45話 森の待ち伏せ
左側の森の中から、ワラワラと人影が現れた。
バンブロックが咄嗟に声を上げる。
「襲撃!」
バンブロック達は、倒木除去用に支給されたハンドアックスを構える。
次の瞬間、一斉に矢が飛んできた。
バンブロック達は倒木に身を隠す。
護衛オークらは盾を構えて、身を低くした。
その最初の弓の一斉射で、何人かの護衛オークが負傷。加えてガンプの腕に矢が刺さっていた。
バンブロックが慌てて声を掛ける。
「ガンプ、大丈夫かっ」
しかしガンプは平然とした顔で。
「なあに、ほんのかすり傷だ……ぐぅっ」
そう言って矢を引き抜いた。
「いや、かすり傷じゃないだろ。刺さってんだぞ」
「そうだな。なら隊長、仕返ししてやるか」
バンブロックは呆れて言葉が出てこない。
その間にも、ウマッハが乗る客車に矢が刺さる。だがウマッハ本人は無事のようだ。
そして直ぐに2射目の矢が放たれ、次に森の中から獣人とゴブリンが突撃を始めた。その中には数人のオークもいるが、殆んどがゴブリンと獣人であった。
ただし獣人達の足には、枷が着けられている。つまり奴隷である。
直ぐにウマッハの護衛兵と、襲撃者の戦闘が始まった。もちろんバンブロック達3人も加わる。
人数は圧倒的に襲撃者の方が多い。
バンブロック達は獣車に走り寄り、護衛オークに武器を渡すように伝えた。
緊急事態とあって、剣闘士用の武器が入った箱の鍵を渡される。
そしてバンブロックは、箱を開いて驚いた。
「何だ、俺の小剣もあるじゃねえか」
バンブロックは迷わず、輝くグラディウスとカイトシールドを手にする。
「お、知らんけど、私の鎖ダガーもあるね」
モナも自分の武器を手に取る。
「それじゃあ、俺はこれにするか」
ガンプがそう言って手にしたのは、両手持ちの大剣だった。腕の傷は本当に問題ないみたいだ。
その間にも、護衛オークは数を減らしていく。バンブロックが見るに、ウマッハの護衛オークの大半はランクで言えばE程度だ。
襲撃して来た奴らもその程度。力量が拮抗している分、数で圧倒されていた。
初めにガンプが敵の前に躍り出た。
『〈おら、おら、おらっ。掛かって来いや!〉』
大剣を振り回しながら、敵の真っ只中へ突っ込んで行った。
バンブロックとモナも付いて行く。
無双とはこの事を言うのだろう、と思う程の暴れっぷり。足枷など、ものともしない動きだ。
バンブロックとモナも、近くの敵から斬り伏せていく。
襲撃側の半数が倒れた辺りで、護衛オークの隊長が敵に降伏を勧告した。
すると返答が返ってくる前に、ガンプが叫ぶ。
「〈降伏は認めない、皆殺しだ!〉」
呆れた顔の護衛オーク達の視線が、一気にガンプに集まる。
すると敵のリーダーらしきオークが叫ぶ。
「〈た、退却だ、退却しろっ〉」
そこでバンブロックが叫ぶ。
「敵の隊長は今、声を上げたあいつだ、叩き潰せ!」
そう言って敵の隊長を指差し、走り出すバンブロック。
それを聞いたモナが、それを北方語に訳して指差す。
「〈知らんけど、あいつが敵の隊長みたいだぞ。ブッ殺せ!〉」
「おおっ」とばかりに一気に士気が上がり、敵のリーダーに護衛オークが群がって行く。
あっと言う間に取り囲まれるオークリーダー。
他の襲撃者達は、そんなのお構い無しに逃げて行く。
そこへ煌びやかな服装のオークが一人、輪を掻き分けて前に出た。
主人であるウマッハだ。
そして無言のまま、腰のトマホークと呼ばれる片手斧2本を引き抜いた。トマホークの二刀流である。
バンブロックがつぶやく。
「まさか、戦う気か……」
ウマッハが敵のリーダーの前に立つ。
そして突然、奇声を上げて襲い掛かった。
驚いたのはバンブロック達だ。
まさかウマッハ自身が戦うとは、思ってもみなかったからだ。
護衛オーク達が驚いていない所を見ると、今までにもこういった場面はあったのだろう。護衛オーク達は、この一騎討ちの戦いに手出しはしないようだ。
戦いが始まるとウマッハの技量が、バンブロック達の想像を超えているのに気が付いた。
オークリーダーは数秒と保たなかった。
気が付けばズタズタにされて、地に伏せていたのである。
ガンプがつぶやく。
「ありゃあ、戦い慣れた強者だな」
続いてモナが口を開く。
「うん、凄いな。ランクで言えばAクラスって感じだよな。知らんけど」
そしてバンブロック。
「引退して自ら養成所を立ち上げた、元剣闘士ってところか」
戦闘が終わって負傷者の手当てや、戦利品の回収をしていると、倒れていた敵の1人が生きていた。
見つけたのはモナだ。
見つけたのが護衛オークだったら、その場で止めを刺していただろう。だがモナは少し違った。
バンブロックもそれに気が付いて、モナの近くに行って様子を見ていた。結構深い傷である。
モナがしゃがみ込み、そいつの顔を覗き込む。獣人奴隷だ。
「〈おい、今から質問するから答えろよ。ちゃんと答えれば楽にしてやるからな〉」
獣人は頷く。
「〈私達を襲えと命じたのはセン村の村長か〉」
獣人は頷く。
思った通りだった。
そこでバンブロックが、モナに質問内容の指示をした。
襲撃者の奴隷人数が多かったからだ。村にはこれほど獣人奴隷はいなかった。だから何処から来たのか、疑問に思ったのである。
「〈お前らはどこから来たんだ〉」
苦しそうに獣人が答える。
「〈奴隷村からだ……俺達奴隷が働く村……〉」
「ロック、こいつは奴隷村から来たとか言ってるぞ」
バンブロックが直ぐに反応した。
「モナ、何処にあるか聞くんだ」
するとすんなりと村の場所を教えてくれた。
この場所からそれほど遠くはない。
そこへ護衛オークが来て「何しているんだ」となった。モナが全てを説明すると、当然ウマッハへと話が伝わる。
そしてウマッハがこの場に来たのだが、獣人は既に息をしていなかった。
ここでウマッハがどう出るかと、バンブロック達は固唾を飲んで見守っていた。
そしてウマッハが出した答え。
「〈奴隷村を襲撃する。準備を整えよ〉」
ウマッハとしては、仕返しがしたいのだろう。やられっぱなしじゃ、納得いかないらしい。
バンブロック達にしたら良い迷惑である。何の得にもならない死を賭けた戦いなど、無意味でしかなかった。
しかし襲撃するのは村長がいるセン村ではなく、奴隷が多数いる奴隷村という場所である。
少し不思議に思うバンブロックだったが、後にその理由を知ることになる。




