9 それぞれの成長と葛藤と。
「また、とんでもないもの作ったんだねえ。」
スターリング家の応接室で、ゲイジ・スターリングが小さくため息を吐いた。ゲイジは翔馬が持ち込んだ聖遺物のレプリカを鑑定し終わった後、驚愕を通り越して、呆れたように翔馬を見つめた。
「望月家は随分、金瞳を荒っぽく扱うんだね。無駄遣いもいいところだ。」
「先輩、大丈夫だって、璃凪が言うんです。それに神力を増やすために、もっと神力を使いたいって。」
翔馬は言い訳がましく言った。彼は、ユリウス・アウグスツや、ゲイジ・スターリングといった中央大陸の十二支族の前では、とっくに璃凪の存在を隠すことをやめていた。他の支族の前では建前上、隠してはいるけれど、彼らもとっくに把握しているだろう。
*
新年の休暇が終わって学術院に戻った時、翔馬はすぐにユリウスに相談していた。ノーラたちにオーシャン・ブルーのブレスレットを作ってもらったけれど、それに盗難防止の聖遺物のレプリカを仕込ませていたこと。そして、全ての物理的危険から防御する聖遺物のレプリカを仕込ませたネックレスを二百個量産してもらったこと。世界樹の実一個分の神力を補給する宝石を仕込ませたネックレスを作ってもらったこと。
ユリウスはため息を吐いた。翔馬だとて、それまで璃凪の能力を過少視しすぎていた。あんまり強くなって欲しくないという気持ちもあったのだろう。璃凪の能力を実際に自分の目の前で見たとはいえ、これほど強い能力だとは正直認めたくない気持ちだ。璃凪を危険に晒したくはなかったが、今となっては璃凪を守ろうにも力の差がありすぎて、自分たちが足を引っ張らないことが大事で、結局は璃凪自身が能力を得る必要がある。つまり自分たちの身を守ることが、璃凪を守ることにもなり、そのためには璃凪の能力を借りないといけないという、随分矛盾した頭の痛い状況だった。
「君、リナを隠す気ないね。」
「いや、そのうち僕らの仲間に危害が加わりそうで。」
「確かに、このままだと怪我人が出るかもしれないね。君の危惧は僕も理解するし、同じ気持ちだ。だけどね、レプリカと言っても聖遺物だ。迂闊に渡す訳にもいかないし。」
「そうなんだ。あまり疑いたくはないけれど、東條の内通者はいないのかな。」
「来年には真実を見極める聖遺物の使い手が入学してくる。でも、来年まで待てないだろうね。ゲイジ先輩に相談しよう。」
「スターリング先輩に?」
「そう、スターリング家に聖遺物のような効果を付与したことにしてもらうんだ。」
そうして、翔馬はユリウスと連れ立って、スターリング家を訪れることになった。ゲイジは探るような目で翔馬を見つめている。
「それで?その金瞳の神力はどのくらいなのかな?」
「新年の休暇に入ってすぐに会った時、14000に届こうとしてました。」
「なるほど、その神力なら、この数も納得だ。」
翔馬の隣に腰掛けていたユリウスもため息を吐いた。
「まだ、八歳だっけ?」
「うん。僕の目の前でね、あっさりと復元していくんだ。」
翔馬は手を顔の前に掲げて見せた。
「こんなふうに手の平の上でね、宙に浮かせて、僕の目の前でクルクルと。」
ユリウスとゲイジは目を見開いた。
「その現場を見てみたいな。」
「ゲイジ先輩、リナは十歳になる頃に、神聖地区で保護する予定ですよ。存分に見せてもらいましょう。」
翔馬の胸がちくりと痛む。璃凪が自分の手の中から出て行ってしまう。それは璃凪にとって必要なことだとはわかっているが、そう思っただけで心が薄ら寒い。それは多分、寂しさであり、そのまま失ってしまうかもしれない不安であり、他のものに姿すら見せたくないという独占欲でもあった。
ゲイジは眉を顰めた。
「十歳?遅すぎないか?」
