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気が付けば奴隷剣闘士  作者: 犬尾剣聖


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76話 厳しい戦いの結果




 

 バンブロックに、ショートソードの刃が迫る。


 頭では避けなくちゃいけないと分かってはいるが、身体がそこまで早く動かない。思うように動けない自分に苛立つバンブロック。


ーー良し! 何とか避け切ったぞ


 そう思ったバンブロックだったが、現実は違った。

 ショートソードの切っ先が、バンブロックの右腕を斬り裂く。


「うぐっ」


 思わず輝くグラディウスを握る手が緩んだ。


ーーくそ、やられた!


 そこへ再びショートソードが襲い掛かる。


 バンブロックは、慌てて右手を引っ込める。


 だがゴブリンの動きの方がやはり早い。


 ショートソードがグラディウスを打ち払う。


 その衝撃でグラディウスが手から離れ、クルクルと回転しながら空中を舞う。



ーーしまった!



 ゴブリンはくるりと回転。


 遠心力に乗せてショートソードを振るう。


 バンブロックは腰に差した予備のダガーを思い浮かべるが、抜いている余裕など無い。


 必死に下がる。


 とにかく後退する。


 そして強引にヒーターシールドを、ゴブリンと自分の間に割り込ませる。


 そこへゴブリンが駆け上がる。


ーーそんな事も出来るのかよ!


 ヒーターシールドを超えて、背中から斬り付けるつもりである。

 予想外の行動だが、バンブロックは冷静に対処する。


「させるかよ!」


 バンブロックは背中から倒れるようにして、ヒーターシールドごとゴブリンを後方へ投げ飛ばす。

 巴投げだ。


 ゴブリンは背中を痛打するも、地面を転がり立ち上がる。

 そして顔をしかめながらも、武器を構え直す。


 距離が開いた所で、バンブロックは予備のダガーを引き抜く。

 ダガーじゃ心許こころもとないが、ないよりマシである。


ーー右腕の傷は浅そうだ。これならイケる


 本人は大丈夫だと思ってはいるが、そこそこ深い傷である。少なくとも出血は続いている。


 バンブロックは、チラリと落としたグラディウスを確認する。するとゴブリンも同じく、グラディウスに視線を移す。


 バンブロックがすり足で、グラディウスに近付こうとする。

 するとゴブリンは近付けさせまいとして、ショートソードで牽制しつつ前に出る。


 バンブロックとしては、輝くグラディウスが手元にないのは痛い。


ーーどうしたら良い


 ……少し考えた後、バンブロックは走り出す。


 同時にゴブリンも、グラディウスに向かって走る。


 だがバンブロックの走り出しはフェイントで、直ぐにグラディウスとは反対の方へ走り出す。


 ゴブリンが『へ?』と言う顔をする。

 完全にだまされたのである。


 バンブロックは、カイトシールドの方へ向かったのである。


 バンブロックはカイトシールドを拾うと、直ぐに防御体勢に入る。


 舌打ちしたゴブリンが、バンブロックに向かってくる。

 

 バンブロックもゴブリンに向かって走る。そしてカイトシールドに体重を乗せて、全力でぶち当たりに行った。


 するとゴブリンが、一瞬消えたように見える。


 しかしゴブリンは再び、バンブロックの右真横にいた。


 ヒーターシールドの死角を移動したのである。

 しかしバンブロックは見据えていた。

 2度も同じ手は食うかと、バンブロックはダガーで斬り付ける。


 しかし、ゴブリンの方がやはり早い。

 防御用ダガーで弾かれる。


 バンブロックのダガーを持つ手が、跳ね上がる。


ーー小さいくせに何てパワーだ!


 そこへゴブリンのショートソードが、斬り込まれた。


 だがラッキーな事に、跳ね上げられた腕から飛び散った出血が、ゴブリンの目を襲う。


 一瞬だが視界を失うゴブリン。


 それでもショートソードは振られた。


 それを大きく避けるバンブロック。


 目の前をかすめるショートソードの刃。


 さらに1歩2歩と、出来るだけ遠くへ離れる。


 その時バンブロックは気が付いた。

 ゴブリンの口元が動いている事に。


ーー詠唱か!


