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金瞳は神の末裔の証  作者: 詩・似・愛
第一章 幼い金瞳には試練が多い。

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8 大きく育つためには、まだまだ特訓が必要。

「璃凪、これくらい頑張れ。」

 潤の掛け声で、璃凪も一生懸命頑張っている。潤は体を使う遊びを璃凪に教えていた。可愛らしいピンク色のとび縄を持って来て、庭で璃凪に縄跳びをさせている。ハアハア息を切らしながら、璃凪は縄跳びを続けた。

「璃凪、だいぶ上手くなったね。」

 潤はいつの間にか敬称を外し、璃凪と呼ぶようになっていた。お互い、璃凪、潤と呼び合う間柄になっていた。大人に囲まれて過ごしている璃凪にとって、潤の存在はとても新鮮な驚きをもたらしてくれる。子供の間で流行っている遊びなんかがそれだ。男女共通の遊びしか潤は教えることは出来ないけれど、それで璃凪には十分だった。そして一緒に遊んでくれる友達。璃凪は今までになく、日常が楽しく、喜びに満ちている。

 潤は、母親の風間由梨恵と一緒に、璃凪の家に住んでいる。もともとは望月家に住み込みでお仕事していたらしい。由梨恵は家事の手伝いをしてくれて、潤は日中は学校に通って、学校が終わると、璃凪の遊び相手になってくれる。でもお休みの日は望月家の方に行っている。

 もともと潤は、翔馬の弟、和馬の遊び相手だったそうだ。その和馬が駄々をこねるので、お休みの日は和馬と遊んでいるらしい。和馬は確か璃凪と同じ年だったと思う。璃凪は、会ったこともない和馬に嫉妬を感じる。翔馬のような素敵なお兄さんがいて、潤のような遊び相手がいる。なんと羨ましいことだろうか。

 璃凪がその通りに言うと、潤は笑った。

「和馬もおんなじことを言ってたよ。翔馬様を週末は独占しておいて、おまけに僕まで連れて行ったってね。」

「その人に、璃凪のことをなんて説明してるの?」

「璃凪はね、体の弱い翔馬様の婚約者だって説明してる。だから和馬も我慢してるんだ。将来義理のお姉さんになる人だからってね。」

「璃凪、体弱くないもん。」

「弱いだろ?しょっちゅう熱出してさ。しかもしばらく歩けなかったんだから。」

 そう言われて璃凪も黙ってしまう。実際、潤が来てしばらく経つまで、璃凪はちゃんと歩くことができなかった。それに、神力の許容量を増やすため、世界樹の実を食べて、よく熱を出していた。

 ただ潤が来て、一緒に庭で遊ぶようになってから、随分失ったナルバスティブ神金を取り戻すことができた。運動による刺激は、成長に役立つものらしい。今では、細く薄いながらも、足全体をナルバスティブ神金が覆い、膝の辺りまでは、元の厚み以上にしっかりと覆っている。そして体中の神金の量が増えたような気がする。元は聖杖一本分だった神金が、今ではその3倍?4倍?くらいの量になっている気がした。

 この頃璃凪も、成長と増殖、退縮と崩壊の違いがわかるようになった。増殖は四方八方に大きくなるイメージ、成長は目的を持って大きくなるイメージ。生き物に例えるなら、増殖は太っていく感じで、成長は長く伸びる感じだ。そして崩壊は、バサバサと刈り取って消すイメージで、退縮は、縮んで小さく固まるイメージ。生き物に例えるなら、破壊は太りすぎたものを破裂させる感じで、退縮は栄養を渡さずに縮んで枯れさせていく感じ。

 その感覚がわかるようになって、璃凪は自分の体内のナルバスティブ神金を効率よく増やしていっている。そして成長と増殖は、案外神力を使うので、せっせと世界樹の実を食べている。この前まで、六個も食べたら寝ついていたが、今では六個半は余裕だ。もうすぐ七個までたどり着くだろう。許容量が増えたら、あまり小さな調節が必要なくなって、四分の一にまで実を切らなくても済むようになっている。今は半分に切って調節している。