「東大陸の大陸間橋管理地区は、今では東條の支配下になっているんです。安全に璃凪を移動する経路と手段を準備しているところなんです。」
「東條か。」
翔馬がそう答えると、ゲイジがぽつりと呟いて、皆、暗い顔になった。実際、東條崇斗のやり方は、なんとも巧妙で、そしてやりたい放題だった。東條本人は涼しい顔で、実際の汚れ仕事には彼の取り巻きが動いている。十二支族と無関係な家門の生徒に近づいて、巧妙に十二支族への反発心を煽り、彼らを使って陰湿な嫌がらせや、時に暴力紛いのことをさせている。いつかは怪我人が現れるかもしれない。息子の崇斗がそれほどのやり手なら、父親である現当主はどれほどのものだろうか。
「それで、この宝石は何なんだ?」
ゲイジは特別に五つだけ、聖遺物のレプリカを仕込ませたシンプルなネックレスにつけられている宝石を指差した。
シンプルなネックレスと言っても、鎖部分は一つ一つが継ぎ目のない、表と裏が反転して繋がったメビウスの輪と正円が交互に並んでいる。世界樹のシンボルだ。鎖と直接繋がっているネックレストップ部分はなだらかに弧を描いた平たい円筒形で、その表面には世界樹と神獣、神鳥のモチーフが精巧に施されている。それが一つ一つ、少しずつ図案が変わっていると言う細やかさだ。どれにも物理的危険から防御する聖遺物のレプリカが内部に仕込まれていて、さらに盗難防止の聖遺物のレプリカも仕込まれている。そのうちの五つだけ、小粒の宝石が輝いていた。
「触れてると、神力を回復するものだと言っていました。宝石が消費した神力は、宝石の容量まで自動回復するそうです。世界樹の実、一個分の神力が内蔵されているそうです。それ以上だと、宝石が割れると言ってました。」
「その金瞳、天才だろ?そんな聖遺物見たことない。」
ユリウスが期待に輝く表情で顔をあげた。
「ゲイジ先輩、その宝石を身につけた数だけ、容量が増えるんじゃないですか。」
「やめとけ。同一の肉体につけたら、いくら先祖返りとは言っても、人間の体には過ぎたるもんだろ。それに、宝石が相互作用で割れちまうんじゃないのかな。金瞳はそれが分かってるから、宝石を一個に留めたんだろう。」
ふう、と、また皆でため息を吐く。そして恨みがましくユリウスが言った。
「何で、このタイミングで、オーシャン・ブルーや、オルパパスタイト王金錬成の聖遺物を作ったのかなあ。東條は君のところに金瞳がいるって分かってるよ。」
それに関しては、翔馬は何も言い訳ができない。そのために璃凪はひどくダメージを負い、しばらく歩けなくなってしまったのだ。たとえ挑戦の女神の指示であろうと、止めておくべきだった。そしてまた璃凪は、新しい聖遺物を復元しようとしている。もしかしたら、今度こそ、璃凪を失ってしまうかもしれない。
ユリウスを宥めるように、ゲイジが言った。
「東條の侵略を止めるためには、必要なことだったんだ。随分アブセンタイド黒銀が出回っているからね。東大陸はともかく、他の大陸への流通はかなり減ったよ。オーシャン・ブルーは、まあ、あれだ。よっぽど翔馬を守りたかったんだろうさ。」
そう言われて翔馬は少し顔を赤らめ、ユリウスはピクリと眉をあげた。
実際に、東條のやり方は巧妙だった。アブセンタイド黒銀を制御装置に使った廉価な製品を、安さを売りにあちこちに売り捌いていた。それらの製品を使うと、その場所が世界樹の摂理と異なる摂理で塗り替えられる。そしてその場所は、世界樹の摂理で動く製品は作動しなくなる。元々、世界樹の摂理で動く製品は高価で、そのようなものに手を出せない中間層をターゲットに、東條は事業を展開していた。望月家の新たなオルパパスタイト王金鉱山が発掘されたことにより、破格に廉価に卸して何とか価格競争に持ち込み、アブセンタイド黒銀の流通を食い止めたのだ。
