54話 ファイトマネーの使い道
ププは話を続ける。
「ランクCになると、質のよい武器や鎧を着た剣闘士が多くなるらしいのです。特にランキング上位になると、それが顕著になるようです。ランクBともなると、もっとです。そうしないと生き残れないんです。だから……その、バンブロックさん。無理をしないで欲しいんです……」
最後の方は小声になった。
「そうか、分かった。教えてくれてありがとう。でもな、俺は負けないから心配するな。それで必ず皆を自由にしてやる」
するとププが首を傾げる。
「自由ですか?」
「おっと、これはまだ内緒にして――オーク兵が来た。話は以上だ」
オーク兵に怪しまれたのである。
バンブロックは木剣を握ると、何事も無かったかの様に鍛錬に入った。
そしてオーク兵が去った後、ププから受け取ったファイトマネーの布袋を確認してみる。
ランクCとしてのファイトマネーは、既に何回か受け取っている。そうは言っても、確認はしたくなる。
周りに分からないように、こっそり中身を覗き見る。
その時だった。
「ロック、何してんだ。知らんけどっ」
そう言って誰ががバンブロックの肩を叩いた。
「うはっ!」
ビックリして声を上げるバンブロック。
その拍子に、布袋の中身を撒き散らす。
肩を叩いたのはモナであった。
「お? もしかしてファイトマネー貰ったのか」
バンブロックは、慌てて硬貨を拾い集める。
「1枚、2枚……マジか。500ガジャって、いつもより多いぞ」
500ガジャ、エールが10杯分である。
モナはニヤニヤしながら言った。
「ランクCの中でもな、ランキングによってファイトマネーは違うんだよ。前回より多かったって事は、ランキングが上がったんじゃないのか、知らんけど」
「そうなのか。凄いな、エールが飲み放題じゃねえか」
「あ、そうだ。明日、行商人が来るらしいぞ。金も入ったし、ちょうど良かったじゃないか」
「明日か、それは楽しみだ。さあて、何を買おうかなあ」
「そうだロック、良いことを教えておくぞ。行商人はな、情報も売っているんだよ」
バンブロックは驚いた表情で返す。
「まさか情報が金で買えるのか?」
「そうなんだよ。値段は交渉次第だけどな。日用品を売ってる行商人がいるだろ。あのオーク店主が売ってる。バレたら大変な事になるから気を付けてな、知らんけど」
「そうか……モナ、情報を買う時はお前に頼んでも良いか?」
「ああ、北方語の問題だな。了解した。その時は声を掛けてくれ」
そして翌日……
昼頃になると、広場に屋台などが出来てきた。
飲物屋に串焼き屋、そして果物屋とパン屋等の飲食屋台。さらには煙草屋に娼館テント。そして日用品等を売っている道具屋である。
昼食を終えると、奴隷達は真っ先に屋台はと向かう。
昼食後なので飲食物は売れなさそうな気がするが、そんな事はない。普段食べられない物を食べたい、そう思う欲求の方が上であった。
特にエールやそのツマミとなる、炒り豆やモロコスの串焼きが人気である。
奴隷達が屋台に群がる中、バンブロックは有り金とにらめっこだ。
それは屋台の前では無く、テントの前でだった。
娼館テントである。
奴隷達が見るのはタダだからと、娼館テントに群がっている。
値段は2000〜3000ガジャと幅広い。
今のバンブロックの残財産をはたいても、無理な金額だ。それでもバンブロックは、何度も有り金を数える。
「あと3試合勝てばイケるのか……」
そんな事をつぶやいていると、またも誰かが背中を叩いた。
「誰だよ。今、忙しいんだけど」
そう言って振り返るバンブロック。
そこには赤羅様に軽蔑した顔のププがいた。
バンブロックは、心臓が口から飛び出そうなくらい驚く。
「ぷ、ぷ、ププじゃね〜か……」
「ここで何をしているんでしょうか?」
バンブロックは不審者の様な挙動をとりつつ、なんとか返答する。
「こ、これは、そのあれだ。何を買おうか悩んでいただけで……」
ププが怖い顔をして言った。
「娼館テントの前でですか?」
バンブロックは震え出す。
「いや、それはたまたま……」
そこへモナが来た。
「おう、ロック。こんな所で何をしてるんだ……娼館テントの前? まさかロック……」
ここまでくるとバンブロックは必死だ。
「違う、勘違いするな。お、俺は金を数えてただけでな……」
すると今度はアルティアとポポが来た。
「皆様、ここで何をしているのございますか」
「何かあったのでしゅか」
女性陣が集合だ。
バンブロックにとって、最悪の状況である。
もはや逃げ道などない。完全包囲網に入ってしまっていた。
そこでバンブロック。
「おお、皆よく集まってくれたな。か、金が入ったから皆に何か奢ろうと思ってな、はは、はははは」
と、苦し紛れに言った。
以外にもこの提案が、功を奏した。
女性陣は皆、大喜びだ。
それを遠くから見ていた男達は「ああはなりたくないな」と、口々に言っていた。
結果、バンブロックは全ての金を失った。
女性陣がワイワイやっている中、デン副長がバンブロックの隣に来て言った。
「隊長、気持ちは分かります。これ、自分からの奢りです。元気出して下さい。金はまた貯めれば良いだけです。娼館は……残念ですが今回は諦めましょう」
デン副長からジョッキを受け取ったバンブロックは、薄っすら笑顔を浮かべてエールを煽った。
その背中は泣いていた。
結局、金が無くなったバンブロックは、情報など得られはしなかった。
本当は人間領とこのバドの街との、位置情報が知りたかったのだ。ただしその情報を知るには、娼館テントで使う位の金が必要だったのだが、そんなのは知らないバンブロックだった。
それから数日後、マッチメーカーによるバンブロックの剣闘試合が決まった。
対戦相手は獣人で、フレイル使いの女性剣闘士であった。
初の女性剣闘士との対戦となり、バンブロックは悩む。果たして自分は、女性を斬ることが出来るのかと。
この時フレイルと言う珍しい武器には、バンブロックの関心は向かなかった。
こうしてバンブロックは、初めて女性剣闘士との試合が決まった。
そして試合当日を迎えた。
この日はポポやハルトマンの剣闘試合も組まれており、バンブロックは一緒にコロシアムへと向かった。
ププも通訳兼使用人として、獣車に乗り込んだ。
午前中にポポの試合が行われ、なんら問題なく勝利していた。
そして昼食を挟んで午後からハルトマンの試合と、少し間をおいてバンブロックの試合がある。
いつもの様に、奴隷専用の食堂での昼食である。
ただしハルトマンは、午後の早い時間から試合があるため、今は控え室に籠もっている。
それでププとポポ、そしてバンブロックの3人でテーブルについた。
テーブルで食事を待っているのだが、他の奴隷達がバンブロック達をチラチラと見ていた。
それに気が付いたバンブロックが、小声で言った。
「何か俺達さ、見られているんだけど」
確かに言われてみれば他のテーブルの奴隷達が、時々バンブロック達に視線を向けていた。
するとププ。
「気にしたら負けです。放って置きましょう」
ちょうどそのタイミングで食事が運ばれて来たので、その話は有耶無耶になった。
何故見られていたのかは、後になって知る事になる。