 成長と増殖、退縮と崩壊の感覚を学ぶために、璃凪は最近では宝石で置物を作っている。今は庭から石を掘り起こす必要はない。カゴを置いて、土に手をかざすと、ぼこぼこと沸騰するように土から石が湧いて、カゴを目掛けて飛んでくる。カゴの中に入っているときは、すでに宝石に変わっている。璃凪はそれを庭の水道で丁寧に洗って、別のカゴに移してから家の中に運ぶ。土まみれで運んできたら、最近は流石に皆から叱られるようになっていたから、ちゃんと洗ってから家の中に持ち込むようにしている。

 自分の部屋に持ち帰って、机の上で石を選ぶ。今回欲しいのは黄色い石だった。黄色い石を探して、いくつか机に並べて、色合いを確かめる。一番気に入った色の石を手のひらに乗せると、それがふわりと宙に浮き上がる。そこで増殖だ。小さくピシピシと音を立てて黄色い石が大きく膨らんでいく。あらかた膨らんだところで、崩壊を加えて、大胆に成形していく。増殖に比べて、崩壊は大して神力を必要としない。そして成長。細かな作業でとても神力を使う。丁寧に丁寧に細かく成長させていって、形を整えていく。育ちすぎたところは退縮で落としていく。退縮も結構神力を使うけれど、成長の比ではない。成長は恐ろしく神力を削いでいく。

 出来上がった置物が、ふわりと机の上に降りてきた。毛並みも一本一本精巧な神獣の像だった。初めから最後まで見守っていた入江と潤は、小さくため息を漏らす。

「まるで奇跡を見ているようですね。」

「本当、生きてるみたいな神獣だ。」

「え、そうかな。」

 璃凪は嬉しそうに笑って、世界樹の実をつまみ取って、パクパクと口に入れる。空になった器に神力が急速に入っていく感覚は、いつまで経っても慣れなくて、なんだか体がもぞもぞする感じだ。以前みたいに痛くならないだけマシだと思う。

「これ、お兄さんにあげようと思うの。ダメかな。」

「きっと喜ばれますよ。」

「学校にも持ってってくれるかな。」

「璃凪、流石にそれは、無理だと思うよ。」

「え、どうして?」

「だってものすごい高級品だろ?すぐに没収されちゃうって。」

 璃凪はがっかりしてしまう。学校にこそ持っていって欲しかったのだ。実はちょっとした仕掛けをしていた。宝石の核に、璃凪の神力を入れていたのだ。そして一定量まで増殖の力も付与していた。手をかざせば、必要な神力が体に取り込める仕組みだった。宝石の中の減った神力は、勝手に一定量まで増えていく。内蔵している神力は、大体、世界樹の実、一個分。それ以上の神力を内蔵させると、流石に宝石が割れてしまう。それでも、何回でも使える無限機関だ。

 そう説明すると、入江も潤も卒倒しそうになっていた。潤がぽつりとつぶやく。

「俺、強くなんないとな。璃凪を攫いたい奴は大勢いそうだ。」

「良いところに気がついたな。それが分かったところで、お前にも武術を学んでもらう。」

 そうして、入江による潤の特訓が始まった。


 潤の特訓は、入江により庭で行われ、その武術は多岐に渡っていた。拘束を解く護身術。相手を制圧する武術。まだ子供の潤は、体格では大人に敵わない。だから、長い棒を使った武術や、投擲術を学んでいる。眺めている璃凪が、真似して小さなナイフを的に投げてみる。ナルバスティブ神金で裏打ちされた腕は、正確なコントロールができて、全て真ん中に刺さった。ほう、と入江も唸った。

「璃凪様も学んでみますか?」

「え、ホント?璃凪もやってみたい。」

 こうして璃凪も武術を学ぶことになった。体の小さな璃凪は距離を詰められると圧倒的に不利になるので、遠隔からの攻撃に専念する。長い棒を使った棒術。ナイフなどを投げる投擲術。教えられたことをすぐに体得して、年上の潤と互角以上に渡り合える。入江は感心していた。

「璃凪様は見所があります。棒術や暗器に向いてますね。」

 そうして季節は進み、秋になり冬になる。寒くなると庭に出ることは禁止され、リビングの家具が片付けられて、即席の訓練場に変わった。そして璃凪は今は金属を使って、金や白金の置物を作っている。成長と増殖、退縮と崩壊の訓練も進んで、あまり大量でなければ、自在に扱えるようになっていた。それでも大量に成長や増殖はまだ出来ないし、オルパパスタイト王金や、それよりもっと上位のナルバスティブ神金ともなれば、なかなかに手強かった。