「アブセンタイド黒銀って一体何なんでしょうか?」
翔馬がそう尋ねると、ゲイジもユリウスも首を傾げた。
「さっぱり分からん。」
「そんなものを作り出した先代の金瞳が短命だったはずだよね。それで、オルパパスタイト王金錬成の聖遺物はどのくらいの神力を使ったんだ?」
「璃凪は、世界樹の実、四個分って言ってました。そして、しばらく歩けなくなりました。」
また皆、沈黙する。世界樹の実一個で大体神力2000相当だ。神力8000。まだ翔馬はそこまで到達していないし、ユリウスであっても枯渇してしまうだろう。挑戦の女神は、随分璃凪に無理をさせる。歩けなくなっただけで、命があったことをありがたく思わないといけない。
「それで、リナは元気にしてた?」
「うん、元気にしてたよ。もうすっかり歩けるようになって、それどころか、護身のための武術を訓練し始めていた。」
そして翔馬は陰鬱な気分になる。次に璃凪が復元しようとしている聖遺物は、世界樹の実八個分、つまり神力16000を要するのだ。一体何を復元しようとしているのだろう。そして、16000もの神力を体に内包して、璃凪の体は無事なのだろうか。一気にそんな神力を使って、今度こそ、命を失ってしまうのではないだろうか。
「それよりだ、ノーラたちには僕から渡しておこう。高価なものだから、盗難防止の装置をつけたことにしておくよ。」
ゲイジの言葉に、翔馬は、陰鬱な思考から引き戻された。ゲイジは困ったように笑った。
「次の十二支族会で、他のメンバーにも聖遺物のレプリカを渡しておこう。今更だけどね、建前上、僕が関わっていることにしておく。他の協力者たちには追々渡す。だけどなあ、きっと女子の間で火種になるぞ。」
「え、なりますか?」
呆れたようにユリウスも笑った。
「君、男兄弟しかいないだろ?オーシャン・ブルーの新作なんて、特大級の爆弾だよ。」
実際、翔馬は彼にとっては思わぬ事態に、実際には当然の揉め事に巻き込まれることになる。
***
璃凪は、すっかり不貞腐れていた。
結局、翔馬は泊まっても行かず、それどころか、風間親子を引き連れて帰り、新年祝いの三日間は璃凪を訪ねては来なかった。風間親子は望月家の親戚で、和馬がとても恋しがっているから、と言う理由だった。だから璃凪は両親と、神官たち、護衛たちとだけで新年を祝うことになった。
璃凪の世界は、元々彼らだけだった。だけど、翔馬と出会い、潤と出会ってからは、大人だけの世界がひどく退屈で寂しいものに変わっていた。新年の間、両親や神官たち護衛たちは、とても璃凪に気を遣って、たくさん遊んでくれた。だけど、大人では物足りないのだ。翔馬は七歳も年上で、潤も二歳年上になる。璃凪にとっては大人も同然だけれど、それでも彼らはまだ大人ではない。より近い目線で一緒に遊んでくれる友達がとても恋しい。
寂しくて悲しくて、鼻水垂らして泣きながら、翔馬に頼まれていた聖遺物のレプリカを一気に復元した。一度に十個ずつは余裕だ。この頃は効率的に聖遺物を復元できるようになっていた。細かな回路は気を使うけれど、同時進行させていくと気を使う部分はどれも同じだから、一個一個作るより遥かに短時間で進行できる。むしろ、それを包んで金や白金でカモフラージュする作業の方が気を使う。神力はあまり使わないけれど、図柄を一つ一つ変えるところに気を配っていた。仕上げには、必ず盗難防止の聖遺物のレプリカを潜ませる。
同じ工程を二十回。そのうち五個には神力を貯蓄して、自動回復する宝石を入れておく。一つ一つは神力をさほど削がれなくなっていたが、流石に二百個は堪えた。思わず世界樹の実を口に入れる。一つで足りず、二つ。急速に神力を補充すると、体がモゾモゾとひどく不快だ。
