46話 奴隷村を襲え
ウマッハの命令により、オークの偵察隊が組まれた。
偵察隊は直ぐに出発し、1時間半ほどで戻って来た。
そして偵察隊の報告により、奴隷村がどういったものなのか判明した。
奴隷村は山に囲まれた隠れ里の様な場所にあり、沢山の植物を栽培していた。
その植物こそが“酸っぱい臭い”の元凶であり、この奴隷村が隠れた場所にある理由でもあった。
聞こえてきた話を、モナがバンブロックへと訳す。するとバンブロックが、何か感じ取ったようだ。
「なるほど。この臭い、魔草の栽培か……隠れて栽培する訳だ」
モナが不思議そうに聞いてくる。
「その魔草って何だ?」
続いてガンプ。
「俺も魔草が何か知らないが、それを何で隠すんだ」
「魔草ってのはな、魔薬を作る元の草だよ。人間界ならどこの国でも禁止されている、違法薬物だな。闇市とかで“トリップ”と呼んで売っている、あの薬がそうだよ。隠れるように栽培してるって事は、オーク領内でも禁止されているんだろうな。魔草から魔薬を生成する時、酸っぱい臭いがするって聞いたことがあるが、どうやらこの臭いがそれだったみたいだな」
魔薬は痛みを忘てれハイになる薬だが、ハイになった者が暴れる事案が多数あり、人間領内では禁止になったのである。
しかし闇販売が横行していて、街の裏通りに行けば容易く手に入る。
モナとガンプは魔薬は知っていたが、臭いの事までは知らなかったみたいだ。
バンブロックはなおも話を続ける。
「それとだな、奴隷村を襲撃して戦利品を強奪してもだ。違法な事してる訳だから、オークの治安団に訴える事も出来ない。だから強奪が成功すれば、ウマッハはニコニコってな訳だ」
モナは返答する。
「知らんけど、そういうもんなのか」
続いてガンプが返答する。
「そうか、そうか。それなら遠慮なく、オーク共を叩きのめせるんだな。面白くなってきたじゃねえか、ふはははは」
ここで獣車とオーク兵数名を残し、襲撃部隊が編成された。もちろん奴隷であるバンブロックらも、尖兵として加わるように命じられた。
なんと襲撃には、ウマッハも加わるらしい。
敵は先程の襲撃で、人数が減っているはず。
それなら余裕で勝てると思ったのだろう。
時間を空けると、先ほど逃げ帰った襲撃者の報告で、防備を固められるか増援を呼ばれてしまう。
迅速な行動が優先される。
急いで準備が進められた。
バンブロック達3人の足枷は、鎖で繋げられたままだが、動き易いように長めになっていた。
バンブロックの首輪に関しては、状況次第と言われていた。
準備が整うと獣車の隊列に数人残し、攻撃隊は直ぐに出発。
そしてしばらく山道を歩いた所に、本当に奴隷村はあった。
周囲を山で囲まれた場所に、畑と簡素な家々が建ち並ぶ。
そしてバンブロック達3人が尖兵となり、護衛オークによる攻撃部隊が動き出す。
バンブロックは、護衛オーク達に余り期待はしていない。せいぜい装備が相手よりも良い分、少しは戦力になるだろうという程度。
結局、戦力として信頼出来るのは、モナとガンプだけだった。
ガンプは大剣に味をしめたのか、盾を持たずに大剣のみだ。
モナはいつもの鎖ダガーである。
そしてバンブロックは、輝くグラディウスと丸盾を選んだ。鎧の類は支給されない。
だが襲撃者のレベルをみると、鎧など無くても十分だとバンブロックは思っていた。
身を低くした部隊が奴隷村に接近する。
獣避けの簡単な柵があるが、人型の侵入にはあまり備えていないようだ。
半獣人や獣人の奴隷に混じって、結構な数のコボルト奴隷も働いていた。
それに魔草の他にも、少ないが魔物化した緑麦の栽培もしていた。これはグリーンパンと呼ばれる緑色のパンの原料で、グリーンスキンの社会では高級品にあたる。
そこでバンブロックは、巡回をしているゴブリン兵2人を発見した。
バンブロックはウマッハに、そのゴブリンを指差す。さらに自分達の足枷を指差して、無言のまま説明する。
巡回兵を仕留めたいが、足枷があるから音を立ててしまう。そういう意思表示である。
するとウマッハは少し悩んだ後、護衛オーク隊長に合図する。護衛隊長はそれを受け、枷の鍵を持ってバンブロックに近付いて来た。
そして3人の足枷を外し、さらにはバンブロックの首輪まで外した。
予想外の行動に、バンブロックからは笑みが溢れた。
そこでバンブロックは、モナに耳打ちする。
