72話 火魔術
次回投稿は8日月曜日です
人間の言葉で突然「俺はフリーダムの者だ」と言われ、驚くバンブロック。
フリーダムと言えば、昨日の女性オークが言っていた、オーク社会の変革を望む組織である。
バンブロックとしては昨日の今日で、怪しい感じもする。それに彼女らが裏組織であるなら、それを取り締まる組織があるかもしれない。
取り敢えずバンブロックは、カイトシールドで受けたスタッフを、相手の力に合わせる様に押し返す。
観客からすれば、お互いに力押ししているように見える。
そしてバンブロックは、当たり障りのない返答をした。
「フリーダムがどうした」
「警戒しているのか……まあ当然か。観客や衛兵に怪しまれないように端的に言う。俺はこの試合で負ける。貴様はランクBである人間の剣闘士の“ファンブル”に話を繋げ。以上だ」
驚くバンブロック。
ランクCのトップランカーが、あっさり負けると言うのだ。
負ければ勝率も下がるというのにである。
バンブロックが返答に詰まっている内に、半獣人男は大きくバンブロックから後退する。
そして詠唱を唱える。
バンブロックは次の行動に迷う。
彼の言葉を信じて良いのか。
それに詠唱は妨害するべきなのか。
色々な思考が頭の中を駆け巡る。
そして出した結論。
前に出た。
詠唱を阻害する目的で、カイトシールドを半獣人男に投げ付ける。
半獣人男はそれをスタッフで受け流す。
そして詠唱は完了。
そこへバンブロックが走り込む。
グラディウスを横薙ぎに振るう。
ーー直撃!
バンブロックは振るったグラディウスが、完璧に半獣人男を捉えたと思ったのだ。
しかしそうはならなかった。
突然バンブロックと半獣人男の間に、炎の壁が出現したからだ。
余りの熱さにバンブロックは、グラディウスを持つ手を引っ込める。
直ぐに引っ込めたにも関わらず、手に火傷を負った。
そしてバンブロックは炎から離れる。
するとそこで炎の壁越しに、半獣人男が言った。
「良くぞ手を突っ込まなかったな。さすがだ。突っ込んでたら火傷じゃ済まなかったぞ。さて、次は炎の攻撃を見せてやる。頼むから当たるなよ」
ーー火傷以上ってどんだけだよっ
そこで半獣人男が再び詠唱を始める。
バンブロックは炎の壁があり、攻撃出来ない。それで回り込もうとするが、そこへ攻撃が来た。
「ファイヤーボール!」
半獣人男がそう叫ぶと炎の玉が出現して、炎の壁を通り抜けてバンブロックに迫る。
バンブロックは避けようとして、一瞬嫌な予感が脳裏を過ぎる。
「喰らってたまるか!」
バンブロックは炎の玉を避けずに、グラディウスで斬り付ける選択をした。
横薙ぎに振ったグラディウスは、炎の玉を両断する。
「おお」と感嘆する半獣人男。
味をしめたバンブロックが、グラディウスで炎の壁も斬り裂く。
「魔法の剣か?!」
半獣人男がそう口走った時には、バンブロックは男の目の前。
バンブロックがグラディウスで斬り付ける。
輝くグラディウスが、半獣人男の横腹をローブの上から斬り裂く。
その時だ。
半獣人男が、ローブの影からダガーを出すのが見えた。
輝くグラディウスは、半獣人男のローブを斬り裂いた。
半獣人男は派手に声を上げて、その場に倒れる。
バンブロックは直ぐに側まで歩み寄り、顔の前に剣先を突き付ける。
すると半獣人男。
『〈参った、俺の負けだ〉』
と大きな声の北方語で告げる。
そこで試合終了のドラムが鳴った。
だがバンブロックは見えていた。
半獣人男は斬られる寸前にダガーを出して、斬られる傷の深さを調整していたのだ。
そこまで出来る剣闘士だったのである。
試合中に「負ける」と言ったのは本当だった。わざと負けたのである。
そこで改めてバンブロックは考える。
自分に託された使命だ。
ランクBの人間剣闘士“ファンブル”に話を繋ぐこと。
恐らく人間である自分にだからこそ、託された使命なんだと考えた。
そのファンブルに話を繋ぐ、つまり人間を含めた奴隷解放の考えに賛同してもらい、仲間に加わってもらうこと。
こうやって仲間を増やしていくのである。
問題は、どうやって話す機会を作るかである。
剣闘試合中に話すのが手っ取り早いが、負傷するリスクもある。
それ以外には、剣闘士の控え室での会話という手もある。しかしこれだと他の剣闘士に聞こえる可能性もあるし、見張りのオーク兵もいてリスクが高い。
そもそもどちらにしても、日時の指定が出来ないから、いつ話せるかも分からない。
やはり奴隷の身分では、どうにもならないのである。
ところがである。
ランクBへの挑戦権を得たその日、次の対戦相手がランクBの“ファンブル”だとバンブロックは聞かされた。
余りにも出来過ぎた話である。
ーーコロシアム内部にも、フリーダムの者が入り込んでいるようだな
そうバンブロックが考えるように、フリーダムの組織は、あらゆる場所にスパイを送り込んでいた。
しかしバンブロックにしてみれば、立て続けの剣闘試合である。傷は治癒ポーションで癒えるが、疲労系ポーションは与えられていない。
だから疲労はかなり、積もっていたりする。
それでも戦わなければならない。
奴隷剣闘士に、拒否権などないのであった。
翌日の朝からコロシアムへと、連れて行かれるバンブロック。
前回と同じ道をたどって歩いて行く。
もちろん護衛オークが付いている。
それにププもいた。
するとまたしても獣人の子供達が集まり、バンブロックに罵声を浴びせてくる。そしてやはり前回同様な展開になり、子供にメモを渡された。
たが前回と違うのは、子供に本当に殴られたこと。殴るフリしてメモを渡すのでは無く、実際に殴られた上でメモを渡された。
子供に殴られたくらいは、痛くも痒くもないバンブロックなのだが、精神的に納得がいかないのであった。
今の所バンブロックは、誰にも今回の事は話していない。ププにもである。
何かあった時に、巻き込みたくなかったからだ。
コロシアムに到着し控え室に入ったバンブロックは、早速メモを確認した。
メモにはこう書いてあった。
「ファンブルは敵側についた。殺せ」
頭の中が混乱するバンブロック。
ーー何なんだ、どう言う事だ?
そもそも敵側とは誰のことなのか、バンブロックには想像も出来ない。
ーー俺は騙されているのか?
騙されているとしても、奴隷の自分を騙して何をさせたいのか分からない。フリーダムにとって、何の得があるのか。その前に、フリーダムが何なのかも良く分かってない。
口約束だからと、軽い気持ちで協力すると言ったのが、実は良くなかったのか。
結局バンブロックは答えが出せないまま、衛兵オークに連れられて闘技場へと行くのだった。