こんな辛い思いをして、頼まれたものを完成させたのに、何食わぬ顔で次に訪れた翔馬は、相変わらず凄いね、ありがとう、と、ただそれだけだった。しかも、しかもである。翔馬は具体的な数字を言わなかったけれど、きっと二百個の聖遺物のレプリカだって、女の人にも渡すつもりなんだろう。聖遺物のレプリカを確認するときに、これなら男女兼用できるね、と呟いたのだった。
璃凪はじっとりとした目で、翔馬を見つめ、少し距離を置いていた。翔馬は柔らかく微笑んで、璃凪を手招きする。
「璃凪、すごろくを買って来たんだ。一緒に遊ぼう。」
あっさり璃凪は転がされてしまう。翔馬と一緒に帰ってきた潤を交えて、一緒に遊ぶ。体の中のナルバスティブ神金の力を使って、思い通りのサイコロの目を出したら、潤に頭を叩かれた。
「璃凪、ズルは禁止!」
翔馬はひどく驚いた目で璃凪を見つめた。あ、ズルをしてガッカリされた?と璃凪は悲しくなってしまう。だが、翔馬の言葉は意外だった。
「すごいね、璃凪。こんなことも出来るんだ。」
「そうですよ、翔馬様。璃凪のやつ、ナイフ投げは百発百中なんです。入江さんだって敵わないんですよ。」
「そうなんだ。璃凪、偉いね。」
翔馬は頭を撫でてくれた。よく分からないけれど、璃凪はもっと武術も頑張ろうと思う。
そして休暇が終わり、翔馬が学術院に戻る日が来た。戻る前に璃凪を訪ねて来てくれて、頭を撫でてくれる。
「また、帰ってくるからね。元気にしていて。またお土産たくさん持って帰るからね。」
璃凪は鼻水を垂らしながら泣いて、翔馬の胸に抱きついて、別れを惜しんだ。慌てて潤が引き離す。
「璃凪、鼻水。」
璃凪としてはとても悲しい出来事なのに、周囲には微笑ましい、いっそ面白い光景に見えていたようだった。
*
「お兄さんは、きっと私のことが嫌いなんだ。」
季節はもうすっかり春になっていた。璃凪たちは、また庭での武術訓練を再開している。璃凪は遠くの木めがけて、金属製のロープを投げる。ほんのちょっと、成長の権能をロープに流すと、まるで生きているかのように自在に動いてくれる。璃凪の成長の権能は、植物性のロープより、金属製のロープの方が相性が良かった。生き物に成長の権能を使うより、無機物に使う方が無理なく楽に使える。そしてロープの先端には球体の金属がついている。そのままぶつければ打撃になるし、手元のスイッチを押すと、その金属は花が開くようにパカリと口を開く。もう一回押すと口が閉じて、元の球体に戻る。そこに成長と退縮の権能を入れて金属をしならせ、柔らかく木の葉っぱを掴み、そのまま引き寄せる。スルスルとロープが璃凪の手の中に円を描いて丸まって収まり、璃凪の手には柔らかく摘み取られた葉っぱが残った。
その様子を背後から見守っていた入江と潤は、小さく感嘆の声を漏らした。入江は小さく咳払いをした。
「翔馬様は璃凪様を大事にしておられますよ。何故そんな事を。」
「だって、お兄さんは新年の休暇の時に、泊まっていってくれなかった。それだけじゃない。潤まで連れていった。新年の三日間、全部!」
「しょうがないだろ、璃凪。俺たちは望月家の親戚だし、新年は家族で祝うものなんだ。璃凪だって、璃凪のお父さんやお母さんが、璃凪をそっちのけで、他の子を可愛がったら嫌だろ?」
呆れたように潤がそう言った。璃凪はギリっと潤を振り返って睨む。
「私はお兄さんの婚約者でしょ?婚約者って家族じゃないの?」
「璃凪様、今はまだ璃凪様を秘匿する必要があるのです。」
困ったように入江が宥める。璃凪にも分かっている。でも、頭で理解していても、感情が追いついていかないのだ。璃凪の家は、璃凪を守る要塞で、璃凪の世界だった。それでも、いつの間にかその世界が、璃凪にはとても窮屈に感じられるようになっていた。
