73話 大剣使い
バンブロックはいつもの様に、カイトシールドに輝くグラディウス、そしてドクロヘルムを被る。
ただ気持ち的には、いつもと大分違う。
フリーダムからのメモが、どうしても頭から離れないのである。
「ファンブルは敵側に付いた。殺せ」と書かれたメモだ。
フリーダム側からはメモが来るだけで、バンブロックからは質問さえ出来ない一方通行である。
今バンブロックに出来ることは、試合中にそのファンブルとの会話を試みるだけだ。
ファンブルの情報は、ププよりすでにもらっている。
人間種であり魔術は使えない。
元傭兵で武器の扱いは手慣れている。
身長はバンブロックよりも一回りほど大きく、ツーハンデッドソードを使う。
手首を上手く使った風車斬りが得意。
革製の鎧で胴体と腰回り、そして両脛を守っている。
ランクBともなると育てるまでに金が掛かっており、奴隷の主人としたら簡単に死んでもらっては困る。それでランクBでは革製の鎧の着用が、ルールとして初めから認められていた。
頭部に関しては、全てのランクでヘルムの制限は無い。
当然ファンブルも、フルヘルムを被っている。それも金属製のフルヘルムだ、
反対にランクC以下の者が鎧を着用すると、ファイトマネーに影響する。
この辺りがランクの待遇差であった。
色々と考えを巡らしていると、目の前の入場扉が開き、日差しがバンブロックを照らす。
バンブロックが闘技場へ足を踏み切れると、観客席から歓声が上がる。
新人トーナメントでの優勝は、バンブロックを人気剣闘士へと祭り上げたのである。
反対側の入場扉からは、ファンブルが出て来た。
こちらも結構な人気で、観客席からの声援が響く。それもファンブルが扱うツーハンデッドソードが、観客受けしているからであった。
なんせ当たれば派手に血が飛び、肉片が飛び散るからである。
両者は闘技場中央まで来ると、お互いに向き合う。
そして衛兵オークが退場して行く。
バンブロックにとって、今がファンブルと会話するチャンスである。それで早速話し掛けてみた。
「なあ、お互いにフルヘルム越しで分からないとは思うが、俺達は同じ人間種だよな。それでちょっと話したいことがあるんだが」
バンブロックがそこまで言うと、ファンブルが言葉を返す。
「貴様が人間だってのは知っている。だから何だ。手を抜けって言うのか。もしそうだったら答えはノーだ。悪いが俺は全力で戦わせてもらう。だから貴様も死ぬ気で来い」
「いや、ちょっと待ってくれ。聞きたい事がある。俺の質問に答えてくれないか」
「勝手に話せば良いだろ。俺が答えるかどうかは分からないがな」
協力的ではない反応に、バンブロックは困り果てる。
そして試合開始のドラムが鳴った。
いきなり向かって来るファンブル。
バンブロックに、話し掛ける隙を与えてくれない。
ファンブルはツーハンデッドソードを、左右1回転ずつ交互に縦回させながら接近して来る。
さながら風車のようである。
これが風車斬りと呼ばれている、ファンブルが得意とする剣術であった。
ーーこれをやられたら近寄れないぞ!
盾で防ごうものなら、破壊されそうである。それ故に近付けない。
「ファンブル、聞かせてくれ。君はどこかの組織に所属しているのか」
バンブロックの問にファンブルは、攻撃で返す。
ツーハンデッドソードが、バンブロックの脳天に振り下ろされる。
バンブロックは足さばきで躱す。
刃が通過したと思ったら、直ぐに1回転してまたバンブロックを襲う。
それもバンブロックは避けた。
その次も、その次も躱していく。
ーーあれだけ大剣を回して疲れないのか?!
フルヘルムでファンブルの表情は分からないが、疲れている様には見えない。
逃げるバンブロックを追うように、大剣がバンブロックを何度も襲う。
ーーああも振り回されちゃあ、近寄る事も出来ないな
ファンブルが持つツーハンデッドソードは、刃渡り150センチはある。つまり間合いも広く、当たれば軽く身体の部位がふっ飛ぶレベルだ。
バンブロックが攻撃するには、あの風車の様な回転を止めるか、死角から間合いに入り込むしかない。
理屈はそうなのだが、そう簡単にその通りには出来ない。
バンブロックは試しに1度、ファンブルの間合いの中に軽く踏み込んでみた。
すると風車の様な回転する刃が、バンブロックの頭上から迫りくる。
直ぐに後退して避けられたが、危うく片足をふっ飛ばされるところであった。
これをチャンスと見たのか、ファンブルが前に前にと距離を詰めて来るのである。
バンブロックとしては、後ろへ後ろへと下がり続けるしかない。
バンブロックの背中に、観客の声が徐々に近付く。つまり闘技場の端に、追い詰められているのである。
そして遂にバンブロックの背中に、闘技場の壁が当たる。
ーーくそ、後ろがもうない!
ファンブルの顔に笑みが浮かぶ。
そして口を開く。
「悪いが仲間の為だ。死んでくれっ」
大きく回転したツーハンデッドソードの刃が、バンブロック目掛けて振り下ろされる。
バンブロックはダメ元で、カイトシールドをかざす。
カイトシールドが砕ける音が響く。
カイトシールドは、バラバラに砕けて破片を散らした。
そして何かが硬い物にぶつかる音。
そこでツーハンデッドソードの回転が止まった。
見ると闘技場の壁に、ツーハンデッドソードが食い込んで止まっていた。
壁際に寄りすぎたのである。
そのタイミングで、ファンブルはバンブロックを見失った。カイトシールドの砕けた破片に、気を取られたのだ。
ファンブルは剣を壁から抜こうとしながらも、キョロキョロとバンブロックを探す。
「何処言った!」
そして何処からか言葉が聞こえた。
「この命、愛する者へ捧ぐ」
慌てて振り返るファンブル。
するとそこには、輝くグラディウスを構えた片目が赤いバンブロックがいた。
グラディウスがゆっくりと、ファンブルの胸に刺し込まれていく。
バンブロックに激しい興奮が押し寄せる。
そして……
ーー麻痺魔術
ファブルの身体に電流が流れる。
身体は硬直し、体の自由が利かなくなる。やっと出たのはうめき声。
「ぐぅぅ……」
ファンブルの抵抗はそこまでだった。
ファンブルが動かなくなるのを待ってから、バンブロックはグラディウスを抜いた。
ファンブルが崩れ落ちる。
ドクロヘルムの中でバンブロックは、至福の笑みを浮かべる。
ただその片目は深紅に染まっていた。
観客は総立ちで大歓声が響く。
試合終了のドラムが、聞こえないほどであった。
その歓声の中でバンブロックは、徐々に自我を取り戻していく。
ーー何だったんだ、今の感情は……
バンブロックは自分の行動に疑問を持ち、自責の念に駆られる。
ーーこのままだと俺は、ハルトマンの様になってしまう
バンブロックは戦いが引き金となって、自分が自分でなくなってしまうと考えた。
だが奴隷剣闘士に戦いは避けられない。
どうしたら良いか悩むバンブロックだったが、いくら考えても答えは出なかった。
次回投稿は金曜日の予定です。




