75話 奴隷市場
奴隷市場へは歩いて行く。
道いっぱいに露店が広がり通行人も多く、獣車では入って行けないからである。
護衛オーク4人が前後を挟み、ウマッハとププとバンブロックが真ん中を歩く。それと護衛オークの隊長が、ウマッハの直ぐ後ろに付く。
ウマッハが時々立ち止まるが、それに合わさて護衛オーク達も立ち止まる。ププはウマッハと一緒の行動は頻繁にあるので、そつなく歩調を合わせている。
だがバンブロックだけは、その歩調に合わせられていなかった。何度もププにぶつかりそうになる。
バンブロックも常に前を見て歩けば、ある程度は歩調に合わせられるのだが、売られている奴隷を探すのに忙しいのであった。ただバンブロックが探す奴隷は人間である。
そんな奴隷市場の中でも一際、人混みで溢れかえっている場所があった。
ウマッハが興味を持ち、その人混みへと向かう。
護衛オークが強引に、野次馬共を押し退けて道を作る。そこを通って先頭へ出ると、多数の奴隷が並べられていた。
どうやら普通とは違う売り方をしているらしい。よく見ると、奴隷数人ごとに1枚の値札が付いている。奴隷のまとめ売りをしているのである。
最低でも3人、多くて8人での販売である。
バラバラに買うよりも、確かに値段は安いようだ。
ただ要らない奴隷が混じっていたりする。
それを考えても安い。
残念ながら人間はいないようで、その時点でバンブロックの興味は無くなった。
だがウマッハは、ある集団に興味を持ってしまった。それは“オルゴ”と言う少数種族であった。
知能は余り高くはなく単純な思考を持つ為、奴隷としては扱いやすいのかもしれない。
身長は人間よりも高く体格も良いので力はあるが、その分動作は遅く不器用でもある。
オルゴ種は狩猟民族なので、戦いにも慣れている。よって最低限の鍛錬で、剣闘士にもなれると思われた。
外見はホブゴブリンに似ている。
ホブゴブリン種は黄色っぽい肌で、短い角が生えている。だがオルゴ種には角は無く、肌の色は赤みを帯びている。
似てはいるが、判別は難しくない。
そのオルゴが6人でまとめ売りしている。
値段は420万ガジャと書かれている。1人当たり70万ガジャである。
参考までにバンブロックの値段は、2万5千ガジャだったらしい。因みに2万5千ガジャの価値は、ダガーが新品で買える程度。
ただしバンブロックはその事を知らない。
1人当たり70万ガジャと言われても、バンブロックにはそれが高いのか安いのか判断出来ない。
ただ、ウマッハの品定めの時間が、余りにも長いのである。
それは購入を検討している証拠であった。
そこでウマッハは、ププを通してバンブロックに聞いてきた。
「ご主人様が、このオルゴ6人を剣闘士としてどう思うか、聞いてきました」
相変わらずププは、バンブロックを腐った魚の頭を見る目である。まだ娼館の件で怒っているらしい。
バンブロックとしては、そのオルゴと言う種族に興味などないが、一応聞かれたからには返答はする。
「どうでも良い……」
するとププは、ちょっとイラッとした表情になるが、直ぐに元の無表情に戻ると淡々と言った。
「はい分かりました。それでは今の言葉をそのままご主人様に伝えます」
慌てるバンブロック。
「待て待て、今のウソ。え〜とだな、筋肉の付き方とか悪くない。それとオルゴ族は集団戦闘が得意だから、剣闘士として出すなら集団戦かな……これで、どうだ?」
ププはため息をつく。
「はぁ、分かりました。そう伝えます」
そう言ってバンブロックに向けるププの目は、腐った魚からハミ出た内臓を見ている様だった。
結局ウマッハは値切りに値切って、350万ガジャでそのオルゴ族の奴隷6人を買った。
しかしウマッハは、それだけでは満足いかないらしく、さらに次の店で足を止めた。
そこでは奴隷が10人並ばされており、それぞれ首から値段が書かれた木板をぶら下げていた。
全員が半獣人である。
半獣人もこの地では、結構珍しい部類に入る。人間に近い外見だからである。
とは言っても人間よりも身体能力は上なので、人間よりも奴隷の数は多い。
ウマッハはその並んだ半獣人を、順番に品定めしていく。そして最後の1人を見た後、店主と何か話をしている。
