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気が付けば奴隷剣闘士  作者: 犬尾剣聖


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61話 この命、愛する者へ捧ぐ


ちょい長いです






 バンブロックは消え入りそうな意識の中で、必死に身体を動かそうとする。


 指を、腕を、脚を、動かそうと全身に力を込める。


 身体のどの部位でも良いからと、必死に藻搔もがく。


 そして叫ぼうとする。


 だがどれも徒労に終わった。


 さらにバンブロックの視線の先では、ハルトマンが笑いながら、妻に続いて今度は自分の娘に刃を向けている。

 その片目は赤く、人ならざる者の目であった。


 そこでバンブロックは、消え入りそうな意識の中、執念で片腕が動かす。


 娘に腕を伸ばす。


 手を伸ばして届く距離ではないのだが、それでも必死に伸ばす。


 何度も叫ぶが声は出ない。


 そして無情にもハルトマンのサーベルは、バンブロックの見ている前で振り下ろされた。


 バンブロックは、目の前の出来事が理解出来なかった。


 愛する娘が無残な姿に変わったことに。


 地面に伏している血だらけの娘の目が、バンブロックを見ていた。


 ただその目には生気がない。



 叫びたかった。



 駆け寄りたかった。



 夢であって欲しかった。



 自分が何も出来なかったことを悔やんだ。



 自分の無力さを呪った。



 そしてかすれた声で絶叫した。


 そうした中でバンブロックは、無意識の内にその嫌な出来事の1部を記憶の片隅に追いやった。

 2度と思い出したくなかったのである。


 これがバンブロックの本当の記憶である。

 衝撃的過ぎて、忘れようとしていた記憶。

 それが今、狂刃ハルトマンの姿を見て、記憶がよみがえったのである。

 

 バンブロックが突然、咆哮ほうこうを上げた。


「うおおおおおおおぉぉっ!」


 バンブロックはカイトシールドごとハルトマンに突っ込んだ。


 ハルトマンはそれを難なくかわす。

 

 全力で突っ込んだバンブロックは、バランスを崩してふらつく。


 そこへハルトマンのサーベルが迫る。


 バンブロックは身をひねり、それをグラディウスで弾いた。

 

 しかしそこでハルトマンの左手のダガーが、バンブロックの目前に迫る。


 バンブロックは、それをかわそうと身体を反らす。


 真っ赤な血が空中を舞う。


 バンブロックの右肩が斬られ、パックリと傷口が開いていたのである。


 止めどなく流れ落ちる鮮血。


 だが今のバンブロックは、痛みなど感じなかった。感じないどころか、更に怒りの炎を燃やし再び咆哮ほうこうする。


「ガアアああああっ!」


 鮮血を散らしながらも、グラディウスを縦に横にと振り回す。


 ハルトマンはおぞましい笑みを浮かべながら、全て上半身を揺らすだけで避けていく。


 その時、周囲を囲んでいた衛兵オークの1人が、近くに来たハルトマンにスピアで突いた。

 この距離ならやれると思ったのだろう。

 だが結果は呆気あっけなく終わる。その衛兵オークは、一刀のもとに斬り伏せられたしまった。

 まるでハルトマンから「邪魔をするな」とでも、言われたようである。

 それ以降、衛兵オーク達は一切手を出さずに、2人を囲むのに徹した。


 戦いが長引いてくると、バンブロックは徐々に冷静を取り戻し始める。

 だがハルトマンを“斬る”という選択に代わりはない。その為に何をするかであった。


 剣の技量では、ハルトマンの方が圧倒的に上である。そして動きの早さや戦いの経験でも、ハルトマンが上。

 ならばこの状況で、ハルトマンに勝っているのは何か。

 バンブロックは考える。


ーー魔術か……


 バンブロックには麻痺魔術がある。

 それにこの輝くグラディウスがある。


 剣聖である狂刃ハルトマンに勝つには、これしかなかった。


 せめてグラディウスがハルトマンに触れられるなら、麻痺魔術が発動出来る。

 しかし先程からグラディウスは、かすりもしない。


 その間にもバンブロックの右肩からは、鮮血が流れ出ている。

 鮮血は肩からだらりと下がった腕を伝い、グラディウスまでも深紅に染めて、剣先からポタポタと滴り落ちる。

 

ーーこの出血だと長くは持たない


 本人もそれは分かっているが、今のバンブロックの力では何もさせてもらえない。


 血液が流れるに従い、次第に意識が薄れていく。


ーー駄目だ、俺はまだ死ねない


 そうは思っても、身体が言う事をきかない。


 ハルトマンが下段から、サーベルを振り上げた。


 バンブロックは力を振り絞って、グラディウスを上段から叩き付けた。受け流すのではなく、サーベルに斬撃を喰らわしたのである。


 眩しいくらいに輝くグラディウス。


 そしてパキーンと甲高い音がしたかと思えば、サーベルの刃が折れた。


 ハルトマンは不思議そうな顔で、折れたサーベルを見つめる。

 だが直ぐにそのサーベルは捨てて、右手にダガーを持ち換えた。


 バンブロックはそこまでだった。

 立っていられなくなったのである。

 

