70話 シロクマvsバンブロック
シロクマは仁王立ちすると、左右の腕からの連続攻撃を始めた。
それは拳と言うよりも張り手であった。
その張り手のスイングはそれ程速くもなく、バンブロックの身体能力ならば、避けるのは難しくはない。
ただしシロクマの腕のリーチは長く、バンブロックが持つグラディウスの間合いには、全く入っていけない。
そこでバンブロックは、またもスライディングを試みようと構えたところ、すかさずシロクマは腰を低く構え直した。
ーーバレてるみたいだな
バンブロックはスライディングを留まる。
するとシロクマが言ってきた。
『〈なんだ、スライディングしてこないのか。まあ良いがな。その手はもう知ってるし。俺だってトーナメント試合くらい見てる〉』
と、余裕の顔で言われてしまうと、何となく意味を察したバンブロックは、次の行動に悩む。
そうなると、あとは麻痺魔術しかない。
だが、どうやってあの剛腕の攻撃を掻い潜り、懐に入って身体に触れるかである。
それに麻痺魔術についても、ある程度知っているかもしれない。何か対抗策を、用意しているかもしれない。
そう考えると、中々手が出せないバンブロックだった。
そんな事を考えている間にも、バンブロック目掛けて剛腕が襲い掛かる。
バンブロックは避けながら、後ろへと下がる。
すると遂に闘技場の端である、壁際にまで追い詰められてしまった。これでもう、後退出来なくなったのである。
するとシロクマが、大きく振りかぶっての左の張り手。
必死に避けるバンブロック。
何とか避けられたが、体勢を崩してしまう。
そこへ今度は右腕からの張り手がきた。
避けきれないと思ったバンブロックは、ヒーターシールドをかざす。
物凄い衝撃。
ヒーターシールドが、音を立てて圧し折れる。
「うおっ」
圧し折らたヒーターシールドは、バンブロックの手から離れ、残骸となって飛んでいく。
その残骸の一部が観客席に飛び込み、悲鳴が上がるが試合は続く。他の客も騒ぎ出すどころか、逆に盛り上がって歓声を上げた。
観客の何人かが負傷したらしいが、関係なく試合は続いていく。
シールドを無くしたバンブロックは、避けるしか無くなった。だが全てを避けきるのは難しい。
それで思わず、グラディウスで受け流してしまった。
すると受け流せたは良いが、反動で身体ごと持っていかれそうになる。
何とか堪えたが地面に、手と片膝を突いてしまう。
するとシロクマが、えげつない笑みを浮かべて言った。
『〈お前はずっとそうしていろ〉』
シロクマが両手を組んだ拳を、頭上に振り上げる。
バンブロックは次の行動に迷う。
咄嗟の判断。
ーー起き上がっていたらやられる!
シロクマの両拳が振り下ろされた。
砂が周囲に飛び散り地面が揺れる。
バンブロックは転がっていた。
ほんの僅かな差だった。
バンブロックは壁伝いに転がって、上手く避けたのである。
さらにその勢いで起き上がる。
するとある事に気が付いた。
ーー砂が湿っている?
「雨で地面の砂が湿ってるのか……」
悔しそうな顔のシロクマが向き直ると、バンブロックを睨みつけて言った。
『ちょこまかとウザい野郎だ。だが次は仕留めてやる』
そこでバンブロックは言い返す。
『〈お前に次はない〉』
『〈はあ?〉』
バンブロックは地面に左手を付いた。
「麻痺魔術!」
一瞬しまったという顔するシロクマ。
だがその顔も直ぐに苦渋の表情となる。
地面を伝って電流が流れたのである。
シロクマは硬直し痙攣する。
雨水を多量に含んだ砂が、電流を通したのである。
観客からは一気に歓声が上がる。
だが、そんな状態でも動き出そうとするシロクマ。
『う……ががが……』
それを見た観客席からは、どよめきの声が聞こえた。
反対にバンブロックは、驚き半分に悔しさ半分といったところか。
ーーまだ動けるのか!
さらにバンブロックは、右手のグラディウスを地面に刺す。
「これならどうだ!」
グラディウスを媒介に、さらに麻痺魔術を両手から流す。
『ウガアアアアアァァァッ!!』
シロクマの悲鳴である。
5秒もすると完全にシロクマの動きは止まり、それに合わせてバンブロックは魔術を止めた。
するとシロクマは、仰向けに音を立てて倒れる。身体からは薄っすら煙が出ているが、誰もがそういう麻痺の魔術なんだと思っていた。
ここで試合終了のドラムが鳴った。
観客席は大盛り上がりで、『幼女の専門家』コールが始まった。
その時だった。
シロクマが動き始めたのである。
観客席がどよめく。
試合は終了しているが、一応バンブロックはいつでも戦える構えをとる。
衛兵オーク達が、走って来るのが見える。シロクマが再び暴れ出しても、きっと衛兵オークらが止めてくれるだろうと、バンブロックはそれほど慌ててはいなかった。
むしろまだ動けるのに驚いていた。
シロクマは片手を地面に突いて、起き上がる。
そしてヨロヨロとバンブロックに、向かって歩いて来た。
『〈貴様……必ず……殺す……〉』
まだ戦う気である。
バンブロックは衛兵オークの方を見るが、間に合いそうもないと判断。それならばと、シロクマに近付いて行く。
バンブロックが手にしているグラディウスが、一段と輝きを放つ。
「この命、愛する者へ捧ぐ」
シロクマは何の抵抗もしなかった。
そこへバンブロックは、輝くグラディウスをゆっくりとシロクマの心臓に差し込んだ。
シロクマが震える手をバンブロックへと伸ばし、怒りの表情で睨む。
だがその手が届く前にシロクマの命の灯火は消え、その場に座り込む様な体勢となり、そのまま動かなくなった。
そこでやっと衛兵オーク達が到着した。
到着すると、シロクマが息をしているか確かめる。
衛兵オークの一人が首を振っている。
シロクマ“血染め”は息絶えたのであった。
バンブロックの勝利である。
つまりは、新人トーナメントでの優勝であった。
一番喜んでいたのは、ウマッハである。
大金をバンブロックの優勝に注ぎ込んだ見返りは、非常に大きい。大儲けであった。
これでバンブロックの罰は帳消しとなるのだから、問題は何もない。問題があるとすれば、バンブロックにファイトマネーが、入らない事くらいだろうか。
こうして新人トーナメントは、バンブロックの優勝で幕を閉じた。
そしてこの優勝で、バンブロックは一躍時の人となるのであった。
試合後、バンブロックは衛兵オークに連れられて、コロシアムの控え室へ向かうはずだった。しかし、衛兵オーク2人は、バンブロックが知らない部屋へと案内する。
バンブロックが『〈どこへ行く?〉』と聞いても何も答えない。
結局、案内されるがままに見知らぬ部屋へと通されて、一人部屋に残された。
しばらくすると、誰かが部屋へ入って来た。
部屋に入ってきたのは、1人のオークとその護衛らしいオークと獣人。
オークは金持ちそうな服装で、身分も高いと思われた。
それよりも驚きなのが、このオークは女性であること。オーク社会は男尊女卑の社会。その社会の中で、護衛付きで服装も立派な女性オークは珍しい。
それ相応の地位もありそうである。
バンブロックが直ぐに質問する。
『〈俺、何か、用が?〉』
するとオークが答える。
「メモを送ったのは私よ」
その人間の言葉で話すオークに、驚きを隠せないバンブロックだった。
次回投稿は3日水曜日の予定です、