「あの2人を殺る。付いて来い。それと、声を上げさせるなよ」
「ロック、新人とは違う。そんな事くらい分かってる。知らんけど」
ーー知らんけど、分かってる? 解り辛い口癖なんだよな……まあ良いけど
バンブロックはグラディウスを抜いて、草陰からゆっくりと接近する。
巡回兵の2人は、並んでお喋りしながら歩いている。
モナは鎖から外したダガーを手にしていた。
バンブロックがモナに目で合図する。
そして同時に真後ろから襲い掛かった。
その動きは早かった。
モナは喉元をダガーで切り裂き、声が出ないようにすると、次に心臓へ数回ダガーを突き刺した。
バンブロックはと言うと、グラディウスで首を一撃で斬り飛ばして終わりだ。
モナがバンブロックを見て、両掌を天に向け呆れた顔をする。
その時バンブロックは、気が付かれていないか、村の方へと視線を移し警戒していた。
ーー気が付かれてないな
そのまま部隊は村へと接近し、柵を乗り越え魔草畑に身を隠す。
護衛オークの何人かが、魔草の葉の匂いを嗅いで、ウマッハに叱られていたりする。
そんな事も無視して、バンブロックは村の方角へとさらに接近する。
すると魔草の間から、村人らしき獣人やゴブリンが見えてきた。
そこでウマッハが声を上げた。
『ウラ〜!』
オーク特有の攻撃の雄叫びだ。
ーーおいおい、自由だなこいつは!
仕方無く、バンブロック達3人も走り出す。
魔草をかき分けて村へと侵入。
初めにバンブロック達が、目の前に現れた数人の獣人奴隷を斬り捨てる。
武器が作業用の鎌だったので、ちょうど収穫したタイミングだったらしい。
一方で悪魔の形相で突撃して来たウマッハに、驚いて固まるゴブリン守備兵。
直ぐに何が起きたか、理解出来なかったのである。ウマッハの後方に、武器を振り上げて突撃して来る多数の者達を見て、やっと状況が理解したのだ。
ハッとした様子で、ゴブリン兵が大声を上げそうになるが、その前にウマッハが叩き斬る。
するとそこら中にいた奴隷達が騒ぎ出した。
そうなると、騒ぎに気が付いた守備兵士らが、次々に武器を取って集まり出す。
敵は混乱していた。
それに殆んどが、武器を持っていない奴隷である。持っていても農具であった。
何人かは武器を渡されるが、それは武器の収納場所の近くにいた少数だ。
バンブロックが、ゴブリン兵を斬り倒しながら言った。
「敵は混乱してバラバラだ。こっちは集まって隊列を組んで戦えば、最後まで有利に戦えるぞ!」
それを聞いたモナが、血のついた鎖ダガーを手繰り寄せながら返答する。
「いや、それは無理っぽいぞ。ロック、あれを見ろ」
モナの指し示す方を見ると、そこには数人の護衛オークを連れたウマッハが、大暴れしながら村の中心へと向かっている姿だった。
「あの野郎、俺達を尖兵にしときながら、自分が真っ先に突撃するとか、ちょっと自由過ぎだろ」
バンブロックはそんな愚痴を言いながら、味方がバラバラにならない様にと、仕方無くだがウマッハの後を追って行く。
どれくらい戦っただろうか。辺りはかなり静かになり、見える限りで敵はいなくなったと思われた。
味方護衛オークが数人負傷するも、殆んどの敵守備兵は逃げて行ってしまい、村は制圧したも同然だった。
しかしひとつの建物だけが、まだ抵抗していた。そこにいた獣人が厄介だったのだ。
ガンプがつぶやく。
「あれって、ミノタウロスじゃねえか……」
詰所の建物前に立っていたのは、牛獣人族のミノタウロス。手にはウォーアックスを握っている。
それと数人のオーク守備兵だ。
バンブロックが言葉をつけ足す。
「見てみろ。あのミノタウロスは枷を着けて無い。ってことは奴隷剣闘士じゃないな。自由民か傭兵ってところか。それにあの身体中の傷を見ろ。戦いに慣れた強者らしい。皆、気を引き締めていけよ」
それに対してモナが答える。
「剣闘士だったら、ミノタウロスってだけでランクCは確定だからな。だけどあいつはそれ以上ってんだろ。ちょっと無理っぽくないか。知らんけど」
そんなミノタウロスの前に、ウマッハが立つ。
護衛オークらは尻込みしているが、主人が前に出る以上は逃げ出すことも出来ない。
バンブロックは、ため息をつきながら言った。
「仕方無い、懲罰房は嫌だからな。俺達もやるか」
バンブロック達3人が、護衛オークをかき分けてウマッハの隣に立った。
「さて、暴れるとしようか」
不敵に笑うバンブロックだった。




