66話 賢い対戦相手
闘技場中央で対峙する、リザードマンとバンブロック。
お互いに相手を値踏みする様に見ていた。
そこでリザードマンが口を開く。
『〈やあどうも。麻痺の専門家さん〉』
しっかり元の呼び名である。
少し驚きつつ、拙い北方語で返答するバンブロック。
『〈ああ、どうも……〉』
リザードマンの身長は200センチ位で、トカゲの様な外見の亜人である。
青色の皮膚は人間の皮膚と違い、鱗に近い形状をしており少し硬い。天然の鎧とも言える。
情報によると、このリザードマンは策略家と言われていて、色々と小細工を仕掛けてくるらしい。
そんなリザードマンに対し、どういった戦い方を進めるか考えを巡らすバンブロックだが、成るように成るかと割り切って、カイトシールドとグラディウスを構えた。
リザードマンはラージシールドにグレイブという、長柄武器の柄を短くしたものを武器として持っている。普通は片手で扱える代物ではないが、200センチ近い体格だからこそ、それを可能にした。
戦闘態勢は取っておらず、左腕のラージシールドの裏にグレイブは挟んでいる。
そこでバンブロックは気が付いた。
リザードマンは右手の平の中に、何かを握っている。
ーー試合開始早々に目潰しか?
そう考えて、バンブロックは右手に警戒する。
衛兵オークが下がり終えると、試合開始のドラムが鳴った。
ドラムの音と同時に、リザードマンが前に出る。
バンブロックも同じ様に前に出た。
そこでリザードマンの右手が動いた。
何かを浴びせようとしている。
ーー砂か!
バンブロックは、カイトシールドで防御する。
カイトシールドにザララッと、砂が当たる音。
「お見通しなんだよ!」
そう叫んで、グラディウスを振り上げるバンブロック。
そこでリザードマンの口から、何かが噴射された。
ドクロヘルムがあるとは言え、まともに何かを顔面に噴霧されてしまったバンブロック。
「くそ、アルコールか!」
リザードマンは口に、アルコールを含んでいたのである。
右手の砂は囮だったのだ。
アルコールの目潰しは、ドクロヘルム越しでも強烈だ。ヘルムの隙間から入って目をやられる。
完全に不意を突かれたバンブロック。
ドクロヘルムが無かったら、完全に視界が無くなっていただろう。
バンブロックは目の痛みに耐えながらも、後ろへと下がって行く。
リザードマンは、バンブロックの目が見えていないと判断。これは勝機と捉えて勝負に出た。
ラージシールドの裏から、何かを取り出すリザードマン。そしてその何かを、バンブロックの足元にバラ撒いた。
撒菱である。
地面に置けば必ず棘が上を向くその小道具は、踏めば足の裏を貫くほど鋭く尖っていた。
バンブロックは、足元に撒かれたものが何なのか、辛うじて見えた。
その対処も知っていた。
すり足で歩けば良いのである。
だだし動きは遅くなる。
バンブロックの対応を見たリザードマンがつぶやく。
『〈あれ、もしかして見えてるの〉』
バンブロックは負けじと、輝くグラディウスで反撃に出る。
『〈へえ、まだやる気はあるんだね〉』
残念ながらグラディウスの攻撃は全て、ラージシールドに阻まれてしまう。
そこで反対に、リザードマンが攻撃を仕掛けた。
一転してバンブロックは、必死でグレイブの攻撃をいなす。目はまだ痛いままだし、足元は撒菱で危険。かなりのピンチである。
先程よりも目は回復してきている。
このままだといずれやられると思い、バンブロックは再び攻勢に出た。
突然しゃがみ込み、撒菱を拾い上げるや投げ付ける。
狙いはリザードマンの顔だ。
『〈おっと!〉』
リザードマンは顔の位置までラージシールドを持ち上げ、撒菱を防ぐ。
だがその瞬間、足元に隙が出来た。
バンブロックは大きくすり足で踏み込み、低い姿勢から斬撃を放つ。足狙いである。
そこでリザードマンは、ラージシールドを地面すれすれまで下げ、輝くグラディウスを防いでしまった。
だがそこで終わらない。
ーー麻痺魔術
ラージシールドの金属部を伝って、電流が流れる。
リザードマンは驚いた顔で、大きく後退してグラディウスから離れた。
ーーやはり駄目だったか
だがバンブロックは、撒菱地帯から逃れる余裕が出来た。
そこでリザードマンが、距離を置いてバンブロックに話し掛け始めた。
『〈君の魔術って麻痺系だったはずだよね。麻痺対策でポーション飲んで来たのに、今シールドを通してバチッときたんだけど、それって麻痺じゃないよね。それに今の魔術さ、詠唱破棄したよね?〉』
長文での北方語などバンブロックには理解出来ないのだが、単語で何となく麻痺対策のポーションを飲んだというのは理解する。
そこでバンブロックは言葉を返す。
『〈俺の魔術、万能!〉』
『〈いや、違うね。君の魔術は麻痺じゃないよね。多分だけど雷系だと思うよ。万能な魔術なんてあるわけないじゃん〉』
『〈何言ってる、分からない。いいから戦え〉』
『〈それからさ、君のそのショートソード、グラディウスって言うんだったかな。それだけどさ、それって魔法剣だよね。そんな希少な剣をこんな試合で持ち込むとか、ちょっとズルくない?〉』
ーーくそ、全然意味が分からねえ!
かなり大切な事を言っているのだが、北方語の長文理解はバンブロックにはまだ無理だった。
「ええい、意味が分からん!」
そう言いながら、バンブロックは斬り掛かる。
リザードマンもそれに応じる形で、2人の壮絶な攻防が始まった。
意外と2人の剣の技量は拮抗していて、剣での勝負では決着がつきそうにない。
しばらくすると、2人は自然と距離を置く。
そして両者共に肩で息をしていた。
そこでバンブロックが口を開く。
『〈お前、強いな〉』
『〈君もかなり強いね。君はいったい何者なんだい。人間にして置くのはもったいないよ〉』
『〈そろそろ、勝負、決めるぞ〉』
リザードマンが口角を上げて言葉を返す。
『〈ははは、答えてはくれないか。まあそれでも良いけどね。それじゃあ、早いとこ終わらせようか〉』
バンブロックは、カイトシールドに身を隠す様に構え直し、突然走り出す。
それに合わせるように、リザードマンも走る。
そこで突如バンブロックは、撒菱を投げ付けた。先程拾ったのが、まだ残っていたのである。
リザードマンが少し驚いた顔を見せるが、直ぐにラージシールドで顔に飛んできた撒菱を弾く。
その時バンブロックはと言うと、隙が出来た足元へスライディングを試みていた。
次回投稿は22日金曜日の予定です。




