53話 スピア使い
ハルトマンの試合が終わると、次はバンブロックの番である。
対戦相手はスピア使いのコボルト。
マッチメーカーによると、魔術は使えないがスピアの腕はかなり高いとの情報である。特に注意すべきなのは“3段突き”と言う攻撃だとか。これは実際に見てみないと、どんな攻撃なのか分からない。
それにランクCともなると、剣闘士の中ではベテランの分類となる。ランクアップ試合でバンブロックが痛感した様に、ランクDとCとでは実力に大きく差があるのだ。
バンブロックはいつもの様に、輝くグラディウスとカイトシールド。そしてドクロヘルムを被る。
バンブロックが闘技場へと入ると、対戦相手のコボルトが見えて来た。
革製のフルヘルムを被り、両腕と左脚は薄手の革でグルグル巻きにしている。これを鎧と呼ぶのか呼ばないのか、微妙なところだ。
この場に装着して出て来たのだから、少なくとも許可は下りたのだろう。
しかしバンブロックには、鎧の支給は無かった。
納得はいかないが、この程度のハンデくらいは日常茶飯時と思うようにして、バンブロックは歩を進めた。
両者は歓声に包まれながら、闘技場中央へ歩いて行く。
そして中央に辿り着く前に、試合開始のドラムが鳴った。
コボルトが速歩で、バンブロックに接近する。
接近した所でバンブロックは、コボルトの右腕が僅かだが輝いているのに気が付いた。
それはバンブロックだけが見える、輝くグラディウスと同じ光だった。
それを見たバンブロックは、右腕に魔術的な何かを隠していると判断。薄手の革で右腕をグルグル巻きにしたのは、それを隠す為と思われた。
前情報では魔術は使えないと言われていたが、バンブロックが持つグラディウスの様に、魔武具を持っているのは確かだろう。
バンブロックは、コボルトの右腕に注視する。輝きが強くなった時は要注意だ。
スピアの間合いまで詰め寄ったコボルトが、軽い突き攻撃をしてきた。仕留めようとした攻撃では無く、威嚇や様子見といった、挨拶代わりの突きである。
その挨拶代わりの突きでさえ、コボルトの右腕が少し強めに輝く。
スピアの柄の部分が、波打つように撓りながらバンブロックの顔に迫る。
初めから柄が撓る様に作られた、弾力性のある素材のスピアなのだろう。
その時のスピアの穂先は大きく揺れて、あたかも3本の穂先に見える。それは柄の揺れによるものだけでは無い。何かの力が働いていると思われた。
ーー何が3段突きだ。魔道具じゃねえか!
バンブロックは盾で防ぐと、その衝撃も3倍の重さに感じる。
受け流すのもやっとだった。
ーーこれは下手すると盾が壊れるぞ
そんな事に思いを巡らせながらも、バンブロックは後ろへと下がる。
スピアの間合いは広い上に、攻撃がえげつない。
今のところバンブロックは、攻撃どころでは無く防御ばかりの行動で、自分のグラディウスの間合いに入れさえしなかった。
逆にコボルトは全ての攻撃をバンブロックに躱され、焦り始めていた。
このまま勝負がつかなければ、以前のように衛兵オークが乱入して来て、早く決着を付けろとばかりに囲まれる恐れもある。
そこでバンブロックは、攻撃を喰らう覚悟で動き出した。
まずはスピアの柄を掴もうと試みる。
突きがきた瞬間、スピアの柄を握り前に出る。そして距離を一気に詰めて、グラディウスを叩き込む作戦だ。
しかし失敗した。
コボルトは、柄を回しながら突いてきたからだ。
回転する柄を掴んでも滑る。そのタイミングでスピアを引かれると、掴みにいった手が穂先で斬られてしまう。
それで直ぐに、手を引っ込める事になるのである。
バンブロックは慌てて後退する。
ーーくそ、読まれてるか。さすがランクCだな
「そらなら、これはどうだ!」
バンブロックは地面を蹴り上げた。
砂がコボルトの顔面を襲う。
コボルトはそれを避ける為に、大きく身体を仰け反らせながら、左腕を顔の前に持っていった。
盾を持たないので、避けるか手で防ぐしかないのである。
バンブロックが良く使う、汚い手である。
姑息だと言われても仕方無い。
だがバンブロックにしたら、勝てば正義である。戦場では当たり前に使っていた“戦闘技術”であった。
技量が低いと顔に当てられない。思った以上に難易度は高い。
さらにバンブロックは、グラディウスをすくい上げるようにして、地面の砂を相手にぶつけた。
コボルトは堪らず、腕で顔を覆いながら後退する。
バンブロックにとってはチャンスである。
グラディウスを振り下ろす。
コボルトがスピアの柄で、グラディウスの刃を止める。
その状態のまま距離を詰めるバンブロック。
そしてスピアの柄の上を滑らせる様にして、グラディウスを斬り抜いた。
悲鳴と共に、コボルトの指が3本ほど空に舞う。
犬のような悲鳴が聞こえた。
コボルトの右手の指である。
こうなるとバンブロックが、一気に有利に試合を運ぶ。
血を流しながら逃げ惑うコボルト。
とどめを刺そうと、それを追うバンブロック。
そこで試合終了のドラムが鳴った。
バンブロックが勝利したのであった。
しかし勝利したにも関わらず、残念がるバンブロック。
ーーもう少しで右腕の魔道具を奪えたのに。ドラムが鳴るのが早いんだよ!
バンブロックは、魔道具を手に入れたかったのである。
この日バンブロックが養成所に戻ると、剣闘試合での主人側の内部事情を知ることになる。
教えてくれたのはププであった。
「バンブロックさん、ランクCのファイトマネーをお持ちしました。どうぞお受け取りください」
ププはいつものように形式的な話だけで、立ち去ろうとする。
しかしバンブロックがそれを制した。
「ちょっと待て、聞きたいことがある」
ププは再びバンブロックに向き直り、口を開く。
「何でしょうか」
バンブロックは「知ってたらで構わない」と言う前置きをして質問した。
「対戦相手の武装が、俺よりも良い時と悪い時があるだろ。あれは誰が決めてるか知ってるか?」
「その事ですか……これは内緒の話として聞いてください。あれはご主人様が決めています。ただし相手よりも条件が良いと、ご主人様の利益が減ります。逆に相手よりも条件が悪いと、利益が増えるんです」
つまりバンブロックが不利な条件であるほど、相手の利益は減ってウマッハの利益が増すのである。
だからと言って、バンブロックのファイトマネーは変わらない。
さらにププは話を続ける。