 地面に伏したバンブロック。


ーーくそ、妻と娘の前で何も出来なかった時と同じじゃねえか


 視界がかすんでいく。

 ハルトマンの姿もハッキリ見えない。


 バンブロックに見切りを付けた衛兵オークらは、ここへきて再び戦い始めた。だが結果は同じで、次々にハルトマンのダガーの餌食えじきになっていく。


 辺りは血の海となっていた。


 その時バンブロックの視界は既に真っ暗で、ただ観客の喧騒けんそうだけが耳に入っていた。


 この時のバンブロックは、全ての苦しみから解放された気分であり、心も穏やかに妻と娘との楽しい時間を思い出していた。


ーー俺も今からそっちに行くからな


 もう何も感じていない。

 ハルトマンへの憎しみも消えている。

 ただ身体が重いだけ。

 今はとにかく、妻と娘と一緒に居たいという気持ちが強かった。


「お父さん」


 娘がバンブロックを呼んでいる。


「お父さん」


 返事をしたいのに声が出ない。


「バンブロックさん!」


 妻や娘以外の聞き覚えのある声。



ーー誰だ、俺を呼ぶのは?



「ここで死んだら……許さない!」



 突然、バンブロックの目が開いた。


 その視線の先には、貴賓きひん席にいるププが見えた。ウマッハと一緒に観戦していたのである。


 現実に戻ったバンブロックは、首を動かし視線を移す。


 そこには、衛兵オークをぶった斬るハルトマンがいた。

 足元は血の海が出来ており、その中で返り血を浴びながらも、ハルトマンはダガーを振り続けていた。


 バンブロックは必死に起き上がり、片膝立ちをする。その姿勢で、血溜まりの中に手を突っ込んだ。


 そして……




ーー麻痺魔術パラライズ




 血溜まりを伝い電流が流れる。


 しかし何かを悟ったのか、一瞬早くハルトマンは血溜まりから1歩離れた。


ーーくそ、気付いたのか!


 すると代わりにハルトマンと戦っていた衛兵オーク達が、身体を硬直こうちょくさせ痙攣けいれんを始めた。


 それを見てハルトマンは、立ち止まって笑っていた。


ーーだがまだ終わりじゃない!


 バンブロックは、右手でグラディウスを振るう。


 とてもグラディウスの斬撃が届く距離ではない。完全に間合いの外にハルトマンはいた。

 その証拠に、ハルトマンも余裕有り気に笑っている。

 

 グラディウスの刃は空を切るが、その切っ先を伝ったバンブロックの鮮血が空中を舞い、ハルトマンの顔に降り注いだ。


 その刹那せつな……




ーー麻痺魔術パラライズ




 空中に飛び散った血液を伝い、バンブロックからハルトマンへと電流が流れた。


 血液が空中に留まるわずかな時間だったが、それで十分だった。


 ハルトマンは身体が硬直するも、直ぐに麻痺魔術が解ける。

 一瞬だったが威力は大きく、ハルトマンは片膝を地面に突いてしまう。


 その片膝は血の海の中……


「もう1度!」



ーー麻痺魔術パラライズ


 

 再びハルトマンを襲う麻痺魔術。

 ハルトマンは硬直し痙攣けいれんを起こす。


 だがバンブロックは止めない、


 観客席からの大歓声が響く。


 ハルトマンの身体から煙が出始めた頃、やっとバンブロックは魔術を止めた。


 するとハルトマンはその場に崩れるように倒れ、身体からはブスブスと煙が湧き上がる。


 そこへバンブロックはうように近付き、グラディウスを突き刺した。

 何度も何度も突き刺した。


 そしてグラディウスを杖代わりに片膝立ちすると、消え入りそうな声で言った。


「この命、愛する者へささぐ……」


 闘技場は一気に歓声と喝采かっさいに包まれた。


 衛兵オークを巻き込んでしまった事など、お構い無しにバンブロックへの歓声は止まらない。


『ローリッ』

『ローリ!』

『ローリッ』


 その大歓声は止むことなく、バンブロックが退場してもまだ、しばらく続いたのだった。


 しかし何故かここでのバンブロックの剣闘士名が「ローリ」に変わっていたのだが、意識朦朧いしきもうろうのバンブロックは気付かなかった。








GW中は反応が良さそうなので、連投する予定です。


しかし!


ストックがピンチになりますw



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