71話 フリーダム
女性オークを前にしてバンブロックは、人間の言葉でさらに質問する。
「何故あんなメモを俺に渡したんだ」
すると女性オーク。
「あなたに重要な話があるのよ。それにはどうしても、直接会って話さないといけない内容だったの」
「どう言う事だ?」
「私達は表だって活動するような組織ではないからよ」
バンブロックは訝しげな表情で尋ねる。
「どういった組織なんだ」
「私達は今のオーク社会に、変革をもたらそうとしているの。組織の名称は人間の言葉で言えば“フリーダム”かしら」
「変革か……それがどういったものかは、俺には関係ない。まあそれはそっちで勝手にやってくれれば良い事だ。まさかその変革しようとする組織と俺が、関係あるとか言うんじゃないだろうな」
「全く関係ないとまでは言えないわね。ただね、これ以上は今の段階では話せないわね。あなたが組織に協力すると言うなら、ある程度まで話せるけど、どうする?」
「それだけの情報じゃ協力出来ないな。こちとら奴隷の身だぞ。そんなのバレたら拷問された上、殺されるからな。もう少し聞いてから決めるのは駄目なのか」
「う〜ん、そうね。これだけは言えるわね。結果として、あなたを含めて人間の奴隷を解放する事になるわよ」
ーー俺の奴隷蜂起の作戦と重なるのか
「確かに俺の考えてる事と一致する所もある。それなら協力しても良いかと思う。だが、無理はしないぞ。こっちは自由に動けない身分だからな。それでも良ければ協力する。これでどうだ?」
女性オークは、少し笑みを浮かべ返答する。
「それで良いわ。余り時間がないから簡単に言うわね。私達の目的は、獣人種と半獣人種の解放よ。その過程で他の種族も解放するのよ」
「もしかして、奴隷蜂起するのか」
「あら、頭の回転が早いのね。その通りよ。それで人間種の取りまとめを、貴方にお願いしたいのよ」
「そうか、それなら了解だ。他の種族にも話はいってるのか」
「9割ってところね。分かってると思うけど、この事は秘密よ。一人でも秘密を漏らす者がいると、全滅の恐れもあるから覚えて置いてね。そろそろ時間ね……」
女性オークと護衛は話を切って立ち去ろうとするが、バンブロックがそれを引き留める。
「待ってくれ、この街に人間はどのくらいいるんだ」
「そうね……50人位かしら。殆んどが職人奴隷だけどね。パン職人とか鍛冶職人とかね。でも剣闘士も何人かいるわよ」
人間が予想以上に多いのに驚くバンブロック。それに剣闘士もいる。
そうなると同じ人間である奴隷達を、何とかして助け出したいとも思う。
「最後にひとつ、名前を聞かせてくれるか?」
「そうね、本名は明かせないから、クインとでも呼んでちょうだい」
こうしてバンブロックは、変革を求める女性オークに協力することになった。ただ、今は仲間を集めるのと、チャンスを待っている段階だが。
何かあればその都度連絡すると言われたバンブロックだが、その方法までは教えてもらえなかった。
そして話が終わると、何事も無かった様にバンブロックは宿へと戻って行った。
□ □ □
その夜、バンブロックの寝床にププがやって来た。
ーーまさかもう、この街での次の試合が決まったのか?
バンブロックとしては、そろそろバドの街へ戻ると思っていた。だから次の試合が決まるとは、思っていなかったのである。
ププはバンブロックの横に立つと、いつもの口調で話し始めた。
「ご主人様からの言葉をお伝えします」
「おい、まさかこの街にまだ滞在するつもりなのか……」
「その辺は聞いていませんが、次の試合が決まったという事は、最低でも明日までは滞在するのでしょう」
「ってことは、試合は明日かよ……で、対戦相手の情報はあるのか?」
「はい、あります。いきなりですが、ランクCの上位剣闘士との対戦です。勝てば次の対戦相手はランクBです。つまり、ランクアップの挑戦権が得られます」
バンブロックの表情が明るくなる。
「うおぉ、そうか。ランクB剣闘士への挑戦権か。それで勝てば、俺もランクBの仲間入りって訳だ」
「はい、そうなります。ですが、今回の対戦相手は強敵です。ランクCの中でも無敗の剣闘士です」
「そうだよな、ランクBに上がるかどうかの試合だからな。そう簡単には上がれないか。それで、対戦相手ってどんな奴なんだ」
ププが難しそうな表情で答える。
「それが珍しく半獣人なんですが、さらに珍しく魔術師なんです」
「遂に魔術師がきたか。ランクCのトップランカーともなると、そんな奴もいるか。ランクBになると、もっと凄い剣闘士がいるだろうから、その位で驚いてちゃ駄目なんだけどな」
「それでその魔術師なんですが、このコロシアムでは、結構な人気の剣闘士らしいです。それで使う魔術なんですが、炎系の攻撃が得意で防御も炎の壁を作り出すそうです、火傷に注意して下さい」
「いやいや、火傷じゃ済まないと思うが……」
「あ、それからローブを着ていて、手には魔石付きのスタッフを持つそうです。それにとどめの一撃は、隠し持ったダガーを使うそうなので、注意が必要です」
「分かった。ププ、報告助かる」
こうしてバンブロックの対戦相手は魔術師と決まったのだが、魔術を専門に使う相手との戦闘は初めてであった。
軍隊にいた時に集団戦闘の中で魔術師がいた事はあるが、それは集団対集団であり1対1ではない。
バンブロックとしては、どうやって戦うべきなのか、悩むのであった。
そして翌日。
昨日とは打って変わって、朝から晴れ渡っている。
そうなると湿った砂を利用した、麻痺魔術は使えない。
それに対戦相手は魔術師なので、バンブロックの麻痺魔術についても知っていて、何らかの対策をしている可能性がある。
それを覚悟の上で翌日、バンブロックはコロシアムへと向かった。
□ □ □
バンブロックは闘技場の中央で、半獣人と睨み合っていた。
ランクCの、トップランカーの男との対戦である。
スタッフを持ってローブを身に纏い、如何にも魔術師的な格好である。
衛兵オークが退場すると、試合開始のドラムが鳴った。
ドラムの音と同時に半獣人が、体当たりする勢いでスタッフを振り上げて迫って来る。
バンブロックは対抗するように、地面を踏ん張りながらカイトシールドでそれを受ける。
お互いに魔術など使わずに、力比べをする形となった。
すると突然、半獣人の男が人間の言葉で話し掛けてきた。
「俺はフリーダムの者だ」
次回投稿は6日土曜日の予定です。