「東條のせいね!東條がいるから、私の目が金色なのも隠さないといけないし、だからお兄さんの家族にもなれない、学校にも行けない、遊んでくれるお友達もいないの。東條なんかぶっ壊してやる。」
璃凪の感情が爆発すると、自然と目から涙が溢れてくる。ついでに鼻水も。入江と潤が思わず笑って、すぐに表情を取り繕ってそれを隠す。璃凪の悲しみは、彼らにとって滑稽なのだろう。酷い。璃凪はさらに煽られて、また声を立てて泣き始める。すぐに入江が璃凪の顔を吹いてくれた。潤は面白そうに笑う。
「璃凪、鼻水。璃凪は翔馬様の家族になりたいんだ?翔馬様と一緒にお風呂に入りたいんだ?璃凪ってエッチだね。」
「潤!」
璃凪を揶揄う潤を入江がたしなめた。しかし璃凪は、涙がぴたりと止まり、潤をじっと見つめた。
「お兄さんと一緒にお風呂?」
色々な空想が湧いてきて、璃凪の目が次第にうっとりとなる。
「お兄さんと一緒にお風呂に入って、一緒にお歌を歌ったり、水鉄砲で遊んだり、背中を洗いっこするの?今度お兄さんに頼んでみる。」
逆に入江と潤が慌て始めた。
「璃凪、ごめん、悪かった。翔馬様はきっとそれを断られるだろう。」
「断る?どうして?」
「そりゃあ、翔馬様はもう十五歳だし、璃凪はそんなに・・・。」
潤はモゾモゾと歯切れが悪い。璃凪は悲しくなってきた。
「お兄さん、いつからか、一緒に眠ってくれなくなったの。やっぱり璃凪が嫌いになったんだ。」
入江が璃凪の背中を撫でてくれた。
「翔馬様は年頃ですから、恥ずかしくなられたのでしょう。」
「恥ずかしい?どうして?」
「そう言う年頃ですから。」
年頃。だったら、もっと小さい潤なら大丈夫だろうか?
「じゃあ、潤と一緒にお風呂に入って、一緒に寝る。」
ぎゃあ、と潤が悲鳴を上げた。入江もだ。
「絶対に断る。翔馬様に殺される。」
「お兄さんは潤を殺したりしない。だから一緒にお風呂に入ろ?」
「璃凪、お前恥ずかしくないのかよ?」
「え。潤は恥ずかしいの?」
「恥ずかしいに決まってるだろ!」
璃凪は入江を見上げた。大人の入江なら、恥ずかしい年齢を過ぎているだろう。入江は一瞬、身を硬くした。
「だったら入江さん、一緒にお風呂に入ろ?」
「お断りします。」
「どうして?入江さんも恥ずかしいの?」
「危険だからです。私にはそういう趣味は決してありませんが、璃凪様はあまりにも愛らしくお綺麗ですから、魔がささないとも限りません。」
入江の言葉を理解できるようになるには、璃凪にはもっと時間が必要だった。
璃凪は、成長と退縮の権能を使い、それを自在に操れるように鍛えながら、減ってしまった神力を世界樹の実で補っていく。神力の許容量も、体の中のナルバスティブ神金の量も、少しずつ増えてきた気がする。
幼い頃から何度も熱を出した璃凪は、体が細いままだった。身長はすらりと伸びてきているけれど、どうしても太ることができない。それは成長期特有のことなのかもしれないが、両親や神官たちが心配して、美味しいものをたくさん食べさせてくれた。璃凪の食欲は旺盛で、しっかり食べているけれど、それでもザルから水が漏れるように、どこかに行ってしまって、さっぱり太れないままでいた。おそらくそれは、璃凪の中の神力や、それを収める器のために使われているのだろう。
それでも世界樹の実の五個を超えたあたりから、少し璃凪の神力の許容量の成長が緩やかになってきた気がする。なかなか挑戦の女神様の課題ができそうにない。璃凪は少しばかり焦っていた。
もうすぐ璃凪の九歳の誕生日がやってくる。翔馬の学期末の休暇はもうすぐだ。
ようやく、璃凪は八個の世界樹の実を食べることができるようになっていた。




