所や退避する場所などないからだ。
そしてバンブロックの指示が飛ぶ。
『〈負傷者に構うなっ、陣形、守れ、まだ来るぞ!〉』
そしてバンブロックが言うように、4射目の矢が放たれた。
次回投稿は金曜日の予定です。
誤字脱字指摘、ありがとうございます。
思った以上にミスがあるようで……
特に言葉の使い方が間違っているのは恥ずいですな (^_^;)




