47話 牛頭の番人
横に立ったバンブロックと視線が合うと、ウマッハがニヤリとする。
思わずバンブロックも、ニヤリと返してしまう。
そしてバンブロックは、改めてミノタウロスを見る。
ーーでけぇな
身の丈2メートル半はありそうだ。
大きなウォーアックスを担いでいる。
片方の角が欠けていて、腰に種族不明な頭蓋骨を3つぶら下げている。
顔には大きな火傷の跡があり、その火傷が原因なのか隻眼であった。
腰布だけで、鎧は一切着けていない。そのはち切れんばかりの筋肉が鎧である。
そのミノタウロスは、ウォーアックスを担いだまま動かない。
それがより不気味さを放っていた。
ミノタウロスの近くには、オーク守備兵が何人かいる。
しかしバンブロック達にしたら、そいつらはミノタウロスのオマケ程度。問題はない。
初めに仕掛けて行ったのは、もちろんウマッハだった。
ミノタウロスへと走り寄って行き、二刀流のトマホークで十字に斬りつけた。
そこでやっと動き始める、隻眼ミノタウロス。
軽くウォーアックスを振るうと、いとも簡単にウマッハの斬撃を跳ね返した。
衝撃で跳ね飛ばされたウマッハだったが、直ぐに立ち直り距離を置いた。
味方護衛オーク3人がウマッハに習い、必死の形相で斬り込んで行く。
すると斬り込んだ護衛オーク3人は、ウォーアックスにより全て薙ぎ払われた。
たったの一振りである。
悲鳴と共に血だらけの身体のバーツが、辺りに散らばった。
防いだはずの盾は砕け、革鎧ごと叩き斬られていた。
バンブロックが声を上げる。
「無闇に突っ込むな、まずは後ろに回り込めっ」
斬り込むうとしたガンプだが、バンブロックの言葉で何とか押し留まり、モナと一緒に後ろに回り込む行動に出た。
そしてバンブロックはと言うと、ミノタウロスを正面から挑もうとしている。
ただし、その横にはウマッハがいた。
ーー結局またこいつか
回り込もうとしたモナとガンプが、守備兵オークとの戦闘に入った。ミノタウロスの背後には、そう簡単に回り込ませてはくれない。
ウマッハが再び前に出る。
バンブロックも釣られるように前に出た。
ウマッハのトマホークが、連続して振るわれる。
そこでバンブロックは正面から行かずに、回り込んで攻撃を加えた。
だがそれはミノタウロスではなく、守備兵オークへだった。
しかし攻撃は盾で受け流される。
バンブロックが躍り込みながら言った。
「早くこいつらを付けろ!」
ミノタウロスの後方の守備兵オーク達が、非常に邪魔なのである。
バンブロックの言葉にモナが返答する。
「こいつらも傭兵っぽいぞ、知らんけど!」
よく見れば、他の守備兵らの装備とは違っていた。装備が良いのである。
バンブロックは、横目でチラリとウマッハを見る。
ーーしばらくは耐えてくれそうだな
そして傭兵らしきオークに、再び斬り込んだ。
白く輝きを放つグラディウス。
モナと戦う傭兵オークの背中に、輝くグラディウスを叩き込んだ。
着ていた革鎧ごと、傭兵オークの背中を切り裂いた。
モナは軽くウィンクすると、次の敵に鎖ダガーを投げ付けた。
バンブロックの参戦で、一気にモナとガンプが有利な状況になる。
そこでバンブロックはここを2人に任せ、ミノタウロスの背後に回り込む。
隻眼だからなのか、正面の相手にしか目がいかないのかもしれない。特に潰れた目の方の視界が狭い。
今のミノタウロスは、ウマッハとの戦いに集中している。
バンブロックは今がチャンスと思い、真後ろから襲い掛かった。
「後ろがガラ空きなんだよ!」
バンブロックが、グラディウスを振り上げた時だった。
頭蓋骨の目がカッと青白く光った。
ミノタウロスが腰にぶら下げていたやつだ。
その瞬間、バンブロックは数メートル飛ばされ、近くにあった収穫用の納屋に突っ込んだ。
土埃と共に崩れ落ちる納屋。
魔道具である。
風の魔術が施された、防御用の魔術具だ。
3つあった頭蓋骨が2つに減っている。
「ロック!」
「隊長っ」
やっと傭兵オークらを倒したモナとガンプが、バンブロックが突っ込んだ納屋に走り寄る。
そして2人がかりで、残がいをどかし始める。
すると残がいの中からバンブロックが、壊れた板をどかしながら現れる。
頭を負傷したのか血だらけであった。
そして小さな声でつぶやき始めた。
「まだ戦いは終わっちゃいない、道をあけてくれ……俺は生きて養成所に戻らないといけないんだ。守ってやらないと……」
バンブロックは割れた盾を捨てる。
グラディウス1本で戦うつもりだ。
ガンプが心配そうに言う。
「隊長、その傷じゃもう無理だよ」
そしてモナ。
「そうだよ。あの魔道具の威力を見ただろ。近付いたらふっ飛ばされるよ」
するとバンブロックは足を止める。
「モナ、鎖ダガーを貸してくれるか」
「え? 別に良いけど……」
バンブロックは鎖ダガーを受け取ると、ゆっくりと歩きながら鎖を振り回し始めた。
その先には必死の表情のウマッハが、1人で山のような背中のミノタウロスに抗っていた。
バンブロックの振り回す鎖ダガーが、徐々に大きな軌道円を描き始める。
「この生命、愛する者へ捧ぐ」
死の宣告である。
そうつぶやいたと同時に、離れた場所からスリングの要領で鎖ダガーを投げ飛ばした。
そして……
ーー麻痺魔術
頭蓋骨は反応しない。
鎖ダガーはそのままミノタウロスへ到達。
背中に突き刺さった。
その刹那、ミノタウロスの動きが止まる。
電気が鎖ダガーを通して、巨大な背中へと伝わっているのである。
しかしミノタウロスは、僅かに身体を震わすだけで感電に耐えていた。だが耐えるだけで、思うようには行動出来ない。
それでも力を振り絞ってゆっくりとだが振り返り、バンブロックを睨みつけた。
「ったく頑丈な奴だ。それなら、これでどうだっ」
バンブロックはさらに魔力を込める。
するとバチッと音がして、ミノタウロスが硬直。
そのまま倒れ込み、ブルブルと痙攣を始めた。
モナがつぶやく。
「何度見ても凄いな……知らんけど」
数秒間続けた後、バンブロックは片膝を突いた。
魔力の急激な消耗からくる疲労である。
「ロック!」
「隊長!」
モナとガンプが駆け寄る。
そこへウマッハがミノタウロスに近寄って行き、胸に片足を乗せるや、その頭にトマホークを何度も振り下ろし始めたのだった。