 だが詠唱を邪魔するには遅すぎた。


 ゴブリンから、勢い良く水のかたまり発射された。

 水系魔術である。


 その水のかたまりに隠れる様に、ゴブリンのショートソードでの斬撃が放たれた。


 バンブロックは、それをダガーで迎え討とうとする。


 バンブロックに水系魔術が当たり、水のかたまりが弾ける。


 その時、水圧がバンブロックにし掛かる。


 倒れまいと、足で踏ん張るバンブロック。


 そこへショートソードの斬撃が襲う。


 強引にダガーで弾き返すも、斬撃は連続攻撃だった。

 

 その全ては弾き返せず、腕をさらに斬られる。


 バンブロックは大きく後退。

 距離をとる。


 出血が酷い。


 しかしそのお陰で、バンブロックの望む環境が出来上がった。

 2度にわたる水のかたまりによって、濡れた地面が広がったのである。


 バンブロックは片手を地面に付けて言った。



『〈俺の番だな〉』



 ゴブリンの顔がゆがむ。





ーー麻痺魔術パラライズ





 地面を紫電が走る。


 バチバチっと弾ける様な音。


 ゴブリンは短い叫び声を発して硬直。


 ブルブルと震え出す。


 程なくしてバンブロックは魔術を止める。

 

 するとゴブリンは、硬直したまま倒れた。


 ゴブリンの身体は、倒れた後も痙攣けいれんしている。


 観客席は一瞬静まる。

 何が起きたか、理解出来ていないのである。


 だが直ぐにバンブロックが倒したのだと判断すると、観客席は大歓声に包まれた。

 このコロシアムではまだバンブロックの麻痺魔術が、どういった魔術が余り知られていない為の反応だった。


 試合終了のドラムの音は、歓声にき消される。


ーーこれがランクBの戦いなのか……


 想像以上の厳しい戦いに、バンブロックは改めてランクBのレベルの高さを思い知った。


 こうしてバンブロックは、ランクBでの初戦を勝利で飾った。


 勝利したバンブロックだが、早いとこ傷を癒して身体を休めなくてはならない。2日後には集団戦の試合が待っている。

 コロシアムの医務室で治療すると、早々に宿に戻って行った。


 宿に戻ると、早速ププがやって来た。

 次の試合の情報を持って来たのである。 


「明日の対戦相手の情報を持ってきました。まずは対戦場所が今までと違い、第2闘技場となります」


 初めて使う闘技場である。


「今まで使ってた第1闘技場とどう違うんだ?」

 

「第2闘技場では飛び道具が、ある程度まで認められています。例えばライトクロスボウやショートボウは使用できます」


「観客は大丈夫なのかよ」


「壁が高くなっていますので、上向きで射たなければ観客席には飛び込みません。それでも完全に安全ではありませんが、客もそれを承知で見に来ていますので、問題ありません」


「そうか、分かった。で、そうなると対戦相手は、飛び道具を使うんだよな」


「はい、その通りです。22人のゴブリン全員がショートボウを使ってきます。指揮官はホブゴブリン2人で、こちらは恐らく飛び道具は使わないと思われます」


 バンブロックは驚いた顔で声を荒げる。


「ちょっと待てっ。合計で24人っておかしいだろ。こっちは17人だぞ。しかも1度も組んで戦った事もないし、練習する余裕も殆んどないんだぞ」


 必死なバンブロックに対しププは、相変わらず感情の伝わらない表情で答える。


「ランク調整済の人数です。間違いありません」


ーーまあ、ププに文句言っても仕方無いか


「分かった。それでその相手ってどんな奴らなんだ」

 

「試合は、シュミレーションバトル形式で行われます。蛮族を奇襲する、ゴブリン正規軍と言う流れです。ゴブリン正規軍は元正規兵のホブゴブリン士官が2人と、22人の元兵士のゴブリンです」


 バンブロックの顔が一瞬で険しくなる。


「元兵士ばかりを集めたのか。ゴブリンが多数とは言え、こっちは剣闘試合も初めての連中ばかりだぞ。これで勝てるのか?」


「何を言い出すんですか。勝ってください。負けは許しません」


 バンブロックは少し困った表情で返答する。


「そりぁ俺も全力で戦うがな……」


 バンブロックが黙り込むと、ププが少し怒った様子で言ってきた。


「“絶対に勝つ”と言ってください」


「ああ、頑張るよ」


「違います。“絶対に勝つ”です。さん、はいっ」


 バンブロックは渋々だがププに従う。


「絶対に勝つ……」


「声が小さいっ、もう一度。さん、はいっ」


「絶対に勝つ!」


 ただププがバンブロックの勝利にこだわる理由は、〈試合に負ける〉イコール〈死亡〉という気がしているからであった。

 







次回投稿は火曜日の予定です。



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