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気が付けば奴隷剣闘士  作者: 犬尾剣聖


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56話 異名の意味を知る






 アライグマ獣人は丸盾に身を隠し、フレイルを構えながら前に出る。


 バンブロックはその場に留まり、相手の出方を見るつもりだった。魔道具がないか見極める目的もある。

 

 先制攻撃はアライグマ獣人だ。


 フレイルが横薙よこなぎにバンブロックを襲う。


 バンブロックはカイトシールドで受ける。


 寸前でフレイルの鎖が伸びる。


 すると鎖がカイトシールドに絡み付くように回転。


 棘付きの鉄球が、バンブロック左腕に迫る。

  

 バンブロックが振り払おうするが、それは既に遅かった。

 

 バンブロックは左腕に衝撃を感じた。


「っつ……こう言うことか」


 鎖が伸びる事がどう影響するのか、バンブロックが知らなかった為の結果である。


 直ぐに後退しながら自分の左腕を確認する。

 出血は大したことないが、左腕を動かそうとすると激痛が走る。


ーーくそ、骨までやられちまったか


 バンブロックは左腕はあきらめて、右腕だけで戦う決心をした。

 そこで邪魔なカイトシールドを捨てようとするが、それさえ痛みで固定ベルトから腕を抜くのも無理だった。

 仕方無く、カイトシールドはそのままで戦う。


 本来ならば一旦体勢を立て直したいのだが、アライグマ獣人の追撃は止まない。


 バンブロックは必死に逃げ回る。

 そこへ何度も棘付き鉄球が迫る。


ーー何とか攻勢に出たいんだが


 アライグマ獣人は身体が小さいので、恐らく一撃でも喰らわせれば、盾で防ごうが吹っ飛ばせる。そうバンブロックは考えて、何とか接近戦に持ち込もうとする。

 しかし近付くと今度は鎖を短くされて、接近戦にも対応してきた。


ーーこいつ、思った以上に強いな


 もう愛玩動物とか女性とか、言ってられる程の余裕などなかった。


 バンブロックの脳裏には「試合で負ける」と言う言葉が浮かぶ。

 それは限りなく死に近い結果である。


 ここでバンブロックは、間違いを犯した。

 負ける想像をしてしまったのである。


 それは戦いの最中に、決してしてはいけない想像だ。そのマイナスの気持ちが、バンブロックに大きなすきを作る。


 アライグマ獣人が再び、横薙よこなぎにフレイルを振ってきた。


 通常ならバンブロックは、2度も同じ手には乗らない。だがこの時のバンブロックは、言わばヒヨッてしまったのだ。


 鎖が伸びた棘付き鉄球が、先程と同じ軌道でバンブロックに迫る。


 バンブロックは無意識に、カイトシールドで防ごうとしてしまった。

 当然、左腕に激痛が走る。

 そして再び、フレイルがカイトシールドに絡み付く。

 

 幸いにも棘付き鉄球は腕には当たらず、カイトシールドの裏面に突き刺さった。


 それだけの衝撃でも、バンブロックの負傷した左腕は激痛に襲われる。


「痛いっつうの……」


 引きつった顔を見せるバンブロック。


 そこでアライグマ獣人は、全力で鎖を引いた。

  