 璃凪が頑張っているのには訳があった。また挑戦の女神からの課題が出ていたのだ。その聖遺物は、今までのものと比べて格段に難しかった。変容、圧縮、変容と、いくつかの工程のある聖遺物で、その神聖画は複雑で、大量のナルバスティブ神金を要した。璃凪の両足分の神金に相当する。そして必要な神力は、世界樹の実、八個分。ようやく七個分の許容量に達したばかりだ。前回のように歩けなくなるどころか、寝たきりになる失態は避けたかった。

 そうしてもうすぐ翔馬の新年の休暇がやってくる。



   ***



 翔馬たちはアルカデメイア学術地区のスターリング家の屋敷に、週末ごとに招かれていた。表向きは十二支族の親睦会で、まず、全員で武術の訓練から始まる。せめて自分の身は自分で守る、という目的だ。どこの支族もそれなりに修羅場を経験しているのだろう、皆、真剣に取り組んでいる。女子のノーラ・シャラポフですらもだ。それぞれの好みの武具を使うが、皆、なかなかの武術の達人揃いだった。五大陸では火薬の武器使用を禁じられている。だから、飛び道具はありえないはずだが、東條が密かに開発しているという噂だった。皆が使う武具がそのような飛び道具に対して、果たしてどれほど役に立つのかは不明だが、体を鍛えていて間違いはない。

 その後は同行した学友たちや先祖返りではない支族は、一部屋に集められて、のんびりと映画鑑賞を楽しんでいる。その間、翔馬たち先祖返りはユリウスの結界の張られた部屋に集められて、神力の増強と制御の特訓だ。それぞれの聖遺物を使って特訓している。聖遺物を持ち込んでいない翔馬は、スターリング家から聖遺物を借り受け特訓している。さすが、スターリング家はいろんな聖遺物を所有していた。

 支族たちは割と攻撃的な聖遺物が多く、例えば、出雲は物質を融解させるもの、西大陸のブレイズ・アドラーは空気を操り、衝撃波を出すものだった。翔馬の聖遺物は物体の分析で、あまり特訓に向かないので、もし持ち込んでいても結局借り受けることになる。翔馬はスターリング家から熱を操る聖遺物を借り受けての特訓だ。スターリング家のゲイジの聖遺物も翔馬のものと似て、解析、つまり物体の能力、それを可能にする構造や回路を読み取る能力で、戦闘向きではない。ゲイジも物を凍らせる聖遺物を使って特訓している。

 特訓には、翔馬の聖遺物のレプリカが役に立った。あまり、神力を減らしすぎると倒れてしまう。せめて四分の一を残してやめておくのが正解だ。そして、最後に世界樹の実のエキスを渡され、減った神力はそれを飲んで回復させる。身体中が軋むような痛みを感じるが、確かに神力が増えていくのがわかる。

 翔馬は少し複雑な気持ちだ。世界樹の実には、エキスよりはるかに多い神力が含まれていると聞く。エキスですらこれほど痛いのに、それを丸ごと一個二個食べて、酷く苦しんでいた璃凪の痛みはどれほどだったのだろうと思うと、居た堪れない気持ちになる。

 翔馬は聖遺物のレプリカ越しに皆を見回す。一番神力の強いのはユリウスで、今では6000くらいまで成長している。最初に会った時が1000ぐらいだったので、すごい成長ぶりだ。他の皆は、大体が4000くらいだった。翔馬自身も、300ぐらいから始まって、今では3000を超えている。翔馬は微笑んだ。

「ここで訓練を始めてから、皆すごい成長だね。」

 ユリウスも微笑む。

「翔馬が来てから、効率よく進むようになったんだよ。君の聖遺物、役に立つね。」

 ふと翔馬は思い出す。最後に璃凪を聖遺物のレプリカ越しにみたのは、留学の直前で、もう随分前になる。その時の璃凪の神力は10000に届こうとしていたと思う。今ではどれほどになっているのだろうか。そして・・・。翔馬は東條の姿を見かけるたびに、聖遺物で確認していた。

