自己紹介
数時間ほど歩いて別荘の前に到着した。
別荘を見上げる。白色の外壁で、ステンドグラスがはめ込まれていた。人の姿をしているのもあれば、動物の姿をしているのもある。鉄製の扉には花の模様が描かれており、オシャレな雰囲気を醸しだしている。
「え~と、鍵、鍵どこにしまったけな」
さっちゃんはポケットをあさって鍵を探し始めた。焦っているのが見て取れる。
「あ、あった」
さっちゃんはホッとしたような声をあげると、鍵を鍵穴に差し込み、ゆっくりと回した。
「ん~ん~! ふへ~」
扉が重いのか開けるのに時間がかかっていた。ふへ~って可愛いなさっちゃん。
「あ~、さっちゃんってキュートだな。キスしたいな」
陽菜乃が地面を飛び跳ねながら、言った。その気持ちは分かるぞ。
「では、みなさんこちらです。どうぞお入りください」
さっちゃんが先に入って手招きした。
俺たちはぞろぞろと別荘へと入った。
「少し暑いですね。クーラーをつけますね」
さっちゃんはリモコンを手に取ると、クーラーの電源を入れた。涼しい風が体に当たって心地良かった。
さっちゃんは仮面に手をかけて取った。
「さて、まずは自己紹介をしてもらいましょうか」
くりくりとパッチリした大きな瞳。輪郭がほっそりとしていて小顔で尚且つ童顔である。唇はぷくりとしていて魅力的だ。さっちゃん、すごく可愛いな。何で仮面をつけていたんだ?
「さっちゃん。仮面をつけていたのは何でだ?」
俺は気になり、さっちゃんに問いかける。
「あ~、それはですね。ちょっと前に祭りに行って、この仮面を買ったので、せっかくだからつけてみようと思い立ったわけです」
「ほう~、そういうことだったのか」
「はい。では、そちらの方から自己紹介をお願いします」
ぼさぼさの髪の毛で眼鏡を掛けた男性に手を差し向ける。
「うん。僕の名は風下裕也。よろしく」
僕っていけてるだろ? とさっちゃんに言ったナルシストだな。
次にタバコをくわえた金髪の女性に手を差し向ける。
「水島稲美だ。よろしくたのむ。イッナーナと呼んでくれると嬉しい」
無理やり感がすごい。そこに尊敬する。食べ物何が好き? って聞いた奴だな。
次に黒色の長髪の女性――幼馴染みに手を差し向けた。
「河中陽菜乃だよ。よろしくね」
陽菜乃は可愛いってさっちゃんに言っていたな。うん、その通り。
次に黒色の短髪の男性ってか俺に手を差し向ける。
「俺は久木光治だ。よろしくな」
さっちゃんは次に冴えない風貌の男性に手を差し向ける。
「田中彼方。は~い、逆から呼んでもたなかかなた。回文で~すぅ。よろしくぅ~!」
キャラ付けしようとしてんのか? 失敗してんぜあんた。無理がある。好みのタイプ何? って聞いてた奴だな。
「……で、ではお部屋に案内します」
ほら、さっちゃんが引いてしまっているじゃないか。かわいそうに。
さっちゃんは身体の向きを反転し、階段へ向かう。さっちゃんの後に続いて、俺たちは階段を上がり、二階に到着した。左右の壁に三つずつ扉が並んでいる。
「こちらがみなさまに泊まって頂くお部屋です。お部屋はご自由に選んでください」
「さっちゃんの部屋はどこにあるんだい?」
ナルシスト――もとい風下は聞く。
「一階ですけど」
「ふ~ん。それじゃ僕はさっちゃんの部屋に泊まろうかな。さっちゃん一人だけじゃ心配だしね。いけてる僕が守ってあげるよ。嬉しいだろ? 何なら抱きついてくれてもかまわないよ」
何だ、この男は。うざい。ただただうざい。こんな奴と異母兄弟だと思うと吐き気がする。それと風下あんた全然いけてねえから。
「待て。あたしだってさっちゃんの部屋に泊まりたい」
イッナーナが手を挙げて、風下に抗議し始めた。
「ぼくちんだってさっちゃんの部屋に泊まりたいで~すぅ!」
田中もイラッと来る口調で抗議する。
「私だってさっちゃんの部屋に泊まりたいよ! いちゃいちゃしたいよ! 押し倒したいよ! 脱がせたいよ! 他にもいろいろしたいよ!」
「お前だけ方向性違ってないか?」
「……違ってない……もん」
頬を膨らせながら、陽菜乃はつぶやく。
「やれやれだな」
と、そこでさっちゃんが俺を見つめているのに気づく。
「ん? 何だ? さっちゃん」
「いえ。光治様は他の方のように私の部屋に泊まりたいって言わないのかな~って」
「俺は基本一人でいるのが好きだからな。部屋の中では一人でゆっくりしたいな」
『……ちっ』
何か舌打ちが聞こえた。
俺は眉間に皺を寄せて、辺りを見回した。みんな空気読めよって表情をしていた。
「え? 何? 何で空気読めよって表情をしてるんだ?」
「そこは光治もさっちゃんの部屋に泊まりたいって言うのがセオリーじゃんかよ!」
私は怒ってます、とアピールするかのように陽菜乃は地団駄を踏む。
「いやいや、その流れがセオリーだってのはお前の勝手な考え方だろ。それを俺に押し付けるな。お前らはさっちゃんの部屋に泊まって、俺は二階の部屋に泊まるってことでいいだろう? 文句あるか?」
『いや、ない!』
「決まりだな。ということでさっちゃん。こいつらをさっちゃんの部屋に案内してやってくれ」
「分かりました。こちらです。光治様、後でお食事をお持ちしますので」
「うん。分かった。あっ、食事ってさっちゃんが作るのか?」
「そうです。丹精込めてお作りいたします」
「そうか。待ってる」
さっちゃんは俺以外の者を連れて階段を降りていく。
どの部屋にするか決めて、扉の前に立った時、
『お部屋に着いたら、みなさんには私のサービスショットをお見せしますので』
というさっちゃんの声が聞こえた。……サービスショットだと? 気にはなったものの、二階の部屋に泊まると言った手前、今更俺もさっちゃんの部屋に泊まるとは言いづらい。さっちゃんならいいですよと言うだろうが、他の者は文句を垂れるだろうからな。
俺は部屋に入ると、辺りを見回した。壁際にはシングルベッドがあり、その近くには小型の冷蔵庫が置いてある。部屋の中心には丸テーブルがあった。
「私です。入ってもよろしいでしょうか?」
この声はさっちゃんだ。俺はどうぞ、と返事をする。
「お食事をお持ちしました。ここに置いときます」
さっちゃんは食事が載った盆を丸テーブルに置いた。
俺は体を起こす。さっちゃんは頭を下げて、部屋を出て行った。
食事は白ご飯に味噌汁に焼き魚に肉じゃがだった。冷蔵庫からお茶を取り出し、食事を始める。
「はふはふ」
白ご飯は炊き立てで美味だった。次に味噌汁を口に含む。濃厚な旨味が口内に広がり、体の芯から温まった。
続いて焼き魚を食べる。ホクホクとした食感がたまらない。次に肉じゃがを放り込んだ。じゃがいもに味が染み込んで美味しかった。さっちゃんは料理上手。
「ふぅー、ごちそうさん」
俺はさっちゃんの手料理を完食した。
さて、どうしようか。後で、陽菜乃にサービスショットはどんなだったと聞こうかな。