 それにあらがうと痛みに襲われるため、成されるがままに引き倒されてしまうバンブロック。


 アライグマ獣人は、勝利を確信したのだろう。笑顔を見せた。


『〈あたしの勝ちだね〉』


 そこでバンブロックは倒れたまま、アライグマ獣人に見えるように顔を上げ、ニヤリと笑いかけてつたない北方語で返答した。


『〈そうとは限らないぜ。俺の魔術を知らないのか?〉』


 アライグマ獣人の表情が、一瞬で恐怖に包まれる。麻痺魔術を知っていたのであろう。




ーー麻痺魔術パラライズ




 アライグマ獣人は、全身の毛を逆立たせて痙攣けいれんする。


 バンブロックは魔術を直ぐに止めた。

 やはり愛玩動物に見えたからだろう。


 アライグマ獣人は、その場で崩れる様に倒れた。


 そこでバンブロックは直ぐに、グラディウスを天に突き刺すように振り挙げた。

 勝ち名乗りである。


「しゃ〜!」


 するとそれに呼応するかの様に、試合終了のドラムが鳴った。


 観客は大歓声だ。

 やはり麻痺魔術は人気がある。


 そこでバンブロックは、アライグマ獣人に走り寄る。

 そして息が有るのを確認すると、叫び出す。


「救護班、担架だ。担架を持って来い!」


 しかし中々担架を持って来ない。


 しびれを切らしたバンブロックは、アライグマ獣人をお姫様抱っこをすると、衛兵用の出入り口へ走り出す。


 ここで歓声が変わった。

 バンブロックにとっては、聞き慣れない北方語である。


 初めは少人数だったのだが、次第に他の観客にも伝染する。そして最後には観客全体で叫び出した。


『ローリ、ローリ!』

『ローリ、ローリ!』

『ローリ、ローリ!』


 誰もが同じ言葉を叫んでいる。

 もちろんバンブロックに向かってである。


 バンブロックはやっと出て来た救護班に、アライグマ獣人を渡す。

 そこで改めて耳に『ローリ』と言う言葉が聞こえてきた。


 しかしバンブロックの知っている北方語で、『ローリ』と言う言葉を知らない。


 とにかくバンブロックは、その声援に応えるようにグラディウスを掲げながら、笑顔で闘技場を去った。


 控え室に戻ったバンブロックは、他の剣闘士に『ローリ』とは何かをつたない北方語で聞いてみた。


『〈なあ、ローリってどう言う意味だ?〉』


 すると半獣人が、ニヤニヤしながら答えた。


『〈何だろうな。サッパリわからねぇなぁ。ふひひひひ〉』


 違う剣闘士に聞いてみると。


『〈ローリって何かって。それはな、難しい質問だな。そうだな、あの赤毛獣人に聞いてみろ〉』


 赤毛獣人。


『〈バカかお前は? 頭のネジが外れてんじゃねえのか〉』


 結局、誰に聞いても教えてくれなかったのである。


 程なくして、バンブロックは医務室へと連れて行かれた。ウマッハから、左腕の治療の許可が下りたのだ。


 久しぶりに医務室へ入ると、いつもの様にエルフ族のルミナスがいた。


 バンブロックが左腕をかばいながら近付くと、ルミナスが眉間にシワを寄せて言った。


「またひどくヤラれましたね」


「すまんが、診てくれるか」


 ルミナスは患部を少し診てから言った。


「手首が複雑骨折っぽいですね。これはちょっと時間が掛かりますよ」


 そう言うや、早速治癒の魔術を掛け始めた。

 そこでバンブロックは、手首の内部で何かが動いている感覚を体験した。実に不思議な感覚である。

 折れた骨が動いているのである。

 そのままもう少し、魔術による手当てを続けると言う。


 お互い無言だと何とも気不味いと思い、バンブロックは話し掛けてみた。


「話し掛けても良いか?」 


「ええ、どうぞ」


 治癒魔術の行使中でも、会話は出来るらしい。


「北方語で“ローリ”ってどう言う意味か知ってるか」


 するとルミナスは、ちょっと驚いた表情を見せつつも答える。


「……そうね、人間の言葉だと“幼女の専門家”ってところかしら」


「麻痺の専門家じゃなくて、幼女かよ……」


 その後、言葉に詰まるバンブロックだった。


 そこから終始無言だったらしい。

 ウマッハ養成所に着いてからも、無口な状態が続いたようだ。


 バンブロックは、過去に起こった出来事を色々と思い出して、壁を何度も叩いていたという。

 その夜バンブロックは、羞恥しゅうち心に打ち震えながら朝を迎えたのだった。







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