「東條って、どんな訓練してるんだろうね?」

「さっぱり分からないよ。」

「初めて会った時、東條の神力は6000を超えていた。それが今では、9000に届こうとしているんだ。」

 皆は一斉に黙り込んだ。


 東條家門の女はもう翔馬の周りをうろつかなくなってきていた。代わりに学校生活が、少し様相を変えてきていた。十二支族の関りのある家門、そうではない一般の家門、この二つに分裂して、非十二支族の生徒たちが何かと突っかかってくるようになってきた。数の上では十二支族側が圧倒的に少ない。自衛のために十二支族の関りのある家門の生徒たちは、自然と集まって行動するようになっていた。そしてその小競り合いを扇動しているのが、東條の取り巻きたちだった。

「ホント、ヤになっちゃう。サエの奴、教室にオーシャン・ブルーのブレスレット持ち込んで、自慢してるのよ。あら、十二支族なのに持ってないの?十二支族って案外大したことないのね、ですって。」

 武術訓練のあと、ノーラがプリプリしながらそう言う。彼女の学友たちも一斉に頷く。翔馬は首を捻った。

「オーシャン・ブルーの作品は、オークションでしか売ってないんです。学校に気安く持ってこれる品じゃないんですけどね。東條が渡したのかな?随分気前がいいんですね。」

「ショウマ、私たち、友達よね?」

 そう言われて、じっと期待に満ちた目でノーラたちが翔馬を見つめているのに気が付く。翔馬は苦笑した。

「何かリクエストありますか?使って欲しい石とか、モチーフとか。多分、オーシャン・ブルーはそれに応えますよ。」

 彼女たちはきゃあきゃあ喜んで、すでに用意していたのか、一覧のメモを翔馬に渡してきた。少しばかり翔馬は頭痛がするけれど、これくらいのことは璃凪には全く負担にならないだろう。

「分かりました、新年休暇に帰省した時に頼んでおきます。その代わり、ノーラ先輩、買い物に付き合ってください。」

「え、何?彼女にプレゼント?」

「うん。僕の婚約者なんです。」

 きゃあっとノーラたちは歓声を上げる。じろりとユリウスが険しい目を向けてきたことを翔馬はさらりと無視しておいた。そして翔馬は、小さくため息を吐く。皆も懸念していた。今は小さな嫌がらせで済んでいて、十二支族サイドはそれを笑ってやり過ごしているけれど、いつか大きな衝突になりそうな気配がある。杞憂に終わればいいのだけれど。




   ***




 璃凪は、もうそわそわと待ち構えていた。大好きな翔馬が新年の休暇に帰ってくる。リビングの即席の訓練場はちゃんと片付けている。そしてテーブルには、璃凪が新たに習得した権能を使って作り上げた、宝石や金や白金の神獣や神鳥の像をずらりと並べて置いた。どれも翔馬への贈り物だ。それを眺めていた潤は、思わず笑った。

「凄いね、璃凪、翔馬様への贈り物が沢山だ。翔馬様、きっとビックリするよ。」

「え、そうかな?喜んでもらえるかな?」

「喜ぶより先に、倒れちゃうんじゃないかな。」

 その時璃凪は、翔馬の気配を感じた。随分遠くからでもわかるほど、神力が強くなっている。学校に行っている間に、何か特訓でもしたんだろうか?璃凪は玄関ホールで待ち構えた。玄関が騒々しくなり、ドアが開くと、璃凪はまっすぐに翔馬に抱き着いた。傍にいた大人たちは、微笑ましく二人を眺める。

「お兄さん!お帰りなさい!」

 少年の成長は早い。しばらく離れている間に、翔馬の体は背が伸び逞しくなって、そして神力もかなり強くなっていた。そしてそれは璃凪も同様だった。翔馬は少しばかりたじろいでいて、璃凪が不思議そうに翔馬を見上げると、翔馬は顔を赤くして璃凪を見下ろしていた。二人の目がぱちりと合って、翔馬が柔らかく微笑んだ。

「ただいま、璃凪。」

「お帰りなさい、翔馬様。お久しぶりです、当主様。」

 潤や入江たちが礼儀正しく、望月親子に頭を下げる。あ、と璃凪も思い出して、父、冬馬に頭を下げた。璃凪はこれから冬馬に相談することがあったのだ。

「おじさん、いらっしゃいませ。」

 望月親子をリビングに案内すると、テーブルの上の像に親子の目が釘付けになった。おそるおそると言った風情で、翔馬が眼鏡を取り出し、掛けてみる。そして、少しばかり卒倒しそうになっていた。

