招待状
『久木光治様。私は時田才華と申します。
父の時田源三は亡くなる数日前に、複数の愛人がいること、妾の子がいることを打ち明けてくれました
そのうちの一人が久木光治様です。私と光治様は異母姉弟の関係になるそうです。
これまで一人っ子だと思っていたので、愛人の件は衝撃的でしたが、弟がいることを知り、嬉しく思ったのです。
光治様と親睦を深めたいと思い、手紙をしたためた次第です。
お食事、お部屋などはこちらでご用意致しますので、時田家の別荘に来ていただけませんでしょうか。
無理にとは言いません。
もしご都合がつくようでしたら、×月×日×時×分に××へお越しください。地図を同封しておきます。
時田才華より』
郵便受けに入っていた封筒の中身の手紙を読むと、驚くべきことが書かれていた。まさか俺に異母姉弟がいるなんて思ってもいなかった。
物心ついた頃から母親と二人暮らしで、父親が不在なことは何とも思っていなかった。母親は父親について何も言わなかったし、俺も聞かなかった。
母親は愛人だったから、父親がいなかったわけか。
俺みたいな貧乏人に嘘をついたって仕方ないし、手紙の内容は事実だろう。
手紙に記載された日付は何の予定もないし、行ってみるのもいいかもしれない。
☆☆
当日、俺は手紙に書かれていた場所へと向かった。その場所は山の麓だった。
「あれ? 光治じゃん。こんなところで何をしているの?」
樹木にもたれかかっていた幼馴染みの河中陽菜乃が、目をパチクリとさせる。
「陽菜乃じゃないか。どこから説明するべきか。時田才華って人から手紙が届いたんだ。それによると、俺はどうやら妾の子らしくてな。本妻の娘――つまり異母姉弟から親睦を深めたいと招待され、ここに来たんだ」
「そうなんだ。私も時田才華って人から手紙が届いたよ。異母姉妹だってさ。それより、私の今日の下着の色は黒なんだよ! へへへ~」
それよりで片付けていい問題ではないし、正直なことを言わせてもらうと、その情報いらねえ。何の役に立つというのだ?
「ということは俺と陽菜乃は異母兄妹になるのか」
「そういうことになるね。幼馴染みだと思っていたけど、違ったみたい」
陽菜乃はどこか困ったように笑った。母親が違うとはいえ、陽菜乃と血縁関係にあったと知り、俺も戸惑っていた。
「全員揃ったようですね。おはようございます!」
仮面を被った人物が大きな声で言った。何だ、その仮面は? 怪しすぎる!
「私が皆様を招待した時田才華と申します。気軽にさっちゃんとお呼びください」
何で呼ばなきゃならないんだ。会ったばかりだというのに。
『さっちゃん!』
おぉ、呼びやがった。マジで。陽菜乃もみんなに混じってさっちゃんと呼んでいた。俺もそう呼んだほうがいいのだろうか?
「掴みはオッケー。というわけで、早速、別荘へ参りましょうか」
ガッツポーズをしながら、さっちゃんは言った。あ、ちょっと可愛いかも。
「その前にちょっと質問していい?」
陽菜乃が手を挙げ、歩きかけたさっちゃんは足を止める。
「何でしょうか?」
「年齢を教えてくれる?」
「年齢……そうですね。永遠の十六歳ということにしておきましょう」
その場が静まりかえり、鳥のさえずる声だけが響き渡る。
「わ、わ。ちゃんと年齢を言いますから。シーンとならないでください! 二十五歳です。下着の色は白です!」
仮面越しでもさっちゃんが慌てたのが分かった。
「下着の色とかは別に聞いてないんだけど?」
「あ、すみません。つい、勢いで言ってしまいました。……見ます?」
さっちゃんはズボンに手をかけると、少しだけ下げる。白い下着が見えた。
「あの、どうですか?」
さっちゃんは俯き、どこか恥ずかし気にみんなに問いかける。
『すごくいいよさっちゃん!』
「よかったです」
安堵したような声が聞こえた。
「ここから数時間ほど歩くことになりますので」
数時間も歩かなければならないのか。まあ、集合場所が山の麓だし、別荘が遠いのは当然か。
俺たちは山道を登って歩き出した。
「さっちゃん。食べ物何が好き?」
「さっちゃん。好みのタイプは何?」
「さっちゃん。僕っていけてるだろう?」
「さっちゃん。可愛い」
さっちゃん人気者。一人ナルシストが混じってやがる。