そして話が終わり次へ移動するかと思えば、なんとウマッハはその10人全員を買ってしまった。
先程買ったオルゴ奴隷と合わせると、合計16人となる。
その16人を連れて歩くその光景は、ちょっと異様に見える。奴隷の行列だからだ。、
まるでこれから奴隷を売ろうとしている、行商人である。
そして獣車の所に戻ると、ここでまた問題が出た。
獣車の檻が一杯で、奴隷全員が入りきれないのである。それで最初にバンブロックが、檻から出されて歩く事になる。
そしてオルゴ6人を檻に入れ、10人の半獣人を歩かせる事となった。
やはりオルゴ種も半獣人も珍しいのと、バンブロックと言うもっと珍しい人間種がいると、街中を行くウマッハ養成所集団は注目の的であった。
宿に到着すると、ウマッハは直ぐにコロシアムへと出掛けた。マッチメーカーに、集団戦での試合を組むように依頼する為である。もちろん、今日買ったばかりの奴隷達の試合だ。
そしてその夜バンブロックは、ププから集団戦の試合への出場が決まったと伝えられるのだった。
それを聞いたバンブロックが、ププに言い寄る。
「ちょっと待て。俺はまだランクBとの試合が控えてるんだぞ。その試合で大怪我するかもしれないだろ?」
そうなのである。バンブロックのランクBでの初戦の2日後に、この集団戦の試合が組まれていて、バンブロックも参加しろと言われたのだ。
実にハードワークである。
だが奴隷の身のバンブロックに、拒否権などはない。
そんなバンブロックに対してププは、冷たく言い放つ。
「娼館に行ってる余裕があるくらいですから、連続の試合が何だと言うんですか。そんなに色欲旺盛なら、何試合でもいけるはずです」
中々厳しい内容を言われるが、バンブロックは何も言い返せないのだった。
そしてバンブロックは、ランクB剣闘士との試合を迎える。
装備はいつものように輝くグラディウスと、ドクロヘルムを被るのだが、盾はいつもと違う。同じカイトシールドだが、以前の奴隷用の安っぽい量産品の盾ではなく、しっかりとした職人が作った一点物の盾である。
それに革製の鎧で胸部と腰回り、そして剣を持つ腕と脛を革鎧で防御している。
それと腰には予備武器として、ダガーが吊られている。
そして最後に漆黒のマントを纏う。
これは以前にも着た、演出用のフード付きマントである。
その姿でバンブロックが闘技場へ足を踏み入れると、大歓声が巻き起こった。
予想以上の人気に、バンブロック本人も驚く程である。
反対側から歩いて来る対戦相手のゴブリンは、それほど人気はないようだ。
グリーンスキンの国に来て、グリーンスキンよりも人気のあるバンブロックとしては、複雑な心境でもある。
そして闘技場中央まで来ると、バンブロックは颯爽とマントを脱ぎ去る。
すると観客席がさらに盛り上がる。
反対に“水流”と呼ばれるゴブリンは、なんのリアクションもなく地味である。
よく見れば鎧の類は着けていない。
厚手の青い布地の、チェニックを着ているだけだ。
そして左手には防御用のダガー、右手にはショートソードを握っている。
明らかにスピード重視の装備であった。
情報によると動きが早いと聞いていたバンブロックは、早くも防御重視の構えをとる。
ゴブリンは俯いて立っているだけかと思えば、何かつぶやいている。
ーー詠唱か!
そして試合開始のドラムが鳴った。
バンブロックは、カイトシールドに隠れる様に身をかがめる。
そこへ水の塊が飛んできた。
飛んできたと言うよりも、勢い良く放水された感じである。
圧で吹っ飛びはしないだろうが、顔に当たれは視界を失う。
バンブロックがそんな事を考えていた時だ。
気が付いたら真横にゴブリンがいる。
「そこか!」
叫びながらバンブロックは、カイトシールドをゴブリンに向けようとする。
しかしそれは遅すぎた。
ショートソードの刃が、目の前に迫っていた。
次回投稿は金曜日の予定です。
毎度誤字脱字報告ありがとうございます。非常に助かっております。
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