「璃凪、これは?」

「お兄さんへのプレゼント。作ってみたの。宝石とか金とか白金で。ちょっと仕掛けがあって、世界樹の実一個分の神力が入ってるんだよ。使ってもすぐに戻るの。お兄さん、何か特訓してるんでしょ?きっと役に立つから、学校に持って行って。」

「無理だよ、璃凪。聖遺物級の品だよ、これ。」

 そう言って振り返って璃凪を見た翔馬は、また少しピシリと体が固まった。璃凪の横の数字は、9785/13987になっていた。


「おじさん、あのね、また挑戦様から課題が出たの。」

 皆でお茶をしながら、璃凪は望月冬馬に話しかける。冬馬はピクリと眉を上げた。

「璃凪ちゃん、それは、どんなものだい?」

「出来るかどうかわからないから、ちょっと秘密にしとくけど、水の近くで使うものなの。」

「水?海水でも構わないのかな?」

 ちらと冬馬は翔馬を見る。出雲家から直接、そして翔馬を通して、協力依頼が来ていたのだ。海岸の近くに設置するものなら、出雲家の要請に応えられる。

「うん、お水なら何でもいいの。でもおじさん、それが出来るのはずっと先。璃凪はまだ神力が足りなくて。」

 翔馬は探るように璃凪を見つめた。

「璃凪、どのくらいの神力が要るの?」

「世界樹の実、八個分。璃凪、まだ七個分くらいの神力しかないの。だから、今、色んなものを作って、神力を増やしてるの。お兄さん、何か欲しいものない?まだ、オルパパスタイト王金で置物は作れないけど。」

 世界樹の実、八個分。翔馬は少し気が遠くなってきている。そんな神力を体に内蔵して、璃凪の体は果たして無事なのだろうか?だけど翔馬はこれを好機と見て、メモを璃凪に渡した。どう切り出そうか、思案していたのだ。

「これね、友達が欲しいって言ってるんだ。頼めるかなあ。」

 璃凪はメモを見て、じっとりと翔馬を見た。

「こんなの、神力を全然使わない。それに、お友達って女の人?」

 璃凪の目付きに翔馬は慌てた。周囲の大人たちがぷっと吹き出している。

「うん、友達だよ。東大陸の出身の学生は少なくってね。何かと仲良くしてもらって、助かっているんだ。その子たち、オーシャン・ブルーのファンらしくって。何とかならないかって、泣きついてきたんだ。」

「ふうん?」

 璃凪は、疑わしそうな目だった。翔馬は付け加える。

「普段作ってるものより、もっと華奢な、日常遣いの感じで作ってもらえるかな。学校でもつけておけるようにね。」

「じゃ、ちょっと待ってて。」

 璃凪は部屋に戻って、カゴ一杯に無造作にざらざら入れた宝石と、スプーンを何本か持ってリビングに戻ってきた。ソファに腰かけると、メモを見ながら宝石をおざなりに選んで、右手の平にスプーン、左手の平に宝石を何個かのせる。宝石とスプーンがふわりと浮かんで、くるくる回転しながら、宝石は色々なモチーフに形を変え、スプーンは瞬時に金や白金に変わって、くるくる回転しながら繊細で凝った形の鎖に変わっていく。そして、宝石と合体。仕上げに、留め具の中にオルパパスタイト王金を潜ませ、金や白金でコーティング。一連の出来事はあっという間だった。しかも五個同時だ。その場にいたものは、皆、息をのんで見つめていた。

 ふわりと璃凪の手の中に落ちてきた五個のブレスレットを、おざなりに翔馬に渡す。ちょっとばかり不貞腐れた様子だった。

「はい、どうぞ。雑に、日常使いに作ってみた。」

 翔馬たちは出来上がったものをじっくりと確認した。確かに鎖は華奢で、使っている金や白金の量は少なく、使った宝石も小ぶりで数が少ない。だが、その鎖がとても意匠が凝っていて、たとえば緑の宝石と世界樹のモチーフの白金のブレスレットのリクエストなら、鎖が世界樹の枝のモチーフの凝った形で、宝石が世界樹の葉の形になって、実に品よくバランスよく配置されている。全てがそんな感じだった。それを同時にあっという間に。翔馬は少し眩暈がした。璃凪の能力はどこまで伸びたのだろう。それに、流石にこれは学校に持ち込めない。

「璃凪、ますます、腕を上げたね。こんなの、危なっかしすぎて、学校に持ち込めないよ。」

「あ、大丈夫。盗難防止の聖遺物のレプリカを仕込んだから。」

 え、と、翔馬は驚いて璃凪を見た。

「それ、発動条件は?」

「腕にはめて、これ、私の、って言うだけ。」

「参ったな、聖遺物級だよ。」

 璃凪は蔑むように翔馬を見た。

「これが?いい加減に雑に作ったのに?全然神力も減らないし。そんなこと言うと、聖遺物に失礼だわ。」

「いや、きっとみんな喜ぶよ。そんなみんなから璃凪にお土産があるんだ。帰省する前に、みんなで璃凪への贈り物を買いに行ったんだよ。女の子の喜ぶもの、僕、よく分からなくて。」

 え?と璃凪は翔馬を見た。そんなものがあるのなら、先に渡して欲しかった。そしたらもっと丁寧に作ったのに。翔馬の護衛たちが運び入れた沢山の箱を見て、璃凪は目を輝かせた。

「お兄さん、開けてみていい?」

「うん、スタンダードサイズのギターは僕が選んだよ。」

「嬉しい。」

 一番大きな箱は、翔馬からのお土産だ。包みを開けると、キャリーバッグに入ったスタンダードサイズの青いギターが出てきた。今の璃凪には少し大きいけれど、きっとすぐに普通に弾けるようになるだろう。他の小さな包みを開けてみる。小さな神獣や神鳥のぬいぐるみ。可愛い刺繍の入ったポプリの匂い袋。世界樹の柄の装丁のノートに、神獣の模様の入ったペン。神獣を彫金した宝箱。女の人が選んでくれたものは、可愛らしさが全然違う。璃凪の心をぎゅっと鷲掴みにして、璃凪の罪悪感もズキズキに刺激した。

「お兄さん、やっぱり作り直す。」

「待って待って待って。これで十分すぎるよ。璃凪が本気出したら、聖遺物の国宝級になってしまう。」

 そして、璃凪を窺うように見つめた。

「だったらね、僕に作ってくれた、物理攻撃を防ぐ聖遺物、こんな風に普通の金や白金で包んでカモフラージュしてくれないかな。たくさん欲しいんだ。」

「うん、いいよ、何個ぐらい?」

「何個でもいいの?」

「うん。」

「じゃあ、二百個くらい?」

「うん、もっとでも大丈夫。」

 さすがに冬馬が眉を顰めた。

「翔馬、何か問題がおきているのか?」

 璃凪に聞かせたくない翔馬は、にこりと笑ってみせる。

「今度ね、仲間のみんなでサバイバルに行くんだ。」

 璃凪はなんだかワクワクする。学校でもサバイバルに行くんだ。あ、だからお兄さんの神力も強くなったんだ。

「じゃあ、お兄さんには、神力を入れた宝石を小さくして、何か作るね。きっと役に立つから。」

 翔馬は驚いて璃凪を見た。

「え、小さく出来るの?」

「神力を入れた核はもともと小さいよ。」

 翔馬はじっと考える。

「だったらさ、璃凪、それを五個欲しいんだ。僕と一緒に特訓している仲間がいるからね。」

 仲間。潤のように、一緒に特訓する仲間がいる。それも五人も。その上、仲良くしてくれる人が二百人もいて、女の子のお友達もいて、学校って楽しいところみたいだ。璃凪は翔馬が羨ましくてたまらない。

「お兄さん、お泊りする?璃凪に学校の話をたくさんしてね。」

「ああ、ごめん。璃凪。お泊りはしないよ。」

 泊っていこうものなら、きっと璃凪が翔馬のベッドの中に潜り込んでくる。流石に翔馬はそれが気恥ずかしかった。璃凪はわあわあ泣いたけれど、それでも翔馬はきっぱりと拒否した。


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